第18回 島津 美由紀さん
ソニー株式会社 人事部門 産業保健部 臨床心理士
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員
職場のメンタルヘルス対策では、これまで個別の健康相談、職場復帰支援、健康診断に伴う事後面談など、社員個人にアプローチをすることが多かったが、近年は、個人だけでなく、広く、社員個々人が所属する組織にも目を向けて、働きやすい職場づくりの支援など、組織に向けたアプローチをとることも多くなってきたのではないかと思います。また視点も、メンタル面で調子を崩された方への支援だけでなく、不調のサインに気づいた時点での対応、さらには、今元気な人もより元気に、活き活きと働けるような支援へと拡大していっているのではないかと感じています。
”より元気に”という視点を考えたときに、ひとつの鍵概念になってくる言葉に、”職務満足感”、つまり、自分が働いている職場に、または、職場で自覚するポジティブな感情としての満足感があげられるのではないかと思います。職場での満足感については、古くは1920年代から1930年代までさかのぼるといわれています。それほど満足感への関心は高く、働く人々にとっても大きなテーマでもあることと思います。
そこで、職務満足感が高いとはどういうことだろう、と考えてみると、例えば、自分の仕事が意義あるものだと感じている場合、自分なりの能力が活かせているなと思える時、また、個人の視点だけでなくても、チームや組織の一員としての一体感を感じている時、自分が社会や組織に貢献できたなと思った時、周りから褒められた時・・・など、いくつかの場面が考えられると思われます。
このような職務満足感も、諸研究なども振り返りながら大きく分類してみると、例えば、自分なりの能力が活かせていると思える”能力発揮の満足感”、職場の上司や同僚などの仲間の理解がある、困ったときに支えあえるなど”対人関係への満足感”、また、自分自身のこれまでの昇進・昇格の機会やキャリアなどに満足できるなどの”キャリアへの満足感”など、に分けられるのではと思います。このような満足感にはそれぞれ特徴があり、例えば、やるべきことはある程度明確だが仕事量が多いなどという”仕事の量的な負担”が高い場合には、高い”能力発揮の満足感”が特に良好なメンタルヘルスに効果がありそうということや、そもそも何をどう進めていけばよいのかよくわからないなどという”仕事の質的な負担”が高い場合には、高い”対人関係の満足感”が特に、良好なメンタルヘルスに寄与するということがいわれています。このことを考えると、例えばプロジェクトのはじまりなど、何か新しい仕事に組織としてとりかかる際には、まず、能力発揮よりもチームワーク、周囲の人間関係に満足できるような環境にあることがよいのでしょう。そして、プロジェクトも中盤にかかり、ゴールも見えてくるようになれば、個々人が自分なりの能力をいかんなく発揮し、満足して働けることが健康にとっても良いことなのではと思います。
とはいえ、ふりかえって見ると、納得のいかないこと、不満に感じたことは容易に思い出せても、満足したことについては、よほど評価された、何かを達成したということがない限り、中々思い出せないということもあるのではないでしょうか。特に、諸外国と比べ、嬉しい、幸せ、などのポジティブ感情をストレートに表現することが比較的不得手とされるわれわれ日本人にとってはなおさらのことではないかと感じたりもします。
ただ、大切なのは、何も全ての状況において、常に満足することでは決してなく、何かひとつでも、そして、どんなに小さなことでも、自分にとって、満足できることを日々発見し、積み重ねていくことなのではないかと思います。身近な人から声かけられた”ありがとう”の一言、それが、小さな満足感のひとつにつながることがあってもよいと思う今日このごろです。