
うつ病などの心の病気や自殺あるいは過労死(脳・心臓疾患)についてのよくあるご質問とお答えを掲載しています。メンタルヘルス対策関係・過労死等予防対策関係・自殺予防対策関係・労災補償関係に区分して掲げています。
メンタルヘルス対策関係
まず、部下が安心して定期的な通院を継続できるよう支援しましょう。また、会社に産業医がいれば、本人の同意を得た上で、就業上の措置の要否について意見を求めるのもいいでしょう。保健師や衛生管理者など事業場内メンタルヘルス推進担当者がいる場合は、本人の同意を得た上で連携しましょう。必要に応じて、産業医を介して主治医の意見を尋ねることもあります。一連の対応に当たっては、プライバシーの保護に十分配慮し、連絡する必要がない者には言わないように注意し、同僚などへの情報開示では本人の意思を尊重しましょう。
また、部下の不調の原因が職場や業務にないか検証し、必要に応じて職場環境改善の取組みを行うなど再発防止を図りましょう。
(Q-M-28)
アルコール依存症、またはその前段階であることが考えられます。放っておかずに個人面談の場を持ちましょう。産業保健スタッフがいる場合には、彼らと連携するようにしましょう。面談では、本人が問題を自覚できるよう、出勤記録などをもとに、遅刻や欠勤の頻度が客観的にわかるものを用いて話し合いを行うとよいでしょう。問題飲酒がある場合はアルコール症の専門機関を受診していただく必要がありますが、一方、本人が飲酒による問題を否認することもしばしばあります。その場合、しばらく様子をみざるを得ないこともありますが、次回、遅刻や欠勤をするなど問題行動がみられた場合は必ず受診をしてもらうことや、家族と連絡をとるなどの約束を交わしておくことが重要です。問題を先送りにしたり、大目にみてあげたりするのは適切でありません。
(Q-M-30)
精神科は内科などと同じように健康保険で診てもらえます。しかし、精神科の外来医療費は、薬の値段が高いので、通院が長期間にわたる場合は医療費の負担が大変です。その場合は、自立支援医療制度の申請を市区町村の窓口にすれば、主な精神疾患では1割の自己負担ですむようになります。
精神科の最初の診察は、内科などと違って心電図、CTなどの検査はほとんど行われず、その代わりにこれまでの経過を詳しく聞きます。「いつから、どんなきっかけで、このような”うつ”になったのか」といったことです。精神科医が聞く場合もありますが、臨床心理士や精神保健福祉士などがお聞きする場合もあります。精神科医は診察を通して助言をし、必要な場合は抗うつ剤や睡眠導入剤などを処方します。診察と投薬だけでは不十分な場合には、併行して、カウンセリングやデイケア・ショートケアなどの特別なプログラムを行う場合があります。家族関係の調整が必要な場合にはケースワーカーが相談を受けることもあります。カウンセリングなどのプログラムは、スタッフの数が少ない精神科診療所では行いにくいことから、心理カウンセリング機関と連携して行っている場合もあります。
(Q-M-31)
流れとしては「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示されている「4つのケア」が基本になります。4つのケアとは、(1)労働者が自らの心の健康のために行う「セルフケア」、(2)職場の管理監督者が労働者に対して行う「ラインによるケア」、(3)事業場内の産業保健スタッフ、人事労務管理スタッフ等が行う「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、(4)事業場外の専門家や機関を活用する「事業場外資源によるケア」のことです。
具体的には、教育研修(従業員向けと管理監督者向け)、情報提供(社内ホームページやパンフレット等)、職場環境等の把握と改善等があります。管理監督者は日頃から従業員のストレスをチェックし、そのストレスの原因を減らすように可能な限り工夫することが大事です。職場環境のストレスを測るためにチェック表やアンケートに記入してもらってもよいでしょう。また、いつでも相談できるように、相談しやすい雰囲気をつくり、匿名でも相談できる窓口(産業保健スタッフ、カウンセラー、外部相談機関等)を設置しておくことも有効です。
また、メンタルヘルス対策を行う上で得た健康情報の扱いについても、事業所内でルールを決めておくことが必要です。原則として情報は本人の同意なしには開示されない旨を取り決めておくことで、安心して相談することができると思います。
(Q-M-32)
(Q-M-33)
厚生労働省は、平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表しており、その中で事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源による相談窓口の設置や対応について記述しています。
事業場内に相談窓口を設置する場合、以下の点に注意が必要です。
- 早期発見のための体制の構築
メンタルヘルス不調を早期に発見するためには、日頃より関係者が速やかに連携する体制を築いておくことが重要です。まずは日頃より接している周囲の人がその人の「いつもと違う様子」に気づくことが重要です。その際は、勤怠状況や仕事ぶり、表情・態度などの変化に注目することが大切で、病気かどうかを判断する必要はありません。そして早めに声をかけゆっくりと話を聞き、産業保健スタッフや社外の相談窓口への相談を促します。相談を受けた産業保健スタッフや外部機関では、専門医療機関受診の必要性を判断して、必要な場合には受診を促します。 - 日頃のメンタルヘルス対策における留意点
産業保健スタッフは、周囲の人がいざというときに適切に行動できるように、メンタルヘルス教育やパンフレットの配布を通じて、啓発しておく必要があります。また安心して相談できるように、個人情報保護への配慮を徹底することも大切です。速やかな受診に結びつけるためには、周囲の医療機関とのネットワークを築いておくことも重要です。相談窓口は、産業保健スタッフが務めれば、職場での配慮につながるなどのメリットがあります。一方で、事業場内への相談に抵抗を感じる人もいます。そのような場合は事業場が外部のメンタルヘルスサービス機関などと契約しておけば、相談窓口の選択肢が多くなり、相談の敷居も低くなります。また、外部機関であれば家族からの相談にもつながりやすくなります。
(Q-M-34)
うつ病は治ることが多いのですが、再発しやすいことも知られています。初めてうつ病にかかって再発を経験する人が6割、一度再発した人のうち二度目の再発をする人が7割、二度再発した人のうち三度目の再発をする人が9割といわれています。しかしながら、日常の思考・行動パターンの見直し(認知行動療法など)や内服により再発防止が出来ることもよく知られています。
(Q-M-36)
うつ病の治療というと「カウンセラーに話を聴いてもらうのがよいのではないか」と思う方もおられるかもしれませんが、薬物療法が治療の基本になります。ただ最近は、自然治癒力を重視したり、カウンセリングや漢方薬等による治療を上手に利用する専門医も増える傾向にありますし、逆に病気の程度や状態によっては長時間話すことが負担になることもありますので、カウンセリングの必要性や希望について主治医に相談してみると良いでしょう。
(Q-M-38)
心の病を専門とする医師は、精神科医と心療内科医です。心の病を専門とする医療機関の正式な標榜科目名は、心療内科、神経科、精神科ですが、最近ではメンタルヘルス科やストレス外来などという看板を掲げている医療機関もあります。間違いやすい標榜科として神経内科がありますが、神経内科は脳、末梢神経、筋肉などを扱う内科の一分野です。受診する前にホームページ等で診療内容を確認ともに、事前に電話等で連絡をいれておくとよいでしょう。
(Q-M-27)
うつ病から回復するためには服薬と休養が重要です。仕事の心配はあるかもしれませんが、仕事をしばらくお休みして休養を図ることによりうつ病の回復が望めます。うつ病が悪化すると、業務遂行力が低下し、仕事に影響が出る可能性もありますので、早期に職場の上司等に相談をして仕事をお休みさせてもらうことが望ましいでしょう。
なお、仕事をお休みする際には、職場の休暇制度や経済的な保障制度などについても確認をしておくとよいでしょう。
(Q-M-26)
休職の理由がうつ病など精神的な病気の場合、休職中に連絡を取ったほうがいいのかどうか迷われる上司の方は少なくありません。休職している方にしてみると、職場の人から何も連絡がないと、「自分はもう要らないと思われているのではないか」と不安な気持ちになることが多いようですので、連絡をするのは大事なことです。
もっとも、休み始めの頃など、会社や仕事のことを考えるだけで不安になるということもありますので、休まれている方の状況に応じて、連絡の取り方を考える必要はあります。休みに入る時に、休職中の連絡の取り方について決めておかれるとよいでしょう。頻度としては、うつ病の休職の場合は月単位の休みが多いので、1か月に1回とか、診断書の切れる頃などを目安にされるとよいでしょう。
なお、直属の上司の方が窓口になるのが一般的ですが、部下の方との人間関係がこじれているなど、直接やり取りをするのに問題があるような場合は、他の方を窓口にするといった配慮が必要になります。
(Q-M-39)
心の健康問題で休業した労働者に対して主治医の判断により復職診断書が発行され、産業医が精査した上で、事業者に職場復帰に関する意見を述べることになります。しかし、必ずしも主治医と産業医の意見がすべて一致するわけではありません。主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度から復職の可能性を判断していることが多く、職場復帰後職場で求められる業務遂行能力がまだ回復しているとの判断とは限らない場合があります。
職場復帰は、就業規則等に定められた就業時間内労働を可能とする業務遂行能力が回復していることが前提となります。そのため、適正な睡眠覚醒リズムが確保されており、昼間の眠気がなく、注意力・集中力が持続し、安全に通勤ができ、療養中に業務に類似した行為を遂行したとしても疲労が翌日まで残ることのない程度まで体力が回復していることが必要です。これらの点について産業医は精査を行い(改訂「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の手引き」参照)、その結果明らかに職場復帰に必要な準備が整っていないと判断することもあります。このような場合主治医とさらに情報交換を密にして、職場復帰に必要な準備状態の確立に協力してもらえる関係を作っていく必要があります。
より円滑な職場復帰支援を行う上で、職場復帰の時点で求められる業務遂行能力はケースごとに異なることが多いため、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報を提供した上で、就業が可能であるという回復レベルで復職に関する意見書を記入してもらうようなプロセスを踏むのもいいでしょう。
(Q-M-40)
精神障害に限らず、病気を治す期間は主に2つに分かれます。前半が療養に専念する期間、後半が復帰に備える期間=リハビリの期間、となります。たとえば重症の捻挫を想像してみましょう。前半は痛くて動けませんので固定・安静、腫れと痛みがひいたら後半は固定して硬くなった関節を動かし可動範囲を広げ、元の生活が可能となります。
つまりリハビリ期間に入るには、日常生活を送る上で症状による支障がほとんどなくなっている状態が必要となります。うつ病を例にしますと、憂うつな気分である、不安や緊張でビクビクする、嫌なことばかり考えて眠れない、など苦痛な症状がほぼ改善している状態ということになります。自覚症状が強く苦痛が大きい時期は、まだ療養に専念する期間と考えましょう。自分がどの期間にあるのか、主治医にも相談するとよいでしょう。
リハビリ期間の過ごし方として重要な点は主に3つあり、ⅰ.睡眠・食事のリズムの確立、ⅱ.就業を想定した日中活動、およびⅲ.これらの継続性、ということになります。
ⅰ.適切な睡眠および食事のリズムですが、久々の就労というストレスの海に飛び込んで泳ぎ続けることになります。そこに必要な体力の維持のための基本中の基本です。
次にⅱ.就業を想定した日中活動ですが、最近はリワークプログラムなどを設置した病院もありますが、ひとりでも行うことも可能です。しかし自分の意志が必要になります。たとえば毎朝図書館に通っての作業です。そこでの過ごし方も段階的に作業レベルを上げていくことも工夫次第。たとえば、新聞のある部分を読むこと。それが問題なく出来るようになれば、その部分をノートに書き写す→写すだけでなく要点をまとめる→まとめるだけでなく私見を述べる。少しずつステップアップが出来るのです。また特に都市部では独特な緊迫感のある通勤時間帯のラッシュを体験しておくことも役立ちます。通勤訓練などとも呼ばれていますが、この準備なしに復帰して消耗してしまう方も珍しくありません。
最後に、ⅲ.継続性ですが、仕事は1週間後も1か月後も1年後も続きます。がある程度の期間続けて出来ていることも、復帰の準備としてたいへん重要な要素となるでしょう。ただ、長距離走ですので、短距離走のようなスピードは不要です。
会社によっては、「試し出勤制度」などが設けられている場合があります。基本的には上記のようなリハビリの期間を経過し、業務遂行の準備が整っている上で行うものです。その運用は会社によって異なりますので、上司や人事労務、産業保健スタッフなどにお尋ねください。上手に利用することにより円滑な職場復帰が期待できます。
(Q-M-41)
「うつ病は甘えた病である」、「頼る人がいるからうつ病になれる」、「うつ病になるのは、精神的に弱いから」、「心の弱い奴がうつになる」、「病は気から。強い精神力があれば大丈夫」など、今でもうつ病を性格、根性などに関連させる偏見や誤解があります。しかし、うつ病はセロトニンなど脳の神経伝達物質の異常が関連する身体の病気です。「うつは本当には治らない」、「うつは再発しやすいものだ」という人もいますが、効果の証明された薬があり、休養、精神療法・カウンセリングにより改善し再発防止も可能です。他の病気と同様にうつ病を正しく理解し、早期発見・早期治療に結びつけることが重要です。
