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ボッシュ株式会社
(東京都渋谷区)
ボッシュは、1911年(明治44年)に日本で事業を開始し、2016年で105年を迎えた。それ以来、ボッシュ・グループは、4つの事業領域(モビリティ ソリューションズ、産業機器テクノロジー、エネルギー・建築関連テクノロジー、消費財)において、強固な基盤を築き上げ、日本のお客さまのニーズに応じたサービスや製品を提供してきた。これらの事業領域でボッシュ・グループのコーポレートスローガンである「Invented for life」を体現する革新的なソリューションを提供し、ボッシュ・グループは日本社会の生活の質の向上に取り組んでいる。
ボッシュ株式会社の従業員数は5,228名(2016年現在)で、渋谷本社には約400名、一番大きな工場がある埼玉県東松山工場には約1500名が勤務しており、その近くにボッシュ健康保険組合の拠点がある。その他、全国に工場、事務所、研究開発施設等がある。
今回は、安全環境部環境・安全健康・防災グループの鯨井幸洋さん、渋谷人事グループセクション・マネージャーの久武竜太さんお二人にお話を伺った。
定期的にメンタルヘルス研修を実施することで、日頃から相談しやすい環境をつくる
最初に、メンタルヘルス対策の取り組み体制と教育研修について、鯨井さんを中心にお話を伺った。
「メンタルヘルスの取り組み体制としては、 “環境・安全健康・防災グループ”という部署が、全社的な安全や環境、メンタルヘルスなどの衛生面をとりまとめています。その部門に保健師・看護師が全社で6名おり、定期的に健康相談を行っています。」
「また、当社の産業医と“ボッシュ健康保険組合”に在籍しているカウンセラーとも協力して取り組んでいます。カウンセラーの2名は東松山市にあるボッシュ健康保険組合にデスクを設けていますが、各事業所へ出向いて相談対応を行っています。例えば、渋谷本社には月2回、横浜事業所へも月2回といったように、各事業所で定期的に相談日を設けています。」
「教育という面では、当社では“さわやかヘルスプラン”と称して、世代別に体力測定と健康教育を1985年から毎年行っています。当時、厚生労働省がTHP(トータル・ヘルス・プラン)を始めたこともあり、その一環として行う中で、メンタルヘルスの内容も含んでいました。健康教育は35歳、45歳、55歳になった翌年の従業員が対象者です。講義の中でメンタルヘルスにおける“セルフケア”を学びます。来年度の対象者は、グループ企業も含め、約1,000名おります(40歳・50歳の体力測定のみ対象者含む)。メンタルヘルス教育は、現在健康保険組合のカウンセラーが講師を務めています。以前は土曜に実施していたので参加率はあまり高くなかったのですが、現在は平日の就業時間内に実施することで、参加率も90%となっています。」
「当社が本格的にメンタルヘルス対策に取り組み始めたのは、2004年からです。当時の社長の強い意向があり始まりました。まず、健康保険組合でカウンセラーを採用し、同時に管理者向けにメンタルヘルス研修を1年間で全員に対して行うことにしました。実施にはボッシュ健康保険組合にも協力してもらいながら、進めました。」
「新入社員向けのメンタルヘルス研修も、会社がボッシュ健康保険組合に依頼してカウンセラーが行っています。2014年からは、中途採用社員に対しても、健康診断と合わせて、人事制度や法律面の教育と共に、メンタルヘルス研修を実施しています。いずれの研修も自分自身のストレスの気づき方などセルフケアの内容を説明し、最後に社内外の相談窓口を紹介しています。」
「監督者向けの研修は、それぞれの階層別に年に1回実施しています。主な内容は、最初、私(鯨井さん)から健康管理の必要性を説明し、その後、カウンセラーから安全配慮義務など法律面も含めたラインによるケアの内容を講義しています。部下を持つことによる変化もあるので、グループワークなども交えて3時間実施しています。管理者に対しては、社外の講師に依頼して、さらに専門的な内容で1日のメンタルヘルス研修を年に2~3回行っています。」
