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富士電機株式会社
(東京都品川区)
徳渕さんと加藤さん
富士電機は、1923年(大正12年)設立。エネルギー・環境事業として「パワエレ」「半導体」「発電プラント」「食品流通」の4つの事業を行っている。
富士電機の従業員数は27,593名(2021年3月末現在)。うち、関係会社を含む本社事業所に勤務する従業員数は約1,966名。
今回は、健康管理センター所長の加藤憲忠さん(産業医)と、保健師の徳渕智絵さんからお話を伺った。
職場復帰にあたってのステップや基準などを定め、社員や上司はもちろん主治医とも共有することで、適切な時期での職場復帰につながり、再発や再休職も減少している
まず、職場復帰支援について、加藤さんを中心にお話を伺った。
「休職と職場復帰については、就業規則で『私傷病休職から復職する際、会社の専属医師または指定医師の診断に基づき、通常勤務の可否を判断することを目的として1ヶ月を限度に就業時間短縮の取扱をすることがある』、『病気欠勤1週間以上におよぶときは、医師の診断書を添付しなければならない』、『病気欠勤1ヶ月以上に及ぶ者が職場復帰をする際には、事前に、産業医による復帰可否判定及び就業場所や就業上の措置に関する検討などのための健康診断を受けなければならない』と定めています。しかしながら、それだけでは職場復帰はスムーズに進まないということがあったため、全国の事業所の産業保健スタッフからの要望も踏まえて、2012年に全社の“従業員支援プログラム”が作成されました。全社の“従業員支援プログラム”に、より詳細な内容を加えて本社事業所オリジナルの“従業員支援プログラム”を2015年に作成しました。今回は、本社事業所の“従業員支援プログラム”についてご紹介します。」
「この“従業員支援プログラム”は、精神疾患による休職のみを対象としています。職場復帰にあたっては、概ね2週間の“通勤訓練・出社訓練”と最大1ヶ月の“トライアル勤務”を対象者の状況に応じて実施しており、“通勤訓練・出社訓練”、“トライアル勤務”と段階的に負荷を上げていって、クリアすることができれば次の段階に進む仕組みとなっています。職場復帰の明確なルールを定めて、全従業員に公開していることや、すべての社員に公平に適用されることがポイントだと考えています。」
「職場復帰を進めるに当たっては、本人、上司、主治医、産業医・保健師などの関係者が、“富士電機ではこういうルールで職場復帰を進めていくのだ”という同じイメージを共有することが大切だと考えています。そのため、主治医にも当社の制度を理解いただけるように、制度を簡潔にまとめた資料を作成しています。本人が職場復帰に向けて動き出すことが可能なタイミングを見極めた上で、資料について説明し、診断時に主治医に持って行ってもらっています。主治医による復職可能の診断がなされる前に、当社側から事前に情報を発信・連携することにより、適切なタイミングで主治医による復職可能の診断がなされるようになり、その後の職場復帰がスムーズになりました。」
「主治医と会社側で考えている復職可能のレベルが違うということは往々にしてあります。そのため、主治医の意見をいただく前に、『当社の復職可能判断基準』を示すことが大切だと考えています。登山をイメージしてもらうとわかりやすいと思うのですが、“登山可能”という診断書を書く時に、その“山”がエベレストなのか、富士山なのか、高尾山なのかで全く違ってきます。また、どのような計画で登るかによっても判断は当然変わってくるはずです。判断するための材料を会社側から先に示し、積極的に主治医と連携していくことが重要と考えています。」
「“従業員支援プログラム”の運用前は、復職可能の診断書が提出された場合、仮に回復の程度に疑問を持ったとしても、根拠や理由を示して復職を拒否するのは難しい状況がありました。しかしながら、“従業員支援プログラム” の策定後は、復職可能の診断書が提出されてはいても、“通勤訓練・出社訓練”の途中で体調が悪くなったり、予定の時間に出社できなかったりするケースが表れるようになり、回復状況について本人ときちんと話すことができるようになりました。」
「“従業員支援プログラム”の運用をはじめてからは、短期間で再休職するケースはなくなりました。全員が一定のレベルをクリアした上で職場復帰しているので、再発、再休職も減っています。」
忙しい管理職でもメンタルヘルス研修を受けてもらえるよう、eラーニングを導入し、研修資料の内容や構成、テストなどを自社の状況に合わせて工夫することで、受講率の改善につながっている
次に、メンタルヘルス研修の取組みについて、徳渕さんを中心にお話を伺った。
「メンタルヘルスに関する研修は、管理職向け、全社員向け、それぞれ実施しています。」
「管理職向けのメンタルヘルス教育は、もともと、任意参加の集合型で開催していました。しかしながら、2017~2019年の3年間の参加状況を集計したところ、研修を一度も受講していない管理職が53.7%もいることがわかりました。当事業所の管理職は営業部門やサービス部門の者も多く、お客様の事情に応じて業務スケジュールが直前に変わることも多いため、決まった時間に実施する集合型研修の実施にはスケジュール調整の課題がありました。その課題解決のため2020年度はeラーニングで研修を実施したところ、97.2%の管理職が受講しました。実施方法を工夫するとこれだけ多くの方が受講してくれるということは嬉しい驚きでした。」