(Q-M-43)
うつ病には本人の性格以外にも多くの病因があり、さらに必ずしも病因が明確でない人も多い疾患です。したがって、生真面目でもなく、几帳面でない人でもうつ病になることはあります。
(Q-M-46)
不眠症にはさまざまな原因があり、原因によって受診すべき科が異なります。もし、ほかに通院中の病気があり、お薬を服用している場合には、睡眠を障害する薬もありますので、一度かかりつけの医師に相談されるとよいでしょう。
最近では、睡眠に関する専門外来を開いている病院もあります。原因がよくわからず睡眠がとれずに悩んでいる場合には、このような睡眠に関する総合外来を受診されてもよいでしょう。
なお、夜中に何度も目が覚めたり、家族からいびきや無呼吸を指摘されたことがある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があるため、「終夜睡眠ポリグラフ検査」という検査ができる医療機関に受診されるとよいでしょう。
就寝時や夜中に目が覚めた時に足のふくらはぎや足の裏あたりが「むずむず」したような異常感覚があって眠れない場合は、「むずむず脚症候群」という病気の可能性があります。また、睡眠中に足がビクビクと動いて眠りが妨げるような場合は「周期性四肢運動障害」という病気の可能性があります。このような場合も、終夜睡眠ポリグラフ検査ができる医療機関に受診されるとよいでしょう。
最近気分が落ち込んだり、いままで楽しかったことが楽しめなくなってきている場合は、うつ病に伴う不眠症かもしれません。また、原発性不眠といって、原因が特定できない不眠症もありますので、このような場合には一度精神科に受診をされるとよいでしょう。
(Q-M-2)
睡眠は人の生態活動として必要不可欠なものです。睡眠がとれておらず、かつ、仕事に悩んでいる様子がご家族から見てとれるということは、元気がなく気落ちしていたり、食事もとれていなかったりといった状況もあるかもしれません。そのような場合、うつ病などの精神疾患にかかっている可能性もありますし、そうではなくても睡眠がとれない状態でメンタルヘルスを改善させることは難しくなります。
ご家族としては、まずご本人の悩んでいることに耳を傾け、睡眠がとれていなかったり、気分が沈んでいたりする場合は、心療内科や精神科への受診を勧めてみるとよいでしょう。また、仕事のことで悩んで睡眠障害という体調不良をきたしているということであれば、勤め先の産業医や保健師に相談するよう勧めてもよいと考えます。
(Q-M-3)
まず、精神科疾患の多くは客観的な評価が難しいものが多く、患者さんの訴えに基づいて治療を行いますので、ご自身の状態を適切に主治医に伝えていただくことが重要です。
ご自身の状態を改めて主治医に伝えてみたり、自分でうまく説明が出来ないときには家族等ご自身の状態をよく知っている人に同席してもらって相談してみるとよいでしょう。特に「どのような症状によって生活しにくいのか」ということが主治医に伝わることが大切です。
なお、精神科で処方される薬は、急にやめることで症状が悪化する場合もありますので、自己判断で中断することは避けましょう。
(Q-M-11)
精神科で薬を処方するのは、その病気の治療に必要と判断されたためでもあります。一方で、薬を使用せずに治療できる場合は、薬は処方されません。
一般的に、精神疾患の治療は長期間にわたることが多いため、薬の内服期間も長くなることがありますが、適切な治療であれば意味なく薬物治療が続くことはありません。いつまで服用するものなのか、減らすことが出来ないか、副作用について、など疑問があれば遠慮なく尋ねてみましょう。 (Q-M-10)
(Q-M-9)
この病気を持ちながらたくさんの方が就業しておられます。統合失調症だから就業できないということはありません。他の疾患と同様に、主治医や会社などと連携し、必要に応じて配慮等をしてもらうこともできます。
(Q-M-6)
まず、うつ病の症状がよくなっていることに加え、日常生活が問題なく送れるようになることが重要です。朝起きて、食事をとり、身支度を整え、外出したり、身の回りのことをしたりして、夜はきちんと睡眠をとれるなど生活が回るだけでなく、本来の興味や関心も回復している状態です。
そのうえで、勤務時間に仕事に準じた活動(事務職であればPC作業や読書など、体を使う仕事であれば散歩や筋トレなど)ができること、他人とのコミュニケーションを問題なくとれることが必要です。
また、うつ病は再発のすることが多い病気ですので、継続的に仕事を続けていくためには、再発した際に早期に気づき対応し、その影響を最小限に留められるような準備もしておくとよいでしょう。具体的には、病気になった原因や背景を振り返り、どんな時に、どんな変化が自身の心や体に現れるのか、そうなった場合にどんな対処が必要なのかを考え、身につけておくことです。一人で難しい場合は、主治医に相談したり、カウンセリングをうけるほか、リワークプログラムといって職場復帰のためのプログラムを用意している医療機関等があるので利用するのもよいでしょう。
(Q-M-5)
糖尿病なら血糖値、高血圧なら血圧値、骨折ならレントゲン写真など、多くの病気には診断に結びつきやすい検査があります。しかし、心の病気(精神疾患)では、そのような絶対的な検査手段がありません。精神科の疾患の診断の中心は問診(生活史、現症、環境、家族歴など)や視診です。現在の症状(現症:気分の落込みがある、眠れない、恐怖感が強い、など)の訴えだけではありません。その症状が、どのような基盤に生じたか、どのような経過で生じたか、どのような契機で生じたか、などを整理して解釈します。元来の性格・家族の状況・学歴や職業歴なども大切です。また、本人の困っているいくつかの症状が、どのような組み合わせであるかを考えます。症状の根底に、体の病気やそれに対する処方薬の影響がないかも検討します。さらに、症状がどの位の経過・継続があるのか、その強さ・深さの程度がどれくらいか、キッカケとなるものがあるかなども聞き取ります。本人にかかった負担に対する反応としての症状の現れ方が、普通考えられる程度と比べ、過大か過小かなども考慮します。以前に同様の症状があるかないかも参考になります。これら問診から得られる情報が診断の主体ですが、顔つきや表情、話し方や言葉遣い、身振りや動作、など視診も診断を考えるには大事なものです。体格、体重変化、血圧、脈拍、食欲、便通、月経、なども参考にします。睡眠の具合などは重要です。握力や歩行、腱反射、瞳孔の具合など神経学的な検査も必要に応じて参考にします。また、心理検査・心電図・頭部CTスキャン検査・脳波・血液検査なども診断に役立ち、今後は白血球遺伝子検査や光トポグラフィー検査などの有効性も期待したいところです。
(Q-M-25)
セカンドオピニオンを希望されますと主治医としては淋しく思いますが、本人の病気をよくすることが優先です。一般の主治医なら承諾してくれると思います。セカンドオピニオンを引き受けてくださる医療機関では、別の視点からの意見を出されます。この意見をそれまでの主治医に伝えて、その後の治療を続けることも可能です。また心機一転して別な医療機関での治療を受けることも可能でしょう。本人の病状をよくすることが第一です。一方で、ドクターハンティングなどと言われますが、本人が良い治療をされていないと感じて、医師を次々と変えていくことも見られます。その結果、計画的・継続的な治療が尻切れトンボになり、病状がよくなり難いこともあります。精神疾患では、せめて3~6か月程度は同じ医師の治療を継続されるほうが良いでしょう。セカンドオピニオンや転院にはご自分の考えだけでなく、ご家族や担当医の意見も参考にしましょう。
(Q-M-12)
カウンセリングは、日常の人間関係のしがらみから離れた、いわば非日常的な人間関係の場であり、その中で、安心して率直に気持ちや考えを表現することを通じて、問題解決や症状の緩和をはかります。カウンセリングにはさまざまな理論や手法がありますが、基本的には、カウンセラーは一方的に答えやアドバイスを与えるのではなく、あなたの話をよく聴き、充分に理解し、気持ちに細やかな配慮をしながら、あなた自身がよりよい人生の選択ができるように、問題の整理や気持ちの整理を心理的に支援します。あなたの年齢、性別、症状や過去・現在の状況および目指すゴール/目標と、それらに対するカウンセラーの専門的な見立てによって、選択される手法や期間は異なります。言葉でのやり取りを中心とする場合もあれば、粘土や切り絵、箱庭や植物などの媒体を使う場合、具体的な行動目標を立てて訓練をしていく場合などさまざまです。
カウンセリングでは、あなたの人生の重要な問題を扱うのですから、焦らずに時間をかける必要はあります。しかし、そのプロセスを支えるのはあなたとカウンセラーとの信頼関係ですので、カウンセリングの進め方そのものについて納得しておくことは、とても重要なことです。
今受けているカウンセリングに疑問があるのであれば、そのことも率直にカウンセラーに伝え、どのような解決を目指していくのか、目標や方針を見直していくことをお勧めします。方針や目標について納得のいく話し合いをすることも、カウンセリングの効果を高めることに役立つと考えます。
(Q-M-13)
厚生労働省は、平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表しており、その中で事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源による相談窓口の設置や対応について記述しています。
事業場内に相談窓口を設置する場合は、以下の点に注意が必要です。
- 相談内容に関する個人情報への配慮が必要です。産業医等の産業保健スタッフが相談窓口となる場合、健康情報を含む個人情報の取扱いに特に留意する必要があります。産業医等が個人情報を事業者等に提供する際は、本人の同意を得たうえで、提供する情報の範囲と提供先を必要最小限とすることが必要です。また、相談に来た労働者の健康を確保するため、就業上の措置を事業者が行うために必要な情報が的確に伝達されるよう、情報を集約・整理・解釈するなど適切に加工した上で事業者等に提供する必要があります。
- 相談窓口の設置を十分に周知することが必要です。労働者にとって普段から相談窓口を意識しているわけではなく、困ったときに初めて相談することが考えられます。そのため、労働者への周知は定期的に、かつ、さまざまな機会を捉えて、繰り返し行ったほうがよいでしょう。また、労働者の不調に気がつくのは家族であることも多く、社内報や健康保険組合の広報誌等を通して相談窓口について家族へ周知しておくことも大切です。
- 常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場の場合は、産業医等の産業保健スタッフがいないことがあります。その場合は、衛生推進者が中心となるとともに、地域産業保健推進センター等の事業場外の資源を十分に活用して、相談窓口機能を整えておくことが大切です。それぞれの地域の地域産業保健センターの連絡先は、こちらのページをご参照ください。
(Q-M-14)
管理監督者は、部下の日常的な変化を最初に気がつくことも多く、メンタルヘルスの問題では対応のキーパーソンになることも多いといえるでしょう。相談先として以下が考えられます。
- 事業場内の健康管理室(産業保健組織)等の産業保健スタッフ
事業場内に健康管理部門がある場合は、まずはそこに相談することがよいでしょう。産業医や保健師等の産業保健スタッフが、メンタルヘルスの問題を含む健康についての最初の窓口となっていることが多いといえます。 - 事業場内の衛生管理者等
健康管理部門が常駐ではない等のため直接相談がしにくい場合は、事業場の衛生管理者を通して相談するのがよいでしょう。事業場によっては衛生管理者が相談窓口を担当していることもありますので、確認してみましょう。 - 事業場外の相談窓口等
事業場により、外部の専門的な相談窓口と契約をしている場合があります。また、常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場では地域産業保健推進センター等を活用することが推奨されています。このような情報も事業場の担当者に確認してみましょう。なお、地域産業保健センターの連絡先は、こちらをご参照ください。 - 事業場の人事総務担当者等
上述したような対応が難しい場合は、事業場の人事労務担当者や安全衛生の担当者に相談をしてみましょう。メンタルヘルスの問題では労務管理上の問題(欠勤や遅刻等)が発生していることも少なくありませんので、勤務管理上のルールを確認しながら対応することも大切です。
管理監督者が一人で対応できることには限界があります。一人で背負いこまないことが大切です。また、個人情報についてはプライバシーに配慮しましょう。
(Q-M-16)
会社が契約している相談機関などでは一般的に、問題解決のために相談・助言・援助を行うための専門的訓練を受けた公認心理師や臨床心理士などの有資格者が対応します。これらの専門家は、相談者の人権や生命を守るために遵守すべき職業倫理についても十分に教育を受けていますが、なかでもこの職業倫理において特に重要な項目の1つに『守秘義務』があります。
『守秘義務』とは、職務上知りえた秘密や相談内容を正当な理由なく他人に漏らしたり利用したりしてはならないというものです。医師などの医療関係者の場合は刑法などに定めがあり、さらに労働安全衛生法にも健康診断や面接指導の実施の事務に従事した者に対して守秘義務が定められています。カウンセラー資格の1つである公認心理師も国家資格ですので、他の医療業務従事者と同様、倫理的義務だけでなく法的責任も負っています。
相談に当たっては、何よりも相談者と専門家との間の信頼関係が基礎となります。これを保障するのが守秘義務です。この義務に違反すれば、信頼関係が壊れ、相談自体が成立しなくなります。
(Q-M-17)
