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徳和工業株式会社(宮城県仙台市)

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徳和工業株式会社
(宮城県仙台市)

徳和工業は、1962年(昭和37年)創立。建物の壁や床などを鏝(こて)という道具を使って塗り仕上げる左官工事を請け負っている。
徳和工業の従業員数は39名(2020年12月現在)。うち30名は技能工であり、10~30代が半数を占めている。
今回は、代表取締役社長の及川正道さんからお話を伺った。

社員の健康はすべての安全の基本と考え、健康保持のための工夫や投資を積極的に実施している

まず、左官工事の仕事内容と、健康保持のための取組みについて、お話を伺った。

「左官の仕事は、コンクリートが固まるタイミングで鏝(こて)で押さえる必要があるのですが、仕事の進め方が季節によって左右されます。冬は寒さでコンクリートの固まるスピードが遅いため、夜中や翌朝まで作業が終わらないこともあります。一方、夏はコンクリートの固まるスピードが速いため、昼食や休憩をとる暇もなく次から次へと作業しなければならないこともあります。ロボットの開発も進められていますが、コンクリートの固まり具合を見極めて鏝(こて)で押さえる必要があるため、職人の仕事に代わるものはまだまだできていないのが現状です。現場の長として責任もって対応できるようになるまでには、早くても10年はかかります。」

「社員の健康はすべての安全の基本と考えており、健康保持対策に積極的に取り組んでいます。健康診断は、毎年4月の第2土曜日に、社員全員で受けるということを長年続けています。また、熱中症対策としては、3年前からファン付き作業着(空調服)を社員全員に支給している他、真夏日には手当を付けて、スポーツドリンクの購入など熱中症対策費に充ててもらえるようにしています。」

「また、禁煙を奨励するための取組みとして、毎年新年会の時に禁煙しているかどうかの申告をしてもらい、引き続き禁煙している人には1万円、今年から禁煙すると宣言した人には3万円の報奨金を支給しています。その他、30歳以上の社員には3年ごとに脳検診を会社負担で受けてもらったり、社員全員でインフルエンザの予防接種を会社負担で実施したり、毎月1回血圧測定の結果を表に記入してもらったりしています。」

会議の開催の仕方を工夫したり、社員の意見を吸い上げる機会を設けたり、社員間のコミュニケーションがとりやすいように職場環境や人員配置に配慮したりと、小さな取組みを1つ1つ積み重ねることによって、コミュニケーションがとりやすい環境を整えている

次に、職場のメンタルヘルス対策の土壌をつくるためのコミュニケーション促進の取組みについて、お話を伺った。

「当社は従業員数39名の小さな会社ですが、小さいからこそ密なコミュニケーションがとりやすいと考えています。また、普段のコミュニケーションが安全にもつながると考えています。難しい内容や高度な取組みはありませんが、当たり前のことを愚直に凡事徹底で活動することが大切だと考えています。」

「まず、毎週月曜日の朝6時19分から朝礼を行っています。もともとは6時40分だったのですが、『現場に着くのが遅くなる』などの意見を踏まえて調整していった結果、あえて中途半端な時間にするのが遅刻予防になるのではないかと、この時間になりました。朝礼の内容は、議事録にまとめて会議室に掲示しています。早めに現場へ出発する必要があって朝礼に出席できないという者もいますし、出席していても内容を忘れることがありますので、内容が全社員にしっかり伝わるようにしています。朝礼の後は、会長、社長、専務、総務部長、工事部長、工務部長の6名で朝会議を行い、一週間の動きについて情報共有しています。」

「毎月第3土曜日には、主任会議・安全衛生会議を行っています。参加者が15名いますので、机を五角形に配置して、全員の顔が見えるようにしています。会議の内容は議事録にまとめて、会議で問題提起された内容がうやむやにならないように、その後の検討状況や改善状況なども共有するようにしています。」

「また、社員の意見を聴く機会として、年2回座談会を開催しています。話しやすいように、小さなグループに分けて話し合ってもらい、グループごとに発表してもらう形にしています。座談会の趣旨は、『会社をよりよくする』ことですが、堅苦しい内容ばかりにならないよう、たとえば『社員旅行はどこに行きたいか』、といったことについても意見を出してもらっています。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響で集合形式での実施が難しかったため、職長が各現場の社員から個別に意見を聞いて、主任会議で発表してもらう形にしました。すると、思いのほかたくさんの意見が出てきて、こういうやり方もあるのかと思いました。出された意見に対しては、その場で回答できるものは回答し、改善できるものは改善するようにしています。要望に100%応えることは難しいのですが、社員にとっては、せっかく言ったのになにも改善されていないとなると、『言ってもしょうがない、もう言わない』と思われてしまうことになりかねないので、会社としてできることには対応しています。」

