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心の病や自殺対策、過重労働問題について、よくある質問と答えをまとめました

うつ病などの心の病気や自殺あるいは過労死(脳・心臓疾患)についてのよくあるご質問とお答えを掲載しています。メンタルヘルス対策関係・過労死等予防対策関係・自殺予防対策関係・労災補償関係に区分して掲げています。

メンタルヘルス対策関係

うつ病のため、主治医から仕事をしばらく休むように言われたのですが、どうすればいいでしょうか?
うつ病が回復するためには服薬と休養が重要です。仕事の心配はあるかもしれませんが、仕事をしばらくお休みして休養を図ることによりうつ病の回復が望めます。うつ病が悪化すると業務遂行力も低下するため、仕事に影響がでたり、また仕事をし続けることによりなかなか回復しない可能性もあります。そのため、早期に職場の上司に相談をして仕事をお休みさせてもらうことが望ましいでしょう。また、仕事をお休みする際には、職場の休暇の制度や経済的な保障の制度などについても確認をしておくとよいでしょう。

(Q-M-26)

心の病で医療機関を受診しようと思います。何科を受診すればよいでしょうか?
心の病を専門とする医師は、精神科医と心療内科医です。心の病を専門とする医療機関の正式な標榜科目名は、心療内科、神経科、精神科ですが、最近ではメンタルヘルス科やストレス外来などという看板を掲げている医療機関もあります。間違いやすい標榜科として神経内科がありますが、神経内科は脳、末梢神経、筋肉などを扱う内科の一分野です。

(Q-M-27)

部下から「最近、うつで通院をはじめた。」と打ち明けられました。上司として何に注意すればよいでしょうか?
定期的な通院を支援して早期治療を図ります。産業医に相談して、就業上の措置の要否について意見を求めます。保健師や衛生管理者など事業場内メンタルヘルス推進担当者に連絡し、必要に応じて、産業医を介して主治医の意見を尋ねます。その際、プライバシーの保護に配慮し、連絡する必要がない者には言わないように注意し、同僚などへの情報開示では本人の意思を尊重します。職場や業務に原因がないか検証し、必要があれば再発防止を図ります。

(Q-M-28)

時々、酒臭い状態で出勤する部下がいます。最近遅刻や欠勤が増えてきました。どのように対応したらよいでしょうか?
アルコール依存症、またはその前段階であることが考えられます。放っておかずに個人面談の場を持ちましょう。産業保健スタッフがいる場合には、彼らと連携するようにしましょう。面談では、本人が問題を自覚できるよう、出勤記録などをもとに、遅刻や欠勤の頻度が客観的にわかるものを用いて話し合いを行うとよいでしょう。問題飲酒がある場合はアルコール症の専門機関を受診していただく必要がありますが、一方、本人が飲酒による問題を否認することもしばしばあります。その場合、しばらく様子をみざるを得ないこともありますが、次回、遅刻や欠勤をするなど問題行動がみられた場合は必ず受診をしてもらうことや、家族と連絡をとるなどの約束を交わしておくことが重要です。問題を先送りにしたり、大目にみてあげたりするのは適切でありません。

(Q-M-30)

精神科は健康保険で診てもらえるのですか?精神科ではどんな診察をするのですか?
精神科は内科などと同じように健康保険で診てもらえます。しかし精神科の外来医療費は、最近、薬の値段が高いので、通院が長期間にわたる場合は、医療費の負担が大変です。その場合、自立支援医療制度の申請を市区町村の窓口にすれば、主な精神疾患では1割の自己負担ですむようになります。

精神科の最初の診察は、内科などと違って心電図、CTなどの検査はほとんど行われず、その代わりにこれまでの経過を詳しく聞きます。「いつから、どんなきっかけで、このような”うつ”になったのか」といったことです。精神科医が聞く場合もありますが、臨床心理士や精神保健福祉士などがお聞きする場合もあります。精神科医は診察を通して助言をし、必要な場合は抗うつ剤や睡眠導入剤などを処方します。診察と投薬だけでは不十分な場合には、併行して、カウンセリングやデイケア・ショートケアなどの特別なプログラムを行う場合があります。家族関係の調整が必要な場合にはケースワーカーが相談を受けることもあります。カウンセリングなどのプログラムは、スタッフの数が少ない精神科診療所では行いにくいことから、心理カウンセリング機関とタイアップして行っている場合もあります。

(Q-M-31)

メンタルヘルスの取組みを始めるに当たって注意すべき点は、どんなことがありますか?
まず、事業者がメンタルヘルスケアを積極的に進めていく旨を表明し、メンタルヘルス対策が企業の施策として認識され、組織として重要な問題であることを労働者に周知します。事業者がメンタルヘルスに対する姿勢を明確にすることで、労働者一人ひとりが自分の職場や健康状態に関して日頃からメンタルヘルスを意識し、積極的に行動しやすくなるとともに、職場全体として取組んでいく意識が高まります。また、取組みを始めるに当たっては、現場の意見を取り入れるために、労働者の意見を聴きながら対策を進めていく必要があります。

流れとしては「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示されている「4つのケア」が基本になります。4つのケアとは、(1)労働者が自らの心の健康のために行う「セルフケア」、(2)職場の管理監督者が労働者に対して行う「ラインによるケア」、(3)事業場内の産業保健スタッフ、人事労務管理スタッフ等が行う「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、(4)事業場外の専門家や機関を活用する「事業場外資源によるケア」のことです。

具体的には、教育研修(従業員向けと管理監督者向け)、情報提供(社内ホームページやパンフレット等)、職場環境等の把握と改善等があります。管理監督者は日頃から従業員のストレスをチェックし、そのストレスの原因を減らすように可能な限り工夫することが大事です。職場環境のストレスを測るためにチェック表やアンケートに記入してもらってもよいでしょう。また、いつでも相談できるように、相談しやすい雰囲気をつくり、匿名でも相談できる窓口(産業保健スタッフ、カウンセラー、外部相談機関等)を設置しておくことも有効です。

また、メンタルヘルス対策を行う上で得た健康情報の扱いについても、事業所内でルールを決めておくことが必要です。原則として情報は本人の同意なしには開示されない旨を取り決めておくことで、安心して相談することができると思います。

(Q-M-32)

なぜ職場でメンタルヘルス対策をしなければならないのでしょうか?
企業は、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令によって、従業員の健康管理義務を負っており、従業員のメンタルヘルス管理も労働法制内に含まれています。近年では業務に起因するうつ病などのメンタルヘルス不調により自殺に至り、企業の安全配慮義務違反や社会的責任(CSR)等が問われ、民事訴訟では非常に高額な賠償命令が出されるなど、リスクマネジメントの観点からも企業の対応が進められています。自殺に至る事例の増加などから、わが国ではガイドラインや法整備強化を図って対策を講じており、主な対策強化として、平成17年10月の労働安全衛生法改正によって「長時間労働者の医師による面接指導の義務化」がなされ、平成18年3月に「労働者の心の健康保持増進のための指針」を公表しています。また、同年6月には自殺対策基本法が制定されて国や自治体が取組みを始めています。平成19年12月には労働契約法が制定され、事業者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)が明文化されました。

(Q-M-33)

メンタルヘルス不調を早期に発見するためには、どんな事柄について注意すればよいでしょうか?

厚生労働省は、平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表しています。その中で事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源による相談窓口の設置や対応について記述しています。事業場内に相談窓口を設置する場合、以下の点に注意が必要です。

  1. 早期発見のための体制の構築
    メンタルヘルス不調を早期に発見するためには、日頃より関係者が速やかに連携する体制を築いておくことが重要です。まずは日頃より接している周囲の人がその人の「いつもと違う様子」に気づくことが重要です。その際は、勤怠状況や仕事ぶり、表情・態度などの変化に注目することが大切で、病気かどうか判断する必要はありません。そして早めに声をかけゆっくりと話を聞き、産業保健スタッフや社外の相談窓口への相談を促します。相談を受けた産業保健スタッフや外部の機関では、専門医療機関受診の必要性を判断して、必要な場合には受診を促します。
  2. 日頃のメンタルヘルス対策における留意点
    産業保健スタッフは、周囲の人がいざというときに適切に行動できるように、メンタルヘルス教育やパンフレットの配布を通じて、啓発しておく必要があります。また安心して相談できるように、個人情報保護への配慮を徹底することも大切です。速やかな受診に結びつけるためには、周囲の医療機関とのネットワークを築いておくことも重要です。相談窓口は、産業保健スタッフが務めれば、職場での配慮につながるなどのメリットがあります。一方で事業場内への相談に抵抗を感じる人もいます。そのような場合は事業場が外部のメンタルヘルスサービス機関などと契約しておけば、相談窓口の選択肢が多くなり、相談の敷居も低くなります。外部の機関であれば家族からも相談しやすくなります。

(Q-M-34)

うつ病は精神病だと言われていますが、治る病気ですか。また、再発するのでしょうか?
うつ病は精神疾患のひとつですが、多くは精神病の状態にはありません。精神病というのは、精神疾患の中でも、現実を客観的に判断できなくなる状態が出てくることがある精神疾患に使う言葉で、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)が代表的なものですが、これらの疾患でも必ずしも精神病症状が顕著であるわけではありません。うつ病は治ることが多いのですが、再発をしやすいことも知られています。初めてうつ病にかかって再発を体験する人が6割、一度再発した人が二度目の再発をする割合が7割、二度再発した人が三度目の再発をする割合が9割といわれています。しかしながら日常の思考・行動パターンの見直し(認知行動療法など)や内服により再発防止が出来ることもよく知られています。

(Q-M-36)

うつ病で精神科医に通院しています。薬が出るだけですが、カウンセリングを受けたほうがいいのでしょうか?
うつ病の治療というとカウンセラーに話を聴いてもらうのがよいのではないかと思う方もおられるかもしれませんが、薬物療法が治療の基本になります。病気の程度や状態によっては、話をしたり考えたりすることが苦痛になって、カウンセリングを受けることでかえって状態を悪くすることもありますので、カウンセリングを受けることが適切かどうかを主治医の先生にご相談されるのがいいでしょう。

うつ病といっても、性格的な要因が大きいケースや、具体的な悩みや問題を抱えている場合など、カウンセリングが役に立つこともありますし、休職されている方であれば職場復帰や再発防止のためにカウンセリングが効果的なこともあります。

いずれにしても、カウンセリングを受けるかどうかについて主治医の先生とよく話ができていること、何のためにカウンセリングを受けるのかを明確にしておかれることが大切です。

(Q-M-38)

部下がうつ病で休職することになりました。休み中はそっとしておいたほうがいいのでしょうか?
休職の理由がうつ病など精神的な病気の場合、休職中に連絡を取ったほうがいいのかどうか迷われる上司の方は少なくありません。休職している方にしてみると、職場の人から何も連絡がないと、「自分はもう要らないと思われているのではないか」と不安な気持ちになることが多いようですので、連絡をするのは大事なことです。

もっとも、休み始めの頃など、会社や仕事のことを考えるだけで不安になるということもありますので、休まれている方の状況に応じて、連絡の取り方を考える必要はあります。休みに入る時に、休職中の連絡の取り方について決めておかれるとよいでしょう。頻度としては、うつ病の休職の場合は月単位の休みが多いので、1か月に1回とか、診断書の切れる頃などを目安にされるとよいでしょう。なお、実際に連絡する場合には、原則、主治医と連絡をとった上で実施しましょう。

直属の上司の方が窓口になるのが一般的ですが、部下の方との人間関係がこじれているなど、直接やり取りをするのに問題があるような場合は、他の方を窓口にするような配慮が必要になります。

(Q-M-39)

職場復帰に際して主治医と産業医の間で意見相違があるときはどうしたらよいですか?

心の健康問題で休業した労働者に対して主治医の判断により復職診断書が発行され、産業医が精査した上で、事業者に職場復帰に関する意見を述べることになります。しかし、必ずしも主治医と産業医の意見がすべて一致するわけではありません。主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度から復職の可能性を判断していることが多く、職場復帰後職場で求められる業務遂行能力がまだ回復しているとの判断とは限らない場合があります。

職場復帰は、就業規則等に定められた就業時間内労働を可能とする業務遂行能力が回復していることが前提となります。そのため、適正な睡眠覚醒リズムが確保されており、昼間の眠気がなく、注意力・集中力が持続し、安全に通勤ができ、療養中に業務に類似した行為を遂行したとしても疲労が翌日まで残ることのない程度まで体力が回復していることが必要です。これらの点について産業医は精査を行い(改訂「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の手引き」参照)、その結果明らかに職場復帰に必要な準備が整っていないと判断することもあります。このような場合主治医とさらに情報交換を密にして、職場復帰に必要な準備状態の確立に協力してもらえる関係を作っていく必要があります。

より円滑な職場復帰支援を行う上で、職場復帰の時点で求められる業務遂行能力はケースごとに異なることが多いため、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報を提供した上で、就業が可能であるという回復レベルで復職に関する意見書を記入してもらうようなプロセスを踏むのもいいでしょう。

(Q-M-40)

職場復帰の際のリハビリにはどのような点に注意したらよいですか?

精神障害に限らず、病気を治す期間は主に2つに分かれます。前半が療養に専念する期間、後半が復帰に備える期間=リハビリの期間、となります。たとえば重症の捻挫を想像してみましょう。前半は痛くて動けませんので固定・安静、腫れと痛みがひいたら後半は固定して硬くなった関節を動かし可動範囲を広げ、元の生活が可能となります。

つまりリハビリ期間に入るには、日常生活を送る上で症状による支障がほとんどなくなっている状態が必要となります。うつ病を例にしますと、憂うつな気分である、不安や緊張でビクビクする、嫌なことばかり考えて眠れない、など苦痛な症状がほぼ改善している状態ということになります。自覚症状が強く苦痛が大きい時期は、まだ療養に専念する期間と考えましょう。自分がどの期間にあるのか、主治医にも相談するとよいでしょう。

リハビリ期間の過ごし方として重要な点は主に3つあり、ⅰ.睡眠・食事のリズムの確立、ⅱ.就業を想定した日中活動、およびⅲ.これらの継続性、ということになります。

ⅰ.適切な睡眠および食事のリズムですが、久々の就労というストレスの海に飛び込んで泳ぎ続けることになります。そこに必要な体力の維持のための基本中の基本です。

次にⅱ.就業を想定した日中活動ですが、最近はリワークプログラムなどを設置した病院もありますが、ひとりでも行うことも可能です。しかし自分の意志が必要になります。たとえば毎朝図書館に通っての作業です。そこでの過ごし方も段階的に作業レベルを上げていくことも工夫次第。たとえば、新聞のある部分を読むこと。それが問題なく出来るようになれば、その部分をノートに書き写す→写すだけでなく要点をまとめる→まとめるだけでなく私見を述べる。少しずつステップアップが出来るのです。また特に都市部では独特な緊迫感のある通勤時間帯のラッシュを体験しておくことも役立ちます。通勤訓練などとも呼ばれていますが、この準備なしに復帰して消耗してしまう方も珍しくありません。

最後に、ⅲ.継続性ですが、仕事は1週間後も1か月後も1年後も続きます。がある程度の期間続けて出来ていることも、復帰の準備としてたいへん重要な要素となるでしょう。ただ、長距離走ですので、短距離走のようなスピードは不要です。

会社によっては、「試し出勤制度」などが設けられている場合があります。基本的には上記のようなリハビリの期間を経過し、業務遂行の準備が整っている上で行うものです。その運用は会社によって異なりますので、上司や人事労務、産業保健スタッフなどにお尋ねください。上手に利用することにより円滑な職場復帰が期待できます。

(Q-M-41)

近年、うつ病が増加しているのはなぜですか?
厚生労働省の「患者調査」(平成11年、14年、21年)によれば、1996年から2005年の10年間で、うつ病と診断される人が2倍に増加に増加し、2009年には100万人を超えたことが報告されました。うつ病が増加した最も大きな要因は、社会の多様化に伴いあらゆる場面でストレスが増加し、うつ状態が増加する土壌ができているのではないかと推定されています。

また、米国精神医学会の診断基準(DSM-IV)が導入されて、いくつかの診断項目があればうつ病と診断されることになって、うつ病と診断される人が、従来診断のうつ病から神経性うつ病、適応障害、ストレス障害まで幅広く診断されるようになった可能性があります。

さらに、1999年にわが国にも副作用が少ないとされる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が、2000年にセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が発売されて、製薬会社は、うつ病の啓発に力を入れました。その結果、精神科や心療内科だけでなく、内科や婦人科などの一般身体科でもうつ病と診断される患者が見い出されて、これらの薬剤が精神科以外の診療科でも処方されるようになったことも、うつ病診断を増加させたと考えられます。このようなうつ病の啓発活動によって、従来精神科受診を躊躇した方々に対して精神科受診への敷居を下げた効果もあったと考えられます。

(Q-M-42)

うつ病に対する偏見・誤解とはどのようなものですか?
 「うつ病は甘えた病である」、「頼る人がいるからうつ病になれる」、「うつ病になるのは、精神的に弱いから」、「心の弱い奴がうつになる」、「病は気から。強い精神力があれば大丈夫」など、今でもうつ病を性格、根性などに関連させる偏見や誤解があります。しかし、うつ病はセロトニンなど脳の神経伝達物質の異常が関連する身体の病気です。「うつは本当には治らない」、「うつは再発しやすいものだ」という人もいますが、効果の証明された薬があり、休養、精神療法・カウンセリングにより改善し再発防止も可能です。他の病気と同様にうつ病を正しく理解し、早期発見・早期治療に結びつけることが重要です。

(Q-M-43)

うつ病と神経症、自律神経失調症との違いは何ですか?

うつ病は精神障害の分類の一つである気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などの症状が生じます。不安神経症・強迫神経症などの病名がありますが、神経症は統合失調症や躁うつ病などよりも軽症で病因が器質的なもの(形態的な変化)によらない精神疾患のことをさすことが多く、現在では一般に不安障害の範疇に含まれます。

自律神経は交感神経と副交感神経の2つから成り立ちますが、そのバランスが崩れた状態を自律神経失調症と呼び、「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変(形態的な変化)が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」(日本心身医学会)と暫定的に定義されています。自律神経失調症(状態)はうつ病やパニック障害、身体表現性障害など、さまざまな病態でもよく認められます。

(Q-M-44)

仮面うつ病とはどのようなうつ病ですか?
 うつ病は気分の落ち込みといった精神的な症状だけでなく、食欲不振、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、しびれ、息苦しさ、頻尿など、さまざまな身体症状を伴います。中には身体症状が前面に目立ち、逆に精神症状に気づかれにくいことがあります。このようなうつ病は、「身体症状にマスク(仮面)された」という意味で、仮面うつ病と呼ばれます。

身体症状に気を取られ、なかなか、うつ病とは気づきません。ですから、患者さんは体の病気として内科等を受診し、身体症状のみ訴えるため、体の病気として治療が試みられることがあります。しかし、身体的な原因がはっきりつかめないために、長い期間、辛い思いをすることがあります。このように、内科等で必要な検査をしても原因がはっきりしない身体症状が長く続く場合には、うつ病を疑う必要があります。

仮面うつ病であっても詳細に聞いていくと、精神症状の存在が明らかになります。そのためにも、精神科で検査を受ける必要があります。仮面うつ病であっても、適切な治療により軽快していきます。

(Q-M-45)

生真面目でもなく、几帳面でもない人がうつ病になりますか?

うつ病には多くの病因があり、必ずしも病因が明確でない人も多く、米国精神医学会の診断基準(DSM-IV)では、病前性格や病因は問いませんので、診断基準の項目を定義どおり満たせばうつ病と診断してよいことになっています。したがって、生真面目でもなく、几帳面でない人でもうつ病と診断されることは多くあります。

(Q-M-46)

うつ病はどうしてなるのでしょうか?
うつ病に限らず、ほとんどの精神疾患の原因ははっきりわかっていません。うつ病にかかっているときには、脳内の神経と神経の間で情報を伝える化学物質が減っていたり、神経の状態に変化が起きていたりしているということがわかってきていますが、それが原因で病気が起きているのか、病気の結果そうした変化が生じているのか、まだわかっていません。うつ病は、精神的なストレスや過労がきっかけになって起こることが多いのですが、きっかけがはっきりしない場合もあります。

(Q-M-1)

最近眠れないのですが、このような場合、何科に受診すればいいのでしょうか?
不眠症にはさまざまな原因があり、原因によって受診すべき科が異なります。もし、ほかに通院中の病気があり、お薬を服用している場合には、ときに睡眠を障害する薬がありますので、一度かかりつけの医師に相談されるとよいでしょう。

夜中に何度も目が覚めたり、家族からいびきや無呼吸を指摘されたことがある場合には睡眠時無呼吸症候群の可能性があるため、「終夜睡眠ポリグラフ検査」という検査ができる医療機関に受診されるとよいでしょう。

就寝時や夜中に目が覚めた時に足のふくらはぎや足の裏あたりが「むずむず」したような異常感覚があって眠れない時には「むずむず脚症候群」という病気の可能性があります。また、睡眠中に足がビクビクと夜中に動いて眠りが妨げるような場合は「周期性四肢運動障害」という病気の可能性があります。このような場合にも、終夜睡眠ポリグラフ検査ができる医療機関に受診されるとよいでしょう。

最近気分が落ち込んだり、いままで楽しかったことが、楽しめなくなってきている場合には、うつ病に伴う不眠症かもしれません。また原発性不眠といって、原因は特定できない不眠症もありますので、このような場合には一度精神科に受診をされるとよいでしょう。

最近では、睡眠に関する専門外来を開いている病院もあります。原因がよくわからず睡眠がとれずに悩んでいる場合には、このような睡眠に関する総合外来を受診されてもよいでしょう。

(Q-M-2)

最近仕事のことで悩んでいるようで、夜も眠れていないようです。家族としてどうすればよいのでしょうか?

睡眠は人の生態活動として必要不可欠なものです。睡眠がとれておらず、かつ仕事に悩んでいる様子が家族として見られる場合には、おそらく元気がなく気落ちしていたり、食事もとれていないような様子も見られている可能性があるのではないでしょうか。そのような場合には、うつ病などの精神疾患にかかっている可能性もあります。また、そうではなくても睡眠がとれない状態でメンタルヘルスを改善させることは難しくなりますので、家族としては、まず悩んでいることに耳を傾け、睡眠がとれていなかったり、気分が沈んでいるようでしたら、心療内科や精神科への受診を勧めてみるとよいでしょう。また、仕事のことで悩んで、睡眠障害という体調不良をきたしているのであれば、勤め先の産業医に相談するよう勧めてもよいと考えます。

(Q-M-3)

家族が仕事のストレスで眠れないようなのですが、どこに相談すればよいでしょう?
仕事のストレスにより不眠という健康問題に発展しているようであれば、勤め先に産業医や保健職がいれば相談してみるとよいでしょう。しかしながら、不眠はうつ病などが隠れている可能性もありますので、不眠が改善されなければ、心療内科や精神科に受診をされて医師と相談されるとよいでしょう。

(Q-M-4)

うつ病はどの程度よくなると働けるようになるのでしょうか?