派遣労働者の健康管理(健康への支援)は、派遣元事業場と派遣先事業場との間で役割分担をすることが、法で定められています。一言で言えば、現場での具体的な仕事に関連する事柄については派遣先、それ以外の健康問題は派遣元が主として担当することになっています。わかりやすい例が健康診断で、年に1度の定期健康診断は、派遣元が費用を出して行い、有機溶剤などの作業現場の有害因子による健康影響をチェックする特殊健康診断は、派遣先に実施義務があります(両者が連携して実施すべき事柄もあります)。ストレスや心の健康問題に関する相談の場合も、それに準じて考えればよく、派遣元の産業保健スタッフに相談するのが一般的といえましょう。派遣先事業場で、相談室が相談の内容にかかわらず派遣労働者にも解放されており、ご本人が希望するのであれば、利用してもよいと考えられます。ただし、その場合、相談内容がどの範囲に知られるのか(一切誰にも知られないのか、上司に当たる人には一部報告されるのか、派遣元事業場にも伝えられるのかなど)をあらかじめ確認しておき、納得した上で利用することをお勧めします。
(Q-M-18)
睡眠の問題が起きていると思われます。また、アルコールを不眠やイライラの解消のために薬物として使用するのは、状態の悪化や依存症などを招くためおすすめできません。まずは会社の産業保健スタッフ、あるいは外部の精神科や心療内科などの専門機関を受診し相談されることをおすすめします。また、身体疾患による睡眠障害も起こりうるので、かかりつけ医への相談もおすすめです。
たまに飲酒することで寝入りをよくする効果はありますが、常用したり大量に飲んでしまったりするのはかえって逆効果であり、睡眠の質が悪くなってしまいます。また、アルコールは耐性を生じやすいので、毎日飲んでいるとだんだん量を増やさないと眠れなくなってしまい、アルコール依存症や肝臓などの臓器障害を起こす危険もあります。睡眠薬よりお酒のほうが安全と思われるかもしれませんが、快眠のためには飲酒(寝酒)よりも、医師の指示にしたがって服用する睡眠薬のほうがはるかに効果があり安全です。
(Q-M-19)
仕事と家庭生活をきちんと両立させようとすると、時間もエネルギーも足りずに疲れてしまいますね。長い職業人生の中では、その時々で、仕事と家庭生活とにかける時間やエネルギーのバランスが変わっていきます。このバランスの調和を考えていくことをワークライフバランスと呼んでいます。仕事と家庭生活のどちらにも100%なのではなく、子どもの成長やその時々のライフステージに合わせて、柔軟にそのバランスを変えていくことが、あなたと家族の健康のために、とても大切なことです。
家庭での負荷も増える時期は、夫婦間で話し合いお互いの役割分担なども見直してみるのも効果的です。職場の理解や協力が必要であれば、まずは上司に事情を伝えて相談したり、育児を支援する会社の制度がある場合には利用して、ライフステージに合った働き方を考えるのもよい方法です。
また、夫婦2人の時間とエネルギーだけで考えずに、身近な人からのサポートを得て、家庭内の時間やエネルギーを補強することも有効です。
(Q-M-21)
心の病気に限らず、心身の病気はストレスで生じるものが少なくありません。特に心の病の発症にはストレスの関与が大きいと考えられます。同じような場面でも、人によって感じるストレスの大きさは異なり、心の病になりやすい人となりにくい人がいます。
(Q-M-22)
うつ病等の精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。
仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、その人の既往歴やアルコール依存など(個体的要因)が関係していたりする場合には、どれが発病の原因なのかを医学的に慎重に判断されます。詳しくは、厚生労働省パンフレット「精神障害の労災認定―平成23年12月に認定基準を新たに定めました―」をご参照ください。
(Q-M-23)
(Q-M-24)
過労死等予防対策関係
残業をしても残業したことを申請せず残業代を請求しないこと、あるいは残業をさせたにも関わらず残業代を支払わないことを「サービス残業」と呼んでいます。残業は所定の労働時間以外に特別に働くことですので、時間外労働に関する協定(36協定:サブロク協定)を労使で結んで所轄労働基準監督署に届け出ること、時間外労働に対して25%以上の割増賃金を払うことが労働基準法で決められています。残業させたにも関わらず割増賃金を支払わない場合、つまり「サービス残業」をさせた場合には、「割増賃金不払い」違反として、会社と責任者が罰せられます。「サービス残業」は、長時間労働からくる過重労働によって健康障害の原因となっている場合が多くあります。平成22年4月からは、時間外労働時間が月60時間を超える場合には、割増賃金の率が50%に引き上げられるという内容の労働基準法改正がなされています。
過重労働の温床の一つであるサービス残業(賃金不払い残業)に対する行政の対策としては,「賃金不払の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(平成15年5月23日)が出されています。この指針で示された事業場が労使一体となって取り組むべき事項としては、1 サービス残業のチェック機関である企業内労使協議組織を設置すること、2 勤務時間の自己申告を原則禁止し、客観的なシステムで管理すること、3 サービス残業を行った労働者も、これを許した現場責任者も業績評価しないこと、4 過去にサービス残業があった職場では、指示系統が異なる複数の責任者を設定すること、5 企業トップが直接情報を把握できるような投書箱や専用電子メールアドレスを設定すること等が示されています。
(Q-K-29)
ご質問の場合では、面接指導を希望していないものに対して申出の勧奨をするなど、面接指導を実施するように努める必要があります。また、面接対象者の選定基準においても、月45時間以上の時間外労働を行ったものについては産業医との面接指導を申し込めるようにするのが望ましいといえます。
(Q-K-28)
事業場で産業医を選任しておらず、面接指導を実施する医師を確保することが困難な場合には、地域産業保健センターを活用することができます。
なお、最寄りの地域産業保健センターについては厚生労働省ホームページ「
(Q-K-26)
一日は24時間ですので、通勤時間が長くなったり、残業時間が増えれば、犠牲になってしまうのは休養や睡眠の時間になります。この睡眠時間が十分に確保されないと、”心とからだ”の健康状態に支障をきたし、脳出血などの脳血管疾患や心筋梗塞などの虚血性心疾患等、あるいはうつ病などのメンタルヘルス不調が起こりやすいといわれています。過重労働の範疇に入るかどうかは通勤時間ではなく、時間外労働(残業と休日労働)や責務の重さや就労形態の実態によって判断されるものです。
通勤を含む仕事での睡眠不足を解消するため、残業を少なくするような対策やテレワークの制度を利用するなどが、過重労働による健康障害予防に必要な対策だと考えられます。
(Q-K-18)
なお、いずれの場合も労働者からの書面や電子メール等による申出に応じて面接指導が行われることになっていますが、その場合に事業者は、1 作業者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備、2 申出様式や申出窓口の設定等の体制整備および申出記録の保存、3 作業者への申出体制の周知、を図る必要があります。さらに申出を行うことによる不利益な取扱いの禁止などが必要になります。ただし面接基準に該当する者の全員を対象として呼び出す場合に限り、面接拒否をもって申出がなかったものとみなしてよいこととされています。これらの基準は事業場の衛生委員会で審議しておくとよいでしょう。
また、家族や職場の者が作業者の不調に気がついて相談や情報を受けた事業者は、プライバシーに配慮しつつ当該作業者に面接指導を受けるよう働きかけることが望まれます。あるいは、産業医が健康診断結果や、家族や職場の者からの相談や情報を受ける等により、面接指導を受けることが適当と判断した場合は、当該作業者に申出を行うよう勧奨することが望まれます。
(Q-K-30)
まず、労働時間を適正に把握するためには、始業時刻・終業時刻の確認とその記録が基本です。使用者が、自ら現認することにより確認し記録する場合や、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録する場合、また自己申告制にして始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合もあります。自己申告制を採用している事業場は多いのですが、労働者に対して労働実態に即して正しく記録することを十分に説明することが求められます。その一方で、自己申告の時間が実際の労働時間と合致しているか否かについては必要に応じて実態調査を実施することが必要です。また時間外労働時間数の上限設定や削減のための社内通達などが、労働者の適正な申告を阻害する要因となっていないかについても使用者は確認をする必要があります。これらのことを取り進めるためには、労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を設定して、労働時間の現状把握と時間管理方法等に関して検討するなど活動させることが指示されています。
健康管理の観点から言えば、時間外労働が概ね月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患(脳出血などの脳血管疾患及び心筋梗塞などの虚血性心疾患等)の発症の関連性は高まると考えられ、発症前1か月に100時間以上あるいは発症前2~6月間に月平均80時間以上の時間外労働があれば、とくにその関連性が強まると判断されています。労働災害抑止の意味からも、労働者の健康維持の面からも、時間外労働の管理は適正に実施しなければなりません。
(Q-K-31)
長時間労働している従業員に対して、医師による面接指導等を実施するためには、衛生委員会等でその手続きの流れや対象者の基準などの事項を調査審議した上で整備する必要があります。面接指導をする医師は、事業場に産業医が選任されていればその産業医と連携するとよいでしょう。また、選任されていなければ地域産業保健センターを利用することができます。なお、面接指導をする医師は、上記の他にかかりつけ医、病院・診療所の一般の医師でもよいこととなっています。
面接指導を受けさせるためには、労働者と管理監督者に過重労働による健康障害防止の必要性をしっかりと理解させるよう事業場内での啓発活動を行うことが肝要です。
(Q-K-32)
過重労働の面接指導を終えた医師からは、報告書(書式例)が事業者に向けて提出されます。この内容に対して、事業者はその実施の必要性を勘案し適切な対応をする必要があります。
労働安全衛生法第66条の8第5項「事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない」とあることから、当該労働者の作業環境、作業条件、健康管理の観点から、指示事項を参考にして措置を講じる義務があるのです。
医師による指示事項が具体的でなかったり、労働者や職場の実情から実施困難であるような場合には、医師の意図するところを適切に理解したうえで実施可能な内容の措置を講じることになります。実施においては、事業者は本人と面接し、医師からの報告書の内容を伝えるとともに、これから実施する措置内容と措置期間等について説明をし、本人の理解と同意を確認しましょう。また措置期間の終了時には、再度同医師による面接を実施して今後の対応措置について当該医師に相談しておくとよいでしょう。
(Q-K-33)
(Q-K-34)
事業者は、「医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない」(労働安全衛生法第66条の8第5項)とされていることから、医師による面接指導の結果については定期的な衛生委員会への報告が必要です。また、面接指導の内容や結果については個別性が伴うので、委員会への報告の際にはプライバシーに配慮することが必要です。判定区分ごとの該当人数にとどめる、職場単位ごとに集計する、というように、何をどのように表現して報告するかについては事前に衛生委員会事務局と産業医とで打ち合わせをしておきましょう。面接指導対象者に、疲労度調査や問診等を実施している場合、集計し、疲れや体調の傾向についてコメントするのもいいでしょう。
面接指導はあくまでも長時間労働の結果として発生した事後措置に過ぎません。衛生委員会で重要なことは、委員全員がつねに事業場内の長時間労働の実態について把握し、その対策について話し合い、実行することです。
(Q-K-35)
疲労の蓄積度は、現在のところ厚生労働省が公表した「労働者の疲労蓄積度診断チェックリスト」を用いて測定されるのが一般的です。労働者の疲労蓄積度診断チェックリストには、「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」と「家族による労働者の疲労蓄積度チェックリスト」があります。また、インターネット上でできる「働く人の疲労蓄積度セルフチェック」(こころの耳サイト内)もあります。
しかし、自覚症状と勤務の状況評価が乖離する場合もあるので、過重労働に係る面接指導では医師による問診結果も総合して評価されます。
(Q-K-24)
過労死、過重業務による脳・心臓疾患の基本的な考え方は、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪して発症するものであり、それに該当する例は業務に起因することの明らかな疾患として取り扱われます。ここでの脳・心臓疾患とは、上記のような経過で発症する脳血管疾患及び虚血性心疾患等を指しており、労災認定基準(平成13年12月12日付け基発第1063号)により、対象疾患として示されている疾病が下記の通り明記されております。
- 脳血管疾患
(1) 脳内出血(脳出血)
(2) くも膜下出血
(3) 脳梗塞
(4) 高血圧性脳症 - 虚血性心疾患等
(1) 心筋梗塞
(2) 狭心症
(3) 心停止(心臓性突然死を含む。)
(4) 解離性大動脈瘤
(Q-K-23)
