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ダイトーケミックス株式会社(大阪府大阪市)

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ダイトーケミックス株式会社
(大阪府大阪市)

【写真】安養寺さん、市岡さん ダイトーケミックス株式会社は1938年(昭和13年)創立、1949年(昭和24年)設立。半導体やディスプレイに使われている電子材料や写真材料、印刷材料の製造・販売などを行っている。
従業員数は243名(2025年3月現在)。
今回は、管理部 部長の市岡孝基さん、技術開発センター開発管理グループ看護師の安養寺美貴さんからお話を伺った。

従業員の健康管理を行う産業看護師として、従業員全員の健康診断結果やストレスチェック結果を把握し、“立ち話面談”を通じて一人ひとりの小さな変化に対するケアを丁寧に行う取組みを実践している。

まず、従業員の健康管理の一環として行っている“立ち話面談”の取組みについてお話を伺った。

産業看護師が従業員一人ひとりを覚えたいという思いから“立ち話面談”が始まりました 「当社は製造業ということもあり、主に安全面の観点から、以前より常勤の産業看護職を1名配置していました。安全衛生活動の中で、相談対応などのメンタルヘルス対策も行っていました。前任者から引き継いで、産業看護師として、私(安養寺さん)が担っています。主に日々の相談対応や従業員の健康診断結果に基づく健康管理を行っており、現在は本社と技術開発センターおよび東京オフィスの約100人を担当しています。2006年に入社後、数年間は、健康診断結果と顔と名前が一致するよう、構内で従業員と顔を合わせると必ず声をかけ、一言二言会話をすることを意識的に行ってきました。またアットホームな会社の雰囲気もあり、声かけや保健室からの連絡にも好意的に対応してくれる従業員が多く、立ち話で健康状態をチェックするスタイルが定着していきました。現在では、挨拶や雑談から従業員一人ひとりの健康状態を把握し、フォローを行うスタイルの健康管理の方法を、“立ち話面談”として継続的に行っています。」

担当している従業員の健康診断とストレスチェックの結果などは記憶しています 「当社では、従業員を半数ずつに分けて、春と秋にそれぞれ健康診断を実施しています。実施後、結果データを元に、産業看護師が全員を対象に15分程度の面談を行い、必要に応じて産業医面談を受けてもらっています。しかし、この年1回の面談だけでは生活改善の様子や、健康状態の変化を継続して観察することができないので、“立ち話面談”を通じて経過を観察するようにしています。」

「担当している従業員の健康診断やストレスチェックの結果などは、記憶しています。日々の様子を観察して、『顔色が良くないけれど、ちゃんと寝られている?』、『病院を受診した後、調子はどう?』などと声をかけて話を聞き、状態を細かにチェックしたり、必要に応じて保健室での面談を設定したりすることで、従業員の健康管理を行っています。」

健康診断実施日や熱中症対策飲料を手渡しする機会に積極的にコミュニケーションをとっています 「状態を確認したい従業員については、構内で顔を合わせられそうな場所に積極的に出向き、コミュニケーションを図る工夫もしています。また、健康診断の実施日は全従業員と顔を合わせられるチャンスです。健康診断自体は外部健診機関のスタッフの方々がすべて対応しています。そこに、私(安養寺さん)も受付で同席し、終了時にパンや牛乳などを手渡しし、その場で食べてもらっている時に、結果や自覚症状などについて、自然と会話ができるよう努めています。5月~10月のクールビズ期間には、熱中症対策として会社から熱中症対策飲料と塩飴を無償提供しているのですが、あえて保健室で手渡しする形にもしており、そのやりとりを通じて顔色や声で状態をチェックすることも大事にしています。」

日頃からの信頼関係の構築と、自分から改善策が出てくるような関わり方を大切にしています 「こうした日頃の関わりがメンタルヘルス不調の支援にも役立っていると感じています。日頃から構内で雑談をしたり、保健室に立ち寄ってもらえたりしていれば、普段の様子と比較して、口数が減った、元気がない、いつもより攻撃的になっている、などの小さな変化に気づくことができます。辛い状況の時に話せる相手であるよう、また必要に応じて上司や職場内での調整も行えるよう、信頼関係を日頃から構築しておくことが重要だと考えています。」

「また、“立ち話面談”でアドバイスを求められた時は、こちらから提案するのではなく本人が取り組めそうな目標や方法を尋ねて考えてもらうようにしています。改善策を設定する際に、内発的な動機づけを促す関わり方をするよう心がけています。」

セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、“同僚ケア”がうまく機能しており、現在はメンタルヘルス不調による休業者はほとんどいない。

次に、社内のメンタルヘルスケアとストレスチェックの取組みについてお話を伺った。

セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケアに加えて、当社独自の“同僚ケア”がうまく機能しています 「メンタルヘルス対策としては、4つのケアのうち、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケアに意識的に取り組んでいます。セルフケアを促すために、まず、相談に来てもらえる関係性づくりを意識しています。“立ち話面談”もその一つです。体調や仕事の状況について会話をすることがストレスを自覚するきっかけとなったり、気軽に話してもらうこと自体がストレス対処になったりすることもあるため、この場合は産業看護師としてというより身近な相談者として、傾聴を心がけています。」

