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几帳面で責任感が強い性格から仕事を部下に任せきれずいわゆる昇進うつ病を発症した事例

概要

症例 31歳、男性
家族・生活歴
  • 工学部卒業 製造会社技術系主任、入社8年目
  • 家族は母、妻、息子の4人家族
  • 性格は几帳面で責任感が強く完ぺき主義、半面融通がきかず頑固
病歴・対応経過

某年4月、同期ではトップで主任に昇進しましたが、新しい部所で部下をもつのもはじめて、真面目で几帳面、完ぺき主義な性格から部下に仕事を任しきれず、仕事内容も分からないため部下の質問にも答えられず、焦れば焦るほど自信喪失していきました。11月中旬、後頭部痛出現。12月中旬、風邪症状や胃痛、下痢が出現し近医内科を受診し風邪薬を処方されました。

翌年1月中頃”両手の痺れ感、食欲不振、眠れない、疲れやすくて仕事に集中できない”などの症状も出現したため、産業医のすすめで心療内科を受診しました。

受診時、希死念慮があり、疲れきって頭も回転せず正常な判断ができない状態でした。休業、服薬が必要と説明されても”仕事を休む訳にはいかない。迷惑かけるんだったら退職した方がよい。心療内科を受診したことも知られたくないし薬も飲みたくない、自分で何とかしたい”と頑な態度で終始。しかし翌日、会議中頭が真っ白になり質問に答えられず泣き出してしまい、周囲の説得でやっと服薬と休業を受け入れ3か月間の休業加療要の診断書が発行されました。3か月後、主治医からは”元気になったように見えても、まだ仕事には耐えられない様です。再発の可能性が高いですから、もう少し休んでエネルギーを貯めましょう。うつ病の再発率は50%もあり、あせりは禁物です”と休業延長を促されても頑としてゆずらず、”元気になりました。休んでいるほうが悪くなります”と職場復帰を主張しました。産業医と主治医の連携のもと、万一再発すれば産業医主治医の指示に従ってもらう約束をし、とりあえず試し勤務をすることになりました。

しかし周囲の危惧どおり試し勤務中に再発。今回は約束どおり主治医の指示に従いゆっくり6か月間休業、その後2か月間の試し勤務を経て、復帰4年後には服薬を中止することができました。

ポイント

1)昇進うつ病は社会人としての成長の節目

うつ病者の多くが几帳面で責任感が強い性格です。真面目ゆえ昇進は早いのですが、人を使う事が不得手で、昇進すると部下の分まで仕事が気になりストレスを溜め込み昇進うつ病になります。この事例では4年間薬で支えられながら昇進うつ病を乗り切りました。もし、乗り切れなければ部下を持たない専門職などでやっていかざるを得ません。昇進うつ病は社会人としての成長の大きな節目です。あせらず成長を見守る必要があります。

2)身体症状が「なかなか治らない」時はうつ病も疑う

うつ病初期には身体症状が出現する事が多くあり抗うつ薬が効きます。この事例では、風邪症状や胃痛、下痢などの身体症状が風邪薬や胃腸薬では改善せず、抗うつ薬などで改善しました。このように、内科のお薬で症状が改善しない時、背後にうつ病が潜んでいることがあります。

3)重要な判断はうつ病が治ってから

うつ病では認知の障害があり、全てをマイナスに捉え妥当な判断ができなくなってしまいます。この事例では、休業し治療するという常識的判断ができませんでした。うつ病では重要な事柄の決断はバランスの取れた判断力が回復するまで延期する事が大切です。

4)職場復帰や試し勤務開始の目安

職場復帰や試し勤務の開始にはなんらかの目安があった方が成功率が高いと言えます。この事例では、焦りが1回目の復帰への判断を誤らせました。2回目の試し勤務開始には(1)-(5)の目安をもうけ、それがそろってからとしました。本人も努力目標を持ちやすく復帰を成功に導いたと言えます。

(1) 自覚的にほぼ元の自分である。

(2) 諸症状がほぼ全て改善している。

(3) 焦りではない労働意欲が充分ある。

(4) 出社に適した規則正しい生活習慣になっている。

(5) この状態が1ヶ月以上安定して維持できている。