うつ病で働けなくなるのは、その症状のためです。まず、睡眠障害があります。うつ病に比較的特徴的なのは朝早く目が覚めることです。暗いうちに目を覚まして眠れません。そしてうつ病の症状で最も特徴的なものは、気分の憂鬱さです。特に朝目覚めたときから日中にかけて気分が憂鬱になります。朝早く目が覚め、そのときすでに気分は憂鬱なのです。そして出勤する時間になっても布団から出られません。目は開いているのですが、憂鬱で仕事に行く気力が出てきません。がんばって職場に行っても気力がなく、集中力もありません。仕事を進めるのに時間がかかり、ミスが目立ちます。つまり気力、集中力、思考力が低下し、ひどい場合には一日中ボーっとして何も考えられません。このような症状が出てくると休職になります。

これらの症状が良くなれば働くことが出来るのです。すなわち、夜は良く眠れ、朝の気分は憂鬱さがなく一日を通して気分は安定し、日中の気力、思考力、集中力が続くことを確認すればよいのです。しかし、このようにうつ病の症状が取れて仕事を休む前の気分や体調に戻った時点で再び働き始めても、また憂鬱な気分が戻ってきたり、眠れなくなったり、仕事をしていて集中力が衰えたりすることがあります。

このようなことはなぜ起こるのでしょうか?仕事を休むということは、仕事から受けるストレスをゼロにしているということです。仕事を始めるということは、再びストレスに曝されることです。つまり病状が戻ってくる場合は、仕事をしても大丈夫なほどには病状が改善していなかったということです。

それではどのようすれば仕事が大丈夫なレベルの病状の回復を確認できるのでしょうか。そのためには規則正しい生活が出来ているかがまず大事です。朝決まった時間に起きられなければ出勤が出来ません。夜決まった時間に就寝し、良く眠れて朝一定の時間に起きられるという睡眠覚醒リズムを取り戻すことです。これも一日だけではなく週7日続けられるようになれば第一段階は突破です。次はこのように規則正しい生活リズムが戻れば日中の時間が出来てきます。そこで朝から気分がよければ、何らかの活動が出来るはずです。自分の仕事に似た時間のすごし方をしてみます。仕事というのは時間を会社に拘束されることですが、これがストレスの大きな要素です。つまり自分の時間を自分で拘束してみればよいのです。したがって、自分の家以外の場所で、他人の目のあるところで一定時間をすごします。意外とそのような場所はなく、図書館に行くことを勧めます。図書館には本という文字情報と机があります。それからほかの人の手前、寝るのは気がひけます。図書館で業務関連の本がどんどん読めれば、かなり有望です。そして最後は通勤です。これは自分で職場まで通勤し、職場近くの図書館で作業を続ければ確認できます。このような一連の生活を通して安全に復職できる段階を見極めます。

(Q-M-5)

統合失調症と診断された方は就業できるのでしょうか?

この病気を持ちながらたくさんの方が就業しておられます。統合失調症だから就業できないということはありません。しかし、二つのことが就業の障害になることがあります。ひとつは統合失調症の影響で働く能力が落ちている場合です。その場に居ない人の声が聞こえるとか、誰かに操られるといった陽性症状が活発だったり、意欲低下が著しくて、とても疲れやすいなどの陰性症状が強かったり、仕事の指示が頭に入らずミスが多い、対人関係が負担になりやすいといったことがあると就業が難しい場合があります。その場合はまだ治療に専念する必要があるかもしれません。しかし、症状があっても短時間労働であれば勤まるかもしれません。もうひとつの障害は、周囲の差別や偏見です。上司や人事担当者に統合失調症に対する理解がなくて、病気を理由に差別されることがあります。現状ではそうした危険性があるので、上司や人事担当者に病名を伝えるのは慎重さが要ります。

(Q-M-6)

ストレスに強くなる方法はあるのでしょうか?
ストレスに強くなる、これを実現するには、自分をストレスに追い込む原因となる苦手なテーマや大きな悩みから目をそむけないことです。自らのストレスのルーツを冷静にさぐり、その特徴をしっかりと見極めることがとても大切です。

次は、テーマに即して具体的な対策を考えるわけですが、けっして目標を高くセットしないことが大切です。いかなるストレスにも強くなるというのではなく、まずは特定の話題にしぼりこんで対策を講じること、これがコツです。

例題として、上司との関係の悩みを取り上げてみます。週末も仕事のことが頭に浮かんで休んだ気がしない、次第に夜ねつけず疲れも溜ってきた。自分の上司は普段から口数が少なく、指示もあいまい、何をめざせばいいか言ってくれない、おかげで自分の仕事の輪郭がみえず、いつも手探り状態。仕事の達成感もなく、オンオフのけじめができず、しかし、相手は上司だし、このままストレスに負けてしまうのか・・・。

このようなケースに強くなるには、大きく2つの方法があります。一つは、自分のストレス対処法を強化し、結果としてストレスにめげない自分をつくる、という考え方です。例えば、「上司のペースにはまりすぎかもしれないので自己ルールをつくるなど、自分のペースがブレないように注意する」といったことや、「周囲との調整の必要性など、業務推進のための必須要件について上司へ意見提案をしっかりと述べていく」といった積極的なアプローチです。

もう一つは、ストレスのルーツへ働きかけ、ストレスのパワーを弱め、相対的にストレスに強くなる方法です。例えば、他の同僚とともに「もっと指示を具体的かつ明確にしてください」とお願いする、宴席やランチのときにいろいろ雑談しながら本音をきいてみる、直接言えないときは頼もしい仲間にお願いしてアドバイスを受ける、といったことなどです。

いずれのアプローチにしても、職場をめぐる状況をしっかりとみきわめる現実判断力、周囲の同僚との仲間意識、協調性、他人との対話を通じて理解、説得していく対人交渉力、自己表現力、さらに実行力が必要です。これらの強化対策に取り組んでストレスに強いご自分をめざしてください。

ただし、ご自分がすでにストレスで弱っている場合は、無理をしないで気力、体力を十分回復してから取り組んでください。

(Q-M-7)

仕事以外では元気なのにうつ病でしょうか?
結論からいうと、そのような場合がありえます。なぜかというと、うつ病という病態には生活状況にしっかりとねざした場合とそうでない場合があり、この前者の場合がご質問のケースとなりうるからです。

生活状況といっても、仕事、学校、家庭などさまざまですが、特に仕事の場面、例えば、職場の人間関係、仕事の内容などにかかわってメンタルヘルスが不調になる方は最近特に増加しつつあります。

一例をあげてご説明しましょう。事務系職場に勤務するAさんは既婚、物静かで実直な中間管理職。職場の人望も厚く、部下からも慕われています。しかし、自分の仕事が立て込んでいるのも構わず、上司であるB課長が一方的に指示を出してくるので、自分のペースがいつも不安定になってしまいがちです。決算期を迎えB課長も忙しそうで、自分が仕事を拒めば手一杯な部下ももっと困るということが明らかなので、あからさまにノーともいえません。ついには休日出勤でこなしていましたが、いつしか朝、職場に出勤しようとすると頭痛、下痢がはじまり欠勤がちとなりました。奥様の勧めでようやく精神科を受診しましたが、診断は「消耗性うつ病」でした。

このような場合、まずは職場から離れ自宅で休養し、こころの中から仕事のしばりをほどき、ゆるめ、こころの自由度を回復することが大切なケアとなります。このようなケアの効果がでてくると次第にAさんも元気をとりもどし、家庭では元気に過ごすことができるようになります。

この段階を経て、さらに回復度が高まると、Aさんも再び職場でがんばろうという意欲がでてくることになります。復職には、上司との関係、仕事の見直しなど勤務環境調整が大切なことは言うまでもありません。

ということで、うつ病の病態は生活場面、生活状況のある種の要因と深く関わっていることがあります。ですから、仕事場とそれ以外の場所でご本人の様子が大きく異なる場合は、むしろ病気の特徴をよく反映しているという場合もありえます。

メンタルヘルスの不調は身体面の病気と異なり目にみえず、しばしばさまざまな誤解を生みます。病状の内容は一面だけでなく、生活全体から総合的に判断することが重要です。

(Q-M-8)

精神科に通院していますが、診察でも「変わりありませんか」の一言で終わって薬だけがでます。この病院で大丈夫でしょうか?
長く掛かっている主治医なら、一言ことばを交わすだけで、表情や態度などから、調子の善し悪しが分かるものです。だから一言ですませることもあると思います。しかし、順調にみえても、しっかり話を聞くことが大切です。改めて話を聞いてみると、今まで気づいていなかったことが見えてきたりするものです。ですから”いつも「変わりありませんか」の一言で終わって薬だけ出る”というのは良いことではありません。その病院は良い病院ではないかもしれません。ただ、患者としては主治医のペースに従う必要はありません。主治医に聞きたいことがあれば遠慮せずに聞いてみることが大切です。

(Q-M-9)

精神科のお薬は、薬漬けになりやすいと聞き、飲みたくありませんが、薬以外で治る方法はないでしょうか?
高血圧や糖尿病での治療で薬漬けと感じることはありますでしょうか。薬の種類が増えたり、量が多くなったりすると不安だし負担と思えるでしょう。風邪のように、一時的な感染症であれば短期の服薬で済みますが、慢性疾患などでは、状態の改善維持に長期の服用が必要です。多くの方には精神科の薬に依存性や副作用が強いという誤解があるようです。実際は薬剤もかなり改良進歩していて、他の疾患治療薬と同様に大きな心配はありません。困っている症状を主治医に伝えていただくと、その症状に適した、なるべく負担の少ない薬剤の処方を受けられます。以前は、専門医だから黙って治療内容は任せておけ、といった対応で、処方を決めることが多かったようです。最近は治療内容などをご本人に説明して決めていただく方法(インフォームドコンセント)が一般的となりました。薬剤の種類が多くなることは、主治医としても避けたいと思う所です。薬に関して不安や心配があれば遠慮せずお尋ねいただければよいと思います。

薬剤以外での治療法は、病気の種類や病状の重さなどでも変わります。精神疾患の治療では、基本的に薬物療法と精神療法(一般的にはカウンセリングと言われます)を併せます。その他の方法としては電気痙攣療法(ECT)、修正型電気痙攣療法(mECT)、経頭蓋磁気刺激療法(TMS)など器具を用いる方法と、光療法、運動療法、音楽療法などの治療法もあります。一般的には、これらの治療法は薬物療法と併用して用いられることがほとんどです。また、どこの医療機関でも受けられる方法ではありませんので、これらの治療法を希望されるときには、主治医と相談する必要があります。

(Q-M-10)

何種類もの薬を数年のんでいますが、いっこうに治りません。このまま飲み続けるべきでしょうか?
精神疾患の治療では、薬物療法と精神療法が原則です。短期間で自分の力で回復できる不調もありますが、慢性疾患のように比較的長く続く不調が多く、治療としての投薬期間も長くなることが多いのです。治療開始当初は出来る限り少ない薬で、回復してくれば薬を減らし中止する方向に向かいます。しかし、症状の改善が進まず、逆に調子が悪くなると、薬の量を増やしたり種類を増やす工夫をします。細菌性の肺炎などであれば抗生物質を用いて治療が行われます。程度が軽ければ、効果が期待できる経口の抗生物質の投与が行われます。しかし、病状が重いと入院して注射での抗生物質投与となります。この場合は、薬が効くかどうかの感受性検査をして、効果が確実と思われる薬剤の投与が開始されます。このように治療前の生物化学的な検査が出来るとよいのですが、残念ながら精神科の治療薬は、事前の薬効を十分に予測できる手段はなく、臨床医(主治医)の知識と経験などにより、状態に一番適した薬剤を選択して投薬されます。この判断には、患者さんご自身からの症状の訴えが大切で、不調の様子を的確に伝えていただく必要があります。もちろん、辛くて言葉も発せられないなどの状態は、主治医として把握します。このようにして薬剤を決め投薬されているのに、効果が十分にみられないことも多々あります。薬剤の量が少ない、薬剤が症状に合っていない、などは当然考えられることです。しかし、特に精神症状(悲哀感、無力感、意欲の欠乏など)のいくつかは、薬剤だけでは改善し難いものもあります。その精神症状が脳の代謝の変化によるものでなく、気持ち・心理の変化によるものですと、薬効を期待し難いものです。漫然と服薬を継続することは注意を要しますが、症状を良くするためには服薬は必要でしょう。また良くならなければセカンドオピニオン(他の医師の診断)を求めることも一つの方法でしょう。

(Q-M-11)

セカンドオピニオン(他の医師の診断)を希望していますが、今の先生に話すともう診てもらえなくなるのではないか心配です。どうすればよいでしょうか?
セカンドオピニオンを希望されますと主治医としては淋しく思いますが、本人の病気をよくすることが優先です。一般の主治医なら承諾してくれると思います。セカンドオピニオンのための紹介状には、症状や処方内容の経過、その効果や副作用なども記入することがあり、まとめるのに手間や時間が必要です。紹介状=情報提供書をご希望の日に、その場で書けない場合が多いものです。このことをご承知いただければ、ほとんどの担当医がセカンドオピニオンのための書類を調えてくださるでしょう。セカンドオピニオンを引き受けてくださる医療機関では、別の視点からの意見を出されます。この意見をそれまでの主治医に伝えて、その後の治療を続けることも可能です。また心機一転して別な医療機関での治療を受けることも可能でしょう。本人の病状をよくすることが第一です。しかし、ドクターハンティングなどと言われますが、本人が良い治療をされていないと感じて、医師を次々と変えていくことも見られます。その結果、計画的・継続的な治療が尻切れトンボになり、病状がよくなり難いこともあります。精神疾患では、せめて3~6か月程度は同じ医師の治療を継続されるほうが良いでしょう。セカンドオピニオンや転院にはご自分の考えだけでなく、ご家族や担当医の意見も参考にしましょう。

(Q-M-12)

カウンセリングに通っています。いつも話しを聞いてはくれますがそれだけです。それなのに何千円もとられて何も変わりません。カウンセリングってなんなんでしょうか?
カウンセリングは、日常の人間関係のしがらみから離れた、いわば非日常的な人間関係の場であり、その中で、安心して率直に気持ちや考えを表現することを通じて、問題解決や症状の緩和をはかります。カウンセリングにはさまざまな理論や手法がありますが、基本的には、カウンセラーは一方的に答えやアドバイスを与えるのではなく、あなたの話をよく聴き、充分に理解し、気持ちに細やかな配慮をしながら、あなた自身がよりよい人生の選択ができるように、問題の整理や気持ちの整理を心理的に支援します。あなたの年齢、性別、症状や過去・現在の状況および目指すゴール/目標と、それらに対するカウンセラーの専門的な見立てによって、選択される手法や期間は異なります。言葉でのやり取りを中心とする場合もあれば、芸術表現などの媒体を使う場合、具体的な行動目標を立てて訓練をしていく場合などさまざまです。

カウンセリングでは、あなたの人生の重要な問題を扱うのですから、焦らずに時間をかける必要はあります。しかし、そのプロセスを支えるのはあなたとカウンセラーとの信頼関係ですので、カウンセリングの進め方そのものについて納得しておくことは、とても重要なことです。

今受けているカウンセリングに疑問があるのであれば、そのことも率直にカウンセラーに伝え、どのような解決を目指していくのか、目標や方針を見直していくことをお勧めします。方針や目標について納得のいく話し合いをすることも、カウンセリングの効果を高めることに役立つと考えられます。

(Q-M-13)

事業場内に相談窓口を設置する際に具体的にどのようなことに留意したらいいでしょう?

厚生労働省は平成18年3月31日に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表しています。その中で事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源による相談窓口の設置や対応について記述しています。
事業場内に相談窓口を設置する場合、以下の点に注意が必要です。

  1. 相談内容に関する個人情報への配慮が必要です。産業医等の産業保健スタッフは、相談窓口となる場合、健康情報を含む個人情報の取扱いに特に留意する必要があります。産業医等が個人情報を事業者等に提供する際は、提供する情報の範囲と提供先を必要最小限とすることが必要です。その一方で、産業医等は、相談に来た労働者の健康を確保するための就業上の措置を事業者が行うために必要な情報が的確に伝達されるように、集約・整理・解釈するなど適切に加工した上で事業者等に提供する必要があります。事業者側からみた場合には、メンタルヘルスに関する労働者の個人情報を取り扱う際には、診断名や検査値等の生データの取扱いは産業医や保健師(法律によって守秘義務が課されています)等に行わせ、特に誤解や偏見を生じるおそれのある精神障害を示す病名に関する情報は、慎重に取り扱うことが必要です。これらが守られない相談窓口は、労働者から利用されなくなることが考えられます。
  2. 相談窓口の設置を十分に周知することが必要です。労働者にとって普段から相談窓口を意識しているわけではなく、困ったときに初めて相談することが考えられます。そのため、労働者への周知は定期的に、かつ、さまざまな機会を捉えて、繰り返し行ったほうがよいでしょう。また、労働者の不調に気がつくのは家族であることも多く、社内報や健康保険組合の広報誌等を通して相談窓口について家族へ周知しておくことも大切です。
  3. 常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場の場合は、産業医等の産業保健スタッフがいないことがあります。その場合は、衛生推進者が中心となるとともに、地域産業保健推進センター等の事業場外の資源を十分に活用して、相談窓口機能を整えておくことが大切です。それぞれの地域の地域産業保健センターの連絡先は、こちらのページをご参照ください。

(Q-M-14)

管理監督者が部下のメンタルヘルスの問題で困った際には誰に相談すればいいのでしょう?

管理監督者は職場の部下の管理を担当していることから、部下の日常的な変化を最初に気がつくことも多く、メンタルヘルス問題では対応のキーパーソンになることも多いといえるでしょう。相談先として以下が考えられます。
事業場内に相談窓口を設置する場合、以下の点に注意が必要です。

  1. 事業場内の健康管理室(産業保健組織)等の産業保健スタッフ
    事業場内に健康管理部門がある場合は、まずはそこで相談することがよいでしょう。産業医や保健師等の産業保健スタッフが、メンタルヘルスの問題を含む健康に関係した問題の最初の窓口となっていることが多いといえます。
  2. 事業場内の衛生管理者等
    健康管理部門が常駐ではない等のため直接相談がしにくい場合は、事業場の衛生管理者を通して相談するのがよいでしょう。事業場によっては衛生管理者が相談窓口を担当していることもありますので、確認してみましょう。
  3. 事業場外の相談窓口等
    事業場により、外部の専門的な相談窓口と契約をしている場合があります。また、常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場では地域産業保健推進センター等を活用することが推奨されています。このような情報も事業場の担当者に確認してみましょう。なお、地域産業保健センターの連絡先は、こちらをご参照ください。
  4. 事業場の人事総務担当者等
    上述したような対応が難しい場合は、事業場の人事労務担当者や安全衛生の担当者と相談をしてみましょう。メンタルヘルスの問題においては労務管理上の問題(欠勤や遅刻等)が発生していることも多く、勤務管理上のルールを確認しながら対応することも大切でしょう。

いずれにしても、管理監督者が一人で対応できることには限界もありますので、一人で背負いこまないことが大切です。また、個人の情報についてはプライバシーに配慮し、必要以外の人に広がらないように取扱いには十分注意しましょう。

(Q-M-16)

会社が契約している相談機関の電話相談やメール相談を利用したいのですが、相談内容などは会社に分かってしまうのでしょうか?
会社が契約している相談機関などでは、一般的に、問題解決のために相談・助言・援助を行うための専門的訓練を受けた臨床心理士などの有資格者が相談に対応します。これらの専門家は、相談者の人権や生命を守るために遵守すべき職業倫理についても十分に教育を受けており、この職業倫理の中で大切なものの1つに『守秘義務』があります。

 『守秘義務』とは、職務上知りえた秘密や相談内容を正当な理由なく他人に漏らしたり利用したりしてはならないというものです。医師などの医療関係者の場合は刑法などに定めがあり、さらに労働安全衛生法にも健康診断や面接指導の実施の事務に従事した者に対して守秘義務が定められています。臨床心理士などのいわゆるカウンセラーは国家資格ではないので、それに特化した法的規定はありませんが、倫理的義務だけでなく法的責任も負うと理解されています。

 相談に当たっては、何よりも相談者と専門家との間の信頼関係が基礎となり、これを保障するのが守秘義務です。この義務に違反すれば、信頼関係が壊れ、相談自体が成立しなくなります。

(Q-M-17)

私は派遣労働者ですが、派遣先の産業保健スタッフに相談できるのでしょうか?

派遣労働者の健康管理(健康への支援)は、派遣元事業場と派遣先事業場との間で役割分担をすることが、法で定められています。一言で言えば、現場での具体的な仕事に関連する事柄については派遣先、それ以外の健康問題は派遣元が主として担当することになっています。わかりやすい例が健康診断で、年に1度の定期健康診断は、派遣元が費用を出して行い、有機溶剤などの作業現場の有害因子による健康影響をチェックする特殊健康診断は、派遣先に実施義務があります(両者が連携して実施すべき事柄もあります)。ストレスや心の健康問題に関する相談の場合も、それに準じて考えればよく、派遣元の産業保健スタッフに相談するのが一般的といえましょう。派遣先事業場で、相談室が相談の内容にかかわらず派遣労働者にも解放されており、ご本人が希望するのであれば、利用してもよいと考えられます。ただし、その場合、相談内容がどの範囲に知られるのか(一切誰にも知られないのか、上司に当たる人には一部報告されるのか、派遣元事業場にも伝えられるのかなど)をあらかじめ確認しておき、納得した上で利用することをお勧めします。

(Q-M-18)

以前から晩酌の習慣がありますが、最近はよく眠れないために寝酒として飲むようになりもう1か月になります。このまま続けていて大丈夫でしょうか?
まずは会社の産業保健スタッフ、あるいは外部の精神科や心療内科などの専門機関を受診し相談されることをおすすめします。必要に応じて睡眠薬が処方されることもあります。眠れない原因がうつ病などの症状による可能性もあります。たまに飲酒することで寝入りをよくする効果はありますが、常用したり大量に飲んでしまうのはかえって逆効果であり、睡眠の質が悪くなってしまいます。また、アルコールは耐性を生じやすいので、毎日飲んでいるとだんだん量を増やさないと眠れなくなってしまい、アルコール依存症や肝臓などの臓器障害を起こす危険もあります。睡眠薬よりお酒のほうが安全と思われるかもしれませんが、快眠のためには飲酒(寝酒)よりも、医師の指示にしたがって服用する睡眠薬のほうがはるかに効果があり安全です。

(Q-M-19)

仕事が忙しく帰りが遅くなります。妻は出産後間もないため、私が会社にいる時間が多いと、妻にとって大変負担も大きく、また私も帰宅しても気が休まりません。どのように仕事と生活のバランスをとればいいのか困っています。

 仕事と家庭生活をきちんと両立させようとすると、時間もエネルギーも足りずに疲れてしまいますね。長い職業人生の中では、その時どきで、仕事と家庭生活とにかける時間やエネルギーのバランスが変わっていきます。このバランスの調和を考えていくことをワークライフバランスと呼んでいます。仕事と家庭生活のどちらにも100%なのではなく、子どもの成長やその時どきのライフステージに合わせて、柔軟にそのバランスを変えていくことが、あなたと家族の健康のために、とても大切なことです。

お子さんが生まれたばかりの今は、家庭での役割が大きくなっているようですので、この時期は家庭生活に重心をおいて、時間やエネルギーの配分を考えるとよいでしょう。そのためには、例えば、上司に相談してしばらくの間業務の負担を減らしてもらうなど、職場の理解を得ながら、仕事にかけている時間やエネルギーを生活に振り分ける工夫をすることが必要です。最近では、男性の育児休暇取得や在宅ワークなど、「仕事と生活の調和」を目指した人事制度を導入している企業が増えています。会社の制度を活用して、今のライフステージに合った働き方を考えるのもよい方法です。場合によっては、家庭事情があるからこそ、効率よく働くコツを覚えた、といったことも起こりうるのです。

また、夫婦2人の時間とエネルギーだけで考えずに、身近な人からのサポートを得て、家庭内の時間やエネルギーを補強することも有効です。今、どのようなことで困っているか、どのようなサポートがあれば負担が軽くなるのか、誰にサポートしてもらうとよいのかなど、必要なサポートをご夫婦でよく話し合って、家族や友人、地域、時には専門家のサポートを上手に得ながら、仕事と生活のバランスをとっていくことをお勧めします。

(Q-M-21)

心の病はストレスにより生じるものですか?
心の病気に限らず、心身の病気はストレスで生じるものが少なくありません。特に心の病の発症にはストレスの関与が大きいと考えられます。同じようなストレスであっても、心の病になりやすい人となりにくい人がいます。他に大きなストレスがあるかどうかや、周囲の人びとの支え、あるいは本人のストレス対処の上手さなどによって心の病になりやすいかどうかが変わります。

(Q-M-22)

うつ病が労災として認められると聞いたのですが、その要件は?

