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精神保健福祉士として
MPSセンター
(メンタルヘルスプロフェッショナルサポートセンター)
副センター長 佐藤 恵美さん
精神保健福祉士とは
精神保健福祉士という資格は耳慣れない方も多いかと思いますが、1997年に誕生した国家資格で、現在6万人を超える有資格者数となっています。精神医学ソーシャルワーカー(Psychiatric Social Worker)を略してPSWとも呼ばれます。資格の歴史は浅いものの、精神障害者福祉を専門とするソーシャルワーカーは、すでに1950年代から精神科医療機関に不可欠な専門職として活動しており、その歴史は60年以上になります。私自身も、国家資格創設以前から、精神科病院の医療相談室に勤務していました。社会福祉学を基盤とし、社会保障学、心理学、精神医学などの知識を合わせ持ち、精神障害を抱える人々が、自分らしく社会の中で生きていくことを支援します。従来は、医療機関や福祉施設における活動が中心でしたが、昨今では、司法や教育領域、そして外部EAP機関や社内健康管理室、リワーク機関、特例子会社などの産業保健領域などにおいても活動の幅を広げています。
精神保健福祉士の特性と産業保健活動
そもそも精神保健福祉士は、個の視点のみならず、集団や社会の視点から、環境調整やコーディネーション、社会に働きかけるソーシャルアクションを重要な専門性としています。そのため、複雑な利害関係が入り組み、個人の幸福だけでなく、組織や社会の改善を目指す産業保健は、その専門的特性を生かせる領域のひとつであると言えると思います。 ぜひその活用について、産業保健に関わる方々にも関心をもっていただきたいと考えており、2011年には、「産業保健分野で働く精神保健福祉士の会」 を発足させ、さらに2013年には日本産業精神保健学会において、「精神保健福祉士部会設立」を承認いただき、産業保健領域の精神保健福祉士が集い、研鑽できる土台作りも進めています。
産業精神保健との出会いと活動
さて、私自身はというと、精神科病院の医療相談室に勤務後、新たなチャレンジの機会を切望していた頃、故 島 悟(しまさとる)先生と出会い、はじめて産業保健領域を知ることになりました。当時、島先生が設立したばかりのMPSセンター(外部EAP機関)で、日本の実情に合ったEAPを模索していくとともに、MPSセンター自体の組織化にも必死でしたので、私自身は二重の意味で「働く環境づくり」を実践してきたと言えるかもしれません。
現在、EAPサービス機関である当センターでは、電話・メール相談、対面相談などの相談活動のみならず、企業組織や従業員が本当に困ったときに頼りになる専門的・実践的コンサルテーション活動と、予防的取り組みに注力しつつあります。そうした中で、精神保健福祉士は、臨床心理士や産業カウンセラーとともにEAPカウンセラーとして、ケースワークや個別相談、企業との連携コーディネーション、組織へのコンサルテーション、新しいサービスの開発などの業務を担っています。
精神保健福祉士活用の3つのキーワード
精神保健福祉士は元来、「草の根」的な活動を重んじつつ、未だ存在しない制度や社会を、「開拓」していくことを、ソーシャルアクションとして重視してきました。個々の従業員が抱える問題に地道に向き合い、あらゆる現実的な方法を探りながら、他のどこにもない組織を作り上げていく「草の根と開拓」は、まさに産業保健展開のキーワードと重なるところだと思います。また、協働する他の専門種や関係者、サービス利用者などを、有機的に結びつけて、解決に向かわせる「リンケージ」、そして、現実的なゴール設定を目指した「問題解決志向」は、産業保健領域において精神保健福祉士を理解し、活用するキーワードとなるのではないかと思います。
産業保健領域における精神保健福祉士の活動は、まだまだ始まったばかりで、これから経験と研鑽を積まねばならないとは思いますが、他の専門職の方々や企業組織の方々と協働しながら、個人と組織の福祉(幸福)に貢献していきたいと願っています。
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