健康維持と生産性向上のため、「長時間労働はなくしていかなければならない」という認識のもと、原因を見極め本人の適性を考えながら改善に向けた指導を行うのも管理監督者の役割です。叱りつけるのではなく、本人の言い分にもしっかり耳を傾けながら、改善への意欲を引き出すような対応を心がけましょう。場合によっては配置転換なども考慮しつつ、柔軟に対応するようにしましょう。
(Q-K-22)
労働基準法では、管理監督者に該当する方については、労働時間、休憩、休日規定の適用が除外されます。また、監視・断続勤務や宿日直勤務といった労働態様で、使用者が労働基準監督署長に許可を得ている場合にも同じく適用が除外されます(深夜業務に関する規定は除外されませんので、使用者は割増賃金の支払義務が生じます)。つまり監視・断続勤務・宿日直勤務のような勤務形態では、待機時間も含めた労働時間が8時間を超えていても、時間外労働と認められません。
一方、使用者の指示があればすぐに業務を実行できるように待機している時間は(手持ち時間)、労働から解放されている状態ではありませんので、労働時間とみなされます。同様に休憩時間中の来客に備えている場合や、電話対応のために職場から離れることができない場合にも休憩時間ではなく労働時間とみなされます。つまり待機状態であっても、使用者の指揮監督下にある状態であれば、労働時間とみなされます。
以上のように、待機時間が労働時間に該当するかどうか、労働時間の適用免除にあたるかどうかなどを加味して過重労働か否かが判断されるものと考えられます。
(Q-K-19)
長時間労働による健康障害として、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調などがあります。脳・心臓疾患に関していえば、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、肥満、喫煙などの危険因子があり動脈硬化を起こしやすいような人は、個人差はありますががある部分もありますが、長時間労働による身体的負荷により脳や心臓の病気にかかりやすいと言えます。ただ、現在そういった危険因子を持っていない人においても、長時間労働による結果として睡眠不足や生活リズムの不規則性などから高血圧などの生活習慣病を生じ、将来的に脳・心臓疾患になってしまう可能性があります。したがって、危険因子があるか否かに関わらず、日頃からの健康管理が大切です。
メンタルヘルス不調に関しても、長時間労働はもちろん、仕事の質(緊張性の高い業務、責任の重い業務など)、職場環境、人間関係、仕事に対するモチベーション、ストレスを溜めやすい性格、考え方の癖、家族・上司・同僚の支援の有無など、さまざまな因子が関係しており、その過程で結果的にメンタルヘルス不調が起こってくると思われます。つまり、どのような人であっても条件がそろえば心の調子を崩す可能性があり、労働時間やその他の因子にも注意して、未然に健康障害を予防していく必要があります。
(Q-K-20)
上記2の場合、時間外労働時間が月に45時間を超える者については、健康への配慮の必要な者の範囲等について産業医と検討し、それらの者が面接指導又はそれに準ずる措置の対象となるように基準を設定することが求められています。具体的には、時間外労働時間が月に45時間を超える者については、作業環境や労働時間等の情報を産業医に提供し、面接指導対象者を産業医にピックアップしてもらってもよいでしょう。この際に時間外労働時間が2ないし6か月の平均で月80時間を超える者は対象とすることが求められています。面接指導に準ずる措置としては、例えば保健師等による保健指導を行うことや、チェックリストを用いて疲労蓄積度を把握した上で、事業場における健康管理について産業医から助言指導を受けるとともに産業医面接の対象者を絞り込む、などが考えられます。
これらの基準は事業場の衛生委員会で審議しておくことが望まれます。
(Q-K-21)
そもそも裁量労働制を採用しているということと、過重労働対策を実施しているということとは別次元の問題です。裁量労働というのは、業務時間帯が固定されず出勤・退社の時間も自由で、実労働時間がどうであれ、法定労働時間内(1日8時間まで、1週40時間まで)において合意した労働時間の労働を提供したと見なして「見なし労働」分の給与の支払いをするという労働形態をいいます。また月ごとに一定の残業時間数を含めた労働時間を加えて裁量労働制というのであれば、その法定労働時間外の残業時間についてはあらかじめ取り決めておく必要があります(労働基準法第36条に従って労使で取り決める)。さらに、取り決めたその残業枠を超えてさらに残業時間や臨時出勤が発生した場合には、時間外労働を適正に把握した上でその分の割増賃金を使用者は支払わなければなりません。どちらにしても使用者が労働者の全労働時間を把握しておく必要のあることには違いはありません。ちなみに年俸制の場合においても労働基準法では時間外労働をした場合には年俸とは別に割増賃金を支給しなければならないことになっています。
過重労働対策というのは、過剰な時間外労働を行わせるなどにより健康障害を発生することがないように取り組む事業場全体の活動を指します。活動項目を挙げれば、(1)長時間労働をさせないこと、(2)健康診断を適切に実施し労働者個々の健康管理を行うこと、(3)長時間労働者には医師による面接指導を実施すること、(4)健康診断や医師による面接指導の後は必要な措置を実施すること、(5)衛生委員会において対策の推進について調査審議すること、などの活動となります。使用者は労働者の健康に配慮して、過重労働による脳・心臓疾患(脳出血などの脳血管疾患及び心筋梗塞などの虚血性心疾患等)が発生しないようにする義務(安全配慮義務)があります。この義務を遂行するためには、つねに情報として労働者の時間外労働を適正に把握しておく必要があります。裁量労働制を採用していても労働時間はきちんと把握をして、長時間労働を行った必要な労働者に対しては、上記の過重労働対策を講じなければなりません。
(Q-K-25)
1 家族の心配を本人へ伝える
過重労働になると、自分自身を冷静に見ることができなくなっている場合があります。まず、働きすぎで、からだを壊してしまうのではないか心配しているということを本人へ伝えましょう。また、どうすれば時間外労働を減らすことができるのか、一緒に考える姿勢で相談にのりましょう。
2 持病などで継続的な治療を受けている場合、通院をきちんとさせる
薬の内服状況を確認してください。また、忙しさで通院が疎かになっている場合があります。持病がある場合は、持病をしっかりとコントロールすることが大切です。
3 体調を尋ねる
何か心配な症状がないかを本人に尋ね、特に継続的で苦痛な症状があれば早急に病院を受診させましょう。また、体調が悪く病院を受診するのであれば、上司にもその旨を連絡しましょう。
4 残業時間をきちんと記録し、会社の産業医などへの相談を本人へ勧める
月の残業時間が45時間程度を超えると疲労が蓄積し、80~100時間を超えると明らかな疲労の蓄積が出て、過労死になどにつながる可能性が出てくると言われています。法律では、時間外・休日労働時間が月80時間を超え、疲労が蓄積していると申し出た方に対して、会社は産業医等による面接指導を行い、仕事上の配慮が必要かどうか確認することになっています。また、残業時間が80時間を超えていなくても、本人が希望すれば同じような対応をすることが会社に求められています。このような仕組みを本人に伝え、会社の産業医などに相談するように本人を誘導してみてください。
5 上司に、本人の状況や家族の気持ちを伝える
職場の管理者には、部下の健康状態に配慮して業務をさせる責任があります。しかし、本人が状況を率直に伝えないと、上司は深刻な状況を明確に把握できず、充分な業務の調整を行うことができないことがあります。体調に問題があったり不安がある場合には、率直に上司に伝えるように家族から誘導してみてください。
(Q-K-36)
一方で産業医は、事業者との間に安衛法上の配慮義務履行補助者として法的契約の関係にあります。たとえば面接指導は何のためにしているかといえば、過重労働によるあなたの健康影響を評価し、今後の健康悪化の見込みを予見するために実施されています。これは、労働者の安全と健康を確保するために事業者に科せられた安全配慮義務履行の一環なのですが、その実務担当者として産業医が医学的判断をするために任に当たっています。さてこのとき、あなたから産業医に機微な健康情報が伝えられ、あなたの健康障害を防止する観点から、その情報についてどうしても上司もしくは担当者に伝えたほうがよいと産業医が判断する場合があります。おそらくこのような場合、上司や担当者側に提供される情報に限り、その理由と事情について事前に産業医からあなたに了解を得るための説明があるはずです。もちろん就業上の措置の実施に当たって、関係者にこの種の健康情報を提供する場合には、特に産業保健業務従事者(産業医、保健師等、衛生管理者その他の労働者の健康管理に関する業務に従事する者をいう)以外の者に健康情報を取り扱わせるときは、これらの者が取り扱う健康情報が利用目的の達成に必要な範囲に限定されるよう、必要に応じて健康情報の内容を適切に加工した上で提供する等の措置を産業医は講じます。
しかし、ご本人にその了解を得るための努力はするとしても、結果としてご本人の了解を得ることなしに事業者判断により就業措置等を行う場合があります。それは職場の緊急事態の発生やあなたの生命に危機が迫っているとき、あるいは法律上の開示強制力がある場合等にもあなたの了解なしに健康情報の開示をすることがあります。このとき、プライバシーを守ることとあなたの生命健康安全を守ることとは、おのずから後者に優先順位があることは当然だからです。
(Q-K-38)
まず、最初に注意しておくべきことは、脳疾患にも脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など多彩な疾病が含まれていること、また、同じ疾病(たとえば脳梗塞)でもその重症度によって後遺症等はさまざまであり、ステレオタイプ配慮では十分ではないということです。診断名即一定の配慮とは限らないので、産業医や主治医のアドバイスを受け、一人ひとりの状況に応じた適切な配慮をすることが望まれます。
なお、一般的には次のような配慮が望まれることが多いようです。
(1)残業禁止などの労働時間に関する配慮
特に、職場復帰直後は直ちに従前のように体調が回復しているとは限らないので、一定の配慮が望まれます。
(2)労務内容に関する配慮
後遺症の程度によっては、高所作業の禁止(平衡能や運動能の障害時)などの就業制限が必要になることがあります。
(3)通院の確保(受診時間や就業場所)のための配慮
リハビリテーションの継続のほかにも、発症の基礎となった高血圧のコントロールなどのために加療継続が必要な場合が多く見られます。
(4)その他の配慮
この中には、薬剤服用中などに必要な特別の配慮が含まれます。たとえば、眠気が強く引き起こされる薬剤服用中の場合には、危険作業は避けたほうが望ましいのですが、これは医師からのアドバイスをもとに行うべきでしょう。
(Q-K-40)
過労死の認定基準としては労働時間が最も重要ですが、認定基準に満たない労働時間であっても、時間外労働時間が月80時間程度の場合は過労死の可能性を否定できないことから、労働時間以外の負荷要因の有無などを参考に判定されることになっています。このなかに作業環境も含まれていますので、作業環境の改善は過労死防止に役立つといえます。
具体的には、温度環境、騒音環境、時差を伴う移動の頻度などが挙げられています。執務室内の冷暖房も度を超すとストレス源となりますので注意が必要です。また、狭い室内に多くの人がすし詰めになっている執務室や、悪臭、周囲の騒音、机上照度が十分でない執務室など、劣悪な作業環境は心身の疲労を増加させます。逆に、快適な作業環境は心身のストレスを軽減しますので、過労死防止のために快適な職場環境・作業環境の確保はとても大切です。
事業者が快適な作業環境を作ろうとするときは、「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(平成4年7月1日労働省告示第59号。平成9年9月25日労働省告示第104号により一部改正)を参考にするとよいでしょう。
(Q-K-41)
過労死等は、過労死等防止対策推進法第2条により、以下のとおり定義されています。
・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
“業務による過重な負荷”としては労働時間が重視されており、過労死等の防止は国の取り組みの中でも重点的な課題です。一方で、過労死と生活習慣病の関係が否定できるものではなく、労働者個人の立場では「過労死は生活習慣病と無関係ではなく、よい生活習慣を保つことは大切だ」と考えるべきです。
それでは、過労死を防止するために生活習慣のどのような点に気をつければいいでしょう。過労死のうち心臓病は、仕事や生活習慣との関係が知られています。具体的には、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病や喫煙は明確に発症のリスクだということです。さらに注意すべき点は睡眠と抑うつです。睡眠時間が6時間未満の場合はあきらかに発症のリスクが高まります。また、抑うつは自殺だけでなく、心臓病にもよくない影響があるという報告がされています。
上記のことから、過労死防止のためにも、生活習慣病は医師等のもとで適切に管理する、その上で、a.生活習慣病の予防・改善のためバランスのよい食事と適度な身体活動をすること、b.禁煙を心がけること、c.睡眠時間を確保してストレスや抑うつ感をため込まないこと、が大切です。つまり、適度な身体活動と禁煙、さらには充分な睡眠でリフレッシュを心がけることが過労死防止の大切な生活習慣のポイントと言えるでしょう。
(Q-K-42)
まずは感じている体調不良の内容をよく吟味する必要があります。たとえば、誰でも(交代勤務者でなくても)体力低下でカゼをひいてしまえば体調不良となりますし、持病の高血圧などが悪化することによっても体調不良は起こります。今回の症状が、たまたまの体調不良なのか、それとも交代勤務という要素が関与してのものなのかを検討する必要があるのです。