 うつ病等の精神障害は、外部からのストレス(仕事によるストレスや私生活でのストレス)とそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。
 仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が強かった場合でも、同時に私生活でのストレス(業務以外の心理的負荷)が強かったり、その人の既往歴やアルコール依存など(個体的要因)が関係していたりする場合には、どれが発病の原因なのかを医学的に慎重に判断されます。詳しくは、厚生労働省パンフレット「精神障害の労災認定―平成23年12月に認定基準を新たに定めました―」をご参照ください。

(Q-M-23)

心の病気で休業した場合、その間の生活保障はどうなるのでしょうか?
健康保険組合の被保険者は、所定の申請書に医師の労務不能という意見及び事業主の不就業日数とその賃金についての証明をもらって申請すると、連続3日の休業(待機期間という)後の4日目から1年6か月(退職後も含む)までは標準報酬日額の2/3に相当する傷病手当金が支給されます。企業の手当や他の公的給付が支給されている場合は、その分が減額されます。業務上疾病の場合は、労災保険からの休業給付があります。身体の病気も同様です。

(Q-M-24)

心の病気の診断はどのようにしてつけるのでしょうか?
糖尿病なら血糖値、高血圧なら血圧値、骨折ならレントゲン写真など、多くの病気には診断に結びつきやすい検査があります。しかし、精神疾患=心の病気では、そのような検査手段が絶対的なものではありません。そのことで、専門医の診断が解り難く、結果としてセカンドオピニオンが求められることがあるのでしょう。精神科の疾患の診断の中心は問診(生活史、現症、環境、家族歴・・・)や視診です。現在の症状(現症:気分の落込みが有るとか、眠れないとか、恐怖感が強いとか、など)の訴えだけではありません。その症状が、どのような基盤に生じたか、どのような経過で生じたか、どのような契機で生じたか、などを整理して解釈します。元来の性格・家族の状況・学歴や職業歴なども大切です。また、本人の困っているいくつかの症状が、どのような組み合わせであるかを考えます。症状の根底に、体の病気やそれに対する処方薬の影響がないかも検討します。さらに、症状がどの位の経過・継続があるのか。キッカケとなるものが如何か、あるかないか、その強さ・深さの程度がどれくらいか、なども聞き取ります。本人にかかった負担に対する反応としての症状の現れ方が、普通考えられる程度と比べ、過大か過小かなども考慮します。以前に同様の症状があるかないかも参考になります。これら問診から得られる情報が診断の主体ですが、顔つきや表情、話し方や言葉遣い、身振りや動作、など視診も診断を考えるには大事なものです。体格、体重変化、血圧、脈拍、食欲、便通、月経、なども参考にします。睡眠の具合などは重要です。握力や歩行、腱反射、瞳孔の具合など神経学的な検査も参考にします。また、心理検査・心電図・頭部CTスキャン検査・脳波・血液検査なども診断に役立ち、今後は白血球遺伝子検査や光トポグラフィー検査などの有効性も期待したいところです。

(Q-M-25)

過労死等予防対策関係

新居に引っ越して通勤時間が長くなり、その分睡眠時間が短くなっています。残業時間はかわらないのですが、過重労働といえるでしょうか?
一日は24時間で固定されていますので、通勤時間が長くなったにも関わらず、以前と同じだけ残業時間があるような場合には、十分な睡眠時間が確保できません。当然睡眠時間にしわ寄せがきて、睡眠時間が短くなってしまいます。日常生活の健全の維持には、最低6時間の睡眠は確保しなければならないといわれています。この睡眠時間が確保されないと、”心とからだ”の健康状態に支障をきたし、脳出血などの脳血管疾患や心筋梗塞などの虚血性心疾患等、あるいはうつ病などのメンタルヘルス不調が起こりやすいといわれています。過重労働の範疇に入るかどうかは通勤時間ではなく、時間外労働(残業と休日労働)や就労形態の実態によって判断されるものです。

通勤を含む仕事での睡眠不足を解消するため、残業を少なくするような対策をとるのが、もっとも大切な過重労働による健康障害予防に必要な対策だと考えられます。

(Q-K-18)

待機時間が長いため、長時間残業になっています。これも健康障害が起きるかもしれない過重労働といえるのでしょうか?
過重労働に該当するかどうかは待機時間の内容など状況によると考えられます。

労働基準法では、管理監督者に該当する方については、労働時間、休憩、休日規定の適用が除外されます。また、監視・断続勤務や宿日直勤務といった労働態様で、使用者が労働基準監督署長に許可を得ている場合にも同じく適用が除外されます(深夜業務に関する規定は除外されませんので、使用者は割増賃金の支払義務が生じます)。つまり監視・断続勤務・宿日直勤務のような勤務形態では、待機時間も含めた労働時間が8時間を超えていても、時間外労働と認められません。

一方、使用者の指示があればすぐに業務を実行できるように待機している時間は(手持ち時間)、労働から解放されている状態ではありませんので、労働時間とみなされます。同様に休憩時間中の来客に備えている場合や、電話対応のために職場から離れることができない場合にも休憩時間ではなく労働時間とみなされます。つまり待機状態であっても、使用者の指揮監督下にある状態であれば、労働時間とみなされます。

以上のように、待機時間が労働時間に該当するかどうか、労働時間の適用免除にあたるかどうかなどを加味して過重労働か否かが判断されるものと考えられます。

(Q-K-19)

同じ長時間労働をしても、健康障害を起こす人と起こさない人がいると思います。どうしてですか?
長時間労働による健康障害として、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調などがあります。脳・心臓疾患に関していえば、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、肥満、喫煙などの危険因子があり動脈硬化を起こしやすいような人は、個人差がある部分もありますが、長時間労働による身体的負荷により脳や心臓の病気にかかりやすいと言えます。ただ、現在そういった危険因子を持っていない人においても、長時間労働による結果として睡眠不足や生活リズムの不規則性などから高血圧などの生活習慣病を生じ、将来的に脳・心臓疾患になってしまう可能性があります。したがって、危険因子があるか否かに関わらず、日頃からの健康管理が大切です。

メンタルヘルス不調に関しても、長時間労働はもちろん、仕事の質(緊張性の高い業務、責任の重い業務など)、職場環境、人間関係、仕事に対するモチベーション、ストレスを溜めやすい性格、考え方の癖、家族・上司・同僚の支援の有無など、さまざまな因子が関係しており、その過程で結果的にメンタルヘルス不調が起こってくると思われます。つまり、どのような人であっても条件がそろえば心の調子を崩す可能性があり、労働時間やその他の因子にも注意して、未然に健康障害を予防していく必要があります。

(Q-K-20)

労働者200名程度の中小企業の事業主です。過重労働者の面接指導で、対象者の基準を決めたいのですが、どのようにすればよいでしょうか?
長時間労働を行う者に対する産業医等の医師による面接指導は、労働安全衛生法の規定によりすべての事業主(会社)に課せられた義務として行われますが、その対象者は労働時間が「1週間当たり40時間を基準として、これを超えた時間が1か月当たり100時間を超えている」場合で「疲労の蓄積が認められる」者とされています。この場合の時間外労働には休日労働時間も含みます。また、この面接対象の基準に該当しない従業員であっても健康への配慮が必要な者については、会社は面接指導又はそれに準ずる措置を行うように努めなければなりません。この対象として、1 長時間の労働(月80時間を超える時間外労働)により疲労の蓄積が認められ、又は健康上の不安を有している者、2 事業場において定められた対象基準に該当する者、が求められています。

上記2の場合、時間外労働時間が月に45時間を超える者については、健康への配慮の必要な者の範囲等について産業医と検討し、それらの者が面接指導又はそれに準ずる措置の対象となるように基準を設定することが求められています。具体的には、時間外労働時間が月に45時間を超える者については、作業環境や労働時間等の情報を産業医に提供し、面接指導対象者を産業医にピックアップしてもらってもよいでしょう。この際に時間外労働時間が2ないし6か月の平均で月80時間を超える者は対象とすることが求められています。面接指導に準ずる措置としては、例えば保健師等による保健指導を行うことや、チェックリストを用いて疲労蓄積度を把握した上で、事業場における健康管理について産業医から助言指導を受けるとともに産業医面接の対象者を絞り込む、などが考えられます。

これらの基準は事業場の衛生委員会で審議しておくことが望まれます。

(Q-K-21)

同僚の半分も仕事をしていないのに、能率が悪いため、長時間労働になっている部下がいます。どうすればよいでしょう?
仕事の能率をあげて、労働時間内に仕事を終えることができるように努力することが基本的な解決方法です。そのための第一歩は、時間外労働は本来臨時的に行うべきものであることを再確認すること、健康確保と生産性向上のため長時間労働は排除しなければならないという「課題」であることの認識を持つこと、であると考えられます。次に、特定の従業員の非能率・長時間労働の実情がある場合に、原因を把握して対策を考える必要があります。上司がご本人や周囲の同僚などに聴くことが必要ですが、叱りつけるのではなく、改善への意欲を引き出すために上手な対応が必要でしょう。原因が判明した段階では、解決への方法を検討することになります。その方法も改善効果を評価しながら、必要な場合は方法の変更も視野に入れる弾力性が求められます。

(Q-K-22)

過労死、過重労働による脳・心臓疾患とは具体的にどのような病気を指すのでしょうか?

過労死、過重業務による脳・心臓疾患の基本的な考え方は、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪して発症するものであり、それに該当する例は業務に起因することの明らかな疾患として取り扱われます。ここでの脳・心臓疾患とは、上記のような経過で発症する脳血管疾患及び虚血性心疾患等を指しており、労災認定基準(平成13年12月12日付け基発第1063号)により、対象疾患として示されている疾病が下記の通り明記されております。

  1. 脳血管疾患
    (1) 脳内出血(脳出血)
    (2) くも膜下出血
    (3) 脳梗塞
    (4) 高血圧性脳症
  2. 虚血性心疾患等
    (1) 心筋梗塞
    (2) 狭心症
    (3) 心停止(心臓性突然死を含む。)
    (4) 解離性大動脈瘤

(Q-K-23)

疲労の蓄積度というのはどのように測るのでしょうか?

疲労の蓄積度は、現在のところ厚生労働省が公表した疲労蓄積度自己診断チェックリストを用いて測定されるのが一般的です。疲労蓄積度自己診断チェックリストには、労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストと家族による労働者の疲労蓄積度チェックリストがあります。また、インターネット上でできる総合判定プログラム(中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター)もあります。

しかし、自覚症状と勤務の状況評価が乖離する場合もあるので、過重労働に係る面接指導では医師により診察時の問診結果も総合して評価されます。

(Q-K-24)

当社は裁量労働制です。過重労働対策は必要でしょうか?

 そもそも裁量労働制を採用しているということと、過重労働対策を実施しているということとは別次元の問題です。裁量労働というのは、業務時間帯が固定されず出勤・退社の時間も自由で、実労働時間がどうであれ、法定労働時間内(1日8時間まで、1週40時間まで)において合意した労働時間の労働を提供したと見なして「見なし労働」分の給与の支払いをするという労働形態をいいます。また月ごとに一定の残業時間数を含めた労働時間を加えて裁量労働制というのであれば、その法定労働時間外の残業時間についてはあらかじめ取り決めておく必要があります(労働基準法第36条に従って労使で取り決める)。さらに、取り決めたその残業枠を超えてさらに残業時間や臨時出勤が発生した場合には、時間外労働を適正に把握した上でその分の割増賃金を使用者は支払わなければなりません。どちらにしても使用者が労働者の全労働時間を把握しておく必要のあることには違いはありません。ちなみに年俸制の場合においても労働基準法では時間外労働をした場合には年俸とは別に割増賃金を支給しなければならないことになっています。

 過重労働対策というのは、過剰な時間外労働を行わせるなどにより健康障害を発生することがないように取り組む事業場全体の活動を指します。活動項目を挙げれば、(1)長時間労働をさせないこと、(2)健康診断を適切に実施し労働者個々の健康管理を行うこと、(3)長時間労働者には医師による面接指導を実施すること、(4)健康診断や医師による面接指導の後は必要な措置を実施すること、(5)衛生委員会において対策の推進について調査審議すること、などの活動となります。使用者は労働者の健康に配慮して、過重労働による脳・心臓疾患(脳出血などの脳血管疾患及び心筋梗塞などの虚血性心疾患等)が発生しないようにする義務(安全配慮義務)があります。この義務を遂行するためには、つねに情報として労働者の時間外労働を適正に把握しておく必要があります。裁量労働制を採用していても労働時間はきちんと把握をして、長時間労働を行った必要な労働者に対しては、上記の過重労働対策を講じなければなりません。

(Q-K-25)

従業員35名の事業所です。過重労働対策は必要でしょうか?
過重労働対策は、事業者が講ずべき措置(過重労働による健康障害防止のための総合対策 基発第0307006号)とされており、人数にかかわらず実施する必要があります。

事業場で産業医を選任しておらず、面接指導を実施する医師を確保することが困難な場合には、地域産業保健センターを活用することができます。

なお、最寄りの地域産業保健センターについては厚生労働省ホームページ「地域産業保健センターについてのご案内」を参考にしてください。また、お住まいの地域の地域産業保健センターは、都道府県労働局のホームページに名称、所在地などで示されています。

(Q-K-26)

当社では月80時間以上の時間外労働を行ったものについては、産業医との面接指導を申し込めるような体制作りを行いましたが、面接希望者があまりでません。このままでよいでしょうか?
時間外・休日労働が月100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者に対して、産業医は面接指導の申出を行うよう勧奨することができる(労働安全衛生規則第52条の3第4項)とされています。また、申出にかかわらず時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者又は時間外・休日労働時間が2ないし6月の平均で1月当たり80時間を超える労働者については、医師による面接指導を実施するよう努めるものとされています。さらに、時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましい(過重労働による健康障害防止のための総合対策)とされています。

ご質問の場合では、面接指導を希望していないものに対して申出の勧奨をするなど、面接指導を実施するように努める必要があります。また、面接対象者の選定基準においても、月45時間以上の時間外労働を行ったものについては産業医との面接指導を申し込めるようにするのが望ましいといえます。

(Q-K-28)

サービス残業とはなんですか?

残業をしても残業したことを申請せず残業代を請求しないこと、あるいは残業をさせたにも関わらず残業代を支払わないことを「サービス残業」と呼んでいます。残業は所定の労働時間以外に特別に働くことですので、時間外労働に関する協定(36協定:サブロク協定)を労使で結んで所轄労働基準監督署に届け出ること、時間外労働に対して25%以上の割増賃金を払うことが労働基準法で決められています。残業させたにも関わらず割増賃金を支払わない場合、つまり「サービス残業」をさせた場合には、「割増賃金不払い」違反として、会社と責任者が罰せられます。「サービス残業」は、長時間労働からくる過重労働によって健康障害の原因となっている場合が多くあります。平成22年4月からは、時間外労働時間が月60時間を超える場合には、割増賃金の率が50%に引き上げられるという内容の労働基準法改正がなされています。

過重労働の温床の一つであるサービス残業(賃金不払い残業)に対する行政の対策としては,「賃金不払の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(平成15年5月23日)が出されています。この指針で示された事業場が労使一体となって取り組むべき事項としては、1 サービス残業のチェック機関である企業内労使協議組織を設置すること、2 勤務時間の自己申告を原則禁止し、客観的なシステムで管理すること、3 サービス残業を行った労働者も、これを許した現場責任者も業績評価しないこと、4 過去にサービス残業があった職場では、指示系統が異なる複数の責任者を設定すること、5 企業トップが直接情報を把握できるような投書箱や専用電子メールアドレスを設定すること等が示されています。

(Q-K-29)

医師の面接指導を受ける対象者となる作業者には、どのような条件があるのでしょうか?
面接指導の対象者は、労働時間が「1週間当たり40時間を基準として、これを超えた時間が1か月当たり100時間を超えている」場合で「疲労の蓄積が認められる」者とされています。ただし、医師の面接指導は月の労働時間を把握してから行われ、早くても翌月の実施となるため、おおむね2か月分の状況を踏まえた面接となることから、医師が必要ないと認めた場合は2か月連続で受ける必要はありません。また、健康診断結果や疲労蓄積度チェックリストの結果等に基づき、医師が、健康上問題がないと認めた場合も対象としなくてよいこととされています。

なお、いずれの場合も労働者からの書面や電子メール等による申出に応じて面接指導が行われることになっていますが、その場合に事業者は、1 作業者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備、2 申出様式や申出窓口の設定等の体制整備および申出記録の保存、3 作業者への申出体制の周知、を図る必要があります。さらに申出を行うことによる不利益な取扱いの禁止などが必要になります。ただし面接基準に該当する者の全員を対象として呼び出す場合に限り、面接拒否をもって申出がなかったものとみなしてよいこととされています。これらの基準は事業場の衛生委員会で審議しておくとよいでしょう。

また、家族や職場の者が作業者の不調に気がついて相談や情報を受けた事業者は、プライバシーに配慮しつつ当該作業者に面接指導を受けるよう働きかけることが望まれます。あるいは、産業医が健康診断結果や、家族や職場の者からの相談や情報を受ける等により、面接指導を受けることが適当と判断した場合は、当該作業者に申出を行うよう勧奨することが望まれます。

(Q-K-30)

労働時間をどのように管理・評価すればよいのでしょうか?
労働時間の管理責任は労働基準法上使用者にあります。指針として「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が明示されておりますので、その内容を参考にして労働時間の管理法についてご説明いたします。この指針ルールが適応されないのは、いわゆる管理監督者とみなし労働時間制の労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る)となりますが、労働者の健康確保を図る観点からも、適用除外者についても労働時間管理を行っておく必要があります。

まず、労働時間を適正に把握するためには、始業時刻・終業時刻の確認とその記録が基本です。使用者が、自ら現認することにより確認し記録する場合や、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録する場合、また自己申告制にして始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合もあります。自己申告制を採用している事業場は多いのですが、労働者に対して労働実態に即して正しく記録することを十分に説明することが求められます。その一方で、自己申告の時間が実際の労働時間と合致しているか否かについては必要に応じて実態調査を実施することが必要です。また時間外労働時間数の上限設定や削減のための社内通達などが、労働者の適正な申告を阻害する要因となっていないかについても使用者は確認をする必要があります。これらのことを取り進めるためには、労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を設定して、労働時間の現状把握と時間管理方法等に関して検討するなど活動させることが指示されています。

健康管理の観点から言えば、時間外労働が概ね月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患(脳出血などの脳血管疾患及び心筋梗塞などの虚血性心疾患等)の発症の関連性は高まると考えられ、発症前1か月に100時間以上あるいは発症前2~6月間に月平均80時間以上の時間外労働があれば、とくにその関連性が強まると判断されています。労働災害抑止の意味からも、労働者の健康維持の面からも、時間外労働の管理は適正に実施しなければなりません。

(Q-K-31)

長時間労働している作業者がいるので、医師による面接指導を受けさせたいのですが、どのようにすればよいでしょうか?
長時間労働している作業者に対して、医師による面接指導等を実施するためには、衛生委員会等でその手続きの流れや対象者の基準などの事項を調査審議した上で整備する必要があります。面接指導する医師は、事業場に産業医が選任されていればその産業医と連携するとよいでしょう。また、選任されていなければ地域産業保健センターを利用することができます。なお、面接指導をする医師は、上記の他にかかりつけ医、病院・診療所の一般の医師でもよいこととなっています。

面接指導を受けさせるためには、労働者と管理監督者に過重労働による健康障害防止の必要性をしっかりと理解させるよう事業場内での啓発活動を行うことが肝要です。

(Q-K-32)

面接指導後の医師の報告書にどのように対処すればよいでしょうか?

過重労働の面接指導を終えた医師(産業医であることが多い)からは報告書(書式例)が事業者に向けて提出されます。この内容に対して事業者はその実施の必要性を勘案し適切な対応をする必要があります。法的にも、労働安全衛生法第66条の8第5項「事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない」とあることから、当該労働者の作業環境、作業条件、健康管理の観点から、指示事項を参考にして措置を講じる義務があるのです。医師による指示事項が具体的でなかったり、労働者や職場の実情から実施困難であるような場合には、医師の意図するところを適切に理解したうえで実施可能な内容の措置を講じることになります。実施においては、事業者(職場の上司である場合が多い)は本人と面接し、医師からの報告書の内容を伝えるとともに、これから実施する措置内容と措置期間等について説明をし、本人の理解と同意を確認しましょう。また措置期間の終了時には、再度同医師による面接を実施して今後の対応措置について当該医師に相談しておくとよいでしょう。

(Q-K-33)

面接指導の記録を会社はどのように管理すればよいのでしょうか?
面接指導の記録は法的にも事業者の責任で管理が必要です。具体的な管理手順を考えますと、産業医を選任している事業場(50人以上の労働者がいる場合)と産業医選任義務のない事業場とでは、おそらく手順に違いが出てきますので両者に分けて考えてみたいと思います。まず、産業医が選任されている事業場の場合には、面接指導記録の保管は産業医の主導にて行うのがいいでしょう。面接指導記録は、ふつう産業医による面接によって作成され、内容には業務上の事項や個人の健康問題、機微な情報等も入る可能性があります。以上のことから、面接指導記録も定期健康診断記録と同様の管理レベルの扱いをすることとして、産業医の管理下におくことをお勧めします。実際の保管場所ですが、産業医が非常勤の場合なら人事部等のキャビネの一部を借りて、そこに健診や面接指導等を含めた健康情報等を保管します。キャビネの鍵は、人事部の特定の人が管理することにして、キャビネに保管されている情報へのアクセス権については、産業医以外に、産業医の了解の元で、人事部の特定者のみがアクセスできるようにしておくとよいと思います。産業医を選任していない事業所では、面接指導記録は地域産業保健センターの所属医師や事業場との契約医師等によって作成されます。面接指導の記録がどのようなメディア(メール、紙面)で事業場に届くかにもよりますが、到着した記録は人事部情報として特定の指名された人が保管するのがいいでしょう。いざというときには、さっと引き出せて参照できる機能が必要です。なお記録の保存期間は5年間です。

(Q-K-34)

会社の衛生委員会の活動の中に面接指導の結果をどう反映すればよいでしょうか?
「事業者は、医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない(労働安全衛生法第66条の8第5項)」とされていることから、医師による面接指導の結果については定期的な衛生委員会への報告が必要です。また、面接指導は個別に実施されますので、その内容や結果については個別性が伴うこともあることから、委員会への報告の際にはプライバシーに配慮して、判定区分ごとの該当人数にとどめるか、職場単位ごとに集計する、というように、何をどのように表現して報告するかについては事前に衛生委員会事務局と産業医とで打ち合わせをしておきましょう。面接指導対象者に、疲労度調査や問診票等を実施しているのなら、集計をして疲れや体調の傾向についてもコメントするといいでしょう。その際には、全労働者の定期健診結果の統計も提出して、労働者集団の特性について説明をしながら、各職場における過重労働と健康障害との発生リスクについて意見交換することも有用です。また個別の事例について産業医がコメントする場合には、業務にかかわること以外の個人的な情報は秘匿しながら情報提供のしかたを工夫しましょう。さて、面接指導はあくまでも長時間労働の結果として発生した事後措置というものに過ぎません。衛生委員会での重要なことは、委員全員がつねに事業場内の長時間労働の実態について把握をし、職場ごとに長時間労働の抑制目標を達成するための仕組みがきちんと回っているかどうかについて確認し続けるという原因対策型であることです。衛生委員会には、「長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること(安衛規則第22条)」を議論することが法的にも求められています。衛生委員会の年度計画のなかに「過重労働対策」があるのなら、その施策の実施状況と現状の結果とのギャップについて定期的に分析をしなければなりません。対策計画はマネジメントシステムとして運用されているはずですから、進捗に問題があるのならその原因が確認できるはずです。システムの統括担当者からの説明を聞き、施策や計画に問題があるのか、現場の管理体制や労働者の意識に問題があるのか等々を検討し、適宜の見直しとアクションを継続的に実施していく必要があります。マネジメントシステムのリーダー役である安全衛生委員会としての「PDCAサイクル」の回し方と、現場の単位組織が取り組む「PDCAサイクル」の確認という、両輪を回していくことが求められます。

(Q-K-35)

主人の帰りが毎日のように深夜になっています。過労死にならないようにするため家族としては、どのようなことができますか?

