第10回 山田 誠二さん
パナソニック健康保険組合 産業衛生科学センター 所長
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員
こころの変調をきたしている作業者を早期に発見して、早期に対応することは健康診断(健診)診察医や産業医にとって大切な業務の一つです。健診業務を通じて、何とか早期発見の糸口をつかみたいと思っています。私たちのグループで行われているVDT健診に使用される問診票には、30種類以上の自覚症状を問う項目があります。問診票の項目は大きく3つの領域に分類されます。眼の自覚症状を問うA項目、筋骨格系の症状を問うB項目、メンタルな症状を問うC項目です。
メンタルな症状を問う自覚症状は、若い番号で"食欲がない、吐気がする、眠れない、イライラする"などの不定愁訴の項目が並び、それに続く番号で"慢性的な疲労、根気が続かない、出勤意欲がない"など具体的なメンタルヘルス不調へと続く項目が並んでいます。どの番号に印がつけば、メンタルヘルスに要注意という画一的なものではありません。一般的には印をつける数が多いほど、または自覚症状の番号が大きいほどメンタル状態は良くないと考えられます。しかし、作業者の中にはあまり深刻に考えず、ごく単純に印を一杯つける傾向の作業者もいます。反対に一つだけがポツンと印がつくだけで、非常に深刻なメンタルな叫び声である作業者もいます。健診の際には、いちいち確認をします。彼らが答える言葉、たとえば、「まあ、大丈夫」といった回答をそのままカルテに記載しておきます。
自覚症状の数の多寡からメンタルヘルスの現状を推量することは難しいですが、何年かの経過における自覚症状の数と自覚症状の性質変化をおってみますと、現在のメンタルヘルス状態までの時間経過がよくわかります。この経過を糸口にしてもう一押ししてみると現在の状況を聞きだすことができ、メンタルへルス不調の早期発見につながることがあります。
健診時に、現在元気に働いている人のカルテをくっていくと、その人の苦しかった軌跡が残されていることがあります。専門医への受診を勧めている診察医に自分の名前を見つけ、しばらくは苦しい時期はあるものの回復していく様子がカルテから推察されるのをみつけると、受診している作業者とその時の苦しさを回顧し、現在の健康を祝して握手をしたくなります。自分も少しは役にたったのだと内心誇らしく思います。反面、その後も一向に自覚症状に回復の見られない作業者も多く見受けられ、メンタルヘルス不調者への対応の仕方の難しさを感じます。
心をうち明けられずにメンタルヘルス不調で悩んでいる作業者を一人でも多く早期発見できるように精進しながら、健診業務に従事しています。