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宇部興産株式会社
(山口県宇部市)
宇部興産株式会社は、1897(明治30)年に匿名組合沖ノ山炭鉱組合として創業。化学製品、セメント、プラスチックの成形機械などを製造するメーカーである。
従業員数は、単体で3612人。連結まで含めると10928人(2017年3月末現在)。国内では山口県宇部市の工場群をはじめ、千葉、大阪、福岡など、海外ではスペイン、タイ、アメリカなど世界各地に製造や販売の拠点を持っている。
今回は、総務・人事室健康管理センター長の唐松一郎さん、健康管理室の統括産業医である塩田直樹さん、保健師の縄田直恵さんの3人からお話を伺った。
外部EAP機関を利用する際、必要に応じ、本人の了解の上、会社側も連携して支援を行う
最初に、メンタルヘルス対策の体制、および職場復帰支援の取り組みについて、お話を伺った。
塩田さん
「2003年に健康管理センターが発足し、私は2006年に加わりました。健康管理センターは、産業医や保健師・看護師、衛生管理者、管理栄養士、そしてセンター長を含む事務員で構成されています。以前は、不調者に対して、産業保健スタッフの各担当者の裁量で対応していたため、後から検証することが難しい状況にありました。そのため、2008年から統括産業医として、全社(東京地区、千葉地区、堺地区、名古屋地区、大阪地区、宇部地区、伊佐地区、苅田地区、海外)で統一した面接記録の残し方、対応の仕方を目指しました。」
「その後、2013年に外部EAP機関を初めて導入しました。社内と外部がうまく連動しないと、情報が分散して、結局コストだけがかかってしまうことが危惧されたので、まずは、宇部地区から行うことにしました。」
縄田さん
「職場復帰支援に関しては、厚生労働省の手引きに基づいて当社で作成した職場復帰支援プログラムに沿って、実施しています。以前は、休業の診断書が提出された時点で知ることがほとんどでした。最近は、休む前に上司から連絡が来て、健康管理室で面談をした上で、状況に応じて休業に入ることが多くなっています。」
「休業中は、必ず1カ月に1回は、状況の確認(面談可能な場合は産業医が面談)を行うことにしています。会社に来られる状況であれば、健康管理室に来てもらい面談しています。まだ来られる状況でなければ、電話やメール、手紙などで、診断書の提出と状況報告をしてもらっています。ある程度、回復してきた段階で、職場復帰に向けた手順について詳しく説明することになります。面談は、産業医か会社が指定した医師が行うことが多いです。部署によっては上司が行うこともあります。」
塩田さん
「さらに、別途、外部EAP機関のカウンセラーが面談をしている場合もあります。当社の場合、外部EAP機関を利用する際は、“個人利用”と“会社連携”を明確に分けています。社員がいつでも利用できる“個人利用”が基本です。この場合、外部EAP機関と私たちが個別の情報を共有することはありません。“会社連携”は、本人の了解を得た上で、会社の指示として外部EAP機関のサービスを受けてもらっています。産業保健スタッフが上司や本人との面談を通じて把握した職場復帰時の課題となりそうなことを、外部EAP機関に伝え、カウンセリングに活かして頂くことで適切な復職を目指して頂く事が主な目的となります。なお、月に1回必ず、外部EAP機関との情報共有会議の場を持ち“会社連携”で対応している全国の対応状況の進捗管理を実施しています。会社側で把握している状況と、外部EAP機関のカウンセラー側で把握している状況のすり合わせをして、情報の対照化を進めることで療養期間の適正化が進むよう適切に対応しています。また、休業者が元の所属地ではなく、実家など療養しやすい場所を選んだ場合は、その地域で外部EAP機関の支援を受けられるようにしています。無用に長期化しないことが効果として現れています。特に個人属性の要因が強い休業者の職場復帰の際は、うまくいっているケースが出始めています。」
縄田さん
「当社で規定した “復職支援計画書”に、職場復帰の条件が提示されています。その条件を満たし、主治医の診断書も復帰可となったら、上司、産業医、人事・総務が本人と面談し、トライアル勤務期間中の時短勤務の他、業務内容を具体的に記載した“出勤許可申請書”を作成します。そしてトライアル勤務中に休務・休職の原因となった課題についての対応状況を確認し、会社として職場復帰可能の判断を行い、正式な職場復帰となります。」
「トライアル勤務は内規にて、原則は1ヵ月間です。また、トライアル勤務期間中は1週間に1回、産業医か産業保健スタッフによる面談を行っています。トライアル勤務期間後、3年間は産業保健スタッフによるフォローアップ面談を行っています。最初は月に1回、そこから面談状況に合わせて徐々に頻度を減らしていきます。」
外部EAP機関を利用する際に、会社側も連携が必要なケースは、本人の了解を得た上で支援を行うことで、状況の共有により、適切な対応を検討することができる。また、職場復帰支援に関する計画書の中に、職場復帰の条件を提示しておくことで、本人は職場復帰に向けて何をすべきか知ることができる。
休業に至った要因や課題を、本人や職場が困っている事例性をベースに体系的にまとめる
次に、職場復帰支援の際に利用している独自の「要因分析」手法についてお話を伺った。
塩田さん
「縄田さんが、社内のメンタルヘルスプロジェクトのリーダーを務めた時、メンタルヘルス案件の対応にだいぶ苦労したことを踏まえ、他の産業保健スタッフに同じ苦労をさせないよう、事例検討を踏まえた経験の共有を効率的に深める目的で、要因分析の方法、面接記録用紙や“復職支援計画書”などの標準様式の整備から行いました。」
縄田さん