1 家族の心配を本人へ伝える
 過重労働になると、自分自身を冷静に見ることができなくなっている場合があります。先ず、「働きすぎで、からだを壊してしまうのでは?」との心配を本人へ伝えましょう。またどうすれば時間外労働の削減が可能となるのか、一緒に考える態度で相談にのってあげましょう。

2 持病などで継続的な治療を受けている場合、通院をきちんとさせる
 薬の内服状況を確認してください。また、忙しさで通院が疎かになっている場合があります。持病がある場合、持病をしっかりとコントロールすることが大切です。

3 体調を尋ねる
 何か心配な症状がないかを本人に尋ね、症状があれば早急に病院を受診させましょう。また、体調が悪く病院を受診するのであれば、上司にもその旨を連絡しましょう。特に心配な症状として、下記の3つが挙げられます。

a.胸の症状:胸が急に痛くなる、脈がとぶ、動悸がするなど

b.脳疾患の症状:一時的にロレツが回らなくなる、一時的に手足の動きが悪くなる、今までに無い頭痛を感じるなど

c.精神的な症状:不眠、気分がいつも沈む、元気が出ない、食欲が低下するなど

4 残業時間をきちんと記録し、会社の産業医などへの相談を本人へ勧める
 月の残業時間が45時間程度を超えると疲労が蓄積し、80~100時間を超えると明らかな疲労の蓄積が出て、過労死になどにつながる可能性が出てくると言われています。法律では、月の残業時間が100時間を超えて疲労が蓄積していると申し出た方に対して、会社は産業医等による面接指導を行い、仕事上の配慮が必要かどうか確認することになっています。また、残業時間が100時間を超えていなくても、本人が希望すれば同じような対応をすることが会社に求められています。このような仕組みを本人に伝え、会社の産業医などに相談するように本人を誘導してください。

5 上司に、本人の状況や家族の気持ちを伝える
 職場の管理者には、部下の健康状態に配慮して業務をさせる責任があります。しかし、本人が状況を率直に伝えないと、上司は深刻な状況を明確に把握できず、充分な業務の調整を行うことができないことがあります。体調に問題があったり不安がある場合には、率直に上司に伝えるように家族から誘導してください。

(Q-K-36)

医師による面接指導は、過労死防止のうえでどのような効果がありますか?

 過重労働による健康への影響は、「1.過重労働や長時間労働 → 2.睡眠時間(回復時間)の不足 → 3.疲労の発生(健康診断所見の悪化)→ 4.疲労感・不調感・違和感の蓄積 → 5.生活習慣の悪化(不規則な生活・運動不足・喫煙増加・飲酒増加等)→ 6.体調不良の長期化(持病の悪化)→ 7.体力維持の限界 → 8.心身の障害」という連鎖を、行ったり来たりしながら徐々に病気へと発展します。職場の健康管理活動は、まさにこの連鎖のどこかを断ち切ることにあるわけですが、断ち切る場所が連鎖の上流であればあるほどその予防効果は高いことになります。

 それゆえ取り組むべき活動の優先順位は、

1.過重労働(長時間労働)をさせないこと。

2.健康診断を適切に実施し労働者個々の健康管理を行うこと。

3.長時間労働者には医師による面接指導を実施すること。

4.健康診断や医師による面接指導の後は必要な措置を実施すること。

5.衛生委員会において対策の推進について調査審議すること。

となります。つまり面接指導は、過労死防止の観点から言えば、上記5項目中の3番目に位置する効能であるということができます。これは過労死発生のメカニズムを考えれば当然とも言えますが、原理原則を言うなら、過労死防止の最大にして最良の手段は「過重労働を無くす」以外にはないからです。いかに質の高い面接指導を実施したとしても、蓄積した疲労が解消するわけではなく、発生した健康障害が消失するわけではありません。過重労働の実態を放置したまま、いくらその後に健康管理上の工夫をしたからといって過労死へとつながる可能性を低減化することは困難です。

 とは言いながらも、過重労働が継続する現実に対して実際に対処しなければなりません。医師は、面接指導を通して労働者の心身両面における健康状態を評価し、また業務と体調不良との関連性についても検討したうえで、診断区分、就業区分、指導区分、を決定します。この医学的判断をもとに、医師は必要と思われる就業措置意見(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)を事業者に提出しますので、労働者の労働負担の軽減と健康回復へとつなげることが出来ます。

 その意味で、面接指導をきっかけに上記連鎖を食い止めることができる場合がありますので、結果的に過労死防止の次善策としての効能は低くはありません。事業者は、ぜひ過重労働を行った労働者が面接指導を受けやすい環境と条件を整える必要があります。また、面接指導の制度が事業場内において整備されていることの周知や、安全衛生委員会で面接指導の活動状況や課題について審議すれば、労使ともに過労死防止への意識は高まります。これらは職場全体で過重労働抑制への意識を持ち続けるという意味で効果が期待できます。

(Q-K-37)

面接指導で社内の産業医に話した内容が上司に筒抜けになることがあると聞きました。個人のプライバシーは守られないのでしょうか?
産業医との面接指導時にお話しされた、個人的な問題やその他機微な健康情報については、原則として守秘されていると考えていただいて大丈夫です。労働安全衛生法(以下、安衛法)第104条には、「第65条の2第1項及び第66条第1項から第4項までの規定による健康診断並びに第66条の8第1項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない」とあり、産業医はこの遵法のもとに業務を担当しているので、「上司に筒抜け」という事態はありません。しかしここでいう、「知り得た労働者の秘密」がどの部分の情報を指すかについては、おそらく産業医とあなたとの間で多少の違いがあるかもしれません。

一方で産業医は、事業者との間に安衛法上の配慮義務履行補助者として法的契約の関係にあります。たとえば面接指導は何のためにしているかといえば、過重労働によるあなたの健康影響を評価し、今後の健康悪化の見込みを予見するために実施されています。これは、労働者の安全と健康を確保するために事業者に科せられた安全配慮義務履行の一環なのですが、その実務担当者として産業医が医学的判断をするために任に当たっています。さてこのとき、あなたから産業医に機微な健康情報が伝えられ、あなたの健康障害を防止する観点から、その情報についてどうしても上司もしくは担当者に伝えたほうがよいと産業医が判断する場合があります。おそらくこのような場合、上司や担当者側に提供される情報に限り、その理由と事情について事前に産業医からあなたに了解を得るための説明があるはずです。もちろん就業上の措置の実施に当たって、関係者にこの種の健康情報を提供する場合には、特に産業保健業務従事者(産業医、保健師等、衛生管理者その他の労働者の健康管理に関する業務に従事する者をいう)以外の者に健康情報を取り扱わせるときは、これらの者が取り扱う健康情報が利用目的の達成に必要な範囲に限定されるよう、必要に応じて健康情報の内容を適切に加工した上で提供する等の措置を産業医は講じます。

しかし、ご本人にその了解を得るための努力はするとしても、結果としてご本人の了解を得ることなしに事業者判断により就業措置等を行う場合があります。それは職場の緊急事態の発生やあなたの生命に危機が迫っているとき、あるいは法律上の開示強制力がある場合等にもあなたの了解なしに健康情報の開示をすることがあります。このとき、プライバシーを守ることとあなたの生命健康安全を守ることとは、おのずから後者に優先順位があることは当然だからです。

(Q-K-38)

システムエンジニアは長時間労働が避けにくいのですが、過労死防止のためどのように対処したらよいでしょうか?

【使用者側】

(1)労働時間の短縮を図る。
 労働時間の短縮については、

ア システム開発の見積を適切に行い、工程や人員の確保を適正に行うこと

イ 顧客からの急な仕様変更は過重労働の要因として最も多く、どの時点まで仕様変更を受けるか等、あらかじめ対応を顧客との間で明確にしておくこと

ウ トラブルの発生などによるシステム開発の大幅な工程遅延の場合は、工程の再設定を顧客と交渉すること

 などがあります。

(2)健康診断受診率の向上を図る。
 システムエンジニアは顧客先に常駐することが多いため、健康診断や面接指導は産業保健スタッフが顧客先に出向いて実施することも有効です。

(3)事後措置を徹底する。

(4)睡眠時間の確保への配慮を行う。
 業務が深夜に及ぶような場合には、ホテルの確保やタクシーによる帰宅など、睡眠時間を確保できるよう支援が必要です。

【労働者側】
(1)自らの過労を認識する。

(2)高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病やメタボ防止に日常から取り組む。治療している疾患は確実に治療を継続する。

(3)健康診断や面接指導を進んで受ける。

(4)就業制限などがあれば遵守する。

(Q-K-39)

脳・心臓疾患(脳血管疾患及び虚血性心疾患等)から職場復帰した従業員には、再発防止を含めどのような配慮が必要ですか?

まず、最初に注意しておくべきことは、脳疾患にも脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など多彩な疾病が含まれていること、及び同じ疾病(たとえば脳梗塞)でもその重症度によって後遺症等はさまざまであり、これらのことからも分かるとおり、ステレオタイプな配慮では十分ではないということです。診断書名即一定の配慮とは限らないので、産業医や主治医のアドバイスを受け、事例ごとに適切な配慮をすることが望まれます。

ただし、一般的には次のような配慮が望まれることが多いようです。

(1)残業禁止などの労働時間に関する配慮
特に、職場復帰直後は直ちに従前のように体調が回復しているとは限らないので、一定の配慮が望まれます。

(2)労務内容に関する配慮
後遺症の程度によっては、高所作業の禁止(平衡能や運動能の障害時)などの就業制限が必要になることがあります。

(3)通院の確保(受診時間や就業場所)のための配慮
リハビリテーションの継続のほかにも、発症の基礎となった高血圧のコントロールなどのために加療継続が必要な場合が多く見られます。

(4)その他の配慮
この中には、薬剤服用中などに必要な特別の配慮が含まれます。たとえば、眠気が強く引き起こされる薬剤服用中の場合には、危険作業は避けたほうが望ましいのですが、これは医師からのアドバイスをもとに行うべきでしょう。

以上のような、主に医学的根拠をもとにした配慮のほかにも、休業期間が長くなった事例の場合に職場がウエルカムバックの姿勢で迎えるなど、職場の基本的姿勢も重要です。高血圧や糖尿病等の生活習慣病をベースに発症することが多い脳・心臓疾患の場合、生活習慣を健全にすることが根本的な再発防止であり、職場の雰囲気が本人の取り組みの背中を押すようなものであると良いですね。

(Q-K-40)

過労死防止のため、作業環境の改善は役立ちますか。具体的にはどうしたらよいでしょうか?
 過労死の認定基準としては労働時間が最も重要ですが、認定基準に満たない労働時間であっても、時間外労働時間が月80時間程度の場合は過労死の可能性を否定できないことから、労働時間以外の負荷要因の有無などを参考に判定されることになっています。このなかに作業環境も含まれていますので、作業環境の改善は過労死防止に役立つといえます。

具体的には、温度環境、騒音環境、時差を伴う移動の頻度などが挙げられています。執務室内温度の調整は重要ですが、冷暖房も度を超すとストレス源となりますので注意が必要です。また狭い室内に多くの人がすし詰めになっている執務室とか、悪臭があったり周囲の騒音がひどかったり机上照度が十分でない執務室など、劣悪な作業環境は心身の疲労を増加させます。逆に快適な作業環境は心身のストレスを軽減しますので、過労死防止のために快適な職場環境・作業環境の確保はとても大切なのです。

事業者が快適な作業環境を作ろうとするときは、事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(平成4年7月1日労働省告示第59号。平成9年9月25日労働省告示第104号により一部改正)を参考にするとよいでしょう。

(Q-K-41)

過労死防止のため、生活習慣の改善はどのようにしたらよいですか?

1 背景
 現在、過労死は、一般的には”過度な労働負担が誘引となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化、脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症し、永久的労働不能又は死に至った状態”とされています。この”過度な労働負担”は労働時間が重視されていて、過労死防止の国の取り組みの中でも重点的な課題です。
 しかし、だからといって「過労死と生活習慣は関係がない」と考えるのは間違いです。上記のように過労死と生活習慣病の関係はまったく否定できるものではなく、個人の立場では「過労死は生活習慣病と無関係ではなく、よい生活習慣を保つことは大切だ」と考えるべきなのです。

2 過労死と生活習慣
 それでは、過労死を防止するために生活習慣のどんな点に気をつければよいでしょう。
過労死のうち心臓病は、仕事や生活習慣との関係についてよく調べられていて、その結果は示唆に富んでいます。
 まず、高血圧や高脂血症、糖尿病など生活習慣病や喫煙は明確に発症のリスクだということです。
 さらに注意すべき点は睡眠と抑うつです。睡眠時間が6時間未満の場合はあきらかに発症のリスクが高まります。また、一般にはそれほど知られていないようですが、抑うつは自殺だけでなく、心臓病のリスクでもあることは医学的には明らかで、上記の調査研究でも確認されています。

3 過労死防止の生活習慣
 上記のことから、過労死防止には、生活習慣病は医師等のもとで適切に管理する、その上で、a.生活習慣病の予防・改善のためバランスのよい食事と適度な身体活動、b.禁煙を心がける、c.睡眠時間を確保してストレスや抑うつ感をため込まないこと、が大切です。
 つまり、適度な身体活動と禁煙、さらには充分な睡眠でリフレッシュを心がけることが過労死防止の大切な生活習慣のポイントと言えるでしょう。

(Q-K-42)

過重労働と長時間労働とは同じことを意味しているのでしょうか?
同じことを意味していません。過重労働とは健康障害が発生するほどの過重な負担を伴う労働のことで、「労働時間の長さ」と同時に「労働の質」も重要な要素となります。長時間労働とは文字通り長い時間働くことで、「月80時間以上の時間外・休日労働」を行った場合が一つの目安となります。過重労働の代表的なものが長時間労働ですが、労働時間がさほど長くなくても、1 不規則な勤務(トラック運転手・医療スタッフ・記者・警察官など)、2 拘束時間の長い勤務(タクシー運転手・医師・警備員など)、3 出張の多い業務(営業職など)、4 交替制勤務・深夜勤務(工場労働者・病院看護婦・保安勤務者など)、5 人間関係のストレスが多い業務、6 厳しい作業環境(温度・騒音・時差)での業務(鋳造所労働者・欧米への出張が多い勤務者など)、7 精神的緊張を伴う業務(列車の運転手など)を伴う場合には過重労働となることがあります。なお事業者は、労働者の週40時間を越える労働が1か月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、医師による面接指導を行わなければならないと規定されています。長時間労働以外の過重労働でも、事業所で定める基準に該当する場合は、面接指導または面接指導に準ずる措置の実施が必要になります(努力義務)。

(Q-K-1)

働きすぎると健康に障害がでるのでしょうか?

日本人の死因の約1/3を占める脳血管疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞等)や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)は、血管病変の形成、進行及び悪化により発症します。

働き過ぎが長期に及ぶことにより、休息や睡眠の不足から疲労が蓄積し、血管病変をその自然経過を超えて著しく増悪させ、脳血管疾患や虚血性心疾患が発症することが知られています。これらの疾患の労災認定基準では、時間外労働(休日労働を含みます。)について、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いとされています。

また、長時間労働により疲労やストレスが蓄積すると仕事などに対するモチベーションの低下やメンタルヘルス不調に陥ることが社会的注目を浴びています。

(Q-K-2)

過労死とは働きすぎて死んでしまうことでしょうか?
過労死は、一般的には”過度の労働負荷が誘因となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳・心臓疾患を発症し、永久的労働不能や死に至った状態”と定義されています。死に至らなくても、重い後遺症により永久的に働けなくなった場合も過労死に含みます。こういった意味で、過労死とは働きすぎて死に至ることであるというのは、間違いではありません。

労災認定基準では、”過重業務による脳・心臓疾患”と呼ばれ、脳出血や脳梗塞等の脳血管疾患、心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患等が過労死の認定対象とされています。

(Q-K-3)

交代勤務をしていますが、最近体調がおもわしくありません。どうすればいいのでしょうか?

まずは感じている体調不良の内容をよく吟味する必要があります。たとえば、誰でも(交代勤務者でなくても)体力低下でカゼをひいてしまえば体調不良となりますし、持病の高血圧などが悪化することによっても体調不良は起こります。今回の症状が、たまたまの体調不良なのか、それとも交代勤務という要素が関与してのものなのかを検討する必要があるのです。

人間は24時間のサイクルで生活していて、通常「昼間に活動して、夜間に睡眠する」という生活が一般的です。しかし職業や業務の関係で交代勤務(シフトワークとも言います)をせざるを得ない労働者も多く、本来睡眠しているはずの夜間に仕事をしなければならないことから、生体の日内リズムに不調が生じ、それが原因で健康障害をもたらす可能性があると指摘されています。研究では、交代勤務者は日勤者に比べて、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にかかりやすいとか、心筋梗塞や狭心症にかかりやすい、また睡眠障害やある種のがん(前立腺がん、乳がん等)も発生しやすい等、いくつかの報告もあります。概して、不規則な勤務時間によって疲労が蓄積し、体内時計が乱れ、適量の脳内物質(メラトニンなどのホルモン等)が適時に分泌されないことや、自律神経系・免疫系も不安定になりやすいことから一連の体内不調が想定されています。しかしどれも、交代勤務との明確な因果関係によるものであるとの立証に及んでいないことから、健康保護の観点からは、特定業務従事者への健診の実施が法律化されるにとどまっており、健診項目についても一般健康診断項目と差がなく、その特殊性は見られません。

さて当面の対処ですが、まずは現症状の回復が優先です。症状が重く業務遂行にも支障がある程度であれば、その旨を職場に申し出て健康回復のための療養を選択しなければなりません。そうではなく、就業継続が可能なのであれば、上司には症状の報告を一応しておいた上で、ご自身で健康回復のための工夫をしましょう。たとえば、夜間勤務中には1時間以内の仮眠をとる。勤務明けは寄り道をせずにさっさと帰宅し、自室はカーテンなどで太陽光線を遮って早々に眠る。職場から自宅までの間も強い太陽光線に当たらないようにサングラスをかけること(自宅での睡眠をすみやかにするため)や、食事も自宅に着く前に軽く済ませておくこともいい工夫です。また半年に一度の健診の時には、ぜひ今回の症状を医師に伝えてアドバイスをもらいましょう。それでも体調不良の改善がなければ、産業医に相談する、もしくは専門医の受診をしたほうがいいでしょう。診断の結果、交代勤務との関連性が強く疑われるようであれば、労働条件変更のためにも主治医から診断書を発行してもらい職場に提出して就労条件の緩和や職場環境の改善をお願いしましょう。

(Q-K-4)

労働時間については、自分で決めることができ、自分で好きなだけ働いてよいのでしょうか?
それは出来ません。労働基準法は労働時間に関する制限を定めており、事業者は労働者に休憩時間を除いて「1日に8時間、1週間に40時間」を超えて労働させてはいけないと規定しています。法定の労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させる場合や法定の休日に労働(法定休日労働)させる場合には、あらかじめ労使で書面による協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出ることが必要です。この協定のことを労働基準法第36条に規定されていることから、通称「36(サブロク)協定」といいます。したがって労働時間に関しては労働基準法を遵守する必要があります。

また、近年過重労働が深刻化して非常に大きな社会問題となってきたことを受けて、平成17年に労働安全衛生法が改正され(平成18年4月1日施行)、脳・心臓疾患を予防するため、労働者の週40時間を超える労働が1か月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、事業者は医師による面接指導を実施することが義務付けられました。平成18年3月17日に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」という行政指導通達が示され、過重労働による健康障害防止のために、事業者に対して、1 時間外・休日労働時間の削減、2 年次有給休暇の取得促進、3 労働時間等の設定の改善、4 上記の面接指導を含めて、労働者の健康管理に係る措置の徹底などが求められるようになりました。

さらに、最近は日本人の働きすぎに対する反省から、「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」という言葉が徐々に理解され浸透してきました。これは健康で豊かな生活をめざして、生活・家庭・社会を考えながら仕事をすることが重要であるという考え方です。その実現のために「勤務時間の短縮制度の整備」、「育児休業・介護休業の利用促進」などが重要な課題となってきています。

(Q-K-7)

いくら残業を減らすようにしても、うちで仕事をしていては意味がないと思いますが、どうなんでしょう?
所定の労働時間以外に働く時間外労働を残業と呼んでいます。家に仕事を持ち帰り仕事をすることを「ふろしき残業」などと言われることがあります。会社以外の場所でも仕事をしていると原則として労働とみなされます。どのように把握・評価するかが問題になるところですが、時間外労働の対象となりますので、労働時間として時間管理を行うことが求められます。仕事以外の家事を加えたりする場合に、断続的な仕事とみなされることもあるかもしれませんが、仕事をしないときのようなリラックスした状況ではないわけですから、長期間・長時間にわたってこのような状況が続いていると、”心やからだ”に対する健康障害があらわれてくることになりますので、注意が必要です。

(Q-K-8)

残業時間の削減に取り組もうとしたら、一部の部下から、残業手当を見込んだローンを組んでいるため困るという相談を受けました。どうしたらよいでしょうか?
労働基準法に法定労働時間は「1日8時間以内、かつ1週40時間以内」と規定されており、時間外労働・休日労働は本来禁止されています。したがって残業は例外的に労使協定(36協定)が締結されている場合に限って、その範囲内で許される性質のものです。したがって事業者も労働者もこの労働時間内で労働することが基本となります。ですから、最初から残業手当を見込んでローンを組むことは、リスクという観点からも好ましくはないものです。職場では、仕事の効率化が図られることなく残業時間が増えるようになると、組織のモラールが低下する恐れもあります。また残業が常態化すると、結果的に事業者が残業を黙認していることにもなり、それにより健康障害を生じ過労死などの労働災害が発生するなど、事業者責任が問われたりする可能性もあります。

したがって、本人には何故労働時間が定められているかを説明し、基本的な労働時間を守るように指導します。組んでいるローンに関しては、1.金融機関と相談してローンの組み直しを助言することも有効です。もしそれがうまくいかない場合には簡易裁判所の「調停」を利用する方法があります。一度簡易裁判所に相談されてもよいと思います。その他、2.会社の組合に相談する、3.弁護士に相談する、4.司法書士に相談する、などの方法もあります。

(Q-K-9)

夜遅くまで働くのはうるさくいわれますが、朝早くから働くのは問題ないでしょうか?

