第12回 廣 尚典さん
産業医科大学 産業生態科学研究所 精神保健学 教授
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員
私は日頃、職場のメンタルヘルスに関する研究と、それに取り組む産業医の育成に携わっています。
90年代以降、この領域では、研究論文や活動報告がかなり増えていますが、職場からこころの健康問題を一掃できるような名案が生み出されるには至っていません。ただ、「こうしたことを地道に続ければ、事態がよくなっていくのではないか」という手がかりは、少しずつ分かってきているように感じます。
今回は、その中から、最近私が特に気になっていることをひとつ取り上げてみたいと思います。「支え合い」についてです。
熱烈で献身的な行為から、地域社会の連帯まで、世の中には様々な形の支え合いがあります。どれもが、我々が生活をしていく上で大切なものです。つらいことがあったそのときに駆けつけて強く抱きしめてくれる。これは大変分りやすい。ドラマなどにもなりやすいですね。一方で、地域の連帯についても、最近様々なメディアで(まだ物足りないにしても)取り上げられるようになってきたように思います。しかし、その中間はどうでしょうか。
苦しい体験の後少し時間が経つと、駆けつけてくれた人、一緒に泣いてくれた人達が少しずつ去っていく。けれど、悲しい気持ちややりきれない思いはなかなか癒えない。暗いトンネルがまだ続きそうなときに、さりげなく立ち寄って時間を共有してくれる、そうした気遣いもかけがえのないものです。
どうしようもなく八方塞に思える状況の中でも、少しそれをやり過ごすとわずかに光が見えてきて、なんとなくではあるけれど、徐々にはっきりしてくる。この過程に程よい距離感を持って付き合ってくれる関係が少なくなってはいないでしょうか。
産業医や産業看護職は、そこまではできないかもしれない。でも、いつも働く人たちの傍らにいて、仕事や組織の事情を熟知し、行き詰ったとき、疲れたときに、気軽に相談しやすい存在、絶妙のタイミングで声をかけてもくれる存在にはなれるはずです。こころの面でも働く人を支える産業保健職が増えていく後押しができればと思っています。