人間は24時間のサイクルで生活していて、通常「昼間に活動して、夜間に睡眠する」という生活が一般的です。しかし職業や業務の関係で交代勤務(シフトワークとも言います)をせざるを得ない労働者も多く、本来睡眠しているはずの夜間に仕事をしなければならないことから、生体の日内リズムに不調が生じ、それが原因で健康障害をもたらす可能性があると指摘されています。研究では、交代勤務者は日勤者に比べて、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にかかりやすいとか、心筋梗塞や狭心症にかかりやすい、また睡眠障害やある種のがん(前立腺がん、乳がん等)も発生しやすい等、いくつかの報告もあります。概して、不規則な勤務時間によって疲労が蓄積し、体内時計が乱れ、適量の脳内物質(メラトニンなどのホルモン等)が適時に分泌されないことや、自律神経系・免疫系も不安定になりやすいことから一連の体内不調が想定されています。しかしどれも、交代勤務との明確な因果関係によるものであるとの立証に及んでいないことから、健康保護の観点からは、特定業務従事者への健診の実施が法律化されるにとどまっており、健診項目についても一般健康診断項目と差がなく、その特殊性は見られません。
さて当面の対処ですが、まずは現症状の回復が優先です。症状が重く業務遂行にも支障がある程度であれば、その旨を職場に申し出て健康回復のための療養を選択しなければなりません。そうではなく、就業継続が可能なのであれば、上司には症状の報告を一応しておいた上で、ご自身で健康回復のための工夫をしましょう。たとえば、夜間勤務中には1時間以内の仮眠をとる。勤務明けは寄り道をせずにさっさと帰宅し、自室はカーテンなどで太陽光線を遮って早々に眠る。職場から自宅までの間も強い太陽光線に当たらないようにサングラスをかけること(自宅での睡眠をすみやかにするため)や、食事も自宅に着く前に軽く済ませておくこともいい工夫です。また半年に一度の健診の時には、ぜひ今回の症状を医師に伝えてアドバイスをもらいましょう。それでも体調不良の改善がなければ、産業医に相談する、もしくは専門医の受診をしたほうがいいでしょう。診断の結果、交代勤務との関連性が強く疑われるようであれば、労働条件変更のためにも主治医から診断書を発行してもらい職場に提出して就労条件の緩和や職場環境の改善をお願いしましょう。
(Q-K-4)
日本人の死因の約1/3を占める脳血管疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞等)や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)は、血管病変の形成、進行及び悪化により発症します。
働き過ぎが長期に及ぶことにより、休息や睡眠の不足から疲労が蓄積し、血管病変をその自然経過を超えて著しく増悪させ、脳血管疾患や虚血性心疾患が発症することが知られています。これらの疾患の労災認定基準では、時間外労働(休日労働を含みます。)について、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いとされています。
また、長時間労働により疲労やストレスが蓄積すると、仕事などに対するモチベーションの低下やメンタルヘルス不調に陥ることが社会的注目を浴びています。
(Q-K-2)
(Q-K-8)
したがって、本人には何故労働時間が定められているかを説明し、基本的な労働時間を守るように指導します。組んでいるローンに関しては、1.金融機関と相談してローンの組み直しを助言することも有効です。もしそれがうまくいかない場合には簡易裁判所の「調停」を利用する方法があります。一度簡易裁判所に相談されてもよいと思います。その他、2.会社の組合に相談する、3.弁護士に相談する、4.司法書士に相談する、などの方法もあります。
(Q-K-9)
(Q-K-1)
長時間労働を行う者に対する産業医による面接指導の対象者を選定する基準として、労働安全衛生規則で定める基準や事業場で定める基準に該当しない場合であっても、事業者に面接指導の希望の申出を行うことで対象となる可能性があります。この際に、申出を行ったことで不利益な扱いをすることを禁じることが求められています。また、産業医の業務である健康相談として、産業医に直接相談することも可能です。この場合、事業場に保健師等がいる場合は、保健師等に相談して産業医に情報を速やかにつないでもらうのも良い方法です。
(Q-K-11)
毎月定常的に相当程度の時間外労働をしていて負担とは感じないということですから、気力・体力ともに充実した素晴らしい労働生活を送っていることと思われます。ただし、注意していただきたいのは、このようなときは仕事に集中しているばかりではなく、もしかすると疲労や身体症状への自覚がないだけかもしれない、ということです。
長時間労働による心身の疲労は自覚できない場合も多く、従業員の健康状態と職場の状態をよく知る産業医による問診が決め手となって見つかることも少なくありません。また、若い時はがむしゃらにできたことも、年を経るに従い体力の衰えや、背負った責任の重さなどの周辺事情が変化して、知らず知らずに重圧となっていることもあります。血圧変動や睡眠リズムの乱れはもとより、食生活の乱れや体重変動なども身体バランスを崩すきっかけとなる可能性があります。また、長時間労働が恒常化していると、何かのきっかけで急速に抑うつ状態に陥る危険性もあります。毎月産業医面接に呼ばれるということは、会社も産業医もあなたの健康を心配してのことと思われます。ぜひ産業医の面接を受けていただき、心身の状態をご自分でも把握できるよう、いろいろと相談してみてください。
(Q-K-12)
サービス残業に対して労使が一体となって取り組むべき事項としては、1 サービス残業のチェック機関である労働時間等設定改善委員会(これがない場合には新たな企業内労使協議組織)を設置すること、2 勤務時間の自己申告を原則禁止し、客観的なシステムで管理すること、3 サービス残業を行った労働者も、これを許した現場責任者も業績評価しないこと、4 過去にサービス残業があった職場では、指示系統が異なる複数の責任者を設定すること、5 企業トップが直接情報を把握できるような投書箱や専用電子メールアドレスを設定すること等があげられます。
行政からの通達や指針も加味して、適正な労働時間の徹底および協定手続きについての協議を労働時間等設定改善委員会、労使協議組織等で行い、時間外労働についての統一見解を持ち、過重労働による健康障害についての対応を衛生委員会がチェック機能をもった組織として対応することが必要です。
(Q-K-13)
(Q-K-14)
労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間や、使用者の明示、黙示の指示(指示をしていなくても、従業員が時間外労働をしている現状を使用者が知っている場合)による業務関連の行為をなすために拘束される時間です。ですので、職場で実施されているTV会議は労働時間となります。
一方、深夜業(夜10時から朝5時までの間に従事する業務)に常時従事する労働者には、その業務への配置替えの際とその後6月以内ごとに1回、定期に健康診断が行われることになっていますので、その機会を利用されるのも一つの方法かと思います。
また最近の労働災害関連の判例では、単に時間外労働の時間数だけでは疲労の蓄積を判断できないと考えられるようになってきています。さらに厚生労働省の過重労働対策通達にも、時間外労働は本来臨時的な場合に行われるものであることから、月45時間以下の場合でもあっても、健康に影響の出ないように、事業者は時間外労働を短縮する努力を求められておりますので、不規則な労働による疲労蓄積を自覚される場合には、会社の産業保健スタッフや安全衛生担当者にご相談ください。50人未満の事業所で、事業所内で相談しにくい場合には地域産業保健推進センターをご利用ください。
(Q-K-16)
傷病等による就業制限に関して、産業医は事業者(会社)に対して意見を出す立場で、実行するのは、事業者(会社)やその権限が移譲されている上司です。産業医の意見が適切に事業者(会社)に伝わっていない可能性がありますので、再度、産業医に相談してみるとよいでしょう。
(Q-K-17)
時間外労働(残業)と聞くと、夜遅くまで働く姿を想像しがちですが、実際には法律で定められた時間数を超えれば、早朝に労働をしても時間外労働となり、注意が必要になります。
労働基準法に、使用者は1日8時間、1週間で40時間を超えて労働をさせてはならないと定めています。時間外労働ができるのは、労働者と使用者で労働時間の延長の上限などについて合意し、協定を結び、その協定が労働基準監督署長に届けられている場合です。その場合、就業規則で決められている始業時間より早い時間帯、及び終業時間より遅い時間帯で労働をすれば、法定労働時間の8時間を超える時間が、法律上の時間外労働となります。
ただし、上司の指示ではない場合(使用者の指揮命令下にない労働)や時間外労働をする必要性がないのに自主的に就業時間以外に労働を行っている場合、あるいは変形労働制の場合などでは、時間外労働と認められない場合がありますのでご注意ください。
また、労働基準法上の管理・監督者に該当する合には、時間外労働、休日労働等の規定の適用が除外されます。
一方、交替制勤務で問題になりますように、不規則な労働は体調への影響もありますので、健康面での注意も必要です。深夜業(夜10時から朝5時までの間に従事する業務)に常時従事する労働者には、その業務への配置替えの際とその後6月以内ごとに1回、定期に健康診断が行われることになっていますので、お受けください。
(Q-K-10)
自殺予防対策関係
自殺をほのめかす言葉を口にする、遺書を書く、自殺の道具を準備するなどの具体的な自殺への準備は当然ですが、自分の身の回りを整理する場合も危険なサインといわれています。うつ病で治療を受けている場合には、気分が沈む、涙もろくなる、仕事の能率が悪くなるなどの症状の悪化がみられ、「生きていても仕方がない」という自殺をほのめかす言葉のほかに、「皆さんに申し訳ないことをした」などと自分を責める言葉が聞かれた時も注意が必要です。また、酒量が増えたり、糖尿病を患っていてもそれまでは自己管理がきちんとできていたのに、食事療法や運動も止めてしまうなどという変化も危険なサインです。
これらのサインを感知したときの対処としては、相手に対して心配していることを伝え、死にたいと考えているかと尋ねてください。そして相手の話によく耳を傾け、絶望的な気持ちをまず受け止めるために聞き役に徹してください。そして、主治医によく相談し、場合によっては入院治療を考慮したほうが良い場合もあります。
うつ病の経過の中で自殺の可能性は常にあるといえますが、特に注意が必要な時期としては、病状が非常に悪くなった時、病状が少し改善してきた時が危険であるといわれています。病状が悪い時は自殺を考えていたとしても実行できないですが、少し良くなってくると行動力が少し戻ってくるため、そのような状態のときに自殺を考えると実際の行動に至りやすいといわれています。また、病状がかなり回復して環境が変わる時期、例えば仕事を休んでいた人が再び職場に戻るような時期、も危険であるといえます。このときは、環境の変化とともに、いったん回復した病状が不安定になり自殺が起こりやすいといわれています。
(Q-S-1)
まずは「なぜ死にたいのか」、また「なぜ死ななくてはならないのか」、本人の話にじっくりと耳を傾けることが大切です。おそらく「死にたく」なるくらい悩んでいることがあるはずですから、その悩みを聞いてあげましょう。
そして、一人で悩まず、その解決方法を一緒に考えて、家族としてできること、あるいは他に相談して解決する可能性を、押しつけにならないように寄り添いながら考えていく姿勢を示すことです。悩みを解決する方法として死ぬ以外の他の選択肢を強調し、本人にどのような理由であっても家族として「あなたには死んで欲しくない」、「悩みがあるなら、一緒に考えていきたい」、「早まったことはするな。自殺して死んでしまうようなことがあったら、我々も生きていけない」となるべく具体的に、死にたい気持ちに目を背けず自殺をしないことを固く約束するべきです。
また、本人がうつ病などの精神疾患にかかっている可能性が高いので、なるべく目を離さないようにしてできるだけ早く精神科に受診することをおすすめします。本人が受診に拒否的な場合は、会社の健康管理室があればその産業保健スタッフや地域の保健所で相談することが可能な場合もあります。≪ご家族にできること≫も参考にしてください。
(Q-S-6)
手首にひっかき傷があっても古傷であれば、どのようにしてできた傷かわからないので、あまり詮索しない方がいいでしょう。ですが、手首に新しいひっかき傷が頻回にできるようであれば、精神的に不安定なのかもしれません。その同僚が自殺する可能性については、そのひっかき傷の程度にもよりますし、その時の状況によりますので一概に判断できませんが、その同僚の方がいつもと違う様子で、悩んでいるようであれば、同僚として話を聞いてあげることで悩みが解決する糸口になるかもしれません。そこまでプライバシーに立ち入れないのであれば、上司や産業医に現時点での同僚の様子を報告し、同僚としてどのように接した方がいいか、相談してはいかがでしょうか。
(Q-S-7)
自殺企図者の多くは何らかの精神疾患、特にうつ病である場合が多いため、現時点で精神科に通院加療中の有無を確認する必要があります。通院していなければ、精神科の医療にうまくつなげる必要があります。通院中であれば、現時点で主治医からどのような助言をされているのか、本人に聞いてみてください。
主治医の下で治療を受け、体調が落ち着いているのようであれば、日常の勤務についてはあまり神経質にならず、他の部下と同様に接することが大切です。まわりの部下の方が神経質になっているようであれば、「現在は安定しており、他の社員と同じように接して欲しい。もしいつもと違う、何か変わったことがあれば、上司の私に教えて欲しい」と伝えてもいいと思います。