 時間外労働(残業)と聞くと、夜遅くまで働く姿を想像しがちですが、実際には法律で定められた時間数を超えれば、早朝に労働をしても時間外労働となり、注意が必要になります。

労働基準法に、使用者は1日8時間、1週間で40時間を超えて労働をさせてはならないと定めています。時間外労働ができるのは、労働者と使用者で労働時間の延長の上限などについて合意し、協定を結び、その協定が労働基準監督署長に届けられている場合です。その場合、就業規則で決められている始業時間より早い時間帯、及び終業時間より遅い時間帯で労働をすれば、法定労働時間の8時間を超える時間が、法律上の時間外労働となります。

ただし、上司の指示ではない場合(使用者の指揮命令下にない労働)や時間外労働をする必要性がないのに自主的に就業時間以外に労働を行っている場合、あるいは変形労働制の場合などでは、時間外労働と認められない場合がありますのでご注意ください。

また、労働基準法上の管理・監督者に該当する合には、時間外労働、休日労働等の規定の適用が除外されます。

一方、交替制勤務で問題になりますように、不規則な労働は体調への影響もありますので、健康面での注意も必要です。深夜業(夜10時から朝5時までの間に従事する業務)に常時従事する労働者には、その業務への配置替えの際とその後6月以内ごとに1回、定期に健康診断が行われることになっていますので、お受けください。

(Q-K-10)

毎月70時間程度の時間外労働をしています。産業医の面接には呼ばれませんが、かなり疲労を蓄積している気がします。どうしたらよいでしょうか?
複数月にまたがり連続して長時間の時間外労働に従事し、かなりの疲労の蓄積を自覚しているということですから、産業医の面接指導を受けたほうがよいと思われます。

長時間労働を行う者に対する産業医による面接指導の対象者を選定する基準として、労働安全衛生規則で定める基準や事業場で定める基準に該当しない場合であっても、事業者に面接指導の希望の申出を行うことで対象となる可能性があります。この際に、申出を行ったことで不利益な扱いをすることを禁じることが求められています。また、産業医の業務である健康相談として、産業医に直接相談することも可能です。この場合、事業場に保健師等がいる場合は、保健師等に相談して産業医に情報を速やかにつないでもらうのも良い方法です。

(Q-K-11)

毎月90時間程度の時間外労働をしています。昔からこの働き方で自分はそれほど負担とは思っていませんが、毎月のように産業医の面接に呼ばれます。意味があるのでしょうか?
毎月定常的に相当程度の時間外労働をしていて負担とは感じないということですから、気力・体力ともに充実した素晴らしい労働生活を送っていることと思われます。ただし、注意していただきたいのは、このようなときは仕事に集中しているばかりではなく、もしかすると疲労や身体症状への自覚がないだけなのかもしれない、ということです。

長時間労働による心身の疲労は自覚できない場合も多く、従業員の健康状態と職場の状態をよく知る産業医による問診が決め手となって見つかることも少なくありません。また、若い時はがむしゃらにできたことも、年を経るに従い体力の衰えや背負った責任の重さなど、周辺事情が変化して、知らず知らずに重圧となっていることも考えられます。血圧変動や睡眠リズムの乱れはもとより、食生活の乱れや体重変動なども身体バランスを崩す可能性があります。また、長時間労働が恒常化していると、何かのきっかけで急速に抑うつ状態に陥る危険性もあります。毎月産業医面接に呼ばれるということは、会社も産業医も質問者の健康を心配してのことと思われます。ぜひ産業医の面接を受けていただき、心身の状態をご自分でも把握できるよう、いろいろと相談してみてください。

ただし、面接は月の労働時間を把握してから行われることから、早くても長時間労働を行った翌月の実施となるため、おおむね2か月分の状況を踏まえた面接となることから、医師が必要ないと認めた場合は2か月連続で受ける必要はありません。どうしても必要ないと感じられる場合は、この条件の適用について産業医と相談してみるとよいでしょう。

(Q-K-12)

事業場が労働時間の削減を図るための具体的な方法にはどのようなものがありますか?
労働時間の管理体制を確立して有効に労働時間管理を行うことです。労働時間の適切な把握のために、使用者が実行すべき措置としては、1 始業・終業時刻の確認と記録、2 始業・終業時刻の確認及び記録のための適切な方法の設定、3 労働時間の記録に関する書類の3年間の保存、4 労務管理責任者による労働時間の適正把握等の管理、問題点の把握とその解消、5 労働時間等設定改善委員会等の活用などがあげられています。

サービス残業に対して労使が一体となって取り組むべき事項としては、1 サービス残業のチェック機関である労働時間等設定改善委員会(これがない場合には新たな企業内労使協議組織)を設置すること、2 勤務時間の自己申告を原則禁止し、客観的なシステムで管理すること、3 サービス残業を行った労働者も、これを許した現場責任者も業績評価しないこと、4 過去にサービス残業があった職場では、指示系統が異なる複数の責任者を設定すること、5 企業トップが直接情報を把握できるような投書箱や専用電子メールアドレスを設定すること等があげられます。

行政からの通達や指針も加味して、適正な労働時間の徹底および協定手続きについての協議を労働時間等設定改善委員会、労使協議組織等で行い、時間外労働についての統一見解を持ち、過重労働による健康障害についての対応を衛生委員会がチェック機能をもった組織として対応することが必要です。

(Q-K-13)

営業職で外回りが主体の職場ですが、どのように時間の管理をする方法があるのでしょうか?
外回りの多い営業職の場合や、ほとんど事務所に不在で「労働時間の把握が難しい職種」の場合には、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」という制度(労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす(労働基準法第38条の2)の適用が可能です。本来であれば会社は、労働者の始業時刻、終業時刻および休憩時間を把握・記録して、それに基づいて給与を支払うわけですが、これらが困難であるため、事業場外での労働時間の算定が困難なときは、原則として所定労働時間(就業規則で定められた時間)労働したものとみなす制度です。なおこの際、1 労働時間が、業務遂行上法定労働時間を超える必要がある場合には、その通常必要時間については労使協定にて内容を決定しておくこと、2 この通常必要時間が法定労働時間を超える場合に限り、所轄労働基準監督署長へ届け出る必要があること、3 みなし労働時間制に関する規定が適用される場合であっても、規定外の残業、深夜、休日に労働した場合には、それぞれ割増賃金を支払うことが必要です。

(Q-K-14)

同じ職場のみんなと同様におおむね毎月60時間ほどの時間外労働をしていますが、家族が慢性疾患を患っており、もう少し早く帰宅する必要が出てきました。過重労働とは考えていませんが、このような場合も相談をしてもいいのでしょうか?
複数月にまたがり連続して比較的長時間の時間外労働に従事しているということですが、過重労働の自覚はなくても、事業場において定められた対象基準に該当する場合は、申出によって、産業医の面接指導を受けることができます。また、産業医の業務に健康相談への対応がありますので、長時間労働と関連しなくても健康相談として直接産業医に相談することは可能です。

質問者のご希望は帰宅時間を早くすることであり、正規の就業時間は勤務が可能ということであれば、ご自身の健康問題ではなく家族対応ということですので、むしろ産業医ではなく上司や人事労務部門への相談のほうがよいかもしれません。時間外労働は会社(通常は上司)が命ずるものですが、緊急の場合等を除けば、社会通念上からも労働者の福祉を損ねるものであってはならないので、事情を話して、よく相談してみることをお勧めします。なお、家族の方が要介護状態にある場合は、育児・介護休業法により、午後10時から午前5時までの深夜時間帯の就業を制限する規定があります。

(Q-K-15)

時間外労働時間は大して多くありませんが、海外との取引の関係で、早朝や深夜にTV会議などをしています。このような場合も過重労働になるかもしれないとして健康相談をしていいのでしょうか?
時間外労働時間数に関係なく、体調不良などを自覚される場合には、産業医などにご相談ください。

労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間や、使用者の明示、黙示の指示(指示をしていなくても、従業員が時間外労働をしている現状を使用者が知っている場合)による業務関連の行為をなすために拘束される時間です。ですので、職場で実施されているTV会議は労働時間となります。

一方、深夜業(夜10時から朝5時までの間に従事する業務)に常時従事する労働者には、その業務への配置替えの際とその後6月以内ごとに1回、定期に健康診断が行われることになっていますので、その機会を利用されるのも一つの方法かと思います。

また最近の労働災害関連の判例では、単に時間外労働の時間数だけでは疲労の蓄積を判断できないと考えられるようになってきています。さらに厚生労働省の過重労働対策通達にも、時間外労働は本来臨時的な場合に行われるものであることから、月45時間以下の場合でもあっても、健康に影響の出ないように、事業者は時間外労働を短縮する努力を求められておりますので、不規則な労働による疲労蓄積を自覚される場合には、会社の産業保健スタッフや安全衛生担当者にご相談ください。50人未満の事業所で、事業所内で相談しにくい場合には地域産業保健推進センターをご利用ください。

(Q-K-16)

心身の不調により、産業医に相談し、1か月の残業を10時間までとしてもらっていますが、上司はあまりそのことを認識しておらず実際は大幅に超えた労働をしています。このような場合どのようにしたらよろしいでしょうか?
産業医の面接指導により、産業医から事業者(会社)へ就業上の措置に関する意見が出され、それを勘案して会社が残業規制を実施しているにも関わらず、実際には遵守されていないという事例です。このような場合は、上司が質問者に関する会社の残業規制を知らないのか、知っていて無視しているのかによって社内の対処が異なることが考えられます。本来であれば人事労務部門や社内のコンプライアンス部門に相談することが適当と思われますが、心身の不調によって就業制限されているのですから、そのような相談ができない状況も考えられます。その場合は産業医に再度相談していただくと、産業医から話を通してもらえます。産業医の意見に基づく措置が決定されたにも関わらず実行されていないことになりますから、産業医は会社に対して改善のための勧告を行うことができます。また、なぜ実行されていないのかを調査することにより再発防止を図ることができます。産業医は労使から独立した立場で公平な判断を行うものであり、守秘義務もありますので、気兼ねなく相談してみてください。

(Q-K-17)

自殺予防対策関係

夫がうつ病で通院中ですが、うつ病の人は自殺しやすいと聞きとても心配です。何に気をつければよいでしょうか?
日本の自殺者は年間3万人をいまだに越えており、減る様子はなかなかみえません。自殺者の中でうつ病がどの位の割合を占めているのかは正確な数字はわかっていませんが、いろいろな調査では少なくとも30~40%を占めるのではないかといわれています。しかし、ハッキリとした自殺の原因があったとしても、そのために気分がゆううつになり自殺に結びついた場合も加えれば、その率はさらに高くなるでしょう。

うつ病の経過の中では自殺の可能性は常にあるといえますが、特に注意が必要な時期としては、病状が非常に悪くなった時、病状が少し改善してきた時が危険であるといわれています。それは、病状が悪い時には自殺を考えていても実行できないのですが、むしろ少し良くなった時期になると行動力が少し戻ってきて、なお自殺を考えていると自殺に至るといわれています。また、病状がかなり回復して環境が変わる時期、例えば仕事を休んでいた人が再び職場に戻るような時期、が危険であるといえます。このときは環境の変化とともに、いったん回復した病状が不安定になり自殺が起こりやすいと説明されます。

自殺のサインとして、一般的に言われるのは過去に自殺未遂がある人は最も重要な危険因子といわれています。また、自殺をほのめかす言葉を口にする、遺書を書く、自殺の道具を準備するなどの具体的な自殺への準備は当然ですが、自分の身の回りを整理する場合も危険なサインといわれています。うつ病で治療を受けている場合には気分が沈む、涙もろくなる、仕事の能率が悪くなるなどの症状の悪化がみられ、「生きていても仕方がない」という自殺をほのめかす言葉のほかに、「皆さんに申し訳ないことをした」などと自分を責める言葉が聞かれた時にも注意が必要です。また、酒量が増えることも危険です。そもそもうつ病で治療を受けている場合には、アルコールはうつ病を悪化させますので飲酒は厳禁ですが、隠れて飲んでいたりする場合には注意が必要です。自分の安全や健康を守る行動が取れていたのに、それを怠るなどの行動の変化も自殺のサインです。例えば、糖尿病を患っていてもそれまでは自己管理がきちんとできていたのに、食事療法や運動も止めてしまうなどという変化も危険なサインです。

これらのサインを感知したときの対処としては、相手に対して心配していることを伝え、死にたいと考えているかと尋ねてください。そして相手の話によく耳を傾け、絶望的な気持ちをまず受け止めるために聞き役に徹してください。そして、主治医によく相談し、薬剤を変えてもらい、場合によっては入院治療を考慮したほうが良い場合もあります。

(Q-S-1)

過労自殺の過労とはどんな状況のことでしょうか?
過労とは、疲労が回復しないうちに、次の疲労が加わり、これが繰り返されて、疲労が蓄積した状態をいいます。過労自殺については、仕事により疲労が回復されない状態が続き、これに、仕事上の他の要因、仕事以外の外部要因、本人の要因などが加わるなどにより、うつ病などの精神疾患にかかり、自殺に至ることをいいます。過労の仕事上の要因としては、長時間労働を背景とする睡眠不足によって疲労回復が阻害されることが最もよく見られます。仕事上の精神疾患の要因としては、この長時間労働のほか、仕事の質や密度が高いこと、人間関係が悪いこと(パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを含みます)、心理的負荷の大きい出来事に遭遇することなどがあります。

過労自殺の代表的な事例としては、電通事件があります。「常軌を逸する長時間労働」(平成8年(1996年)東京地裁判決)によりうつ病にかかり、自殺した入社2年目の社員の遺族が損害賠償請求訴訟を起こしたもので、平成12年(2000年)、最高裁は、初めて仕事と精神疾患の因果関係を認めて会社の安全配慮義務違反があると認定し、差し戻しとなった東京高裁において約1億6800万円を会社が支払うことで和解しました。

(Q-S-2)

自殺の前兆ってわかるものでしょうか?

本当に自殺をとげてしまう方の中には、周りに気づかれないような確実な方法を選ぶことが多いようです。したがって、自殺に気づかなかった自殺者の身近な人を責めることはできませんし、自殺の前兆はこれだ、と言い切ることは難しい点があります。しかし実際には、自殺の直前のサインを発していることもよくみられます。自殺の直前のサインとして言われているものを以下に示します。

いつもと違う言動・行動が見られるようになります

  • 急な、場にそぐわないあいさつをする 「お世話になりました」
  • 不意に実家の仏壇に手を合わせに来る
  • 不釣合いな時期にお墓参りに行く
  • 急に明るくなる
  • 手紙や写真の整理をする
  • 急に昔の級友や親戚の消息を気にする
  • 大切なものをあげたり整理する
  • 急に昔の思い出話をする
  • 「死にたい」、「生きていても意味がない」としきりに訴える
  • 「自分が生きているだけでみんなに迷惑をかける」
  • 「この先ずっと、間違いなくこの(悪い)状況は続く」

心理的には、絶望感・孤独・無価値感などが要注意と言えるでしょう。

周りの方の観察・サポートが大切なことは言うに及びませんが、良かれと思ってはいても、関わりすぎてしまうと本人の悩みを深めることがあります。つまり、「周りの人にそこまでさせてしまって・・・だから自分はダメなんだ」という考えに陥ってしまうということです。”適度な距離を保ちつつ(考えつつ)関わる”、そのような態度はすぐに身につくものではなく難しいことですが、日頃からの心がけが大切だろうと思います。もちろん、これから自分を傷つけることが明白な場合はこれに限りません。

(Q-S-4)

日ごろ親しくしている職場の同僚から「もう死んでしまいたい」と打明けられました。どのように対処したらよいでしょうか?

「自殺したい」などと打ち明けられると、恐怖感に襲われてしまうのはごく普通の反応です。必死になって励まそうとしたり、助言を与えようとしたり、一般的な社会通念を押し付けようとしたり、叱ったりしがちですが、これは禁物です。このような態度を取ると、開きかけていた心をふたたび閉じてしまい、自殺が実行されてしまうかもしれません。「この人ならば自分の絶望的な気持ちを真剣に受け止めてくれるはずだ」との気持ちから打ち明けています。ですから、徹底的に聞き役に回る必要があります。

自殺の危険を感じたり、自殺の意図を打明けられりした場合にどのように対応したらよいか、カナダで自殺予防活動を実施しているグループがTALKの原則としてまとめています。TALKとは「Tell,Ask,Listen,Keepsafe」の頭文字を取ったものです。

T:最近の様子をみていると、とても心配しているとはっきりと言葉に出して伝えます。

A:自殺の危険をうすうす感じているならば、率直に尋ねてください。真剣に対応するなら、自殺を話題にしても危険ではありません。むしろそれは自殺予防の第一歩になります。

L:傾聴です。励まそう、助言しよう、叱ろうなどと思ったり、気分転換のためにどこかに連れて行こうという気持ちが湧き上がったりするかもしれません。しかし、最初にしなければならないことは徹底的に聴き役に回ることです。相手の絶望的な気持ちを真剣に聴いてください。

K:危ないと思ったら、その人をひとりにしないで、安全を確保したうえで、必要な対処をしてください。周りの人々からの協力も得るようにします。危険だと考えられる人とは、はっきりと自殺を口にしたり、自分の身体を傷つけたりする行為に及んだ人です。このような人は、確実に精神科受診につなげるようにしてください。

(Q-S-5)

主人が最近「死にたい」と言い出しましたが、家族としてどのように対応すればいいのでしょうか。
まずは「なぜ死にたいのか」また「なぜ死ななくてはならないのか」を本人とじっくりと話し合うことが大切です。おそらく「死にたく」なる位悩んでいることがあるはずですから、その悩みを聞いてあげることが家族の役割です。

そして一人で悩まず、その解決方法を一緒に考えて家族としてできること、あるいは他に相談して解決する可能性を押しつけにならないように寄り添って考えていく姿勢を示すことです。悩みを解決する方法として死ぬ以外の他の選択肢を強調し、本人にどのような理由であっても家族として「あなたには死んで欲しくない」、「悩みがあるなら、一緒に考えていきたい」、「早まったことはするな。自殺して死んでしまうようなことがあったら、我々も生きていけない」となるべく具体的に死にたい気持ちに目を背けず自殺をしないことを固く約束するべきです。

また本人がうつ病にかかっている可能性が高いので、なるべく目を離さないようにしてできるだけ早く精神科医に受診することをおすすめします。本人が受診に拒否的な場合は会社の健康管理室があればその産業保健スタッフや地域の保健所で相談することも可能な場合もあります。≪専門医療機関は?≫≪精神科や心療内科はなんとなく気が引ける。相談する場所は他に?≫も参考にしてください。

(Q-S-6)

同僚の手首に引っかき傷が多数がありました。この人は近い将来本当に自殺してしまう可能性は高いのでしょうか?
手首にひっかき傷があっても古傷であれば、どのようにしてできた傷かわからないので、あまり詮索しない方がいいでしょう。ですが、手首に新しいひっかき傷が頻回にできるようであれば、精神的に不安定なのかもしれません。その同僚が自殺する可能性についてはその時の状況で一概に判断できません。そのひっかき傷の程度にもよりますし、ケースバイケースですが、その同僚の方がいつもと違う様子で、悩んでいるようであれば同僚として話を聞く余裕があれば聞いてあげることで悩みが解決する糸口になるかもしれません。しかしそこまでプライバシーに立ち入れないのであれば、上司や産業医に現時点での同僚の様子を報告し同僚としてどのように接した方がいいか、相談してはいかがでしょうか?

(Q-S-7)

自殺未遂をした部下がいます。それ以来、腫れ物を触るような対応になり、周りの方が疲れています。どうすればいいでしょうか?
最初のステップとして職場の産業医に相談して現在の職場の状況を伝え、どのように対応すればいいのかを、上司個人が相談する方法をおすすめします。本人の状態によりますが、状況により本人抜きで産業医に相談したほうがいい場合もあると思います。ですが可能であれば、本人も交えて産業医に職場のキーパーソンと一緒に話し合いをすることができれば理想的です。個人情報の問題もありどこまで踏み込んだほうがいいのかは、ケースバイケースです。

以下は会社の産業医が会社におらず、医療的な助言が得にくく、上司本人単独で対応しなくてはならない状況でのアドバイスです。

自殺企図者の多くは何らかの精神疾患、特にうつ病になっている場合が多いと言われていますから、現時点で精神科に通院中かどうか、つまり主治医がいるかどうかを個人的に確認する必要があります。もし主治医がいなければ精神科の医療にうまくつなげる必要があるでしょう。もし主治医がいるのであれば現時点で主治医からどのような助言をされているのか、本人に聞いてみてはいかがでしょうか?あるいは症状が悪化したときは、どのような状態になるのか、また上司からみても判断できるサイン(顔色がわるい、離席が多くなる、パフォーマンスが落ちるなど)があるか、本人に確認してください。そして上司からわかるサインがない場合(本人しか自覚できない症状、不眠、頭痛、動悸、腹痛)であれば本人に自己申告してもらうか、上司が声かけをして確認することも必要でしょう。

そして悪くなったときの対応方法(自己申告をする、または緊急の家族の連絡先などを本人に了解を得る)が確立できていれば、日常の勤務についてはあまり神経質にならず、普通に接することが大切です。他の部下の方が神経質になっているようであれば、「現在は安定しており、普通に接して欲しい、もし何か変わったことがあれば(具体的に上記のサイン)上司の私に教えて欲しい」と伝えてもいいと思います。

(Q-S-8)

家族が自殺未遂しました。どのように接すればいいのでしょうか。また、治療が必要なのでしょうか。
家族が自殺未遂をした場合ですが、本人とキチンと向き合って、現時点で何に悩んでいるのか、またなぜ死ななくてはならないと考えたのか、尋ねてみることです。そして一人で悩まず、その解決方法を一緒に考えて家族としてできること、あるいは他に相談して解決する可能性を押しつけにならないように寄り添って考えていく姿勢を示すことが重要です。死ななくてはならなかった理由について死ぬ以外の他の選択肢を強調し、本人にどのような理由であっても家族として「あなたには死んで欲しくない」、「悩みがあるなら、一緒に考えていきたい」、「早まったことはするな。自殺して死んでしまうようなことがあったら、我々も生きていけない」となるべく具体的に自殺を図った事実から目を背けずに2度と自殺をしないことを固く約束することが必要です。

また、今後また死にたくなったら、ぜひともそのことを家族に伝えて欲しいと約束しておくことも大切です。そして本人の悩んでいることが聞き出せたら、具体的にその解決方法を常識的な範囲で提案することです。その解決方法に本人が納得しなくても、時間をかけながら、家族として一緒に解決方法を考えていく姿勢を強調し、死ぬこと以外の解決法があることを繰り返し説明し、本人の考えを否定せずに聞いてあげることです。その一方で自殺未遂に至るまでに本人が、うつ病などの精神疾患にかかっていた可能性が高いので、早まった行動をしないように目を離さず、早めに精神科の受診をさせるべきです。本人が受診に拒否的な場合はうつ病になる正常な判断力が低下して、正しい選択肢が見えなくなり、誤った判断をして自殺してしまうことがあることも本人に伝え、家族としては心配なのでぜひとも受診して欲しいと説得すべきです。どうしても受診に拒否的な場合は家族が地域の保健センター、または保健所の精神保健の保健師等に相談してどのように対応して受診に結びつけていけばよいか、助言を受けることもできます。少なくとも本人が安定するまでは目をはなさないことが大切です。

(Q-S-9)

高校生のときから自殺願望があります。死にたい気持ちを抑えられません。自殺はやはりしてはいけないでしょうか?
死にたくなる気持ちが高校生時代から持続しているのであれば、うつ病などの精神疾患にかかっていた可能性もあります。ゆううつな気分が持続して物事を悲観的、否定的にとらえたり、不眠がちであったり、原因不明の身体的不調が持続しているようであれば、うつ病にかかっていたから「死にたくなる気持ち」が抑えられなかったのかもしれません。「死にたくなる気持ち」のからくりの一つとしてうつ病の病状の特徴として思考障害が起きると、物事を客観的に判断できなくなり、否定的に悪い方向にばかり考えてしまい、死ぬ以外に問題を解決する方法がない、と思い込んでしまうことがよくあります。

また周りに人がいないのに頭の中で人の声が聞こえてくるような幻聴や、周りの人間が自分に対して悪意を持っているのではないかと考えるような被害妄想などに支配されてしまい、「死んだほうが楽だ」と思い込むこともあります。このような症状として思い当たることがあれば一度精神科医を受診してみてはどうでしょうか?