「研修内容としては、“ラインケアにおける上司の役割”について、基本的な内容に加えて、“働きやすい職場づくり”として組織公平性や裁量権、睡眠の重要性にも触れています。また、部下や同僚からメンタルヘルスに関する相談を受けた時も、“飲みに行こう”、 “おいしいものを食べれば気分が明るくなるよ”といった誤った関わり方をする上司もいました。そのため、普段と異なる様子の部下に気づいた時の“いつもと様子が違う時の話の聞き方”といった内容を入れています。最後に、“休職中の対応”として“従業員支援プログラム”の紹介などを入れています。“従業員支援プログラム”の存在を知らない管理職も多いため、こういった機会に知ってもらい、所属長に自分の役割を認識してもらうようにしています。」
「資料の構成については、人事総務部門と何度も相談しながら調整しました。忙しい管理職でも過度な負担感なく受講できるように、15分程度で見終わるボリュームで、1枚1枚のスライドがまとまるよう工夫しました。受講者からはシンプルでわかりやすいといった感想もいただいています。」
「eラーニングの最後には、テストを受けてもらっています。テストには、不適切な対応事例なども盛り込み、適切な対応を知るきっかけにしてもらえるよう工夫しています。たとえば、『部下の不調に気づいたり、体調が悪いと相談してきたりした際は、本人と相談し、上司の判断でしばらく会社を休み様子を見るよう指示する』ことの正否を問う問題を入れています。上司が健康管理センターに相談せず、独自の判断で休ませることは病状の悪化に繋がりかねませんので、このような問題を含めることで専門家の意見を聞かない危険性について注意喚起をしています。また、テストは100点になるまでeラーニングを修了できない設定にしておりますので、実施内容を着実に身につける機会としています。」
「全社員向けのメンタルヘルスに関する研修は、“心とからだの健康教育”の一環として実施しています。健康管理スタッフのいない小規模拠点でもできる限り教育水準を平準化するために、2019年からeラーニング形式で始めました。任意受講とはしていますが、拠点ごとの人事総務部門を巻き込んで啓蒙活動を実施していることもあって、90%以上の受講率となっています。メンタルヘルス関連の内容としては、ストレスやセルフケアに関する基礎的な内容の紹介や、 “従業員支援プログラム”についての紹介などを含めています。また、eラーニングの資料は社内イントラネット上でいつでも見ることができるようにしています。(【図1】参照)」
【図1】心とからだの健康教育
入社1年目と4年目の時点で全員面談を行うことで、健康管理センターへの相談のハードルが下がり、若手社員の抱える様々な悩みを支える存在となっている
最後に、若手社員の全員面談の取組みについて、徳渕さんを中心にお話を伺った。
「近年、若手社員のメンタル不調による休務率が高くなっています。転職しやすい時代の流れもありますが、離職も多いことが気になっていました。健康管理センターでは、健康診断の結果が良くなかった方には、事後フォローとして面談を実施しているのですが、若手社員は健康診断の結果が悪いということはあまりなく、面談の機会がほとんどありませんでした。その結果、体調不良が目立つようになってから初めて関わることが多く、不調になる前の通常の健康状態を早めに知ることで体調不良への関わり方をより適切なものにしたいと思いました。また、『健康管理センターへは調子が悪い時にだけ行くところ』と思っている人もいましたので、学校の保健室のように気軽に来ていい場所だということを知ってもらいたいという気持ちもありました。」
「そこで、2015年から、本社事業所に配置されている新入社員20名程度を対象に、全員面談の取組みをはじめました。また、人事総務部門からの要望もあり、2016年以降は4年目の社員にも全員面談を実施しています。4年目は、任される仕事が増えて忙しさや仕事のレベルについていけず不調が出ていたり、ライフイベントが気になる時期だったり、さまざまな悩みを抱えている時期でもあることから4年目の社員への実施としており、実際、面談後、メンタルヘルスのフォローにつながる人も多いです。全員面談は1回30分程度で設定していますが、人によって時間は様々です。」
「新入社員向けに実施した事後アンケートでは、 “親身に話を聞いてくれて安心できた”、“次に健康管理センターを利用する時の気持ちのハードルが下がった”、“アドバイスをもらえてよかった”、“健康状態を再確認する良い機会になった”、“不安が相談できてよかった”など前向きな意見を多くもらうことができました。また、全員面談をはじめてからは、社内で会った時に気軽に話しかけてもらえることが増え、若手社員との関係づくりに役立っているのではないかと感じています。また、最近は若手社員からの相談も増えており、健康管理センターに相談しやすい雰囲気になっているのではないかと思っています。」
「面談では、男女を問わず、育児や介護に関する悩み相談もよくあります。今は制度が充実していますので、WLB(ワーク・ライフ・バランス)を一緒に考えながらサポートしています。」
「健康管理センターが学校の保健室のような場所になるようにしていきたいと思っています。不調に陥ったときに、一人で悩むのではなく、まずは健康管理センターに相談してみよう、という存在になっていけるよう、中立的な立ち位置でありながらも寄り添った対応を心掛けこれからも支援し続けていきます。」
【ポイント】
- ①職場復帰にあたってのステップや基準などを定め、社員や上司はもちろん主治医とも共有することが、適切な時期での職場復帰につながる。
- ②自社の管理職の状況に合わせた研修の形式や内容を工夫することで、受講率の向上につながる。
- ③入社1年目と4年目の時点で全員面談を行うことで、相談のハードルが下がり、若手社員の抱える様々な悩みを支えることにつながる。
【取材協力】富士電機株式会社
(2021年12月掲載)
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