(Q-S-8)
まずは本人に寄り添ってください。そして、そこまで追い詰められた気持ちになった時は、これからは相談し欲しいことを伝えましょう。次に、自殺未遂に至るまでに本人が、うつ病などの精神疾患にかかっていた可能性が高いので、早まった行動をしないように目を離さず、早めに精神科の受診をさせることを考えましょう。本人が受診に拒否的な場合はうつ病になる正常な判断力が低下して、正しい選択肢が見えなくなり、誤った判断をして自殺してしまうことがあることも本人に伝え、家族としては心配なのでぜひとも受診して欲しいと説得すべきです。どうしても受診に拒否的な場合は家族が地域の保健センター、または保健所の精神保健の保健師等に相談してどのように対応して受診に結びつけていけばよいか、助言を受けることもできます。少なくとも本人が安定するまでは目をはなさないことが大切です。
(Q-S-9)
睡眠障害や食欲が改善してきた段階で、仕事の締め切りや家族や周囲の目を気にして、焦燥感がある状態で復帰の準備を始めてしまうケースがありますが、職場復帰時の自殺を予防するためには、うつ病の症状がきちんと改善されていることを確認して復帰の準備を進めることが必要です。主治医等と連携し、病状を確認するとともに、一定期間、休業中に復帰後を想定した生活を送ってみるなど、段階的に職場復帰につなげていくとよいでしょう。地域によってはリワークプログラムを提供してくれる機関もありますので、それらを利用していくのも有効です。
(Q-S-11)
仕事上での大きなミスなら、気持ちが落ち込むのも無理はありません。どんな人でも、嫌なことがあると憂うつな気分になります。これは誰にでもあることで、このような状態は「抑うつ反応」と呼ばれ、「うつ病」とは区別されています。一般的には、他のことで気が紛れているうちに元気になり、憂うつな気分は数日ほどで徐々に消えていきますが、中には、うつ病の精神科疾患を発症し、最悪の場合に自殺につながってしまうケースもあります。
ご本人の様子をよく見ていただき、可能なら「心配しているよ」「困ったことがあったら話をきくよ」等の声をかけてみてください。相談者自身がどうしたらいいか悩んだ時も、けして一人で抱え込まず、かかりつけ医あるいは専門医に相談しましょう。
(Q-S-12)
気分や体調の変調に気づかれた際には、通常、まず、かかりつけ医の受診をお勧めします。しかしながら、ご質問では、「消えてしまいたい気分(希死念慮)」が認められることから、心療内科や精神科への受診が適当かもしれません。憂うつな気分が続く、とか、今まで楽しめていたことが楽しめない、といった症状などがあればうつ病の可能性もあります。
(Q-S-13)
長時間の時間外労働をはじめ、業務の集中化や職場でのひどいいじめによる心理的負荷など、職場におけるさまざまなストレスからうつ病等精神疾患を発症し、その結果自殺をされる事例が増えつつあります。平成20年度には、全国で66名の方の自殺(未遂を含む)が労災の支給決定を受けています。
ご相談の内容からは、ご主人がうつ病に罹患しておられた可能性も疑われますが、実際に労災に該当するかどうかは詳細な調査が必要となります。より詳しくお知りになりたい方は、最寄りの労働基準監督署、都道府県労働局にお問い合わせください。
(Q-S-17)
ご家族や友人、同僚など身近な方を自殺で亡くされたときの悲しみは、言葉では言い表せないものがあります。家族を亡くされたご遺族は、しばらくの間、ショックでぼーっとして何も考えられなくなったり、何も手につかなくなっていることも珍しくありません。「事故だったのではないか」となかなか自殺の事実を認めることができなかったり、「あの人のせいで自殺したんだ」と誰かを責める気持ちになることもあります。あるいは、自殺を防ぐことが出来なかった自分を強く責めたり、「いっそのこと自分も後を追って死んでしまいたい」という気持ちになることも少なくありません。「人に知られたくない、そっとしておいて欲しい」、という気持ちになることもあるでしょう。身体の面でも、食欲がなくなる、夜眠れない、体力・体重が落ちる、体調が思わしくない、気力がわかない、いつものように外出できない、身体が動かないなど、日常生活上に支障がでてくることもあります。そのようなご遺族(最近は「自死遺族」と呼ぶことが多くなっています)に「何か声をかけてあげたい」という気持ちになることは、ごく自然なことです。
大切なことは、まず、ご遺族が上記のような自死遺族特有の心理状態になっている点を理解することです。その上で、ご遺族の気持ちに寄り添い、話に耳を傾け、その時にご遺族が必要としていることに対して手をさしのべることが大切です。ご遺族が何も望まないなら、ただ黙ってそばにいてあげるだけでも良いのです。
反対に、無理に気持ちを聞き出そうとしたり、「なぜ止められなかったのか」と原因を追及するような問いかけをしたり、安易に慰めたり、元気づけようとして励ましたり、「こういう時はこうすべきだ」と一方的に考え方を押しつけたりすることは、むしろご遺族の気持ちを深く傷つけることになりかねず、厳禁です。
ご遺族は、しばしば深い悲しみや衝撃、自責感などのために、周囲の人々から孤立してしまうことがあります。しかし孤立は、悲しみや自責の気持ちを一層強め、立ち直りを遅らせてしまうことがあるため、ご遺族がこのような状態に陥らないよう、配慮することもとても重要です。
最近は、全国に“自死遺族の集まる会”が増えてきています。ご遺族が望むようであれば、お近くの都道府県精神保健福祉センターや保健所などで情報を得ることができますので、そのような会を紹介してあげても良いでしょう。また、平成21年1月には、国が「自死遺族を支えるために ~相談担当者のための指針~」を出していますので、参考にされるとよいでしょう。
(Q-S-19)
子どもが自死してしまった親御さんの場合、病死や事故死以上に大きなショックを受け、事実を受け止めきれなかったり、我が子を死なせた自分を責めたり、「なぜ自分を遺して死んでしまったのか」といった怒りを感じたりする場合が多くあります。その結果、突然死別から受容・回復へと至る悲嘆の反応がうまくいかずにPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などの心の病を発症する危険性や、遺族自身が自殺を選ぶ危険性もあります。
この部下の方も、仕事に集中できなくなっているようですので、うつ状態になっている可能性が考えられます。「いつまでもクヨクヨしていたら息子さんが可哀そうだ。しっかりしろ!」などと強く叱ったり、励ますような言動は控えましょう。それまでの部下との信頼関係など、関係性によっても声のかけかたは変わってきますが、やさしく声をかけて休養を勧めてあげることが大切です。その際、うつ状態が強くなっていると、「自分が会社で必要とされていないから休むように言われたのではないか」と誤解してしまうことがあるので、「息子さんの亡くなったショックからの回復には時間がかかる場合があるので」と伝え、仕事のことは心配せずにゆっくり休めるよう配慮しましょう。
さらに、上司が一人でこの問題を背負うのではなく、産業医等の産業保健スタッフに対応方法について相談したり、部下の同意を得たうえで人事労務担当の責任者に話しておくと良いでしょう。また、念のため、精神科、心療内科受診を勧めておくと安心だと思います。部下と個人的にも親しく十分な信頼関係が構築されている場合は、「自分でよかったらいつでも相談にのる」と伝えたり、息子さんを亡くした親としての辛さを十分に受け止め、必要以上に自分自身を責めないよう働きかけてはいかがでしょうか。また自死遺族同志で集まれる「分かち合いの場」や、民間組織、最近では各都道府県単位でも行われている「自死遺族支援事業」などについて、情報を提供してあげても良いと思います。
(Q-S-20)
このような電話を受けた場合、自分が何とか思いとどまらせなければ・・・と力が入ってしまい、頭が真っ白になってしまうこともあるかもしれません。冷静に対応をするためにも、まずは自分自身を落ち着かせることが大切です。
やみくもに「死んではダメだ」と言っても、あまり響かないでしょう。自殺が良くないことは、本人が一番よく理解していると思われるからです。それでも、「死にたい」と考えてしまうのです。そこまで追い込まれてしまっている背景や、それに伴って生じているさまざまな感情を受けとめ、理解することが大切です。「何かよい一言を伝えなければ」と力むのではなく、ただ語ってもらうこと、本人の話に丁寧に耳を傾けることがとても重要なのです。
「死にたい」という気持ちの背後には、「もっとうまく生きたい」という強い気持ちが存在しているなど、“生への執着と死への願望との間で揺れている状態”というのが、希死念慮を抱える人に多くみられる心理状態と言われています。そんな苦しい思いをかかえながら、あなたに相談してきた意味を考えてみましょう。きっと「誰でもいい」と考えて電話をかけてきたのではないと思います。心理的に追い込まれているからこそ、意識的あるいは無意識的に特定の人を選び、「この人ならきっと自分の気持ちを聴いてくれる・・・」という思いから打ち明けてきているのではないでしょうか。こうした観点からも、まずはじっくり傾聴することに大きな意味があるのです。
じっくり耳を傾け、心を受け止めていると、本人の気持ちにも少し余裕が生じてくるでしょう。落ち着いてきたように見えたら、「どうしても死ぬことが頭から離れないようだったら、専門家にも助けを求めてはどうか」などいくつか選択肢をアドバイスしてみましょう。ただし、「あなたなら聴いてくれる」と思って電話をかけてきたのですから、「専門家へ丸投げされた」などネガティブに受け取られないよう、相談方法などについても一緒に考えていくと良いでしょう。
また、このような相談を受けた場合、ひとりで抱え込まないことも大切です。もちろん相談してきた人の信頼を裏切らないためにも秘密は守る必要がありますが、職場の産業医や保健師、臨床心理士、公認心理師などであれば職業上、守秘義務が課せられていますから、対応方法のアドバイスや、医療機関等の情報などについて安心して相談できるでしょう。
(Q-S-21)
最近は「いじめ自殺」が報道される機会も多くなり、親としてはとても心配になると思います。小・中・高の生徒や学生が自殺するのは異常事態ですが、青少年の自殺は必ずしもいじめだけが原因ではありません。思春期特有の生きることへの疑問や、心や体の悩み、家庭内の問題など、複合的なものも多いと言われています。
親としてわが子が自殺に興味を持っている事実に直面するのは辛いことですが、「寝た子を起こす」ことを恐れて自殺について触れない「臭いものにフタ」という姿勢や、「どうしてこんな本を読むのか」と叱るのは不適切な対応と考えます。「部屋を片付けていたらこういう本があったので、本当に心配している、悩んでいるのならきちんと話して欲しい」とまず伝えてみてください。
中学生の4人に1人が何らかのうつ状態になっているという報告もあります。その中の何割かが自殺願望をもっているといわれています。子どもが「親から守られている」、「親は頼れる存在である」という感覚をもてることは、心の安定の助けになります。今までのわが子へのかかわり方をふり返り、何に悩み、何に苦しんでいるのか、あらためて子どもと真剣に向き合ってみてはいかがでしょうか。その結果、学校の問題が主であれば担任や学校側と連絡を取り、病的なうつ状態と考えられる場合は、心療内科や精神科へお子さんと一緒に同行して専門医に相談されることをお勧めします。
(Q-S-22)
どれほど自殺を隠そうとしても、噂や憶測が短期間のうちに広まってしまいます。むしろ事実を伝えたうえで、動揺している人を適切にケアすべきです。精神保健の専門家の助力も求めることも検討してください。
- 「動揺を最小限にするような方法で、正確な情報を、時機を逸することなく伝える」:自殺を隠そうとしても、瞬く間に知れ渡ってしまいます。事実を伝えたうえで、動揺している同僚をケアすることに力点を置くべきです。故人のプライバシーに配慮しながら、淡々と伝えてください。故人を極端に誉め讃えたり、逆に自殺を非難したりすることは、遺された人々に深刻な打撃を及ぼす危険があるので、控えてください。
- 「自殺という衝撃的な体験をした後に、起こり得る反応を説明しておく」:よく知っていた人が自ら命を絶つと、嵐のような複雑な感情が遺された人を襲います。うつ病、不安障害、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(外傷後ストレス障害)、薬物やアルコールの乱用といった心の問題が生じることがあります。また、持病の悪化など、身体の病気になってしまうこともあります。そこで、心身に現れる可能性のある症状について説明しておきます。
- 「知人の自殺を経験した後の感情を他の同僚と分かち合う」:同僚の自殺の後に、遺された人々が自分に現れている複雑な感情を仲間と率直に話し合う機会を設けます。なお、話をするのを強制する雰囲気をけっして作ってはなりません。話したい人は話し、黙って他の人の話を聞いているだけでもよいことを保証します。
- 「自殺が起きたために動揺しているハイリスクの人をケアする」:ハイリスクの人とは、若い人、故人と強い絆があった人、自分も精神疾患にかかっていたり、これまでにも自殺未遂に及んだりしたことのある人、遺体の第一発見者や搬送者、故人と境遇が似ている人、自殺が起きたことに責任を感じている人、葬儀でとくに打ちひしがれていた人、知人の自殺が生じた後に職場での態度が変化した人、さまざまな問題を抱えているのだが十分なサポートが得られない人などです。
- 「自殺の背後にある問題点に対して長期的な対策を立てる」:自殺が個人的な問題だけから起きたのではなく、たとえば過剰な長時間労働や達成不能な目標の設定といった職場が抱える問題があるのならば、その対策を立てることも必要になります。
- 「職場の士気が低下するのを防ぐ」:同僚の死をこのような形で、職場全体で取り上げることは、職場の士気が極端に低下するのを予防するという側面もあります。
- 「遺族に対するケアを忘れない」:自殺にもっとも深刻な衝撃を受けているのは遺族です。上述したケアは当然、遺族に対しても行ってください。なお、遺族が自殺に関連して職場に不信感を抱いている場合には、「この人の言葉ならば耳を傾ける」というキーパーソンを通じて、遺族に働きかけていくといった工夫も必要となります。