「2009年には事務所を今の場所に移転しました。それ以前は、現場社員の拠点である倉庫・独身寮と事務所が離れており、同じ会社の社員同士なのに、会う機会が滅多にないという状況になっていました。これが社員間のコミュニケーション不足の大きな原因と考え、倉庫から100メートルほどの場所に事務所を移転しました。こうして、コミュニケーションをとりやすい環境が整ったのです。そして、その2年後に東日本大震災が起きました。震災後は、復旧工事の依頼が一気に入り、朝と昼と夜とで職人の行く現場が違うということが毎日のようにあったのですが、事務所を移転していたおかげで、毎日事務所に寄ってもらって翌日のスケジュールや工事の要点、注意事項を伝えるということがスムーズにできるようになりました。」

「また、当社は幅広い年齢の方に働いてもらっているので、社員間のコミュニケーションにも気を配っています。当社は、技能工のうち10~30代が半分を占めており、業界の中でも若い人が多く働いていることが長所の一つだと考えています。一方で、高年齢者の雇用継続にも取り組んでいます。定年は70歳ですが、定年後も健康に問題がなければ75歳までの再雇用制度を導入しており、賃金、賞与も社員時代から大幅に下げることなく支給しています。実際に、現在も70歳超の社員に活躍してもらっています。このように幅広い年代の人に活躍してもらっていますので、その分、現場での社員の組み合わせには配慮しています。たとえば、新入社員とベテランの職長とを組み合わせると、なかなか話が合わずお互いに戸惑ってしまうので、新入社員と年の近い社員も一緒に配置したり、若い職長の下に新入社員を配置したりしています。」

「当社は、もともとコミュニケーションが悪い会社だったと思います。お話ししたこれらの取組みは20年前にはほとんど実施していませんでした。もちろん今でも十分だとは思っていませんが、これまでできていなかった当たり前のことをしっかり実施していくということが大切だと考えています。」

社員が表彰を受ける機会を積極的に設けたり、仕事の成果が見えるよう工夫したりすることを通じて、社員のモチベーションの維持向上に取り組んでいる

最後に、社員のモチベーションを高めるための取組みについて、お話を伺った。

「年に1回、“優秀者表彰”を実施しています。会社の上層部は投票せず、社員による無記名投票で、“職長の部”、“一般職人の部”、それぞれ1名選出しています。評価基準としては、安全面はもちろん、積極性や普段の態度なども考慮してもらっており、投票の際には投票理由も記載してもらっています。投票される人はどうしても偏りますので、一度受賞した人は2年間対象外とし、同じ人が連続して受賞しないようにしています。受賞者には、4月の始業式(キックオフ会)で表彰し、記念品を進呈している他、受賞の喜びの声を書いてもらい、社内報に掲載しています。」

「年始めには新年会を開催して、社員の家族も招待しています。そこでは、前年にゼネコンから表彰された“元請安全表彰者”などを会社としてあらためて表彰し、その姿を家族にも見てもらっています。」

「その他、年3回社内報を発行しています。社内報では、竣工現場の写真などを掲載しています。職人は、作業の間は現場にいきますが、完成した状態を見る機会はほとんどありません。そのため、完成後の写真や、外部からの評価・工事中のエピソードなどを、社内報を通じて共有しています。また、これから始まる現場がある場合は、完成予想図を社内報で紹介して、これからみんなでこれを作っていくんだという機運を高めるようにしています。」

【ポイント】

  • ①社員の健康はすべての安全の基本と考え、健康保持のための工夫や投資を積極的に実施する。
  • ②社員の意見を聴く機会を定期的に設け、出された意見のうち対応できることは積極的に対応することで、「言ってもしょうがない」と思われてしまわないようにする。
  • ③新入社員とベテラン社員を一緒に配置する場合は、新入社員と年の近い社員も一緒に配置するなど、コミュニケーションがとりやすくなるよう人員配置に配慮する。
  • ④普段の仕事の中では見えづらい仕事の成果を、社内報を活用して可視化し、モチベーションにつなげる。

【取材協力】徳和工業株式会社
(2021年3月掲載)