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サンデン・ビジネスアソシエイト株式会社
(群馬県伊勢崎市)
(前)帆苅さん 林さん(後)神立さん 松本さんサンデン・ビジネスアソシエイトは、1990年(平成2年)設立。主に自動車機器システム事業を行うサンデンホールディングス株式会社のグループ会社であり、グループ会社向けにシェアードサービス事業を行っている。
サンデン・ビジネスアソシエイトが産業保健サービスを提供しているサンデンホールディングスの対象従業員数は、約2,500名。
今回は、総務人事安全衛生グループリーダーで保健師・労働衛生コンサルタント(保健衛生)の帆苅なおみさんと、八斗島事業所を担当している保健師の神立陽子さん、松本佳苗さん、林聡子さんからお話を伺った。
従業員全体のメンタルヘルスを向上させるため、ストレスチェックの実施だけでなく従業員参加型職場環境改善も併せて実施し、それぞれの職場が効果的に実施できるように必要に応じて保健師がサポートやフォローを行っている
まず、職場環境改善の実施状況と改善事例についてお話を伺った。
「当社では、ストレスチェックの実施を始めた当初から、従業員参加型職場環境改善の取組みをセットで実施しています。ストレスチェックだけ実施しても社員のストレス反応は改善しないという先行研究があることなど、これまで従業員参加型職場環境改善を推進している先生方から事前にさまざまな情報を得ていたことが大きかったです。職場環境改善と組み合わせることで、より職場のメンタルヘルスを向上したいと考えていました。」
「ただ、職場環境改善の導入に当たっては苦労も多くありました。当社は製造業で、品質管理をベースにした考え方が中心にありますので、事業所全体の健康度を底上げするという考え方があまりなじまず、それよりも、ストレスチェックで結果の悪い職場を見つけてそこを改善すればいいのではないかという発想になりがちでした。一方、私たちの想いは、一人ひとりが働きやすい職場を作ることによって事業所全体のメンタルヘルスを向上していくことでしたので、この点について理解してもらうことが大変でした。現場の責任者と話し合いを重ねて、最終的に、集団分析結果を踏まえて自職場のウィークポイントを従業員参加型で話し合い、PDCAサイクルを回しながら職場環境改善を行っていくという形で落ち着きました。私たちが当初考えていた形とは少し違いましたが、現場が納得して動いてくれるということが大事ですので、まずはこの事業所で従業員参加型職場環境改善をはじめることを優先しました。」
「初年度は、効果的に参加型職場環境改善を行うために、予算をつけて、中央労働災害防止協会の外部講師によるアクションチェックリストなどを活用した参加型職場環境改善のセミナーを、管理職向けに行いました。翌年度以降は、セミナーを自社内だけでできるようにと講師の方が研修資料などを提供してくれたので、私たち保健師が実施しています。」
「1年間のおおまかな流れとしては、8月下旬から9月にかけてストレスチェックを実施し、10月に集計・分析作業を行い、11月~翌年2月にかけて職場環境改善活動を実施しています。職場環境改善活動では、まず、セミナーで管理職に参加型職場環境改善の実施方法を理解してもらいます。その後、管理職がマニュアルを見ながら部下に進め方を教えて、皆で話し合いをした上で、改善内容を決めることにしています。ファシリテーションに自信のない管理職から依頼があった場合は、私たち保健師がサポートに入って一緒に職場環境改善活動を行っています。そして、“何をいつまでに実施するか”という改善計画を課ごとに提出してもらい、改善計画の期日がきたら、やってみてどうだったかについてメンバーの意見と上司の評価を記載して再度提出してもらう流れになっています。“改善計画を出したら終わり”とならないような仕組みにしています。」
「また、製造現場では、製造ラインが動いているので、全員集まって協議することが難しいという場合もあります。その際は、職場環境改善活動をどのように行うかということを課長や係長と私たち保健師で相談しながら決めています。たとえば、まずは係長レベルのメンバーに集まってもらって係長の目線で従業員参加型環境改善を実施してみたり、部下にアンケートを実施した上で、出てきた意見を踏まえて改善内容を決めたり、職場環境改善の内容を1つ1つイラスト付きで掲示して投票してもらったり、といったように現場に合わせて柔軟に対応して実施しています。」
「職場環境改善の一例として、休憩スペースを作ったというものがあります。その部署は、ストレスが非常に高いという結果が出ていたので、部署の人たちに集まってもらって、どうしたら少しでも働きやすくなるかについて話し合ってもらいました。仕事内容がお客様からの苦情対応で、常に忙しく、シフトも自分の都合を踏まえて組んでもらうことが難しいという、非常にストレスを抱えた状況でした。そうした状況自体を改善することは難しかったのですが、意見交換を続ける中で、『仕事中常に緊迫しているので休み時間くらいは靴を脱いでゆっくりくつろげる休憩スペースがほしい』という意見が出てきて、それはぜひ実現しようという動きになりました。ただ、その部署の一角には他部署のロッカーが置かれていて、その部署だけで改善することは困難でした。そこで、拠点の安全衛生委員会に問題提起してみたところ、安全衛生委員会として改善の協力をお願いすることになり、無事他部署の協力を得て、ロッカーを移動して休憩スペースを作ることができました。従業員参加型職場環境改善では、その部署内で改善できる範囲で活動するという限界が暗黙にあることが多いのですが、安全衛生委員会を活用したことで、それを超えて改善できた貴重なケースだと思います。」
