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双極性障害による休養後、適切な治療と職場配慮により復帰となった事例

概要

身体的な病気のみならずメンタルヘルスの問題でも、事業の安全性の確保のために当人の業務内容を含め職場との情報交換が重要です。一方で、労働者の機微な健康情報の取り扱いには配慮が必要です。
本事例は双極性障害により入院加療となりましたが、治療のみならず、精神科主治医や職場との適切な連携と職場配慮により、職場復帰となった事例です。

症例 45歳、男性
業種 運輸業
職種 管理職(ドライバー運行管理、車両管理、物流情報管理)
家族・生活歴 大学卒業後入社。飲酒は24歳から毎日。ビール2本あるいは酒3合程度の晩酌。
妻、一男二女の5人家族。本人は2年半前に某地へ異動し単身赴任。
症状の経過

2年半前に某地に異動にて単身赴任となりました。9ヶ月程は順調に勤務していましたが、抑うつ感出現とともに仕事上のトラブルの事後処理の件で責任を感じ不眠が出現しました。徐々に出社不安や希死念慮も生じるようになりました。約半年後の休日、単身赴任先から自宅に帰省した際に家族が心配し、自宅近くの精神科クリニックを受診します。うつ病の診断で入院も勧められましたが、管理職の立場で休める環境もなく、自宅帰省の際に外来通院治療を続けました。

翌月より、口数が多く自信に満ちた発言、他人に対しての過干渉、寝ようとせずに活動、無計画に出費といった躁状態が疑われる症状が出現し、早朝や休日の過度な出勤もするようになりました。この間、抗うつ薬を含む向精神薬の投与を受けていましたが、主治医が遠方でもあり、またつらいうつ症状が解消したため、自己判断で内服を中断しました。元々日頃から晩酌をしていましたが、後先を考えず抑制のきかない飲み方により飲酒量も増え、時に仕事を休むこともありましたが、長期の休業に至らなかったため、健康管理・人事上の問題として表面化せず経過していました。ところが、ある週末、単身赴任先から自宅帰省時に、落ち着きなく動き、盛り上がる感情の抑制が困難で興奮し暴言を放ち、指摘すると激しく怒るなど、家族が恐怖を感じるほどの躁状態がみられ、家族がなんとかなだめて救急当番の精神科病院に入院しました。専門医により「うつ病」から「双極性障害」の診断となり治療を受け、入院後約1ヶ月で精神状態は落ち着きましたが、退院までには約6ヶ月を要しました。退院後も、軽躁、軽うつ状態を繰り返しながら、薬物療法にて次第に寛解状態となりました。

本人より主治医の就労可能の診断書が職場に提出され、産業医および産業保健スタッフとの職場復帰のための面接となりました。その時点で、双極性障害の薬物療法は継続されていました。

本事例の課題

業務に関する課題

  1. 業務内容:安全に直接関与する部署
    運行管理、車両管理、物流情報管理業務を担当しており、「安全」にも直接関与する部署です。技術上の諸問題について現場で一次処理(クレーム処理を含む)を担当する業務でした。業務知識はあるが、守備範囲が広く、不連続、不規則な業務処理であり、多くの関連部署との調整が必要とされる業務です。
  2. 業務に関する人間関係:完全主義的で抱え込みがちで、職制が意識的に声かけ
    本人が真面目でおとなしく感情をあまり表に出すタイプではなく、常に冷静に対応していたように見えていました。また、完璧主義的なところあるいは自分で抱え込んで、あまり上司や同僚に相談しないところがあり、諸問題についてうまく処理できずに独りで悩むところもありました。

疾病に関する課題

  1. 双極性障害の疾患特性:再発・再燃の可能性を意識
    入院中に「双極性障害」の診断書ならびに産業医への診療情報提供書が提出されて休養開始となりました。疾患の特性上、再発・再燃防止のために中長期的な内服と通院加療を要するという意見もありました。

対応のポイント

医学的側面

発病後、休業にともなう主治医診断書の提出があり、精神科主治医と産業医の連携が紹介状、医療情報提供書などにより行われました。
  1. 精神科主治医からの意見
    専門知識が生かせて調整業務がない職場への復帰が望ましい。
  2. 産業医・産業保健スタッフの意見
    通院・内服を続けながらまわりのサポートを得やすい環境での就労は可能との考え。

休業者本人の復帰に向けての準備

  1. 専門的治療による再発防止
    薬物療法にて良好な状態になりましたが、基本的には中長期的に内服治療の継続が必要となります。
  2. セルフケアによる再発防止
    職場復帰については、内服治療の継続、それに伴い禁酒という生活習慣改善など、まずは「自身の健康管理」、つまりセルフケアの重要性の理解が求められます。産業医や産業保健スタッフは、復帰前にセルフケアの認識についての確認もするといいでしょう。

職場側の受入れの準備

再発・再燃のリスクも考慮しながら、「安全」にも直接関与するという負荷の高い業務への復帰の可否を検討する必要が出てきました。ただ、主治医・産業医・産業保健スタッフからも「職場復帰の準備が出来ている」という意見を受け、職制からはまず現職復帰をさせて回復状況を確認してから異動の取扱いについて対応したいとの意向でした。

職場復帰に関する結論

  1. 就業の可否について
    月2回の主治医による外来加療の継続と月1回の精神科主治医の経過観察を条件に、業務内容を調整した上でまずは現職へ復帰となりました。
  2. 就業上の配慮(安全配慮、健康配慮)について
    生活習慣を保ちやすくするためにシフト勤務をなくし、業務内容も純技術的なものに限定するような業務配慮がなされました。
  3. 職場復帰後のフォローアップについて
    復帰後も定期的な産業医面接(上司および職制)を継続し、数ヶ月順調に勤務を続け、 定期人事異動として、単身赴任の不要な自宅近くであり、本人の専門知識を活かせる部署に異動となりました。その後も、主治医での外来加療を継続しつつ、安定した就業を継続しています。

考察

双極性障害の場合、うつ状態による職務能力の低下のみならず、躁状態での周囲を巻き込んだ問題行動の大きさによっては周囲への影響が大きく、その後の職場復帰の障壁となることがあります。
運輸業の場合、中には安全性に関われる対外的な責任や負荷が非常に高い業務があります。健康状態の確保が一定期間確認できていない時点では、本人の安全や健康のみならず、周囲の社内・社外に対する安全や健康も重視し、業務内容の調整などを慎重に検討する必要があります。

本事例では、発症の契機は業務上の多忙や単身赴任や飲酒習慣など多岐にありました。結果論にはなりますが、発症当初の治療開始時に、早めに休養して治療に専念するのが良かったかも知れません。
また、疾病によっては中長期的な内服と通院加療が必要なこともあるため、再発の可能性、薬剤の影響なども加味して、業務内容を慎重に検討した上で、職場復帰を考えていく必要があります。本事例では、職場復帰に向けて、精神科主治医と産業医、職場と産業医を含む産業保健スタッフとの情報交換や連携が有効に働いたと思われます。