(Q-S-10)

うつ病から職場復帰するときは自殺のリスクも高くなると知りました。どうすれば予防できますか?

職場復帰は慎重に。

職場復帰をスムーズに進めるためには、まず体調を十分に回復させることです。うつ病の人はもともと責任感が強く、あせりから、早すぎる職場復帰を望むことがあります。また、うつ病の回復過程においては、一般的に症状により軽快する速さが異なり、働きたい気持ちと働く能力にズレが生じます。中途半端な職場復帰は、再発のもとになりかねません。集中力や判断力が回復し、復職のことを落ち着いて考えられるようになれば、職場復帰の準備にはいりましょう。

さて、職場復帰に際しては、段階的復帰が基本となります。たとえば、最初は「半日勤務」からはじめて、次は「一日勤務で残業なし」、そして、「通常業務に戻る」などのように段階的に仕事になじませてゆきます。ですが、それぞれの会社の制度の違いによっては、復職を開始するタイミングも異なりますので、自社の復職制度をよく理解することが必要となります。なお、厚生労働省では、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表していますので参考としてください。また、最近、医療機関などが実施するようになってきました、職場復帰をスムーズに進めるためのリハビリである「復職支援プログラム(リワーク)」を活用するのも有用でしょう。

いずれにせよ、主治医、産業医・産業保健スタッフ、人事労務担当者・上司と本人・家族が十分な面談を行いつつ、慎重に職場復帰時の環境調整や再発防止のためのノウハウについて話し合っておくことが肝要です。もちろん、何らかの異変に気づいたときには、早めに受診を心がけましょう。

(Q-S-11)

夫が職場で大きなミスをおかしてしまい、ひどく落ち込んでおり、自殺を考えるのではないかと不安です。どうすればいいですか?
まずは見守り、長引くようなら専門医へ。

仕事上での大きなミスなら、気持ちが落ち込むのも無理はありません。どんな人でも、嫌なことがあると憂うつな気分になります。これはだれにでもあることで、このような状態は「抑うつ反応」と呼ばれ、「うつ病」とは区別されています。通常、ほかのことで気が紛れているうちに元気になり、憂うつな気分は数日程で徐々に消えていきます。

ところが、中には「死にたいあるいは消えてしまいたい気持ち(希死念慮)」が非常に強い方や憂うつな気分が2週間以上も持続する方も稀ながらいます。こういった方々には、心療内科や精神科を標榜している専門の医療機関への速やかな受診をお勧めいたします。したがって、よく見守った上で、SOSを見逃さないことが肝要です。どうしていいか悩んだ時にもけっして一人で抱え込んだりせずに、かかりつけ医あるいは専門医に相談しましょう。

(Q-S-12)

最近気分がふさぎ込んで、消えてしまいたい気分におそわれます。誰かに相談したいのですが、どこにいけばいいですか?
ご相談は、かかりつけ医か専門医へ。

「最近気分がふさぎ込む」とのことですので、どうやらうつ状態が疑われるようです。うつ状態では、ほかにも、「今まで楽しめていた物が楽しめない」といった症状などが見られることがあります。うつ状態の原因には、心理的要因(心的ストレス)や身体的要因(身体疾患)などのいくつかの要因が考えられます。「抑うつ反応」であれば自然回復が、また「うつ病」であれば、薬物療法と休養で回復が期待できます。

したがって、気分や体調の変調に気づかれた際には、通常、まず、かかりつけ医の受診をお勧めいたします。しかしながら、ご質問では、「消えてしまいたい気分(希死念慮)」が認められることから、心療内科や精神科を標榜している専門の医療機関への受診が適当かもしれません。ただし、専門医を受診される場合でも、可能なかぎり、かかりつけ医(もしいれば)による紹介状(診療情報提供書)を持参されることをお勧めいたします。

(Q-S-13)

夜中までの残業が続き、家でも沈みがちであった主人が自殺をしました。労災になるのでしょうか?
自殺が労災として認められるには、自殺に至るまでにうつ病などの精神疾患に罹患していたこと、およびその精神疾患が業務に起因して生じたことが認められる必要があります。平成11年に国が「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を策定し、精神障害等の労災認定についての判断の指針が出されました。平成21年には一部改正され、現在ではこの指針に基づいて労災認定が行われます。

長時間の時間外労働をはじめ、業務の集中化や職場でのひどいいじめによる心理的負荷など、職場におけるさまざまなストレスからうつ病等精神疾患を発症し、その結果自殺をされる事例が増えつつあります。平成20年度には、全国で66名の方の自殺(未遂を含む)が労災の支給決定を受けています。

ご相談の内容からは、ご主人がうつ病に罹患しておられた可能性も疑われますが、実際に労災に該当するかどうかは詳細な調査が必要となります。より詳しくお知りになりたい方は、最寄りの労働基準監督署、都道府県労働局にお問い合わせください。

(Q-S-17)

企業で自殺予防対策に取り組みたいのですが、なにをすればいいでしょうか?

企業で自殺対策予防に取り組む場合、単に自殺予防のみに取り組むのではなく、企業全体のメンタルヘルス・ケアに取り組むことが大切です。その結果が自殺予防に結びつきます。

企業が取り組むメンタルヘルス・ケアの進め方については、国が平成18年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針→」を策定しています。その中で、企業が取り組むべき対策として「4つのケア」が挙げられています。すなわち、1 セルフケア、2 ライン(管理監督者)によるケア、3 事業場内産業保健スタッフ等によるケア、4 事業場外資源によるケアを骨子として、各事業場にとってふさわしい体制を作り上げてゆくことが勧められています。

企業においてメンタルヘルス・ケアを進める場合、最も重要なことは、企業のトップがメンタルヘルス・ケアの必要性を十分に理解していることです。その上で、労働者一人一人がメンタルヘルスの問題に日ごろから関心を持ち、自分や周囲の同僚の心の健康に気を配る環境を作り上げることが重要となります。そのために、企業は労働者に対する健康教育や相談体制の整備、上司による日頃の目配りや早期発見、早期対応、また休業した労働者の職場復帰支援の体制づくりなどを進めることが求められます。

より詳しくお知りになりたい方は、お近くのメンタルヘルス対策支援センター→地域産業保健センター、またはこの問題に関心の深い精神科医などへご相談ください。

(Q-S-18)

知人が自殺しました。ご家族の悲しみを思うと何かしてあげたい気持ちですが、どのように声をかけたらよいかわかりません?
ご家族や友人、同僚など身近な方を自殺で亡くされたときの悲しみは、言葉では言い表せないものがあります。家族を亡くされたご遺族は、しばらくの間、ぼーっとして何も考えられなくなったり、何も手につかなくなっていることも珍しくありません。自殺ではなく事故だったのではないかと、なかなか自殺の事実を認められなかったり、あの人のせいで自殺したんだと誰かを責める気持ちになることもあります。あるいは、自殺を防ぐことが出来なかった自分を強く責めたり、いっそのこと自分も後を追って死んでしまいたいという気持ちになることも少なくありません。また、人に知られたくない、そっとしておいて欲しい、と思う気持ちになることもあります。

また身体の面でも、食欲がなくなる、夜眠れない、体力・体重が落ちる、体調が思わしくない、気力がわかない、いつものように外出できない、身体が動かないなど、日常生活上の行動に支障がでてくることもあります。

そのようなご遺族(最近は「自死遺族」と呼ぶことが多くなっています)に何か声をかけてあげたいという気持ちになることは、ごく自然なことです。

大切なことは、まず、ご遺族が以上に述べたような自死遺族特有の気持ちの中にあることを理解することです。その上で、今のご遺族の気持ちに寄り添い、話に耳を傾け、その時にご遺族が必要としていることに合わせて手をさしのべることが大切です。ただ黙ってそばに居てあげるだけでも良いのです。

反対に、無理に気持ちを聞き出そうとしたり、なぜ止められなかったのかと原因を追及するような問いかけをしたり、安易な慰め、元気づけようとして励ましたり、こういう時はこうすべきだと一方的に考え方を押しつけたりすることは、むしろご遺族の気持ちを傷つけることになりかねず、禁物です。

ご遺族は、しばしば深い悲しみや衝撃、自責感などのために、周囲の人々から孤立してしまうことがあります。しかし孤立は、悲しみや自責の気持ちを一層強め、立ち直りを遅らせてしまうことがあるため、ご遺族が周囲から孤立することを防ぐことがとても重要です。

最近は、全国に自死遺族の集まる会が増えてきています。そのような会のあることを紹介してあげることも良いでしょう。お近くの都道府県精神保健福祉センターや保健所などで情報を得ることができます。また、平成21年1月には、国が「自死遺族を支えるために ~支援担当者のための指針~ 自死で遺された人に対する支援とケア」を出していますので、参考にされるとよいでしょう。

(Q-S-19)

息子さんを自殺でなくした部下がいます。それ以来仕事に集中できないようです。上司としてどう対応すればいいでしょうか?
息子さんに自殺された場合、病死や事故死以上に親は大きなショックを受け、息子さんが亡くなったことを認められなかったり、我が子を死なせた自分を責めたり、なぜ自分を遺して死んでしまったのかといった怒りを感じたりすることが多いものです。その結果、突然の息子の死別から受容・回復へと至る悲嘆の反応がうまくいかずにPTSD(外傷後ストレス障害)やうつ病などの心の病を発症する危険性や、遺族自身が問題解決の方法の一つとして自殺を選ぶ危険性もあります。

この部下の方も仕事に集中できないということで、うつ状態になっている可能性が考えられます。上司としてやっていけないことは、「何やっているんだ、しっかりしろ!」と強く叱ったり、励ますことでしょう。ふだんから部下とどの程度の信頼関係があったかが、関わり方に大きく関係してくるでしょう。上司として最低限やるべきは、やさしく声をかけて、休養を勧めてあげることです。その際、うつ状態が強くなっていると、自分が会社で必要とされていないから休むように言われたと考えることがあるので、そうではなく息子さんの亡くなったショックからの回復には時間がかかる場合があるのでと伝えるといいでしょう。仕事のことは心配せずにゆっくり休んでいただくことです。さらに、上司として必要なことは、上司一人がこの問題に取り組むのではなく、産業医等の産業保健スタッフに対応について相談しておくとともに、人事労務担当の責任者にも話しておくことです。その上で、念のため、精神科、心療内科受診を勧めてみるとよいでしょう。個人的にも親しく十分な信頼関係がある場合は、自分でよかったらいつでも話を聴いたり相談にのることを伝えましょう。息子さんを亡くした親としての辛さを十分に聴いてあげ、必要以上に自分自身を責める必要がないように働きかけてはいかがでしょうか。また自死遺族同志で集まれる「分かち合いの場」や、民間組織、最近では各都道府県単位でも行われている「自死遺族支援事業」などについて、知らせてあげるのもいいかと思います。

(Q-S-20)

友人から死にたいという電話があった場合、どうすればよいのでしょうか?
このような電話を受けた場合、自分が何とか思いとどまらせなければ・・・と力が入ってしまい、頭が真っ白になってしまうこともあるかもしれません。まずはその話を聞いている自分を落ち着かせることが大切です。

その上で、「死にたい」と考えてしまうほど追い込まれてしまっている背景や、それに伴って生じているさまざまな感情を語ってもらうことがとても意味があります。「何かよい一言を伝えなければ」と力むのではなく、語ってもらうこと、つまり本人の話に対して時間をかけて耳を傾けることがとても重要です。

電話をかけてきた本人は、誰でもいいから電話をかけてきたのではないと思います。心理的に追い込まれた本人が、意識的あるいは無意識的に特定の人を選び、「この人ならきっと自分の気持ちを聴いてくれる・・・」という思いから打ち明けてきているのでしょう。こうした観点からも、まず傾聴してあげることが大変大きな意味があるのです。

「死にたい」という気持ちの背後には、「もっとうまく生きたい」という気持ちとの間で激しく揺れ動いていて、生と死の願望の激しいせめぎ合いの中で必死に闘っているというのが、自殺の危機がせまっている人の心理状態といわれています。そしてその苦しみから、どこか無意識的にあなたに助けを求めてきているのでしょう。

本人の話を批判したりせず、十分に耳を傾けることが出来ると、「気持ちを理解してもらえた」ということから本人の気持ちに少し余裕が生じることが多いようです。このタイミングを待ってから「死ぬことが頭から離れずつらければ、専門家にも助けを求めてはどうか」などいくつかの選択肢をアドバイスしてみましょう。ただし、「あなただから聴いてくれる」と思って電話をかけてきたのですから、専門家への相談方法などについても一緒に考えていこうという気持ちを伝えることも大切です。

またこのような相談を受けた場合、ひとりで抱え込まないことも大切です。もちろん相談内容の共有は人を選ぶ必要がありますが、身近な医療従事者としては、職場の産業医、保健師などがあげられます。対応の仕方のアドバイスや、良い精神科医療機関の情報を得ることが出来る場合があります。

(Q-S-21)

息子の部屋を片付けていたら自殺に関する本が数冊ありました。親としてとても心配です。どうしたらいいですか?
息子さんは、中学生か高校生でしょうか。「いじめ自殺」がよく報道されたりするので、親としてはとても心配になりますね。小,中,高の生徒や学生が自殺するのは異常事態ですが、青少年の自殺は必ずしもいじめだけが原因ではありません。思春期特有の生きることへの疑問や、心や体の悩みであったり、家庭内の問題など複合的なものだと思います。親としてわが子が自殺に興味を持っている事実に直面するのは辛いことですが、「寝た子を起こす」ことを恐れて自殺について触れない「臭いものにフタ」という姿勢や、「どうしてこんな本を読むのか」と叱るのは不適切な対応と考えます。「部屋を片付けていたらこういう本があったので、本当に心配している、悩んでいるのならきちんと話して欲しい」とまず伝えてみましょう。

中学生の4人に1人が何らかのうつ状態になっているという報告があります。その中の何割かが自殺願望をもっています。親が子供を理解しようとせずに一方的に価値観を押しつけたり、あなた自身が人間として成熟できずに、日常的ストレスに耐えきれず、自分の感情をコントロールできずに子供にぶつけてしまっていることはありませんか。子供が親から「守られている」、「親は頼れる存在である」という感覚をもてずに親の顔色をうかがい続けながら育ってきたり、強い不信感をもっている場合もあります。今までのわが子へのかかわり方をふり返り、何に悩み、何に苦しんでいるのか、子供と真剣に向き合ってみてはいかがでしょう。その結果、学校の問題が主であれば担任や学校側と連絡を取り、病的なうつ状態と考えられる場合は、親も一緒に心療内科や精神科を受診することや積極的に考えてみることが大切だと思います。

(Q-S-22)

部下が自宅で自殺しました。職場のメンバーに自殺であると伝えたほうがいいのか、迷っています。どうしたらよいでしょうか?

どれほど自殺を隠そうとしても、噂や憶測が短期間のうちに広まってしまいます。むしろ事実を伝えたうえで、動揺している人を適切にケアすべきです。精神保健の専門家の助力も求めることも検討してください。

  1. 「動揺を最小限にするような方法で、正確な情報を、時機を逸することなく伝える」:自殺を隠そうとしても、瞬く間に知れ渡ってしまいます。事実を伝えたうえで、動揺している同僚をケアすることに力点を置くべきです。故人のプライバシーに配慮しながら、淡々と伝えてください。故人を極端に誉め讃えたり、逆に自殺を非難したりすることは、遺された人々に深刻な打撃を及ぼす危険があるので、控えてください。
  2. 「自殺という衝撃的な体験をした後に、起こり得る反応を説明しておく」:よく知っていた人が自ら命を絶つと、嵐のような複雑な感情が遺された人を襲います。うつ病、不安障害、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(外傷後ストレス障害)、薬物やアルコールの乱用といった心の問題が生じることがあります。また、持病の悪化など、身体の病気になってしまうこともあります。そこで、心身に現れる可能性のある症状について説明しておきます。
  3. 「知人の自殺を経験した後の感情を他の同僚と分かち合う」:同僚の自殺の後に、遺された人々が自分に現れている複雑な感情を仲間と率直に話し合う機会を設けます。なお、話をするのを強制する雰囲気をけっして作ってはなりません。話したい人は話し、黙って他の人の話を聞いているだけでもよいことを保証します。
  4. 「自殺が起きたために動揺しているハイリスクの人をケアする」:ハイリスクの人とは、若い人、故人と強い絆があった人、自分も精神疾患にかかっていたり、これまでにも自殺未遂に及んだりしたことのある人、遺体の第一発見者や搬送者、故人と境遇が似ている人、自殺が起きたことに責任を感じている人、葬儀でとくに打ちひしがれていた人、知人の自殺が生じた後に職場での態度が変化した人、さまざまな問題を抱えているのだが十分なサポートが得られない人などです。
  5. 「自殺の背後にある問題点に対して長期的な対策を立てる」:自殺が個人的な問題だけから起きたのではなく、たとえば過剰な長時間労働や達成不能な目標の設定といった職場が抱える問題があるのならば、その対策を立てることも必要になります。
  6. 「職場の士気が低下するのを防ぐ」:同僚の死をこのような形で、職場全体で取り上げることは、職場の士気が極端に低下するのを予防するという側面もあります。
  7. 「遺族に対するケアを忘れない」:自殺にもっとも深刻な衝撃を受けているのは遺族です。上述したケアは当然、遺族に対しても行ってください。なお、遺族が自殺に関連して職場に不信感を抱いている場合には、「この人の言葉ならば耳を傾ける」というキーパーソンを通じて、遺族に働きかけていくといった工夫も必要となります。

(Q-S-25)

自殺に対する偏見・誤解とはどのようなものですか?
 自殺に対して多くの偏見や誤解がありますが、「死ぬ、死ぬと言う人は自殺しない」というのはかなり広く信じられている誤解です。しかし、自殺した人の大多数は実際に最後の行動に及ぶ前に何らかのサインを他人に送ったり、自殺するという意志をはっきりと言葉に出して誰かに伝えたりしています。その「救いを求める叫び」がきちんと受け止められていなかったことが大きな問題なのです。

「自殺の危険の高い人は死ぬ覚悟が確固としている」というのもよくある誤解です。健康な人が仮定の問題として自殺を考えてみると、いかにも自殺を考えている人は皆死ぬ覚悟が確固としていると思いがちです。しかし、実際に自殺の危険の高い人で100パーセント覚悟が固まっていて、まったく平静な人などはほとんどいません。むしろ、自殺の危険の高い人は生と死の間で心が激しく動揺しているのです。絶望しきっていて死んでしまいたいという気持ちばかりでなく、生きていたいという気持ちも同時に強いということです。まさに、この点に自殺予防の余地があります。

「自殺について話をすることは危険だ。自殺を話題にすると、その危険のない人まで自殺に追い込んでしまいかねない」というのも誤解です。自殺を話題にすると「寝ている子を起こす」ことになりはしないかという心配をしばしば耳にします。しかし、自殺を話題にしたからといって、自殺の考えを植えつけることにはなりません。自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明ける人と打ち明けられる人の間に信頼関係が成り立っていて、救いを求める叫びを真剣に取り上げられるならば、自殺について率直に語り合うほうがむしろ自殺の危険を減らすことになります。自殺について言葉で表現する機会を与えられることで、絶望感に圧倒された気持ちに対してある程度距離を置いて冷静に見ることも可能になるのです。

(Q-S-26)

自殺未遂を繰り返す人にはどのように対応すればよいですか?

自殺未遂を繰り返す場合は、大きく分けると精神障害から本気で死のうとして死にきれず自殺未遂を繰り返す場合と、パーソナリティーの問題により自殺未遂や自傷行為などの自殺関連行動を繰り返す場合があります。しかし実際には明確に区別がつかないことが多いと思われます。

そこでここでは、精神的病状から希死念慮が高まり自殺企図を図ったけれども、幸運と偶然が重なり完遂されなかった方に対する対応と、パーソナリティーの問題からリストカットなどの自傷行為や薬物の大量服薬を含めた自殺関連行動などをとった方に対する対応についてまとめます。

自殺企図がよく起こる精神的病状として主だったものには、統合失調症と感情障害(躁うつ病やうつ病)の2つがあります。統合失調症の場合は幻覚や妄想に左右され、突発的、衝動的に自殺企図が起こることが多いのです。感情障害の場合ですが、躁うつ病の場合は躁状態からうつ状態に変化するときに急激に落ち込んで、自殺企図に至ることがあります。また、うつ病も症状が悪化すると「抱えている問題を解決できないのなら死んだほうが楽だ」という思考の障害から、自殺企図が起こることが多いのです。

幻覚妄想が疑われる場合も感情障害が疑われる場合も、自殺未遂を頻回に繰り返す場合は、本人に精神的病状であるという自覚がないことが多く、医療につながっていない可能性が高いと考えられます。まだ治療につながっていない場合は、本人に自殺企図を図ったときの気持ちや状況を確認した上で、精神的な病状の可能性が高いのでクリニックを受診するよう本人に促したり、場合によっては家族から働きかけてもらう必要もあります。

また一般論ですが、自殺企図はアルコールや依存性のある薬物によっても高まるので、頻回に自殺企図が起こる場合には、企図の前にアルコールや薬物の使用があったかどうか、確認しておく必要があります。そしてアルコールや薬物に対する依存が疑わしい場合は、依存症の専門のクリニックへの相談や受診が必要になります。

パーソナリティーの問題からリストカットなどの自傷行為を繰り返す場合ですが、リストカットをする心理的なメカニズムについては不明な点もありますが、リストカットをすることによる「身体的痛み」が、死にたいほどの「心の痛み」を鎮静化する作用があると言われています。

しかし、リストカットを繰り返すうちに鎮静化作用が希薄化し、またストレスに対する脆弱性(弱さ)も高まります。その結果、自傷行為に対する依存が起こり、周りから叱責や禁止を受けても次第にエスカレートして、衝動的に、より重度の自傷を繰り返すようになります。周りからは繰り返しの自傷なので、「死ぬはずはない」と思いがちですが、長い経過で見ると自殺に至ることが多く、自殺予防の観点からは、自傷行為も自殺行動に至る過程の前段階ととらえることが多いのです。

リストカットなど自傷行為は本人の問題(パーソナリティーの問題)としてとらえがちですが、これも早い段階で精神科医などの専門家に相談することが大切です。

(Q-S-27)

40歳代で失業中です。ハローワークに行っても展望がなく、死ぬしかないと考えてしまいます。どのように対処すればいいでしょうか?