「また、ある部署では、『窓がないから気持ちが晴れない』という意見が出てきたので、天井に空の壁紙を貼ることにしました。その部署は、開発部門で会社の重要なミッションを担っており、非常に忙しく仕事の負担自体を改善することは難しい状況でした。しかしながら、部門長が日頃から部下を気遣っている方でしたので、空の壁紙を貼ったり、部署内の小さなスペースにカフェコーナーを作ったり、部下が少しでもほっとできる場所を作るために『できることはすぐやる』という判断をされていました。部下の方も仕事は大変だけどモチベーションが維持されているようでした。実際、ストレスチェックの結果は良好で、特に上司のサポートの結果がダントツで良かったのには驚きました。上司の影響は非常に大きいということをあらためて感じました。」
管理職が安心して職場環境改善に取り組むことができるよう、職場の強みから伝え、より働きやすい職場にするために保健師もサポートすることを伝えることで、協力体制を構築している
次に、従業員参加型職場環境改善を効果的に実施するために工夫していることについて、お話を伺った。
「集団分析結果を誰にどのようにフィードバックするかについては、何年も試行錯誤してきました。現在は、まず、拠点のトップである総括安全衛生管理者に事業所全体の結果をフィードバックし、続いて、本部長に本部ごとの結果、部門長に部門ごとの結果、課長に課ごとの結果、という形で、階層ごとに上からそれぞれフィードバックしています。部門長以上には、個別に説明する時間をとっています。」
「フィードバックでは、その部署の強みから伝えるようにしています。 “あなたの職場の強みはここにあります。これはすごいことですよ。”と伝えると、それまでは顔がこわばっていた人も少しゆるんでくれます。管理職は普段あまり褒められることがないので、良い面をなるべくたくさん伝えるようにして、まずはいい関係を構築することを意識しています。その上で、保健師も力になりたいと考えているということを伝えると、支援を活用していただきやすくなると感じています。」
「従業員参加型職場環境改善は、部下だけが行うものではなく、当然ながら管理職も改善に取り組む一員です。そのため、まずは管理職に、自部署をより働きやすくするために自分ができることを考えてもらえるよう、丁寧にフィードバックしています。」
「また、2020年度からは、職場環境改善にこれまで以上に前向きに取り組んでもらうために、ストレスチェックの実施項目を、これまで使用していた57項目から“新職業性ストレス簡易調査票”の80項目に変更しました。新しい調査票では、職場のイキイキ度やワークエンゲージメント、職場の一体感などを高めるための職場の資源が分析できますので、その結果を元に、それぞれの職場の強みや良いところを洗い出してもらっています。」
「また、ストレスチェック項目変更によって集団分析結果の見方が少し変わったのですが、コロナ禍で集合形式でのセミナーを行うことができなかったので、私たちで動画を作成して、期間内にオンデマンド視聴してもらう形にしました。管理職の中には、ストレスチェックの結果をネガティブにとらえる方もいて、自組織の結果が良くないと誰が悪い結果を書いたのかと犯人捜しをはじめてしまう人もいるので、“部署内の個人の特定に走ることがないように”、“良い面を強化するために結果を活用してほしい”など注意事項も意識的に伝えています。集団分析結果が不適切な使われ方をしないためにも、しっかり説明することが大事だと考えています。」
「動画はできるだけ10分以内で作ることを意識しています。以前20分の動画を作成したのですが、社員から“長い”という意見が多く出たため、同じ動画を前編と後編に分割して各10分の動画に作り直したら、そのような意見がなくなりました。トータルの時間は変わらないのですが、自分のペースで見ることができように小刻みにした方が好評なようです。また、ただ動画を見て聞いているだけでは集中力が続かないので、レジメに書きこむ作業を入れるなど、オンデマンドの動画でも参加型に近くなるよう意識しています。“急いでいる場合は1.25倍の速度で視聴することもできますよ”とアナウンスするなど、管理職が少しでも見やすくなる工夫をしています。」
「その他、海外赴任者向けに“グローバルネットワークニュース”という情報提供を定期的に行っているのですが、そのコンテンツに関しても最近は音声を入れて、3分以内におさめて見てもらえることを意識して作成しています。海外においてもコロナ禍による自粛生活が続いていて、海外赴任者が非常に孤立しています。そこで、保健師からの声を聞けると良いという意見をいただいて、パワーポイントファイルに声を録音した上で配信しています。内容は、メンタルヘルス関連の他、ストレスチェック集団分析の結果などです。」
【ポイント】
- ①部署の状況に合わせた従業員参加型職場環境改善の実施方法を管理職と保健師が一緒に考える。
- ②職場環境改善に当たって他部署の協力が必要な場合は、衛生委員会に問題提起してみる。
- ③集団分析結果を管理職に伝える場合は、その部署の強みから伝える。
【取材協力】サンデン株式会社
(2022年1月掲載)
*サンデンホールディングス株式会社及びサンデン・ビジネスアソシエイト株式会社は、2022年1月1日効力発生の吸収合併により、サンデン株式会社に商号変更しました。
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