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SMBC日興証券株式会社
(東京都千代田区)
SMBC日興証券株式会社は、1918年(大正7年)に設立された川島屋商店を起源とする証券会社であり、現在は、株式会社三井住友フィナンシャルグループの直接出資子会社である。
従業員数は、9,348人(2017年6月末現在、SMBC日興証券単体)。6割強が営業職である。千代田区丸の内を中心とする本社地区に約3,500人がいる。国内に124店舗の営業拠点がある。
今回は、人事部長の椎根達也さん、人事部の鈴木由香さん、人事部健康管理室の保健師である中村享子さんの3人からお話を伺った。
若手社員が管理職以外に相談できる役割の者を配置する
最初に、メンタルヘルス対策への思い、および取り組み体制と状況についてお話を伺った。
椎根さん
「私たちは、証券会社としてお客様の資産を守るということと、お客様を中心に考え、より高い価値を提供することをビジネスとしています。心のこもった提案をして、最高の信頼を得たいという強い思いがあります。そのため、直接サービスを提供する社員の心身の健康がとても重要だと、経営者も人事部も認識しています。社員が元気に働き、お客様により高い価値を提供できるよう、“労働者の心の健康の保持増進のための指針”を踏まえて、社内のメンタルヘルスケアの取り組みを継続、強化しています。」
「メンタルヘルス対策については、“労働者の心の健康の保持増進”、“充実したストレスチェック制度の拡充”、“心の健康づくり計画の継続”の3つをキーワードに取り組んでいます。個々の社員のセルフケア活動を支援すると共に、全社的には心の健康づくり計画に沿って活動しています。特にストレスチェック制度に関しては、結果データを活用して組織分析を行い、職場環境改善に活かせる施策を試行錯誤しながら進めています。加えて、社会的な動きとして労働時間の考え方が急激に変化しています。今まで以上に生産性の向上も求められています。だからこそ、メンタルヘルス対策が重要であり、社員の心身の健康の状況を定期的にチェックする仕組みが必要不可欠である、と認識しています。」
「特に健康管理に関しては、管理することが目的ではなく、社員一人ひとりが健康に生き生きと業務に邁進できることが必要だと考えています。そこにはやはり社員の意識と、経営者と管理職の意識が大事だと思います。その気付きを分かりやすく“見える化”することも私たちの仕事だと考えています。」
中村さん
「健康管理室は、人事部に所属しています。産業医や保健師等の看護職が中心です。人事部スタッフなどと協働して運営しています。ただ、プライバシーの保護の観点から、組織は同じですが機能や建物は分けています。」
鈴木さん
「私は“ヘルスケアサポーター”として、健康管理室と人事部の間の橋渡しを行っています。健康管理室での相談の中で、職務内容の変更が必要な場合、異動や評価、キャリア形成に関する内容となれば、私が相談対応しています。」
「人事部スタッフのうち、中央労働災害防止協会の研修やメンタルヘルスマネジメント検定を取得した役職経験者、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを登用し、人事労務管理におけるヘルスケアを担当する者を“ヘルスケアサポーター”として任命しています。2013年度から始め、現在4名で運用しております。」
「新入社員研修や管理職の研修の際に、ヘルスケアサポーターの紹介をしています。また、1~3年次向けの集合研修では、ヘルスケアサポーターが講師をしています。研修中に、若手社員の様子を直接見たり、管理職に『部下の中で気になる方はいますか?』等の質問をしたりして、該当する方がいれば、終了後、個別面談をすることもあります。そうすると、『実は…』とこれまで溜まっていた不安や悩みを一気に話し出す方もいます。研修講師として、『何かあったら、いつでも相談して欲しい。』と伝え、身近な相談窓口の紹介ができる仕組みは、とても良いと思います。」
中村さん
「新入社員に対しては他にも、入社時の研修に、日常的なセルフケアの内容を含んでいます。メンタルヘルスに限らず、食事や運動などの健康管理、コミュニケーションなどについて説明しています。」
椎根さん
「当社では、近年、若手社員が多く、割合として管理職の負荷が高い傾向にあります。若手社員が不安や悩み、ストレスを抱えていて、管理職に相談しようにも、時間が取れないといった問題がありました。そこで、管理職のフォローや若手育成を強化するため、先輩社員によるインストラクター制度や、管理職経験者によるサポート強化の役割をつくり、若手社員のメンタルケアの強化に努めております。」
「また、人事部では定期的に各支店に訪問して、直接社員と面談を実施しております。面談した人事スタッフが気になる内容だった場合は、本人に確認した上で適宜、健康管理室につなげることもあります。早い段階で対応できる点では、とても効率的であります。」
若手社員が多い会社状況において、社員である「ヘルスケアサポーター」が研修講師をする際に、自身を身近な相談窓口として紹介している。また、各職場に管理職以外に相談できる役割の社員を配置して、身近に相談相手がいる環境をつくっている。
