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株式会社ダイセル
(大阪府大阪市)
桐田さん、天野さん、斎藤さん、金井さん ダイセルは1919年(大正8年)設立。セルロース化学、有機合成化学、高分子化学、火薬工学をコア技術に、化学製品から自動車エアバッグ用インフレータまで多岐にわたる製品の製造販売を行っている。
ダイセルの社員数は2,597名(2021年3月現在/単体)。
今回は、事業支援本部人事グループ健康経営推進チームリーダーの金井直樹さん、健康相談室で保健師の斎藤昇子さん、天野和代さん、桐田真由さんからお話を伺った。
保健師、精神科医などの医療職と、ヘルスケア委員会が中心となって、職場のメンタルヘルス対策を支えている
まず、メンタルヘルス対策に取り組んできた歴史について、金井さんを中心にお話を伺った。
「当社がメンタルヘルスの取組みを本格的にはじめたのは1999年です。メンタルヘルス不調者が全社的に増えている中で、当時の人事部長が会社としても取り組む必要があると考え、日本生産性本部の“働く人の心の定期健康診断(JMI)”を毎年実施することにしました。」
「そして、2001年に、はじめて保健師を採用しました。その後、徐々に人数を増やし、現在、保健師は12名います。各事業場に1人以上、社員500名に1人を目安に、保健師を配置しています。」
【図1】ヘルスケア組織体制 「翌2003年には、“中央ヘルスケア委員会”と“事業場ヘルスケア委員会”を発足しました。中央ヘルスケア委員会では、会社の人事担当役員、労働組合の中央執行委員長、健康保険組合の常務理事の三者で、健康に対する全社的な取組みを考えています。その内容を踏まえて、事業場ヘルスケア委員会で、事業場ごとの取組みについて検討・実施する体制にしています。事業場ヘルスケア委員会は、事業場長、総務部長、労働組合支部長、必要に応じて部門長などが参加しています(【図1】参照)。また、“こころとからだのストレス攻略読本”というヘルスケアに関する知識をまとめたハンドブックを独自に作成して全社員に配布するなど、様々な取組みを行ってきています。」
「2007年には精神科医との委嘱契約を開始し、産業医、精神科医、保健師、総務担当者の四者でメンタルヘルス不調者に対応する仕組みを構築しました。現在は全社で3名の精神科医と契約しており、エリアごとに分担して、メンタルヘルス不調者への面談や職場復帰への対応を行っています。」
「また、各事業場でメンタルヘルス不調者への対応がスムーズに行えるよう、2013年から保健師に、職場のメンタルヘルス対応について学ぶことができる社外研修に参加してもらっています。その集大成として、保健師チームで“職場復帰支援マニュアル”をまとめ、現在は全社共通のハンドブックとして活用しています。」
「2016年にはストレスチェックの取組みを開始しました。以降、職場診断結果のフィードバック、ラインケア研修、セルフケア研修も、各事業場で毎年実施しています。」
「これらの取り組みを通じ、エントリーした健康経営優良法人では、2018、2020、2021年度に“ホワイト500”の認定をいただきました。産業保健スタッフ、精神科医、ヘルスケア委員会が当社のメンタルヘルス取組みの要です。現在は、保健師、精神科医一人ひとりの力に頼っているところが大きいので、これをよりシステム化していくことが今後の課題だと考えています。今後は“健康経営”をキーワードに、会社の中期計画に落とし込んで取組みをより強力に推進していきます。」
社員のメンタルヘルス課題に人材育成チームと連携して取り組み、対象者それぞれの課題に応じた内容でメンタルヘルス研修を実施することで、休業率の低下につながっている
次に、階層別メンタルヘルス研修について、天野さんを中心にお話を伺った。
「2017年からは、人材育成チームと連携してメンタルヘルス研修を実施しています。きっかけは、保健師チームで定期的に開催しているミーティングでした。その中で、“新入社員がすぐメンタルヘルス不調になってしまう”や、“経験者採用で入社した社員がメンタルヘルス不調で退職してしまう”、“管理職に進級したとたんにメンタルヘルス不調になってしまう”などの課題があることがわかりました。これらについて、何か対策を行う必要があると考えていたところ、人材育成チームも同様の課題を感じているということがわかり、全社的に一次予防の取組みを行うことになりました。(【図2】参照)」
「具体的には、高校卒、大学卒の新入社員と、経験者採用社員、新任リーダー職を対象に、人材育成チームが実施していた既存の階層別研修時間の一部を使って、メンタルヘルス研修を実施することにしました。研修内容は、対象者それぞれの課題に着目したものにしており、保健師チームで話し合って作成しています。(【図3】参照)」