(Q-S-25)
自殺に対して多くの偏見や誤解がありますが、「死ぬと言う人は自殺しない」というのはかなり広く信じられている誤解です。しかし、自殺した人の大多数は実際に最後の行動に及ぶ前に何らかのサインを他人に送ったり、自殺するという意志をはっきりと言葉に出して誰かに伝えたりしています。その「救いを求める叫び」がきちんと受け止められていなかったことが大きな問題なのです。
「自殺の危険の高い人は死ぬ覚悟が確固としている」というのもよくある誤解です。実際は、自殺の危険の高い人であっても、100パーセント覚悟が固まっていて、まったく平静な人はほとんどいません。むしろ、自殺の危険の高い人は、生と死の間で心が激しく動揺しているのです。絶望しきっていて死んでしまいたいという気持ちばかりでなく、生きていたいという気持ちも同時に強いということです。まさに、この点に自殺予防の余地があります。
「自殺について話をすることは危険だ。自殺を話題にすると、その危険のない人まで自殺に追い込んでしまいかねない」というのも誤解です。自殺を話題にすると「寝ている子を起こす」ことになりはしないかという心配をしばしば耳にします。しかし、自殺を話題にしたからといって、自殺の考えを植えつけることにはなりません。自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明ける人と打ち明けられる人の間に信頼関係が成り立っていて、救いを求める叫びを真剣に取り上げられるならば、自殺について率直に語り合うほうがむしろ自殺の危険を減らすことになります。自殺について言葉で表現する機会を与えられることで、絶望感に圧倒された気持ちに対してある程度距離を置いて冷静に見ることが可能になるのです。
(Q-S-26)
不採用が続くと、まるで自分を全否定されたような気持ちになるかもしれませんが、あくまで縁がなかっただけです。今後の就職活動の進め方について、信頼できる身近な人や、ハローワークのキャリアカウンセラー等に相談してみてはいかがでしょうか。経済的な不安があるようでしたら、お近くの役所などに問い合わせをして、保険料の免除や社会福祉制度など、何か利用できる制度はないか確認してみましょう。
もし、それでも死にたい気持ちが強く、食欲不振や不眠が続くようでしたら、うつ病になっている可能性もありますので、精神科や心療内科などの専門医に一度相談してみてください。
(Q-S-28)
死にたい気持ちになるほど追いつめられているとのこと、できるだけ早く信頼できる人に相談し助けてもらう必要があると思いますが、精神科への受診もぜひ検討してみてください。うつ病の症状の1つに希死念慮(自殺願望)がありますが、そのような過酷な状況下では、誰でも精神的に疲弊してうつ病になる可能性があるからです。
うつ病になると事態を冷静に理解し、的確に対処していく能力が低下します。物事を悲観的にとらえがちになり、希望がもてなくなります。焦れば焦るほど事態が悪化し、自身の体調も崩れていくという悪循環に陥りがちです。もし、うつ病と診断された場合は適切な診断と治療を受け、ご自身の心身の状態を安定させることを最優先にしてください。しばらくの病気療養が必要なのか、それとも勤務しながら治療を受けることになるのか、いずれにせよ医師と良く相談し、指示に従ってください。
問題解決に向けた方法の1つに、いろいろな出来事の記録をつける方法があります。“生徒間のいじめ”であれば、いつ、誰が、どのようないじめにあったとされるのか、そしてそれに対してどのような対応をしたのか、など記録をつけておくのです。“クレーム”についても同様で、いつ、誰から、どのようなクレームがあり、どのように対応したのか記録しておくと良いでしょう。少々時間がかかる作業ですが、こうした作業は業務上必要であるだけでなく、自分の思考や感情を整理する上でも役に立つでしょう。
そして、この記録をもとに同僚や上司に相談してみてはいかがでしょうか。職場の中にはきっと誰か理解してくれる人がいるはずです。うつ病になると、ともすれば自分を責め、自分一人で解決しようとしがちですが、誰かに話すことで気持ちと考えが落ち着き、整理されることもあるでしょう。
最後に、最近はさまざまな問題で悩む教師のためのサポートシステム(支援体制)がつくられています。こうした外部の相談機関を利用されるのも一案だと思われます。
(Q-S-29)
まず、深い悲しみの中、遺体確認・死後の手続き・法事等を行いますが、周囲の対応に深く傷つくことや、偏見と誤解にさらされることがあります。さらに、長期に渡り心理面・生活面・経済面・教育面・法律面で、次のような多様な問題を複合的に抱えがちです。
ア 心理面では、気づけなかった自分自身を責めたり、深い悲しみに苛まされたり、人に話せず悲しみを分かち合えないがために苦しむことがあります。当初気丈に振舞っていても、後にメンタルヘルス不調が遷延化して、専門的治療が必要になる、またはアルコール乱用や薬物への依存等の問題も生じる可能性があります(悲しみのあまり後を追ってしまう可能性もあります)。
イ 生活面では、家族内・親戚・地域社会との関係が変化して、孤立することがあります。
ウ 経済面では、葬儀・残された借金の処理・年金や一家の大黒柱を失った後の生計の建て直し・亡くなられた場所によってはその場所の所有者や交通機関からの損害賠償請求等が課題になります。
エ 教育面では、子供の学業を中断せざるを得ないことがあります。
オ 法律面では、遺言・相続・事業の継承や不動産・所有権等の登記関係の諸問題があります。過労自死の場合は、労災請求を考えるべきで、また、使用者に対する損害賠償請求も検討する必要があります。
人間はそれぞれの物語を生きていて、個別性があります。自死遺族は、不条理な現実を受容しながら、人生や主体性を取り戻すさまざまな課題に直面することになります。
自殺を選択した場合、「迷惑」と称するかどうか別にしても家族への影響は心理的・社会的に非常に大きなものです。自殺を考える辛い時もあるでしょうが、他の解決策を見つける手立てとして、まずは周囲に相談してみてください。
(Q-S-30)
警察庁の統計では、令和元年中の自殺者総数は20,169人であり、自殺の原因・動機の内訳は、「健康問題」が9,861人、「経済・生活問題」が3,395人、以下、「家庭問題」3,039人、「勤務問題」1,949人、「男女問題」726人、「学校問題」355人、「その他」1,056人でした(複数回答)。
これらの原因の結果として、精神障害を発症し、自殺にいたった例も多いものと考えられます。自殺の動機そのものは、必ずしも一つの要因だけで説明できるものではありませんが、精神的に追い込まれた状態で自殺行為がなされることを考えると、うつ病をはじめとする精神障害が自殺の原因となっているとする報告が多数なされています。
また、失業や配偶者の死亡などの人生におけるストレスを伴う重大な出来事(ライフイベント)の際に、精神障害を引き起こし、自殺にいたることがあるので、周囲からの十分な注意や配慮が必要となります。
(Q-S-31)
労災補償関係
対象傷病ごとに定められた措置について、労災病院、医療リハビリテーションセンター、総合せき損センター、都道府県労働局長が指定した病院又は診療所若しくは薬局(以下「実施医療機関」といいます。)で受けることができます。
また、アフターケアの対象となる方には、都道府県労働局長から「健康管理手帳」が交付されるので、アフターケアを受けるときは、これに要した費用は、都道府県労働局長から、直接実施医療機関等に支払われます。
(Q-R-43)
しかし、同指針では、別表1「職場における心理的負荷評価表」によらずに、「心理的負荷が極度のもの」、「業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者に発病した精神障害」または「極度の長時間労働」が認められる場合には総合評価を「強」とすることができるとされています。
「極度の長時間労働」とは、たとえば数週間にわたり生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働により、心身の極度の疲弊、消耗を来し、それ自体がうつ病等の発病原因となるおそれのあるものとされています。
なお、労災認定は、職場における心理的負荷の評価だけではなく、業務以外の心理的負荷の評価と個体側要因(既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向)の評価も行い、総合的に判断されます。
(Q-R-48)
しかし、自殺の多くはその背景に精神障害があると考えられており、その精神障害が業務上の疾病であると認められる場合には、これによる自殺は原則として業務上の死亡(自殺未遂により傷病を負った場合は業務上の傷病)と認められます。
この考え方は、平成11年9月14日付け基発第545号「精神障害による自殺の取扱い」により、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」と示されています。
(Q-R-49)
しかし、このような産業医は一般に少ないので、産業医に専門領域や、労災補償の対象にならない訳をお聞きしたり、あるいは、ご自身で労働基準監督署に相談をしてもよいと思われます。また、ご自身の判断で労災請求をされてもよいと考えられます。
基本的なことは、労災請求をするかどうかを決めるのはご自身であること、労災補償の対象になるかどうかを決めるのは労働基準監督署長であるということです。
(Q-R-50)
労災補償の請求は、被災労働者または遺族が行います。自分で労働基準監督署に行き、労災保険給付請求書の様式をもらい、必要事項を記入して労働基準監督署に提出するのが基本です。会社の労務担当者などが請求事務の代行をしてくれることがあります。
なお、労災保険指定医療機関で受療した場合や二次健康診断等給付を請求する場合は、請求手続きが異なりますので、厚生労働省ホームページをご参照いただき、あるいは受診した医療機関や労働基準監督署にご確認ください。
労災補償の請求は被災労働者または遺族が行いますが、労災保険給付請求書には就労の事実等についての事業主証明欄があり、会社に証明してもらう必要があります。会社は協力的でない場合は、事業主証明がないまま労働基準監督署に労災保険給付請求書を提出し、事情を説明することになります。これにより労働基準監督署は労災保険給付請求書を受理します。
(Q-R-44)
前者(労災認定)では行政が証拠収集等の調査を実施しますが、後者(訴訟)では原告(被災労働者・遺族)が被告(会社)に債務の不履行や不法行為があったことを立証する必要があります。
(Q-R-46)
労働者災害補償保険法第1条に「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行うほか、被災労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な安全及び衛生の確保等を図り、もって、労働者の福祉の増進に寄与すること」と目的が規定されています。
労災保険は政府(厚生労働省)が管掌し、事業主から納付される保険料によって運営されています。労災保険の事務を実際に取り扱う機関は、中央では厚生労働省、地方では各都道府県労働局及び労働基準監督署となります。
(Q-R-1)
労災保険における適用労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます。
したがって、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。業務災害又は通勤災害が発生したときに適用事業に使用されていれば、受給権が生じることになります。
また、一定期間以上継続して使用されていたかどうかは、保険給付を受けるための要件とはなりません。雇入れ当日の災害であっても保険給付を受けることができます。
(Q-R-5)
ただし、通勤災害については、この規定は適用されません。
なお、療養の開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合は3年を経過した日、また3年経過した日以後において傷病補償年金を受けることとなった場合は、受けることとなった日に解雇制限が解除されます。
(Q-R-10)
したがって、業務中に発生した災害であっても、業務起因性が認められない場合には、労災保険の対象とはなりません。
(Q-R-29)
具体的には、労働基準法に基づいて、労働基準法施行規則別表第1の2及びそれに基づく告示に列挙されており、その概要は、次のとおりです。
なお、これらの規定は、具体的な病名が示されたものと「その他」という趣旨の規定で構成されており、仕事との相当因果関係が認められた個々の疾病はすべて労災補償の対象となります。
第一号 業務上の負傷に起因する疾病(災害性腰痛、脊髄損傷など)
第二号 物理的因子による疾病(紫外線による眼疾患・皮膚障害、電離放射線障害、熱中症、騒音性難聴など)
第三号 作業態様に起因する疾病(非災害性腰痛、振動障害、上肢障害など)
第四号 化学物質等による疾病(一酸化炭素中毒、鉛中毒、有機溶剤中毒など別途告示で151種類の化学物質・化学物質群とそれらによる症状・障害が示されています。)
第五号 じん肺症とその合併症
第六号 感染症
第七号 職業がん(石綿による肺がん・中皮腫、電離放射線による白血病など、クロム酸塩製造工程による肺がんなど)
第八号 厚生労働大臣が指定する疾病(別途告示で3種類の業務上の疾病が示されています。)
第九号 その他業務に起因することの明らかな疾病(過重業務による脳・心臓疾患、心理的負荷による精神障害など)
(Q-R-31)
行政通達では、労働者派遣事業に対する労災保険の適用については、派遣元事業主の事業が適用事業となるものとされています。