管理監督者に報告せずに、医師面接を受けられる相談日を設定する
次に、ストレスチェック制度への取り組みについてお話を伺った。
中村さん
「ストレス診断は2007年から全社員を対象に実施しています。2006年の厚生労働省のメンタルヘルス指針を踏まえて、自分のストレス度を把握するための体制を整えていました。よって、法制化後も社員にとっては、今までと変わりなくチェックできたと思います。ストレスチェック制度実施後の医師による面接指導を法令に基づき追加して、診断から面接指導まで一連の流れを構築しました。」
「ストレスチェック制度はWEB上で実施していますので、実施期間中、部署ごとの受検率は、健康管理室で分かります。受検率が低い部署に対しては、部門長から受検を促すよう、メールにて勧奨連絡をしています。その後、部署内で通達したり、朝礼時に説明したりすることで、受検率を上げています。」
「受検後、高ストレス者に対しては、外部EAP機関による相談希望と、健康管理室による面接希望の2つの選択肢があります。健康管理室による面接希望を選択した場合は、健康管理室から連絡して面接の日程を決めます。なかには、所属の管理職に知られることなく面接を受けたい方もいます。そこで、日程調整に関しては、管理職に報告できる場合、できない場合、休日も含め選択肢を示し確認しています。このストレスチェック制度実施後の面接は、病気あるいは病気の傾向があって産業医面談を受けたいというこれまでの面談とは、意味が異なります。高ストレスな状態ではありますが、病気という訳ではないので、まずはご本人の意思を尊重して相談できる体制を作ることが、とても大事だと考えています。」
「ストレスチェック制度実施後の面接指導は、産業医が行いますが、看護職も同席しています。看護職が事前面接をした後、その社員が大事なことを話し忘れている場合、『こういう話もありましたよね』とアシスタント的な機能として、産業医と社員の橋渡しをしております。面接後、職場に関する問題があり、会社側の対応が必要であれば、医学的な判断の上、産業医から人事部に問題の解決に向けた意見書が出されることになります。」
「相談内容は、職場に関する相談が多い傾向でした。多くの社員は1回で終わりました。『今日は話してスッキリしました』といった社員や、こちらが少し背中を押してあげるようなアドバイスによって、その後はご自身で動くことができた社員など様々でした。これがまさに一次予防だと思いました。その中で、継続支援が必要だと産業医が判断したり、さらにアセスメントやアドバイスが必要だと思われたりした場合は、2回目以降、通常のメンタルヘルス面談として対応することになります。」
「このように、1回限りのストレスチェック制度実施後の面接指導と、通常の健康管理室によるメンタルヘルス面談は、内容も手順も異なるため、最初の問診票から意見書まで、書面は分けて管理しています。また、健康管理室側から声をかけた場合は、通常のメンタルヘルス面談での対応となります。」
鈴木さん
「相談内容によっては、本人だけで解決できない場合もあります。例えば、人手不足等の部門での組織的な問題です。そういう状況を知ってほしくて面接を依頼してくる社員もいます。相談内容を人事部内の異動を組成するメンバーとも共有し、必要に応じて異動時に対応しています。会社側としても問題が何か分かれば、手を打つことができます。」
椎根さん
「私たちは、お客様を中心に考え、より高い価値を提供し、信頼をいただける様、日々努めております。また、健全な金融仲介機能を果たし、市場・社会の発展に貢献することを念頭に働いております。市場(マーケット)は常に変動しております。
従って社員は、市場環境によって、ストレス負荷も大きく変動しているように思われます。」
「個人の結果は開示されませんが、ストレスチェック後の組織分析結果から、組織ごとの傾向を検証します。気になる部室店については、出向いて面談を行うこともあります。中には、ストレス度が高いけれども、上司に相談できて、同僚も助けてくれるという状況が読み取れる部署もあります。営業に従事する社員が多いので、適度なストレス負荷は緊張感もあり、ある意味必要かと思います。その上で、本人の満足感も高く、評価も公平にされて、部署として成果も出ているのであれば、そこは良い部署だと考えております。ストレスチェック制度実施後の組織分析結果は、私たちの中でしっかりと検討して、環境を見ながら各職場に落とし込んで対策していくことが、重要だと考えています。」
ストレスチェック制度実施後の医師による面接指導は敷居が高く希望者が少なくなりがちだが、管理監督者に知られることなく医師面接を受けられる相談日を設定するなど、工夫の余地がある。また、組織分析結果は、十分な検討後各職場に落とし込んで対策していくことが重要である。
【ポイント】
- ①若手社員が多い職場においては、管理職以外に相談できる役割の者を配置して、身近に相談相手がいる環境をつくる。
- ②高ストレス者への医師面接は、所属の管理職に報告せずに受けられる時間帯の設定など、工夫する。
- ③組織分析結果に基づき、特徴のある事業場に対しては、人事部が直接出向いて面談を行い、状況確認し環境改善の進め方を検討する。
【取材協力】SMBC日興証券株式会社
(2017年10月掲載)