「ラインによるケアをうまく機能させるために、日頃から管理職を含めた従業員一人ひとりの状態を把握しており、管理職からの相談を受けやすい関係性を構築しています。その上で、管理職から部下に関する相談があった場合も個々の従業員の状態を踏まえたアドバイスを行うことができています。また、休暇の取り方などについても、具体的な対応方法を管理職に提案し検討してもらえるようにするため、日頃から組織や人事規程等を把握するよう努めています。」

「事業場内産業保健スタッフ等のケアをより効果的なものにするために、静岡県と福井県の工場に常駐している産業看護職と、各事業所内での事例や課題共有などの連携をとっており、それぞれの対応の幅を広げています。話をする中で、管理職による対応の違いなどに気づくこともあり、他事業所で有効だった対応方法を産業看護職から管理職に提案することも行っています。」

「加えて、当社は独自の言い回しですが、“同僚ケア”が機能していると感じています。当社の従業員規模や社風から従業員同士がお互いのことをよく知っている環境のため、同僚が不調者に気づいてフォローを行ったり、保健室に連絡を取ってくれたりすることも多くあります。その後、産業看護職が“立ち話面談”に出向き、必要に応じて保健室での面談やメールでのフォローを行うなどの対応につなげることができており、“同僚ケア”がメンタルヘルスの予防につながっています。」

ストレスチェックの集団分析結果、個人結果をもとに職場環境の調整や産業医面談を促す働きかけを行っています 「ストレスチェックは外部機関に委託し、紙で実施しています。全従業員が受検しています。集団分析の結果は、各部門の衛生管理者から管理職に説明を行っており、必要に応じて部署内での業務配慮や、部署間での調整といった対応もしています。また数年に1度、外部講師を招いてメンタルヘルスに関するセミナーも実施しています。」

「産業看護師として構築してきた信頼関係があるため、ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員は、自発的に保健室に面談を受けに来てくれることが多いです。その上で、必要に応じて産業医による面接指導につなげることができています。面談希望がない従業員に対しては、健康診断時や“立ち話面談”の機会などを利用して、状態を確認したり産業医面談を促す働きかけをしたりしています。現在はメンタルヘルス不調での休業者はほとんどいません。」

健康経営推進委員会が発足したことで、全社一丸となって様々な健康推進活動に取り組むことができている。

最後に、健康経営の取組みについて伺った。

健康経営推進委員会の発足により、全社での健康経営の取組みが円滑に実施できるようになりました 「2018年頃からは、中央労働災害防止協会の“全国産業安全衛生大会”など、社外での活動にも積極的に参加するようにしています。その中で、健康経営という言葉を知り、従業員の健康を支えていくには、“健康経営優良法人”の認定を受けることを目標として活動を進めると良いのではないかと考え、取り組み始めました。当初は、健康経営に対する経営層の理解は限定的でしたが、私たち産業看護職が行っている様々な取組みを大会などで発表し、表彰を受け、外部からの評価を得ていることを示すことで、経営層の理解も進みました。その後、健康宣言を行い、2022年には“健康経営優良法人”の認定を受けることができました。同年、社長から従業員に対し具体的な方針が示され、推進するための組織として、“健康経営推進委員会”も発足しました。」

「以前から、私(安養寺さん)から提案する健康推進のための企画案には、柔軟に対応してもらえる社風でもあり、担当事業所内では様々な取組みを実施することができていましたが、他事業所も含む全社的な活動にすることは難しく、3事業所の産業看護職と経営層が健康経営について共に検討できる場の必要性を感じていました。“健康経営推進委員会”のメンバーは経営層と管理職と産業看護職で構成されているため、この組織が発足したことで必要な意見交換ができる場ができ、様々な取組みを全社的に推進することができるようになりました。」

心身ともに健康で働ける職場づくりのため様々な取組みを実施しています 「従業員が心身ともに健康で働き続けられることを目的として、現在“健康経営推進委員会”では、全社禁煙、食生活、休養(睡眠)、運動などに関する取組みを行っています。毎月22日を全社禁煙日“スワンの日(吸わんの日)”と定めたり、禁煙外来の補助金を負担したりするなど、緩やかな禁煙の取組みを進めて、今では全事業所にて全面禁煙を実施しています。また、昼食時の野菜サラダの提供や青汁コーナーの設置、睡眠に関するセミナー、運動不足対策としてのウォーキングイベントの開催など、様々な活動を実施しています。」

「こうした健康経営の活動は、トップダウンではなく私たち産業看護職からのボトムアップでスタートしたことも、当社の特徴の一つだと考えています。今後は、“健康経営優良法人ブライト500”の認定を目指して、社内の活動のみではなく、社外への発信や、外部資源の活用も視野に入れて、経営層の理解を得ながら様々な取組みを推進したいと考えています。」

【取材協力】ダイトーケミックス株式会社
(2025年3月掲載)