第2回 岡田 邦夫さん
大阪ガス株式会社健康開発センター産業医
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員
社会が豊かになり、食にしろ、衣にしろ、その種類は溢れるばかりでどれを選んだらよいのか迷うことが多くの場面であります。選ぶものが一つか二つしかなければそう悩むこともないのですが、溢れるばかりの種類があると困ってしまいます。毎日のように選択することに多くのエネルギーを使っていますと、これだけで疲れてしまいます。
一方、私たちも一人ひとりの個性が尊重されるようになり、人間性溢れる現代社会に成熟してきました。しかし、溢れるばかりの個性や性格を持っている人達への対応も、またエネルギーを使い果たしてしまいそうです。お互い気心の知れた人が仲間として集団を形成しているのであれば、コミュニケーションをとるのにそう苦労はないでしょう。しかし、ある目的のために集団となった企業では、人事異動などによって必ずしも同じ趣味や嗜好を持った人が集まるわけではありません。また、上司ともなればジェネレーションのギャップもあり、仕事などに対する価値観も異なってきます。社会がより自由に、より多様になれば、私たちもその流れに乗らなければなりませんが、社会の流れは速く、追いつかない人が多いのが現実なのです。自分の視点以外の視点があることを知ることは、成熟した人の一面であるはずですが、現代社会はどちらかというと自己愛が強くなり、視野が少し狭くなってきているようです。見方を変えれば、思い通りにならないことがあまりにも多くなってきたのです。それは、社会生活を送る上での選択肢が増えすぎたからなのかもしれません。生活習慣の変化と心の健康との関係が多くの研究で明らかになっていますが、社会の変化もまた私たちの自分自身に対する考え方を大きく変えていきつつあります。
選択肢があまりにも多くなった現代社会で心身ともに不安なく人生を送るためには、そのために必要とされるエネルギー以上のエネルギーを蓄えておくか、はたまた社会の流れに押し流される事なく、自分自身の確固たる地盤を築き、多くの人と協調して社会生活と自分自身の生活を調和させることで省エネルギーの生活を送るか、それとも自分自身の道を切り開くか、のどれかをこれまた選択しなければならないようになっているようです。メンタルヘルス不調にあっては、大事なことは決断せずに先延ばしするように、とされていますが、我々が創出した豊かな成熟した現代社会は、どのような健康状態であっても、我々に常に選択と決断を求めているようにも思えます。