第3回 今村 聡さん
日本医師会常任理事
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員
近年、勤務医の長時間労働が社会問題となっています。昔から医師は聖職という意識が強く、時間や労働規制にあまりこだわりがなく、一生懸命に医療最前線で頑張ってきました。
しかし今の医師は、診療以外の書類仕事が非常に増え、それが長時間労働の原因にもなっています。また、当直以外にもオンコール体制にあれば、いつ呼び出されるかわからない、つまり仕事が終わって開放されることがない状況に置かれています。単に時間が長いだけでなく、労働において質的問題も抱えています。
日本医師会では、勤務医の精神面を含めた健康支援を目的として、勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会を立ち上げました。
そこで、勤務医1万人に対し、「勤務医の健康と支援のあり方に関するアンケート」で勤務医の働き方やメンタル面での影響について調査を実施し、40%あまりの回答を得ました。
結果を見ると、週に1日休みが取れていない人が46%、平均睡眠時間が6時間未満の人が41%、自分の体調不良を全く相談しない人が53%、メンタル面では自殺について週に数回以上考えている人が6%もいました。また、2人に1人は半年以内に1回以上患者さんからの不当なクレームやトラブルを経験しています。
このように一定の割合で勤務医が健康やメンタル面で問題を抱えてしまうと、持続的に良い医療を提供していくことが困難になります。
プロジェクト委員会では、調査結果をもとに、「勤務医の健康を守る病院7カ条」と「医師が元気に働くための7カ条」のリーフレットを作成し、全国の医療機関に配布しています。病院での組織的な改善とともに、医師自らが自分の健康を守っていくことも今後は求められています。
医師が厳しい環境でも働き続けられる理由は、患者さんから信頼され、自分の医療行為が高く評価されることで、満足感が得られることだと思います。質の高い医療は、医師が心身ともに健康で、患者さんとの間でお互いに信頼関係があって、初めて実現できるものだと思います。
また、医療はサービス業ではなく、公共財なので大事に利用してもらうことが大事です。小児科医や産科医の不足で、これらの診療科が閉鎖に追い込まれ、地域医療が薄くなっていく一方で、患者さんたちが団結して小児科医等を守り、医師を育てる活動をしている地域もあります。
勤務医の労働環境の整備のため、医師不足・偏在の是正等を図るための財源の確保等、行政に対する働きかけを含め、多方面にわたり支援していくことが、日本医師会の大きな務めであると考えています。