100社受けてもうまくいかず、ハローワークでの職探しもはじめからあきらめの姿勢では、うまくいくものもうまくいきません。負け癖のその先には絶望感があり、死を考えてしまいがちです。そのようなときは、目先を変えて、短期のアルバイトで汗を流して現金を手にしてみてはいかがでしょうか。心に与える影響は大です。自信が蘇ってきます。

行き詰ってしまい、絶望的になり死ぬしかないという思いが強く、さらに食事も喉を通らず不眠が続くようならうつ病です。放っておくとどんどんマイナス思考の落とし穴に陥り、引き返せなくなります。頭の中は死ぬことで一杯、自分がうつ病になっていることさえ分からなくなります。

そういうときはまず、心を許せる人に相談しましょう。できれば、その人に付き添ってもらい、心療内科、精神科など専門医の門をたたきましょう。そして、お薬やカウンセリングでマイナス思考とプラス思考のバランスを取り戻し、平常心になってから、今後の展望を見直してみましょう。マイナス思考で頭が一杯のときには視野が狭くなり、闇しか見えません。光があっても光が見えなくなってしまっているのです。心のバランスを取り戻し、余裕をもって見直せば闇の世界にも必ず一条の光が見えてくるものです。「死ぬしかない」と考え始めたら、まず、身近な人に相談を。

(Q-S-28)

中学校の教諭をしていますが、生徒間のいじめや父兄のクレームなどで死にたい気持ちです。どのように対処したらよいですか?
 「死にたい気持ちになっている」ということでしたら、まず精神科への受診が必要です。すでにうつ病を発症している可能性があります。ためらうことなく診察を受けてください。そのような過酷な状況下では、誰でも精神的に疲弊して調子を崩すことがありうるのです。性格が弱いから、などといった種類の問題ではありません。

うつ病になると事態を冷静に理解し、的確に対処していく能力が低下します。物事を悲観的にとらえがちになり、希望がもてなくなります。焦れば焦るほど事態が悪化し、自身の体調も崩れていくという悪循環に陥りがちです。専門家により適切な診断と治療を受け、ご自身の心身の状態を安定させることを最優先すべきです。しばらくの病気療養が必要なのか、勤務しながら治療を受けることになるのか、いずれにせよ医師と良く相談し、指示に従ってください。

次に、こうした問題が生じた際には、いろいろな出来事の記録をつけることをお勧めします。「生徒間のいじめ」であれば、いつ、誰が、どのようないじめにあったとされるのか、そしてそれに対してどのような対応をしたのか、を記録することです。クレームも同様で、いつ、誰から、どのようなクレームがあり、どのように対応したのかを記録することが大切です。これは少々時間がかかる作業ですが、このために使った時間は必ず報われます。こうした作業は業務上必要であるだけでなく、自分の思考や感情を整理する上でも役に立つのです。

そして、この記録をもとに同僚や上司と相談します。問題を一人で抱え込まず、職場全体にオープンにしていこうという構えが大切です。職場の中には理解をしてくれる人がいるはずです。うつ病になると、ともすれば自分を責め、自分一人で解決しようとしがちですが、そこに落とし穴があるのです。話すことで気持ちと考えが落ち着き整理されることもしばしばあります。

最後に、最近はこうした問題で悩む教師のためのサポートシステム(支援体制)がつくられています。こうした外部の相談機関を利用されるのも一案だと思われます。

(Q-S-29)

自殺をするとその後始末で家族に迷惑を掛けると聞きましたが、本当でしょうか?
一人の自殺は、強い絆のあった人に対し深刻な影響を与えます。ある大規模調査によると、現在わが国では自殺者の配偶者・兄弟姉妹・両親・子供(自死遺族)は約300万人以上とされていますが、これら自死遺族の思いは「沈黙の悲しみ」とも言われ、普段はその胸の内が語られることはほとんどありませんでした。しかし、最近になり、いわゆる「後始末で掛ける迷惑」の実情が官民の活動と調査を通じて数多く報告されています。

まず、深い悲しみの中、遺体確認・死後の手続き・法事等を行いますが、周囲の対応に深く傷つくことや、偏見と誤解にさらされることがあります。さらに、長期に渡り心理面・生活面・経済面・教育面・法律面で、次のような多様な問題を複合的に抱えがちです。

ア 心理面では、気づけなかった自分自身を責めたり、深い悲しみに苛まされたり、人に話せず悲しみを分かち合えないがために苦しむことがあります。当初気丈に振舞っていても、後にメンタルヘルス不調が遷延化して、専門的治療が必要になる、またはアルコール乱用や薬物への依存等の問題も生じる可能性があります(悲しみのあまり後を追ってしまう可能性もあります)。

イ 生活面では、家族内・親戚・地域社会との関係が変化して、孤立することがあります。

ウ 経済面では、葬儀・残された借金の処理・年金や一家の大黒柱を失った後の生計の建て直し・亡くなられた場所によってはその場所の所有者や交通機関からの損害賠償請求等が課題になります。

エ 教育面では、子供の学業を中断せざるを得ないことがあります。

オ 法律面では、遺言・相続・事業の継承や不動産・所有権等の登記関係の諸問題があります。過労自死の場合は、労災請求を考えるべきで、また、使用者に対する損害賠償請求も検討する必要があります。

人間はそれぞれの物語を生きていて、個別性があります。自死遺族は、不条理な現実を受容しながら、人生や主体性を取り戻すさまざまな課題に直面することになります。

自殺を選択した場合、「迷惑」と称するかどうか別にしても家族への影響は心理的・社会的に非常に大きなものです。自殺を考える辛い時もあるでしょうが、他の解決策を見つける手立てとして、まずは周囲に相談してみてください。

(Q-S-30)

自殺の原因は精神障害であるというのは本当ですか?

昨年の警察庁の統計では、平成21年中の自殺者総数は32,845人であり、原因・動機が特定されているものが全体の74.4%にあたる24,434人です。その内訳は複数回答で「健康問題」が15,867人、「経済・生活問題」が8,377人、以下、「家庭問題」4,117人、「勤務問題」2,528人、「男女問題」1,121人、「学校問題」364人、「その他」1,613人でした。

これらの原因の結果として、精神障害を発症し、自殺にいたった例も多いものと考えられます。自殺の動機そのものは、必ずしも一つの要因だけで説明できるものではありませんが、精神的に追い込まれた状態で自殺行為がなされることを考えますと、うつ病をはじめとする精神障害が自殺の原因となっているとする報告が多数なされております。

また、失業や配偶者の死亡などの人生におけるストレスを伴う重大な出来事(ライフイベント)の際に、精神障害を引き起こし、自殺にいたることがあるので、周囲からの十分な注意や配慮が必要となります。

(Q-S-31)

労災補償関係

傷病が治ゆした後、労働能力を維持回復させるために行われる、労災保険制度の「アフターケア」とは、どのような制度でしょうか?
労災保険制度では、業務災害又は通勤災害により被災された方々に対して、その方の症状が固定した(治ゆ)後においても、後遺症状が不安定な状態を来したり、後遺障害に付随する疾病を発症させるおそれがある場合、必要に応じて予防その他治ゆ後の保健上の措置を講じて、労働能力を維持回復させ円滑な社会生活を営ませることを目的として、20の傷病についてアフターケアを実施しています。

 対象傷病ごとに定められた措置について、労災病院、医療リハビリテーションセンター、総合せき損センター、都道府県労働局長が指定した病院又は診療所若しくは薬局(以下「実施医療機関」といいます。)で受けることができます。

 また、アフターケアの対象となる方には、都道府県労働局長から「健康管理手帳」が交付されるので、アフターケアを受けるときは、これに要した費用は、都道府県労働局長から、直接実施医療機関等に支払われます。

(Q-R-43)

労災補償の請求は誰がするのですか。会社の協力が必要でしょうか?

労災補償の請求は、被災労働者または遺族が行います。自分で労働基準監督署に行き、労災保険給付請求書の様式をもらい、必要事項を記入して労働基準監督署に提出するのが基本です。会社の労務担当者などが請求事務の代行をしてくれることがあります。

なお、労災保険指定医療機関で受療した場合や二次健康診断等給付を請求する場合は、請求手続きが異なりますので、厚生労働省ホームページをご参照いただき、あるいは受診した医療機関や労働基準監督署にご確認ください。

労災補償の請求は被災労働者または遺族が行いますが、労災保険給付請求書には就労の事実等についての事業主証明欄があり、会社に証明してもらう必要があります。会社は協力的でない場合は、事業主証明がないまま労働基準監督署に労災保険給付請求書を提出し、事情を説明することになります。これにより労働基準監督署は労災保険給付請求書を受理します。

(Q-R-44)

過労死の現行の労災認定基準は、認定されにくかった以前の認定基準とどう違うのですか?

認定要件として「長期間の過重業務」が追加されたことが最も重要な改正点ですが、具体的な負荷要因について検討の視点を明確にした改正点もあります(平成13年12月12日基発第1063号)。

すなわち、認定要件は次のように改正されました。

なお、以前の認定基準は脳・心臓疾患の「発症」のみに着目してその要因が業務にあるのかという観点で判断していたのに対し、現行の認定基準は長期間の業務における慢性の疲労や過度のストレスが高血圧症、動脈硬化などの血管病変をその自然的経過を超えて著しく増悪させることを考慮に入れたものとなっています。

(Q-R-45)

現行の認定基準の認定要件以前の認定基準の認定要件
(1) 異常な出来事 発症直前から前日までの出来事 (1) 異常な出来事 発症直前から前日までの出来事
(2) 短期間の過重業務 発症前おおむね1週間以内の過重業務 (2) 短期間の過重業務 原則として発症前おおむね1週間以内の過重業務
(3) 長期間の過重業務 発症前おおむね6か月以内の過重業務 (なし)  
脳梗塞を発病し、労災認定されました。会社に対して損害賠償請求の裁判を起こせば認められるのでしょうか?
災害の業務上外の判断は、労働基準監督署長が労働基準法に基づいて判断するのに対し、損害賠償請求訴訟の判決は裁判官が民法に基づいて判断しますので、必ずしも一致するとは限りません。

前者(労災認定)では行政が証拠収集等の調査を実施しますが、後者(訴訟)では原告(被災労働者・遺族)が被告(会社)に債務の不履行や不法行為があったことを立証する必要があります。

(Q-R-46)

精神障害の判断指針は平成21年に改正されたと聞きますが、どのような改正内容ですか?
 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(平成11年9月14日付け基発第544号)は、平成21年4月6日付け基発第0406001号により、主として同指針の別表1「職場における心理的負荷評価表」(以下「評価表」といいます。)が改正されました。その概要は、次のとおりです。

評価表の「具体的出来事」として「達成困難なノルマが課された」、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」など12項目が追加され、また、既存項目のうちの7項目が修正されました。

具体的出来事の追加に伴い、それぞれの「(1)平均的な心理的負荷の強度」と「(2)心理的負荷の強度を修正する視点(修正する際の着眼事項)」が示されました。

「(3) (1)の出来事に伴う変化等を検討する視点」が「(3) (1)の出来事後の状況が持続する程度を検討する視点(「総合評価」を行う際の視点)」に改められ、改正前にはなかった「持続する状況を検討する際の着眼事項例」が新たに具体的に示されました。

同指針の別表2「職場以外の心理的負荷評価表」に「親が重い病気やケガをした」(平均的な心理的負荷の強度II)が追加されました。

(Q-R-47)

恒常的な長時間労働だけではうつ病になっても労災補償の対象にはならないのでしょうか?
 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針(平成11年9月14日付け基発第544号。平成21年4月6日付け基発第0406001号により一部改正)は、同指針の別表1「職場における心理的負荷評価表」により総合評価が「強・中・弱」のうちの「強」とされることが基本的な必要条件とされています。

しかし、同指針では、別表1「職場における心理的負荷評価表」によらずに、「心理的負荷が極度のもの」、「業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者に発病した精神障害」または「極度の長時間労働」が認められる場合には総合評価を「強」とすることができるとされています。

「極度の長時間労働」とは、たとえば数週間にわたり生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働により、心身の極度の疲弊、消耗を来し、それ自体がうつ病等の発病原因となるおそれのあるものとされています。

なお、労災認定は、職場における心理的負荷の評価だけではなく、業務以外の心理的負荷の評価と個体側要因(既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向)の評価も行い、総合的に判断されます。

(Q-R-48)

自殺は労災補償の対象にはならないのでしょうか?
 労働者災害補償保険法第12条の2の2第1項には「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。」と規定されていますので、原則として自殺は労災補償の対象となりません。

しかし、自殺の多くはその背景に精神障害があると考えられており、その精神障害が業務上の疾病であると認められる場合には、これによる自殺は原則として業務上の死亡(自殺未遂により傷病を負った場合は業務上の傷病)と認められます。

この考え方は、平成11年9月14日付け基発第545号「精神障害による自殺の取扱い」により、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」と示されています。

(Q-R-49)

うつ病になったのですが、産業医から労災補償の対象にはならないと言われました。労災請求を諦めるべきでしょうか?
 産業医が精神科医や心療内科医で、精神障害の労災認定について詳しく承知されているのであれば参考にしてもよいと思われます。

しかし、このような産業医は一般に少ないので、産業医に専門領域や、労災補償の対象にならない訳をお聞きしたり、あるいは、ご自身で労働基準監督署に相談をしてもよいと思われます。また、ご自身の判断で労災請求をされてもよいと考えられます。

基本的なことは、労災請求をするかどうかを決めるのはご自身であること、労災補償の対象になるかどうかを決めるのは労働基準監督署長であるということです。

(Q-R-50)

労災保険はどのような保険なのでしょうか?

労働者災害補償保険法第1条に「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行うほか、被災労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な安全及び衛生の確保等を図り、もって、労働者の福祉の増進に寄与すること」と目的が規定されています。

労災保険は政府(厚生労働省)が管掌し、事業主から納付される保険料によって運営されています。労災保険の事務を実際に取り扱う機関は、中央では厚生労働省、地方では各都道府県労働局及び労働基準監督署となります。

(Q-R-1)

労働者を使用していれば、どのような事業でも労災保険に加入しなければならないのでしょうか?

原則として1人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべて適用事業場となり保険関係が成立しますので、事業主の方は加入手続を行う義務が生じます。

ただし、暫定任意適用事業の場合には、労災保険に加入するかどうかは、事業主の意思又は当該事業に使用される労働者の意思に任されており、事業主が任意加入の申請をし、認可されれば、労災保険に加入することができます。

(参考)暫定任意適用事業とは、次の事業です。

  1. 1 民間の個人経営の農業の事業であって、5人未満の労働者を使用するもの。
  2. 2 民間の個人経営の林業の事業であって、労働者を常時は使用せず、かつ、1年以内の期間において使用延べ人員が300人未満のもの。
  3. 3 民間の個人経営の漁業の事業であって、5人未満の労働者を使用するもの。

(Q-R-2)

家族のみで事業をしていますが、労災保険が適用されるのでしょうか?

同居の親族は、原則として労災保険上の「労働者」としては取り扱われませんので、家族のみで事業を行っている場合は、適用事業場とはなりません。なお、同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務、現場作業等に従事し、かつ、次の要件を満たすものは労災保険法上の労働者として取り扱います。

  1. 1 事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
  2. 2 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もそれに応じて支払われていること。特に、(1)始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び、(2)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り日及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。

(Q-R-3)

当社は、私が代表取締役、妻が取締役、息子が専務取締役となっておりますが、実際には他の労働者と同様の作業に従事しているのが実態です。このような場合でも、労災保険の適用はないのでしょうか?
労災保険は、労働者の業務災害又は通勤災害に対する保護を目的とした制度ですので、事業主等の労働者でない方については、その保護の対象とはされていません。

 しかしながら、労働者以外の方のうち、業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが認められる一定の方に対して、特別に労災保険への任意加入を認めています。この制度を「特別加入制度」といいます。

 特別加入制度には、中小事業主、一人親方などの自営業者及び特定事業従事者などが加入することができます。

 中小事業主等については、具体的には常時300人(金融・保険業、不動産業又は小売業の場合は50人、卸売業又はサービス業の場合は100人)以下の労働者を使用する事業主であって、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託する方です。また、一般的には労働者とみなされない家族従事者や事業主が法人その他の団体であるときは、代表者以外の役員のうち労働者でない方も包括して加入しなければなりません。

 なお、中小事業主等が特別加入するためには、次の2つの要件が必要となります。

  1. 1 雇用する労働者について保険関係が成立していること。
  2. 2 労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していること。

(Q-R-4)

労災保険は、アルバイトやパートタイマーにも適用されますか?

労災保険における適用労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます。

したがって、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。業務災害又は通勤災害が発生したときに適用事業に使用されていれば、受給権が生じることになります。

また、一定期間以上継続して使用されていたかどうかは、保険給付を受けるための要件とはなりません。雇入れ当日の災害であっても保険給付を受けることができます。

(Q-R-5)

派遣事業における労働保険の保険関係はどうなるのでしょうか?

労働者派遣における派遣元、派遣先及び派遣労働者の三者間の関係は、1 派遣元と派遣労働者との間に労働契約関係があり、2 派遣元と派遣先との間に労働者派遣契約が締結され、この契約に基づき派遣元が派遣先に労働者を派遣し、3 派遣先は、派遣元から委ねられた指揮命令権により派遣労働者を指揮命令するというものです。

労災保険法では、「労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定しており、この「使用する」は労働基準法等における「使用する」と同様労働契約関係にあるという意味に解されています。また、労働者派遣法では、労働基準法上の災害補償責任が派遣元事業主に課されていますこと等から、派遣元事業を労災保険の適用事業としています。

(Q-R-6)

出向労働者の適用はどうなるのでしょうか?
労災保険の適用は、出向労働者が出向先の事業場の組織に組み入れられ、出向先の就業規則等が適用され、出向先事業主の指揮命令を受けて労働に従事する場合は、出向元で支払われている給与も出向先で支払われている給与に含めて労災保険料を計算し、出向先事業場の労働者として適用されます。

(Q-R-7)

労働災害の発生が少なければ労災保険料が安くなると聞きましたがどのような制度でしょうか?
労災保険率は、事業の種類ごとに災害率、災害の種類、作業態様等が異なることから、事業の種類ごとに別々に定められていますが、事業の種類が同じでも、災害の多い事業場と少ない事業場とで同一の労災保険率を適用するのは、公平ではありません。

 そこで、事業主負担の具体的公平を図るとともに、事業主の労働災害防止努力を促進することを目的として、同種の事業であっても、一定規模以上(原則常時100名以上の労働者を使用)の事業については、個々の事業ごとの労働災害の多寡に応じ、労災保険率(非業務災害分を除きます。)を一定の範囲内で増減させることとしています。これが労災保険の「メリット制」といわれるものです。

(Q-R-8)

事業を廃止する場合、労働保険の精算はどうすればよいのでしょうか?
適用事業の保険関係は、事業の廃止又は終了した日の翌日に消滅します。適用事業場が事業を廃止した場合には、「確定保険料申告書」を提出して、概算保険料を精算する必要があります。

 確定保険料申告書の提出期日は、保険関係が消滅した日から50日以内ですが、確定保険料の額が概算保険料の額よりも多い場合には、その差額を申告と同時に追加納付しなければなりません。また、申告する確定保険料の額が概算保険料より少額である場合は、その差額は還付されることになります。

(Q-R-9)

労災で長く療養中の従業員を解雇したいのですが?
労働基準法第19条の規定により、労働者が業務上負傷するか疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間については、解雇してはならないと定められています。

 ただし、通勤災害については、この規定は適用されません。

 なお、療養の開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合は3年を経過した日、また3年経過した日以後において傷病補償年金を受けることとなった場合は、受けることとなった日に解雇制限が解除されます。

(Q-R-10)

特別加入する場合、従事する業務によっては事前に健康診断を受けなければならないそうですが、この制度はどのようなものなのでしょうか?

特別加入時の健康診断は、労災保険に特別加入する前の業務が原因となって発生した疾病について保険給付を行うといった不合理が生じないように、特別加入希望者のうち一定の方について健康診断の受診を義務づけ、特別加入時の健康状態を確認し、保険給付を適正に行うことを目的とするものです。

この特別加入時の健康診断を必要とする方は、中小事業主等、一人親方等及び特定作業従事者として特別加入し、次の表に掲げる業務を行う予定の方であって、特別加入前に通算してそれぞれの業務に応ずる従事期間を越えて当該業務に従事していた方が該当します。

なお、その他職場適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練従事者等及び海外派遣者については、加入時健康診断は必要ありません。

(Q-R-11)

一人親方なのですが、労災保険事務組合に入らなければ特別加入できないのでしょうか?
一人親方等の特別加入については、労災保険法第35条に、要旨、一人親方等の団体がその構成員である一人親方等について労災保険の適用について申請し政府の承認を受けたときは、その団体を適用事業とみなし、構成員をその団体に使用される労働者とみなす、と定められています。

 したがって、団体がその構成員である一人親方等について加入手続を行うこととなり、団体の構成員にならずに個人で特別加入することはできません。

 なお、この団体は必ずしも労働保険事務組合でなければならないということではありません。

(Q-R-12)

特別加入者の給付基礎日額は、希望する額とされていますが、どのような額となっているのでしょうか?
労災保険の保険給付の算定は、給付基礎日額を基にして行います。給付基確日額とは、労働基準法第12条に定める労働者の平均賃金に相当する額をいいます。

 一般労働者の場合は、使用者が支払う賃金により平均賃金が算出されますが、一人親方や中小事業主等の特別加入者については事業主であるので、こうした賃金等がありません。

 そこで、都道府県労働局長が別に定める額をもって、給付基礎日額にかえています。

特別加入者の給付基礎日額は、最低3,500円(家内労働者の場合は2,000円)から最高20,000円までの範囲内で、特別加入を希望する方の所得水準に見合った適正額で決定されることになっています。

(Q-R-13)

労災保険の給付にはどのようなものがあり、どこへ提出すればよいのでしょうか?
労災保険の給付には次のようなものがあります。また、請求書は、各都道府県労働局又は労働基準監督署に備えてあります。提出先は次の通りです。td>療養の給付
保険給付の
種類
支 給 事 由書類提出先
療養
(補償)
給付
業務災害または通勤災害による傷病について、労災病院または労災指定医療機関等で療養する場合療養(補償)給付たる療養の給付請求書(第5号、第16号の3)労災指定医療機関等を経て所轄労働基準監督署長
療養の費用の支給業務災害または通勤災害による傷病について、労災病院または労災指定医療機関以外の医療機関等で療養する場合療養(補償)給付たる療養の費用請求(第7号(1)?(5)、第16号の5(1)?(5))所轄労働基準監督署長
休業(補償)給付業務災害または通勤災害による傷病に係る療養のため労働することができず、賃金を受けられない日が4日以上に及ぶ場合休業(補償)給付支給請求書(第8号、第16号の6)所轄労働基準監督署長
障害
(補償)
給付
障害(補償)年金業務災害または通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った場合障害(補償)給付支給請求書(第10号、第16号の7)所轄労働基準監督署長
障害
(補償)
一時金
業務災害または通勤災害による傷病が治ったときに、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った場合
遺族
(補償)
給付
遺族(補償)年金業務災害または通勤災害により死亡した場合(法律上死亡とみなされる場合、死亡と推定される場合を含む。)遺族(補償)年金支給請求書(第12号、第16号の8)所轄労働基準監督署長
遺族
(補償)
一時金

1.遺族(補償)年金を受取る遺族がいない場合

遺族(補償)一時金支給請求書(第15号、第16号の9)所轄労働基準監督署長
葬祭料
(葬祭給付)
業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行う場合葬祭料(葬祭給付)請求書(第16号の10)所轄労働基準監督署長
傷病(補償)年金業務災害または通勤災害による傷病が、1年6か月を経過した日、又は同日以後において治っておらず、傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合  
介護(補償)給付障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者で、介護を要する場合介護(補償)給付支給請求書(第16号の2の2)所轄労働基準監督署長
二次健康診断等給付