「私自身、メンタルヘルス対応にこれまであまり関わってこなかったこともあり、苦手意識を持っていました。時間をかけた割に効果が見えなかったり、本人面談の中で『大丈夫かな』と感じていた矢先に、その上司から『再休業になりました』との連絡がありました。まず何が起きているのかをきちんと分析して、産業保健スタッフや、外部EAP機関のカウンセラーとの間で共通言語化することが必要でしたし、上司や会社側とも同じく共通言語化されたもので運用していかなければならないと考え、“要因分析”のツールを作成しました。共通言語化されると、抽出された要因が、職場での課題の中核かどうかについてもお互いに議論できるようになり、本人へのアプローチの問題や職場側への伝達手段について、検討することができます。また、当時の社長が、グループ環境安全委員会で『メンタルヘルスについて、不調となる要因は業務に関わるもの、家庭や個人要因によるもの等あるだろうが、会社としてどこまで踏み込んで対応するのかを明確にし、背景も分析した上で取り組むこと』と指摘されたことも、はじめたきっかけではあります。」
「要因分析は、大きく分けて3つの領域に10の項目があります(図1)。1つ目は、“身体の不調”や、“パーソナリティー”、“将来”、“人間関係”など4項目に分かれている【個人属性】領域。2つ目は、“職場の人間関係”や“業務量”、“仕事の質”、“ハラスメント”など4項目に分かれている【職場属性】領域。3つ目は、“家族関係”、“育児・介護”など2項目に分かれている【家庭・その他】領域です。それぞれの確認項目には、具体的事例が示されていて、そこに当てはまれば、チェックを入れて詳細内容を記入していきます。」
「休業に入る前の最初の面談で、ある程度チェックは入ります。その後の面談や上司からの情報などから、増えることもあります。休業期間中を通して、日々確認しています。上司からの相談が最初の場合は、【職場属性】領域についての確認から始めます。その後、本人との面談の中で、ものごとの捉え方などの【個人属性】領域や、家族関係などの【家庭・その他】領域などを確認します。」
「“要因分析”の項目を具体的事例に沿って説明していくと、本人の中で、『あ、そこが要因かもしれない』と気づきにつながることがあります。本人が気づかないとなかなか再発防止には結びつかないという意味では、本人にとっても、このシートがあって良かったと思っています。」
塩田さん
「一般的に、『あなたの体調は悪いですね』で話が止まっているから、体調が良くなればすぐに働けると思ってしまいがちです。要因分析を通じて、『あなたの体調が悪いのはこの要因から始まっているのでは?』とたずね、『この対処を考えておかないと、また不調になってしまうのでは』と説明することで、本人が繰り返していたことの要因や対処の必要性の気づきにつながることがあります。」
唐松さん
「“要因分析”の効果をみるためのデータ分析では、全社員の私傷病の休業日数や新規休業者数などではなく、再休業者数に着目しました。私傷病の休業日数や新規休業者数などだけでは、会社側が改善すべき職場の作業関連疾患の予防対策効果の有無は、直接見えにくいことがあります。その点、再休業者に目を向けると、また復帰を目指す本人や職場の環境を両方見ながら、産業保健スタッフが対応できますので、全体の休業者を減らすことへつながりやすいと考えています。産業保健スタッフの支援により、再休業が減ることを経営層に示すことできました。」
縄田さん
「2012年からの4年間において、職場復帰後1年以内にメンタルヘルス不調により7日以上再休業した者(再休業群)と、それ以外(非再休業群)に分けて分析しました。再休業群の割合は 34.5%でした。さらに要因分析の有無でも分析しました。要因分析無しの群では、3か月以内に20%、1年以内に50%以上が再休業に至っており、比較的短期間に再休業に至っている状況が確認されました。要因分析有りの群では、3か月以内の再休業は認められず、1年以内の再休業も20%以下でありました。また、要因分析有りの群においては、【職場属性】領域が主要因での休業群には、1年以内の再休業は認められませんでした。」
塩田さん
「働けない理由を、しっかりと要因分析して、その要因と改善策を支援する人達と共有することが大切です。その上で本人に合った職場復帰プランを立てられれば、その結果として職場復帰はスムーズにいくことになるし、再休業を防ぐことにつながると思います。」
唐松さん
「要因分析において、【職場属性】領域の要因が強いと、会社側での職場環境の改善がとても大事になると思うのですが、そういった判断材料として、今回の手法は、会社にとっても良い方法だと思っています。共通言語でルール化された項目で示されるので、状況が把握しやすくなったというのもあります。また、病気のことが絡むのでついつい専門職任せになりがちな部分に対して、産業保健スタッフ側と会社側とが、会話をするきっかけができたことも大きいです。好影響の根拠を示すことで、また次の計画につなげることができます。」
休業に至った要因や課題を、関係者が把握することで、本人の状況に合わせた職場復帰支援プランが立てられる。本人も要因を自覚することで、自らの改善にもなり結果的に再休業の予防につながっている。
【ポイント】
- ①外部EAP機関を利用する際、本人の了解を得た上で、会社側も連携して支援を行う。
- ②メンタルヘルス対策の効果を可視化する手段の一つとして、再休業者数の動向に着目する。
- ③休業に至った要因や課題を体系的にまとめ、関係者間で共有し、職場復帰プランに役立てる。
【取材協力】宇部興産株式会社
(2017年10月掲載)
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