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[事例1-1] 長時間労働の結果うつ病にかかり自殺したケースの裁判事例(電通事件)

1 概要

 本件は、新入社員のA(男性・24歳)が、慢性的な長時間労働に従事していたところ、うつ病に罹患し、自殺するに至ったことから、遺族である両親が会社に対して損害賠償を請求した事案です。

 具体的な事実経過は、以下のとおりです。すなわち、Aは、1990年4月に入社し、6月の配属以来、長時間労働で深夜の帰宅が続きましたが、当初は意欲的で、上司の評価も良好でした。1991年1月以降、帰宅しない日があるようになり、同年7月には元気がなく顔色も悪い状態となりました。さらに、8月に入ると、「自信がない、眠れない」と上司に訴えるようになったほか、異常行動もみられ、遅くともこの頃までにうつ病に罹患しました。そして、わずか入社1年5か月後の1991年8月27日、自殺に至ったというものです。

2 裁判の経過等

 本件は最高裁の判決ですが(2000年3月24日最高裁第2小法廷判決)、その前段階として、一審(東京地裁1996年3月28日判決)では、会社に約1億2,600万円の賠償金の支払が命じられ、これを不服とした会社は控訴し、二審(東京高裁1997年9月26日判決)では、Aの性格や両親の対応を理由に賠償額が減額され、約8,900万円の支払いが命じられました。さらに会社は上告し、その取消を求めたのがこの裁判です。

 裁判における争点は、(1) 業務と自殺との間に因果関係が認められるか、(2)会社に義務(注意義務ないし安全配慮義務)違反があったか、(3) Aの性格や両親の対応などを損害額算定の際に減額事由として考慮すべきか、の3点です。

 最高裁判所の判断は、上記(1)の点については、長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められ、因果関係ありとされました。それまでの裁判例では、自殺という行為は、本人の判断能力が認められる場合、業務との間の因果関係を認めることに慎重でしたが、本件では、上記のような連鎖が認められる限り、本人の判断能力は問題とされませんでした。したがって、本判決は、従業員の過労自殺に関わる民事上の損害賠償請求事案について、因果関係を認めた初めての最高裁判決として重要な意味を持っています。

 次に、上記(2)の点については、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」としたうえ、Aの上司らは、Aが恒常的に著しい長時間労働に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるような措置を取らなかったとして、会社の注意義務違反を認めました。

 最後に、上記(3)の点については、二審では、真面目で完璧主義、責任感が強いといったAのうつ病親和的性格や、同居していた両親がAの勤務状況を改善する措置を講じなかったことを減額事由(民法722条2項の過失相殺の類推適用)として考慮しましたが、本判決では、労働者の性格が個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格を賠償額の算定にしんしゃくすべきではないとし、また、両親の対応についても、Aが独立の社会人として業務に従事していたのであるから、勤務状況を改善する措置を取り得る立場にあったとは、容易にいえないとして、二審での損害額の減額は違法であると判断しました。ただし、この判断は、本件の事例にとどまるものと解され、過労自殺の事案一般について、本人の性格や家族の落ち度等を減額事由として一切しんしゃくしてはならないというものではありません。現に、本判決以降に言い渡された過労自殺の事案についての下級審判決では、それらの事由を減額事由としてしんしゃくするものがいくつもみられます。

 本件の結論としては、二審の損害額の算定(減額)についての判断を破棄、差戻し(裁判のやり直しを命じること)とされましたが、その後の差戻審(東京高裁における審理)において、最終的には、会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立しています。