【図2】各対象に沿ったメンタルヘルス研修内容
【図3】研修の様子
「研修の効果として、休業率の低下があります。新入社員の入社後2年以内の累積休業率は、研修開始前の2013~2016年は1.67%でしたが、研修開始後の2017~2019年は0.41%に減少しました。経験者採用社員、新任リーダー職の2年以内の累積休業率も、研修開始前はそれぞれ1.60%、1.17%でしたが、研修開始後には一人も休業者が発生しなくなりました。」
コロナ禍での社員の心と体の変化を素早く把握し、スピード感をもって柔軟に対策を講じている
最後に、コロナ禍における取組みについて、天野さんを中心にお話を伺った。
「コロナ禍で、社員の心と体の両面に不調が現れてきていましたので、ヘルスケア委員会で対策を検討し、スピード重視ですぐにできる取組みを実施することにしました。」
「まず、心の面です。大阪本社では、コロナ禍になってメンタルヘルス不調による休業率が急に上がりました。このため、心の健康のためにとにかく何かしないと、ということで、2020年9月から、東京大学大学院が運営している“いまここケア”を活用して、“マインドフルネス”、“行動活性化”、“身体活動”、“睡眠”の4つの健康講話を実施しました。事後アンケートでは、“コロナ禍において心の不調を感じたことがある”方が約4割で、そのうち半数近くが、誰にも相談できずに悩みを一人で抱えていましたが、健康講話後には、“今後、不調に気づいたら周囲に相談しようと思う”方が8割以上となりました。(【図4】参照)」
【図4】健康講話のスライドの例
「体の面でのヘルスケアにも取り組んできました。当社でも、テレワークを急速に進めてきましたので、自宅の机や椅子といった作業環境が整っていない中で、運動不足や肩こり、腰痛などの声が聞こえてくるようになりました。そこで、2020年9~12月の間、週4日の1日2回、社外の体操の先生に依頼して、体操教室の動画をライブ配信しました(【図5】参照)。もともとは在宅勤務の方を対象にしていたのですが、工場勤務の社員は以前から運動不足の問題もありましたので、会議室に集まって参加してもらいました。事後のアンケートでは、9割以上の方が“満足”、“やや満足”との回答でした。」
【図5】体操教室に参加している様子
「また、健康相談室で行っている面談も、一部リモートで実施しています。特に、本社ではテレワーク率7割を目標に週1~2回の出勤としていますので、必然的にリモートでの面談が多くなります。本社の社員に実施している身体に関する面談では、半分以上がリモートでの実施です。一方で、メンタルヘルスに関する面談はリモートではなかなか判断しにくいので、初回はできるだけ対面で実施し、2回目以降の経過観察はリモートで実施するなど、メリハリをつけて実施するようにしています。」
「最近は、社員がリモートでの相談に抵抗感がなくなってきているようで、保健師の予定が空いている時にオンラインでちょっと相談する、といったことが増えてきています。そのため、面談可能日時を案内する際も、リモートと対面での面談にそれぞれ分けています。」
「コロナ禍になって大変なことの方が多いですが、その中でも感じているメリットとして、遠隔地との面談が可能になったことが挙げられます。例えば、海外赴任者への面談もリモートでできるようになりました。点在している事業所で働いている社員ともリモートでなら面談ができる、いつでもどこでもつながれる良さを感じています。」
「リモートのメリットは活かしながらも、やはり顔をみて話をすることが大事だと思っています。その点でも、草の根的な健康相談室の役割は守っていきたいと考えています。つらいことがあった時、健康相談室にふらっと寄ってみたら、保健師さんが話を聞いてくれてすっきりした、心が軽くなった、よかった、と思ってもらえる場所でありたいという想いは、当社の保健師全員が持っています。コロナ禍が明けて、健康相談室のドアが開いていて、行ったらいつも保健師が笑顔で出迎えてくれるという状態に、一日でも早く戻れたらと思っています。」
【ポイント】
- ①保健師、産業医、精神科医などの医療職と、ヘルスケア委員会が中心となって、職場のメンタルヘルス対策を支えている。
- ②社員のメンタルヘルス課題に人材育成チームと連携して取り組み、対象者それぞれの課題に応じたメンタルヘルス研修を実施することで、休業率の低下につながっている。
- ③コロナ禍での社員の心と体の変化を素早く把握し、スピード感をもって柔軟に対策を講じている。
【取材協力】株式会社ダイセル
(2021年12月掲載)
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