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多くの企業で抱えていると思われるメンタルヘルス関連の事案に対し、社会保険労務士の2人がリレー方式で答えていきます。
※これらの内容は、あくまでも1つの事例である旨、ご了承ください。
【Q】質問
メンタルヘルス不調で休業と職場復帰を繰り返している社員がいます。服薬等は続けているようですが、業務により病気が悪化して再度の休業にならないように、就業上の措置や配慮を行いたいと考えています。治療と仕事の両立支援に関して、会社側で必要な対策等を教えてください。
ポイント
- 治療と仕事の両立支援を行うための環境を整備する
- 治療と仕事の両立支援は、社員からの申出から始まる
- キャリアのある人的資源の喪失と社員のキャリアの喪失の防止につながる
【A】回答
労働安全衛生法では、事業者による労働者の健康確保対策に関する規定が定められており、健康診断の実施などの各種措置を義務付けています。これら健康確保対策の一環として、「業務により疾病が増悪しないよう、治療と仕事の両立のための一定の就業上の措置や治療に対する配慮を行うこと」もまた必要になると考えられますが、法令に直接の定めはありません。
そこで、厚生労働省では、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)を策定し、具体的な対応手順・方法を提示しています。
仕事と治療の両立支援(以下、「両立支援」といいます。)に取り組むために、まず、両立支援を行うための環境を整備します。ガイドラインでは、環境整備として取り組むことが望ましい事項として以下のとおり示されています。
(1)事業者による基本方針等の表明と労働者への周知
衛生委員会等の調査審議を行い、事業者としての基本方針や具体的な対応方法等の事業場内ルールを作成し、労働者に周知します。
(2)研修等による両立支援に関する意識啓発
実行性を確保するため、全ての労働者等に対して研修等を通じて意識啓発します。
(3)相談窓口等の明確化
労働者が安心して相談・申出を行えるように相談窓口及び情報の取扱い等を明確化します。
(4)両立支援に関する制度・体制等の整備
短時間の治療が定期的に繰り返される場合等に対応できる休暇・勤務制度を検討・導入や対応手順、関係者の役割の整理、情報共有のための仕組みづくりをします。
特定の従業員に対する両立支援は、以下の流れで進めていきます。
メンタルヘルス分野の両立支援の流れ
両立支援の検討は、両立支援を必要とする社員からの申出から始まります。社員からの申出があったら、支援に必要な情報を主治医から収集してもらい意見書として会社に提出してもらいます。会社側が就業上の措置について判断を行いやすいよう、主治医からは、可能な範囲でなるべく詳しく就業上の措置(避けるべき業務や時間外労働の制限の要否等)や治療に対しての配慮に関する意見をもらう必要があります。そのためには、主治医の判断の参考となるような仕事に関する情報を社員から主治医に渡してもらいます。
会社として必要な情報が得られるように、社員から主治医へ渡してもらう「勤務情報提供書」や主治医からの「意見書」の様式をあらかじめ作成しておき、社員が必要なときに利用できるように周知しておくことも有効です。
なお、両立支援は社員からの申出から始まりますが、社員の不調に気づいた場合は、できるだけ早く医療機関へつなぐなどの働きかけを行うことは、安全配慮義務の観点から必要です。また前述したとおり、ルール作成だけでなく労働者への周知も重要であり、申出が行いやすい環境を整備することも重要なのです。
両立支援は、会社にとって健康確保対策の意義があるだけでなく、継続的な人材の確保、社員の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、社員のワーク・ライフ・バランスの実現といった意義もあると考えられています。
特に、少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少による労働力不足が深刻な状況にある中、両立支援を行うことで、キャリアのある人的資源の喪失を防ぐことができ、社員にとってもキャリアを喪失することなく働くことができるようになります。
【参考資料】
労働者健康安全機構「メンタルヘルス不調をかかえた治療と就労の両立支援マニュアル」
根岸純子(ねぎし じゅんこ)
根岸人事労務事務所
特定社会保険労務士、シニア産業カウンセラー、キャリア・コンサルタント
大学卒業後、都内金融機関に勤務。平成10年社会保険労務士試験合格。その後、社会保険労務士事務所勤務を経て、平成11年に独立開業する。開業後、産業カウンセリングに出会い、勉強を始め、現在は労使のトラブル防止にカウンセリングやコミュニケーションスキルを活かした相談を心掛けている。
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