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多くの企業で抱えていると思われるメンタルヘルス関連の事案に対し、社会保険労務士の2人がリレー方式で答えていきます。
※これらの内容は、あくまでも1つの事例である旨、ご了承ください。
【Q】質問
休職中の社員が職場復帰前に行う「試し出勤制度」を社内で検討しています。制度の導入にあたって、労災補償や傷病手当金等に関してどのようなことに注意しなければならないのでしょうか?
ポイント
- 職場復帰前の試し出勤制度はあらかじめ労使で一定のルールを定める
- 試し出勤制度の導入に当たっては、労働基準法、労災保険法、健康保険法に基づいた形での処遇等を明確にする
【A】回答
休職中の社員が職場復帰する前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する「試し出勤制度」等を設定する場合があります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも挙げられ、そこにはこの制度の導入にあたっては、処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等についてあらかじめ労使間で十分に検討し、一定のルールを定めておきましょうとあります。どのようなことが問題となるのでしょうか。今回は「試し出勤」での注意点を取り上げて検討します。
まず、「労働基準法」と「労働者災害補償保険法」の適用から見て行きましょう。「休業中」は労働を免除され賃金も支給されていません。そうなると試し出勤にあたり自宅から会社までの通勤途中、又は会社施設内でケガ等があっても、業務に従事していなければ賃金が支給されず、労災保険も適用されない可能性あります。仕事ができるかどうかを見るために業務を命じた場合には、「労働基準法」が適用され、その労働に対する賃金を支払う必要があります。 業務に従事しながら賃金を支払わないことはお互いが合意をしたとしても許されませんので注意してください。
次に傷病手当金ですが、これは「健康保険法」により療養のため労務に服することができず、初めて労務に服せなくなった日から起算して3日間の待期期間をおいて4日目から支給されるものです。そのため問題となるのが仕事ができるかどうか見るために業務に従事してもらう場合です。「医師の指示又は許可のもとに半日出勤し、従前の業務に服する場合は支給されない。また、就業時間を短縮せず配置転換により同一事業場内で従前に比しやや軽い労働に服する場合は支給されない」(S29.12.9 保文発第14236号)という通知があり、軽作業や短時間であれ何らかの業務を行い賃金が支払われると、傷病手当金が不支給となることも考えられます。
導入や実施の際は、「試し出勤制度」の目的はあくまで職場復帰支援であることを対象者や関係者に改めて説明しておくことが大切です。
本山恭子(もとやま きょうこ)
「本山社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士 産業カウンセラー 消費生活アドバイザー」
不動産、建設、ホテル、レストラン業のある一般企業の総務・人事部門に約9年間所属し、業種の違う業務を経験。平成19年に独立開業。企業の就業規則作成・変更及び労務相談、手続き全般等を中心に、産業カウンセラーの知識も活かし企業のメンタルヘルス対策支援を積極的に行い企業活性化を図る活動を展開している。
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