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昇進後徐々にストレスが募り行方不明(遁走)となった事例

概要

男性・32歳

生来几帳面な性格で頑張り屋だが少し気の弱いところがありました。国立大学中退後、金属部品製造会社に入社しました。2年前営業係長に昇進したのですが思ったほど成績が上げられず次第に焦りを感じるようになっていました。

1年ほど前より「全身倦怠感」「不眠」が出現。半年ほど前からは通勤途中で頭痛が出現し、しかも会社が近づくにつれて次第に悪化、やがてほぼ毎日出現して嘔気(はきけ)も伴うようになってきました。そのため出勤途中で休息をとらざるを得なくなり、会社は遅刻がちとなりました。一度内科を受診したのですが頭部CTなどに異常は認められませんでした。ある日いつものように車で出勤したのですが出社せずそのまま消息不明となってしいました。4日後の未明、約1,000Km離れたA県の某海岸で、車の中でボーッとしているところを発見され警察に通報、保護されました。この間のことを本人はよく覚えており、「会社近くになるといつものように頭痛が激しくなってきたが、その時何となくフラーッと遠くへ行ってみたくなった。そう思うと頭痛も嘔気も無くなった」「とにかく現実から逃げ出したかった」と話しました。

産業医に相談のうえ、精神科を受診、とりあえず約1か月休職しました。やがて症状も無くなり復職しましたが、本人とも相談の上、復職後は営業係から倉庫管理係に配置換えとなりました。その後は通常に勤務できています。

ポイント

この症例は、昇進後思ったほどの成績が上げられず軽いうつ状態に陥っていったものと考えられます。出勤途中で頭痛や嘔気が出現するようになり遅刻がちとなりましたが、これは出社拒否症状で、その後出勤途中で行方不明(遁走)になるといった現実逃避行動に至ったと言えます。一般にうつ状態の初期にみられる症状が「不眠」、「全身倦怠感」、「だるさ」などで、遅刻が目立ってくるのは出社拒否症の初期症状としてしばしばみられるものです。いずれにしてもこのような日常行動の変調は家人や同僚、上司らに気付かれていることが比較的多く、この事例でも、このような時点で家族や同僚あるいは上司から何らかの働きかけができていれば大事には至らなかった可能性があります。したがってこの職場では、そのような目でお互いを見合えるだけのメンタルヘルス教育がなされていなかったことに問題があったと言えましょう。

ところで今回のような症例の場合には、けっして叱咤激励したり出社を強要せず、とりあえず休養させることが最も重要です。まずは精神科の受診を勧め病状をきちんと評価してもらいましょう。必要に応じてカウンセリングなど勧め、ストレスの対処や思考パターン・行動パターンの見直しにもつなげられるといいでしょう。そして、復職後は過大な心的ノルマを課さず、場合によっては降格人事をしてでも(その必要性を本人が了解できるようなプロセスも設けて)身体を使う比較的単純で軽微な作業の部署に配置換えするほうが良いこともあります。また大切なことは、周囲の者が復職者に対して偏見や先入観を持たず、奇異の目で見ることなく暖かく受け入れ、通常どおりに接すること、そのようなメンタルヘルス教育を行うことが重要でしょう。