事業主の行う健康診断等のうち直近のもの(一次健康診断)において、次のいずれにも該当する場合
2.脳血管疾患または心臓疾患の症状を有していないと認められること

二次健康診断等給付請求書(第16号の10の2)健診給付医療機関を経由して所轄都道府県労働局長

(Q-R-14)

療養は労災指定医療機関でなくては受けられないのでしょうか?
労災保険における療養(補償)給付は、労災保険法第13条において療養の給付が原則とされており、例外的な取扱いとして、療養の費用の支給を行うことにしています。

療養の給付は、保険者である政府が、被災労働者の請求に応じて直接療養の給付を実施するもので、つまりは医療の現物給付が行われます。療養の給付は、労災病院及び都道府県労働局長が指定する病院等(これを「労災指定医療機関」といいます。)において行われることになっており、被災労働者は自ら費用負担をすることなく、必要な治療を受けることができます。

一方、療養の費用の支給は、被災労働者が療養に要した費用をいったん立替払いし、その費用相当額を労災保険へ請求することにより、政府が必要とする範囲内で費用が支給されるものです。

療養の費用が支給されるのは、療養の給付を行うことが困難な場合のほか、療養の給付を受けないことについて被災労働者に相当の理由がある場合とされています。

具体的には、

  1. 1 緊急に診療を受けなければならないため、最寄りの労災指定医療機関以外で受診した場合。
  2. 2 症状が特殊な医療技術や設備を必要とするが、最寄りには条件を満たす労災指定医療機関がなかった場合。
  3. 3 会社の所在地や居住地に労災指定医療機関がなかった場合。

などがあげられます。

(Q-R-15)

休業(補償)給付の支給要件と支給手続について知りたいのですが?
休業(補償)給付は、労災保険法第14条において「業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日」の第4日目から支給されることとされています。ここでいう「労働することができない」とは、一般的に労働することができない場合をいい、必ずしも負傷前の労働に従事することができないことをいうものではありません。

また、「賃金を受けていない」とは、まったく賃金を受けていない場合はもちろんのこと、賃金の一部を受けている場合であっても、それが平均賃金の60%未満であるとき(所定の労働時間の一部についてのみ休業した場合には、平均賃金と実際に労働した時間に対して支払われた賃金との差額の60%以上の賃金を受けていないとき)も含まれます。

休業(補償)給付を受けるには、「休業(補償)給付支給請求書」に所要事項を記入し、事業主及び診療担当医師の証明を受けて、被災労働者の所属する事業場の所轄労働基準監督署長に提出することとなります。

(Q-R-16)

仕事中にケガをしたため、労災の請求をしようと思うのですが、事業主が証明を拒否しています。このような場合、どうすればよいのでしょうか?
労災保険給付の請求に当たっては、「負傷年月日」、「災害発生状況」等について事業主の証明を受けなければなりません。

 しかしながら、事業主が証明を拒むなどやむを得ない事情がある場合には、請求書を提出する所轄の労働基準監督署に、証明を得られない事情を述べることで、請求書は受理されます。

(Q-R-17)

休業の最初の3日間(待期期間)はなぜ給付されないのでしょうか。また、その3日間分は事業主に請求できるのでしょうか?
労災保険法第14条は、労働者が業務上負傷し又は疾病にかかった場合、その傷病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日(休業日)の第4日目から休業補償給付を支給する旨規定しています。

 労災保険法の対象とはならない休業日の第1日目から第3日目(待期期間)までは、労働基準法第76条の規定により、事業主が平均賃金の60%を補償することになっています。

 労働者の業務災害による負傷等については、労働基準法により、事業主に補償義務が課せられているものであり、労災保険より給付された場合に、事業主は補償義務を免除されることになっています(労働基準法第84条)。

 したがって、労働基準法第76条に基づく休業補償についても、休業第4日目以降について労災給付が行われた場合は、事業主はその補償義務を免除されることになりますが、休業補償給付が行われない第1日目から第3日目までについては、事業主が労働基準法に基づいて、その補償を行うことになります。

 なお、通勤災害に対する保険給付については、労災保険法において独自に定められた制度であることから、通勤災害における休業日の第1日目から第3日目までについては、事業主に補償義務は課せられていません。

(Q-R-18)

障害(補償)給付の等級はどのようにして決められるのでしょうか?
労災保険では、障害(補償)給付の対象となる138種類の障害を、その程度に応じて第1級から第14級までの14段階に区分して障害等級表を定めており、これにより被災労働者の身体障害がこの障害等級表に掲げられているものに該当するか、またはこれらの障害と同程度のものと認められるかにより、給付の請求を受け付けた労働基準監督署長が判断し、障害等級の決定を行います。

(Q-R-19)

労災で会社を休んで療養中ですが、会社から「働けるようだったら職場に出てほしい」と言われました。職場に復帰した後でも、労災での療養は受けられるのでしょうか?
療養(補償)給付は、労働者が業務災害または通勤災害による傷病により、療養を必要とする場合に支給されるものであり、傷病が「治ゆ」(症状固定)するまで支給されます。したがって、治ゆしていない限り、働いていても労災による療養を受けることができます。

 なお、労災保険法上の治ゆとは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態をいうものではなく、「医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」をいいます。

 したがって、「傷病の症状が、投薬・理学療法等の治療により一時的な回復がみられるにすぎない場合」など症状が残存している場合であっても、医療効果が期待できないと判断される場合には、労災保険では治ゆと判断されます。

 治ゆと判断された以降は、療養(補償)給付は支給されず、必要に応じて、障害(補償)給付やアフターケアの支給が行われます。

(Q-R-20)

休業(補償)給付は1日分ずつ請求できるようですが、毎日請求をするのは大変なので、何日分ずつ請求すればよいのでしょうか?
請求する日数については、労災保険法では定めがなく任意となっていますので、何日分ずつでも請求できます。休業期間が長期にわたる場合は、短期間の請求では請求書を何通も作成提出することになり、長期間の請求ではその間休業(補償)給付が受けられないので、1か月分ずつ請求する方が多いようです。

 なお、休業(補償)給付を受ける権利は休業日の翌日から2年経過すると時効となり消滅します。

(Q-R-21)

労災保険で療養中ですが、今月末で定年退職することになっています。退職後も、このまま療養を続けることができるのでしょうか?
退職等の理由により使用者との間の労働関係がなくなったとしても、支給事由の存在する限り、保険給付を受けることができます(労災保険法第12条の5第1項)。

(Q-R-22)

労災保険で療養中ですが、県外に転居することになりました。転居した場合、労災保険は受けられますか。また転医の手続はどのようにするのでしょうか?
療養を受けている方が転居した場合は、他の医療機関へ転医することができます。転医の手続は次のとおりです。

 労災指定医療機関から他の労災指定医療機関へ転医する場合は、「療養(補償)給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を、転医先の医療機関を経由して労働基準監督署長へ提出します。

 それ以外の場合は原則的な請求手続によります。すなわち転医先が指定医療機関であるか非指定医療機関であるかにより、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」又は「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」により請求することになります。

 なお、療養は労災指定医療機関で受けることを原則とし、最寄りに指定医療機関がない等の場合に非指定医療機関で受けることができることとされています。ただしこの点については、被災労働者の方の便に支障が生ずることのないよう広く解することとされています。

(Q-R-23)

休業(補償)給付に特別支給金として上積みされると聞いていますが、どのくらい支給されるのでしょうか?
休業特別支給金は、休業(補償)給付の支給対象となる日について、休業(補償)給付と併せて支給されます。

 休業特別支給金の額は、給付基礎日額の100分の20に相当する額となりますが、被災労働者が所定労働時間の一部について労働した場合には、給付基礎日額からその労働に支払われる賃金の額を控除した額の100分の20に相当する額となります。

(Q-R-24)

休業特別支給金の支給申請はどうすればよいのでしょうか?
休業特別支給金の支給を受けようとするときは、所定の事項を記載した申請書を、原則として保険給付の請求と同時に所轄労働基準監督署長に提出することになります。

 この申請書は、休業(補償)給付支給請求書(業務災害の場合は様式第8号、通勤災害の場合は様式第16号の6)と同一の用紙です。

(Q-R-25)

系列子会社の研究機関へ研究員が出向しました。出向先で被災した場合、保険給付の手続はどちらで行うのでしょうか?
労災保険の適用については、出向の目的、出向契約、出向先事業での出向労働者の実態などを総合的に判断して、決定されることになっています。

 原則的には、給与が出向元から支払われていても、出向先事業の組織に組み入れられ、出向労働者の指揮命令権が出向先にあれば出向先の労災保険が適用になります。

 したがって、保険給付の手続は、原則として出向先で行います。

(Q-R-26)

当社が元請けとして、労働保険の届出をしていた建設現場で、当社の下請け企業で災害が発生しました。元請けが行う手続は、どうなりますか?
労働者が業務上災害にあった場合には、労災保険の各種給付の請求は、基本的には被災労働者本人が行うことになります。ただし、各種請求手続において、被災労働者の求めに応じて、事業主が災害の発生日時や場所、発生状況などについて証明することになります。

 一般に建設業では、一つの工事を一つの事業として労災保険の適用の対象としています。

 したがって、建設業における数次の請負いによる事業の場合には、原則として元請負人が事業主となり、元請負人が自分で労働者を使用して行う工事の部分だけでなく、下請けに請負わせた工事の部分を含めて、一括して保険に加入することになります。

 したがって、ご質問のケースでも、元請負人である貴社が事業主として、労災保険の各種給付にかかる証明を行うことになります。

(Q-R-27)

当社の従業員が、業務上の災害で足を複雑骨折し、手術で金属プレートを埋込まれ、リハビリを経て症状固定(治ゆ)となりましたが、1年後、金属プレートを抜くため再手術で入院することになりました。この場合、再治療と休業補償給付はどうなりますか?
ご質問のケースは、再発が認められるかどうかということですが、行政通達(昭34・7・15基発第502号)によると、骨折治療の際に使用する、いわゆるキュンチャー釘(髄内釘)などの抜去術の取扱いについて、
  1. 1 髄内釘・三翼釘などを装着したものについては、当該装着金属が運動障害とならない場合には、症状が安定し、装着金属を抜去することのほか、治療の必要がなくなったときをもって、治ゆとすること。
  2. 2 治ゆ後、装着金属を抜去する場合の取扱いについては、再発として取扱うこと。

 とされていますので「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出することにより、再発が認められ療養の給付が行われることになります。

 また、休業補償給付の受給についても、療養のために労働することができないために賃金を受けていないこと、の要件を満たしている場合には支給されることになります。

(Q-R-28)

業務中の災害はすべて労災保険から補償されるのでしょうか?
労災保険の対象となる業務上の災害とは、業務と災害の間に相当因果関係がある災害、すなわち、業務起因性が認められる災害をいいます。

 したがって、業務中に発生した災害であっても、業務起因性が認められない場合には、労災保険の対象とはなりません。

(Q-R-29)

出張の移動中に交通事故に遭い負傷したのですが、労災保険の適用はあるのでしょうか?
出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っているため、特別の事情がない限り、出張過程の全般について事業主の支配下にあるといってよく、業務遂行性があると認められます。

出張中の個々の行為については、積極的な私用・私的行為・恣意行為等にわたるものを除き、それ以外は一般に出張に当然又は通常伴う行為とみて、業務遂行性が認められることになります。

今回のケースは、出張の移動中の交通事故ということですが、例えば、酒に酔って交通事故に遭ったとか、私的目的で通常の又は合理的な順路を逸脱している間に交通事故に遭った等の場合には、業務遂行性が失われているため、業務上の災害とは認められないことになります。

(Q-R-30)

業務上の疾病とはどんな病気ですか?
業務上の疾病とは、労災補償の対象となる病気をいいます。仕事との因果関係のある病気をいいます。ここでいう因果関係とは、正確には相当因果関係といい、仕事に内在する有害な要因によって病気が具体的に現れたと認められる関係を指します。

具体的には、労働基準法に基づいて、労働基準法施行規則別表第1の2及びそれに基づく告示に列挙されており、その概要は、次のとおりです。

なお、これらの規定は、具体的な病名が示されたものと「その他」という趣旨の規定で構成されており、仕事との相当因果関係が認められた個々の疾病はすべて労災補償の対象となります。

労働基準法施行規則別表第1の2

第一号 業務上の負傷に起因する疾病(災害性腰痛、脊髄損傷など)

第二号 物理的因子による疾病(紫外線による眼疾患・皮膚障害、電離放射線障害、熱中症、騒音性難聴など)

第三号 作業態様に起因する疾病(非災害性腰痛、振動障害、上肢障害など)

第四号 化学物質等による疾病(一酸化炭素中毒、鉛中毒、有機溶剤中毒など別途告示で151種類の化学物質・化学物質群とそれらによる症状・障害が示されています。)

第五号 じん肺症とその合併症

第六号 感染症

第七号 職業がん(石綿による肺がん・中皮腫、電離放射線による白血病など、クロム酸塩製造工程による肺がんなど)

第八号 厚生労働大臣が指定する疾病(別途告示で3種類の業務上の疾病が示されています。)

第九号 その他業務に起因することの明らかな疾病(過重業務による脳・心臓疾患、心理的負荷による精神障害など)

(Q-R-31)

派遣先で業務上災害が発生、派遣元・派遣先どちらの労災の適用となるのでしょうか?

行政通達では、労働者派遣事業に対する労災保険の適用については、派遣元事業主の事業が適用事業となるものとされています。

その根拠として、第1に、派遣元事業主は労働者の派遣先事業場を任意に選択できる立場にあり、労災事故が起こった派遣先事業主との派遣契約を締結したことに責任があること。第2に、派遣元事業主は派遣労働者を雇用し、自己の業務命令によって派遣先で就労させている者として、派遣労働者の安全衛生に十分配慮する責任があること。第3に、労働基準法上の規定(例えば、業務上の傷病に係る解雇制限、補償を受ける権利の退職による不変更等。)の趣旨から見て、労働契約の当事者である派遣元事業主に災害補償責任があることを前提としていると考えられること、が挙げられます。

次に、実際に被災した労働者が労災保険給付の請求を行う際には、保険給付請求書の事業主の証明は、派遣元事業主が行います。

ただし、派遣先で業務上災害が発生した場合は、事故の状況を把握出来るのは派遣先事業主ですので、死傷病報告書の写し等、災害発生状況等に関して派遣先事業主が作成した文書を療養(補償)給付以外の保険給付の最初の請求を行う際に添付することとされています。また、派遣労働者に係る労働者派遣契約の内容等が記載された「派遣元管理台帳」の写しも添付する必要があります。

(Q-R-32)

過労死といわれる脳・心臓疾患はどのような病気ですか。
過労死とは、過重な業務に従事することにより脳血管疾患又は虚血性心疾患等を発症し、あるいはこれによって死亡に至ることをいいます。具体的な疾患名は次の表のとおりです。これらの疾患を便宜的に「脳・心臓疾患」と呼んだり、これらの疾患の罹患と死亡の双方を含める趣旨で「過労死等」と呼んだりすることがあります。
脳血管疾患虚血性心疾患等
脳内出血(脳出血)心筋梗塞
くも膜下出血狭心症
脳梗塞心停止(心臓性突然死を含む。)
高血圧性脳症解離性大動脈瘤

また、過労死とは別に、頭部や胸部の打撲などの業務上の負傷によりこれらの疾患を発症することがあり、労災補償の対象となります。
業務上疾病の規定における分類では、次のようになります。

過 労 死業務上の負傷による脳・心臓疾患
労働基準法施行規則別表第1の2
第9号「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当します。
労働基準法施行規則別表第1の2
第1号「業務上の負傷に起因する疾病」に該当します。

(Q-R-33)

過労死として労災認定されるのはどのような場合ですか?
脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等による要因により形成され、それが徐々に進行し、あるいは増悪して、ある時突然発症するものです。

 しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。このような場合に、仕事が相対的に有力な原因になった(相当因果関係がある)ものとして労災補償の対象になります。仕事中に発病したかどうかや退職前に発病したかどうかなどの発病の時期は問われませんし、職場で発病したのか、家庭で発病したのかなどの発病の場所も問われません。

 このような考え方を前提に、過労死の認定基準が示されています(平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」)。認定基準の概要は、次のとおりです。

対象となる疾患脳血管疾患脳内出血(脳出血)
くも膜下出血
脳梗塞
高血圧性脳症
虚血性心疾患等心筋梗塞
狭心症
心停止(心臓性突然死を含む。)
解離性大動脈瘤
認定要件異常な出来事発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。
短期間の過重業務発症に近接した時期(おおむね1週間以内)において特に過重な業務に就労したこと。
長期間の過重業務発症前の長期間(おおむね6か月間)にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

(Q-R-34)

精神障害等が労災認定されるのはどのような場合ですか?
精神障害の労災認定のために、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9月14日付け基発第544号。平成21年4月6日付け基発第04060001号により一部改正)が示されており、その概要は次のとおりです。

精神障害はさまざまな要因が作用して発病しますので、労働者の精神障害については、次の要因に整理してその原因等を検討します。

  1. 1 業務による心理的負荷(事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生、仕事の量・質の変化など)
  2. 2 業務以外の心理的負荷(自分の出来事、家族・親族の出来事、金銭関係など)
  3. 3 個体側要因(精神障害の既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向)

精神障害の労災認定に当たっては、発病前おおむね6か月間にわたって調査把握し、精神障害の発病の有無、発病の時期、疾患名を確認したうえ、次の3要件をいずれも満たす場合に、その精神障害と仕事との相当因果関係があるものとして労災認定されます。

  1. 1 判断指針の対象疾病に該当する精神障害を発病していること。なお、対象疾病とは、原則として国際疾病分類第10回修正(「ICD-10」といわれます。)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害です。
  2. 2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
  3. 3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。

(Q-R-35)

業務上と思われる精神障害を労働者が発病した場合、会社として何をすればよいのでしょうか?
労災保険の請求は、被災労働者(死亡事故の場合はその遺族)自身の手続が原則ですが、現実には会社が代行するのが普通です。というのは、労災保険の請求には事業主の証明が義務付けられているため、災害発生の年月日をはじめとして、療養のため休業した期間その他を証明しなければならないからです(労災保険法施行規則第23条第2項)。

 また、休業補償給付などの請求に際しては、平均賃金や休業期間なども計算しなければなりませんが、これも会社の協力があってのことになります。

 こうした事務作業は、事業主の義務とされているのです。特に、被災労働者自身が入院などしていて、自分では手続ができない場合には、会社が助力しなければならないことになっています(労災保険法施行規則第23条第1項。)。

 また、万が一、被災労働者が死亡したり、4日以上休業したときには、労働者死傷病報告(労働安全衛生規則様式第23号)を、遅滞なく労働基準監督署に提出しなければなりません。

 なお、労災保険の請求窓口は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。労働基準監督署では、請求書の様式を渡してもらえますし、手続についての相談も受け付けています。

(Q-R-36)

通勤災害とは何ですか?
通勤災害は、労災保険法第7条第1項第2号において「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいうものとされています。また、「通勤」については、同条第2項及び第3項において次のように規定されています。

 「前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。」

  1. 1 住居と就業の場所との間の往復
  2. 2 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
  3. 3 1に掲げる往復に先行し、又は後続する移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

「労働者が、前項の各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項の各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の各号に掲げる移動は、第1項第2号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」

 このように通勤災害とは、労働者が労災保険法第7条2項及び第3項に規定されている「通勤」の要件をすべて満たした通勤に起因する災害をいうことになります。

(Q-R-37)

誤って健康保険で受診し、後日、労災保険へ切り替える場合の手続きはどうしたらよいのでしょうか?
1 労災指定医療機関受診の場合

 業務災害及び通勤災害で受診する場合、初診時かその直後に様式第5号又は様式第16号の3(療養の給付請求書)を医療機関の窓口へ提出しますが、労災保険に対する認識不足等の理由により、誤って健康保険で受診した場合、対応方法は原則、以下のとおりとなります。

 医療機関が支払を受けた診療報酬を患者が保険者へ返還し(7割分)、窓口負担分と合わせて様式第7号又は第16号の5(療養の費用請求書)に領収書や請求書等療養に要した費用を証明する書類を添付して、直接、所轄労働基準監督署長あて請求することになります。

 その際、費用請求書に診療担当者の証明を受けなければなりませんが、請求書裏面の「療養の内訳及び金額」欄は、診療報酬を返還する時交付されたレセプトの写しを添付すれば、同欄の記載は必要ありません。

2 非労災指定医療機関受診の場合
 もともと、後日、療養の費用請求(現金請求)を行うものであり、医療機関が請求し受領した診療報酬(7割)を患者自身が健康保険へ返還し(その際、レセプトの写しを交付してもらう。請求書裏面の証明は前記1に同じ。)、窓口負担分と合わせて様式第7号又は第16号の5(療養の費用請求書)に、領収書や請求書等療養に要した費用を証明する書類を添付して、直接、所轄労働基準監督署長あて請求することになります。

(Q-R-38)

労災保険で二次健康診断が無料で受けられると聞きましたが、どのような制度なのでしょうか?

二次健康診断等給付は、職場の定期健康診断等で異常の所見が認められた場合に脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を無料で受診することができる制度です。

次の1又は2のいずれかに該当する方が、二次健康診断等給付を受けることができます。

  1. 一次健康診断の結果において、
    (1) 血圧検査
    (2) 血中脂質検査
    (3) 血糖検査
    (4) 腹囲の検査又はBMI(肥満度)の測定
    の4つの検査についていずれも異常の所見があるとされた方です。
  2. 1の4つの検査のうち、1つ以上の項目で異常なしの所見があるが、それらの検査項目について、就業環境等を総合的に勘案すれば、異常の所見が認められると産業医等から診断された方です。なお、労災保険制度に特別加入されている方及び脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有している方は対象外となります。

    二次健康診断等給付を受けようとする労働者は、二次健康診断等給付請求書(様式第16号の10の2)に必要事項を記入し、一次健康診断の結果の写しなどを添付して、健診給付病院等を経由して、所轄の都道府県労働局に提出します。

    注意する点は、
    (1) 一次健康診断を受けた日から3か月以内に請求すること。
    (2) 1年度に1回のみ受診することができること。
    (3) 指定された病院又は診療所でのみ受給することができること。

(Q-R-39)

障害(補償)給付の障害等級が決定されましたが、私の障害はもっと上位の等級に該当すると思われますので、不服の申し立てをしたいのですが、どこに申し立てればよいのでしょうか?
労働基準監督署長が保険給付に関して行った決定に不服のある被災労働者または遺族は、各都道府県労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官に審査請求を行うことができます。この請求は、原処分のあったことを知った日の翌日から60日以内に、文書または口頭で行います。

 審査請求の決定についてなお不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官の審査決定の通知を受けた日の翌日から60日以内に、労働保険審査会に再審査請求を行うことができます。また、労働者災害補償保険審査官に対して行った審査請求から3か月を経過しても決定がない場合についても、再審査請求を行うことができます。なお、再審査請求は文書により行わなければなりません。

(Q-R-40)

労災指定医療機関になるためには、どのような手続きが必要ですか?
労災指定医療機関としての指定を受けるためには、「労災保険指定医療機関指定申請書」(様式第1号)に、病院や診療所を開設する際の開設許可証の写とその病院や診療所の施設等に関する概要書を添付して、病院または診療所の所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に申請することとなります。

(Q-R-41)

二次健康診断等給付医療機関となるには、現在、労災指定医療機関であれば、それでよいのでしょうか。または、改めて二次健康診断給付医療機関の指定申請をする必要があるのでしょうか?
二次健康診断等給付を実施する二次健康診断等給付医療機関となるには、現在労災指定医療機関である医療機関であっても、別途、管轄都道府県労働局長に二次健康診断等給付医療機関の指定申請を行わねばなりません。

(Q-R-42)