その根拠として、第1に、派遣元事業主は労働者の派遣先事業場を任意に選択できる立場にあり、労災事故が起こった派遣先事業主との派遣契約を締結したことに責任があること。第2に、派遣元事業主は派遣労働者を雇用し、自己の業務命令によって派遣先で就労させている者として、派遣労働者の安全衛生に十分配慮する責任があること。第3に、労働基準法上の規定(例えば、業務上の傷病に係る解雇制限、補償を受ける権利の退職による不変更等。)の趣旨から見て、労働契約の当事者である派遣元事業主に災害補償責任があることを前提としていると考えられること、が挙げられます。
次に、実際に被災した労働者が労災保険給付の請求を行う際には、保険給付請求書の事業主の証明は、派遣元事業主が行います。
ただし、派遣先で業務上災害が発生した場合は、事故の状況を把握出来るのは派遣先事業主ですので、死傷病報告書の写し等、災害発生状況等に関して派遣先事業主が作成した文書を療養(補償)給付以外の保険給付の最初の請求を行う際に添付することとされています。また、派遣労働者に係る労働者派遣契約の内容等が記載された「派遣元管理台帳」の写しも添付する必要があります。
(Q-R-32)
脳血管疾患 | 虚血性心疾患等 |
---|---|
脳内出血(脳出血) | 心筋梗塞 |
くも膜下出血 | 狭心症 |
脳梗塞 | 心停止(心臓性突然死を含む。) |
高血圧性脳症 | 解離性大動脈瘤 |
また、過労死とは別に、頭部や胸部の打撲などの業務上の負傷によりこれらの疾患を発症することがあり、労災補償の対象となります。
業務上疾病の規定における分類では、次のようになります。
過 労 死 | 業務上の負傷による脳・心臓疾患 |
---|---|
労働基準法施行規則別表第1の2 第9号「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当します。 | 労働基準法施行規則別表第1の2 第1号「業務上の負傷に起因する疾病」に該当します。 |
(Q-R-33)
しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。このような場合に、仕事が相対的に有力な原因になった(相当因果関係がある)ものとして労災補償の対象になります。仕事中に発病したかどうかや退職前に発病したかどうかなどの発病の時期は問われませんし、職場で発病したのか、家庭で発病したのかなどの発病の場所も問われません。
このような考え方を前提に、過労死の認定基準が示されています(平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」)。認定基準の概要は、次のとおりです。
対象となる疾患 | 脳血管疾患 | 脳内出血(脳出血) |
くも膜下出血 | ||
脳梗塞 | ||
高血圧性脳症 | ||
虚血性心疾患等 | 心筋梗塞 | |
狭心症 | ||
心停止(心臓性突然死を含む。) | ||
解離性大動脈瘤 | ||
認定要件 | 異常な出来事 | 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。 |
短期間の過重業務 | 発症に近接した時期(おおむね1週間以内)において特に過重な業務に就労したこと。 | |
長期間の過重業務 | 発症前の長期間(おおむね6か月間)にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。 |
(Q-R-34)
精神障害はさまざまな要因が作用して発病しますので、労働者の精神障害については、次の要因に整理してその原因等を検討します。
- 1 業務による心理的負荷(事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生、仕事の量・質の変化など)
- 2 業務以外の心理的負荷(自分の出来事、家族・親族の出来事、金銭関係など)
- 3 個体側要因(精神障害の既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向)
精神障害の労災認定に当たっては、発病前おおむね6か月間にわたって調査把握し、精神障害の発病の有無、発病の時期、疾患名を確認したうえ、次の3要件をいずれも満たす場合に、その精神障害と仕事との相当因果関係があるものとして労災認定されます。
- 1 判断指針の対象疾病に該当する精神障害を発病していること。なお、対象疾病とは、原則として国際疾病分類第10回修正(「ICD-10」といわれます。)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害です。
- 2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
- 3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。
(Q-R-35)
一般に建設業では、一つの工事を一つの事業として労災保険の適用の対象としています。
したがって、建設業における数次の請負いによる事業の場合には、原則として元請負人が事業主となり、元請負人が自分で労働者を使用して行う工事の部分だけでなく、下請けに請負わせた工事の部分を含めて、一括して保険に加入することになります。
したがって、ご質問のケースでも、元請負人である貴社が事業主として、労災保険の各種給付にかかる証明を行うことになります。
(Q-R-27)
また、休業補償給付などの請求に際しては、平均賃金や休業期間なども計算しなければなりませんが、これも会社の協力があってのことになります。
こうした事務作業は、事業主の義務とされているのです。特に、被災労働者自身が入院などしていて、自分では手続ができない場合には、会社が助力しなければならないことになっています(労災保険法施行規則第23条第1項。)。
また、万が一、被災労働者が死亡したり、4日以上休業したときには、労働者死傷病報告(労働安全衛生規則様式第23号)を、遅滞なく労働基準監督署に提出しなければなりません。
なお、労災保険の請求窓口は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。労働基準監督署では、請求書の様式を渡してもらえますし、手続についての相談も受け付けています。
(Q-R-36)
原則的には、給与が出向元から支払われていても、出向先事業の組織に組み入れられ、出向労働者の指揮命令権が出向先にあれば出向先の労災保険が適用になります。
したがって、保険給付の手続は、原則として出向先で行います。
(Q-R-26)
この申請書は、休業(補償)給付支給請求書(業務災害の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6)と同一の用紙です。
(Q-R-25)
休業特別支給金の額は、給付基礎日額の100分の20に相当する額となりますが、被災労働者が所定労働時間の一部について労働した場合には、給付基礎日額からその労働に支払われる賃金の額を控除した額の100分の20に相当する額となります。
(Q-R-24)
なお、労災保険法上の治ゆとは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態をいうものではなく、「医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」をいいます。
したがって、「傷病の症状が、投薬・理学療法等の治療により一時的な回復がみられるにすぎない場合」など症状が残存している場合であっても、医療効果が期待できないと判断される場合には、労災保険では治ゆと判断されます。
治ゆと判断された以降は、療養(補償)給付は支給されず、必要に応じて、障害(補償)給付やアフターケアの支給が行われます。
(Q-R-20)
保険給付の 種類 | 支 給 事 由 | 書類 | 提出先 | |
---|---|---|---|---|
療養 (補償) 給付 | td>療養の給付業務災害または通勤災害による傷病について、労災病院または労災指定医療機関等で療養する場合 | 療養(補償)給付たる療養の給付請求書(第5号、第16号の3) | 労災指定医療機関等を経て所轄労働基準監督署長 | |
療養の費用の支給 | 業務災害または通勤災害による傷病について、労災病院または労災指定医療機関以外の医療機関等で療養する場合 | 療養(補償)給付たる療養の費用請求(第7号(1)?(5)、第16号の5(1)?(5)) | 所轄労働基準監督署長 | |
休業(補償)給付 | 業務災害または通勤災害による傷病に係る療養のため労働することができず、賃金を受けられない日が4日以上に及ぶ場合 | 休業(補償)給付支給請求書(第8号、第16号の6) | 所轄労働基準監督署長 | |
障害 (補償) 給付 | 障害(補償)年金 | 業務災害または通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った場合 | 障害(補償)給付支給請求書(第10号、第16号の7) | 所轄労働基準監督署長 |
障害 (補償) 一時金 | 業務災害または通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った場合 | |||
遺族 (補償) 給付 | 遺族(補償)年金 | 業務災害または通勤災害により死亡した場合(法律上死亡とみなされる場合、死亡と推定される場合を含む。) | 遺族(補償)年金支給請求書(第12号、第16号の8) | 所轄労働基準監督署長 |
遺族 (補償) 一時金 | 1.遺族(補償)年金を受取る遺族がいない場合 | 遺族(補償)一時金支給請求書(第15号、第16号の9) | 所轄労働基準監督署長 | |
葬祭料 (葬祭給付) | 業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行う場合 | 葬祭料(葬祭給付)請求書(第16号の10) | 所轄労働基準監督署長 | |
傷病(補償)年金 | 業務災害または通勤災害による傷病が、1年6か月を経過した日、又は同日以後において治っておらず、傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合 | |||
介護(補償)給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者で、介護を要する場合 | 介護(補償)給付支給請求書(第16号の2の2) | 所轄労働基準監督署長 | |
二次健康診断等給付 | 事業主の行う健康診断等のうち直近のもの(一次健康診断)において、次のいずれにも該当する場合 | 二次健康診断等給付請求書(第16号の10の2) | 健診給付医療機関を経由して所轄都道府県労働局長 |
(Q-R-14)
また、「賃金を受けていない」とは、まったく賃金を受けていない場合はもちろんのこと、賃金の一部を受けている場合であっても、それが平均賃金の60%未満であるとき(所定の労働時間の一部についてのみ休業した場合には、平均賃金と実際に労働した時間に対して支払われた賃金との差額の60%以上の賃金を受けていないとき)も含まれます。
休業(補償)給付を受けるには、「休業(補償)給付支給請求書」に所要事項を記入し、事業主及び診療担当医師の証明を受けて、被災労働者の所属する事業場の所轄労働基準監督署長に提出することとなります。
(Q-R-16)
しかしながら、事業主が証明を拒むなどやむを得ない事情がある場合には、請求書を提出する所轄の労働基準監督署に、証明を得られない事情を述べることで、請求書は受理されます。
(Q-R-17)
労災保険法の対象とはならない休業日の第1日目から第3日目(待期期間)までは、労働基準法第76条の規定により、事業主が平均賃金の60%を補償することになっています。
労働者の業務災害による負傷等については、労働基準法により、事業主に補償義務が課せられているものであり、労災保険より給付された場合に、事業主は補償義務を免除されることになっています(労働基準法第84条)。
したがって、労働基準法第76条に基づく休業補償についても、休業第4日目以降について労災給付が行われた場合は、事業主はその補償義務を免除されることになりますが、休業補償給付が行われない第1日目から第3日目までについては、事業主が労働基準法に基づいて、その補償を行うことになります。
なお、通勤災害に対する保険給付については、労災保険法において独自に定められた制度であることから、通勤災害における休業日の第1日目から第3日目までについては、事業主に補償義務は課せられていません。
(Q-R-18)
なお、休業(補償)給付を受ける権利は休業日の翌日から2年経過すると時効となり消滅します。
(Q-R-21)
(Q-R-22)
労災指定医療機関から他の労災指定医療機関へ転医する場合は、「療養(補償)給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を、転医先の医療機関を経由して労働基準監督署長へ提出します。
それ以外の場合は原則的な請求手続によります。すなわち転医先が指定医療機関であるか非指定医療機関であるかにより、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」又は「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」により請求することになります。
なお、療養は労災指定医療機関で受けることを原則とし、最寄りに指定医療機関がない等の場合に非指定医療機関で受けることができることとされています。ただしこの点については、被災労働者の方の便に支障が生ずることのないよう広く解することとされています。
(Q-R-23)
審査請求の決定についてなお不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官の審査決定の通知を受けた日の翌日から60日以内に、労働保険審査会に再審査請求を行うことができます。また、労働者災害補償保険審査官に対して行った審査請求から3か月を経過しても決定がない場合についても、再審査請求を行うことができます。なお、再審査請求は文書により行わなければなりません。
(Q-R-40)