「周知・広報の面では、健康に関する社内報を定期的に発行しています。毎年テーマを決めており、2015年にはメンタルヘルスシリーズということで、年間で約10回発行しました。」
「これらメンタルヘルス対策の効果としては、傷病手当金の支払い総額が増えていない事があげられます。また、6か月以上の休業者の数が減りました。一方で、カウンセラーによる相談件数は、増えています。ただ、相談件数が増えることは良いことだと思っています。早期の相談対応が、1次予防、2次予防となって、長期休業に至らないのではと考えているからです。相談のきっかけは、“①本人自ら”、“②上司に言われて”、“③事業所人事に紹介されて”の3パターンあります。“①本人自ら”の相談が多いという点では、全従業員に対して、教育・研修を通じてメンタルヘルスに関する認識が広まってきた結果だと思います。また、管理者が『部下のことで相談したい』と相談に来ることもあります。」
会社と健康保険組合が連携することで、定期的にメンタルヘルス研修を実施したり、相談窓口を設けたりするなど、より広く効果的に行うことができる。相談窓口も機能していて、結果として、長期休業者の減少や傷病手当金の支払総額の抑制などにつながっている。
職場復帰の手順を標準化するためにハンドブックにまとめる
次に、職場復帰支援の取り組みについて、久武さんを中心にお話を伺った。
「私は2014年にこの部署に配属されました。当時は、職場復帰に関しては各事業所任せで、全社統一したルールというのがありませんでした。そのため、『どういったプロセスを踏んで職場に戻すのか』など、それぞれの事案で混乱していました。もう少し標準化したいと考え、うまくいった事例の特徴を抽出した上で、“傷病休業/休業ハンドブック(メンタルヘルス編)”としてまとめました。1年かけて、健康保険組合や環境・安全健康・防災グループと話し合いながら策定しました。会社として就業規則などの規程を、新たに定めたり変更したりしたわけではなく、規程の内容を分かりやすくまとめたものです。ハンドブックの最後には、よくある質問をまとめたQ&Aもあります。このハンドブックはイントラネット上にあるので、いつでも誰でも見ることは可能です。」
「ハンドブックには、まず、『お休みに入られないためにどうするか』という一次予防の視点での説明が最初にあります。先述した定期的なメンタルヘルス研修の中で、上司が素早く部下の異変に気がつき、気づいた時の対応方法について、改めてまとめています。部下が、最近、急に休みが多くなったり、少し様子がおかしいと感じたりした時は、上司が事業所人事に相談することにしています。事業所人事で状況を聴いた上で、医療機関への受診が必要と感じたら、上司から本人に、『ちょっと病院に行って診てもらおうか』と伝えてもらうことにしています。休業の旨の診断書が出されると、その診断書を上司が事業所人事に提出した上で、速やかにお休みに入ることになります。」
「休みに入る方にとっての不安は、“お金”と“休める期間”といった生活補償です。これらの情報が、事前にないと、どうしてもギリギリまで頑張ろうと、仕事を続けてしまうことになります。休んでも支給されるお金があることや、一定期間の休みであれば会社内の役職や地位はそのままであることが分かっていれば、少しでも早く休むことで、休業期間が長引かないと考えています。実際、最近は、比較的早く復帰される方が多いです。」
「お休みの間の連絡は、事業所人事が行うことが多いです。状況によっては、上司が行う場合もあります。その場合、事業所人事からは、上司に『最近連絡取られていますか』と確認しています。連絡窓口はお休みに入られる前に確認しています。最初の1、2か月は、本人の状況を考え、あえてこちらからは連絡をしないこともあります。本人が連絡をとれるようになって連絡をいただいたり、事業所人事から連絡したりして、『どうですか?』と状況を聴いて、『じゃあ、また1ヶ月後に、電話でお話ししましょう。』と続けています。そして、外に出ることができる状態になると、会社や健康保険組合に来ていただいて、カウンセラーと話をする段階に入ります。私たち事業所人事も本人の許可があれば、同席して様子を見たり、状況を聞いたりしています。」
「本人が職場復帰の気持ちが強くなり、毎日外出したり運動ができたりという状況になると、カウンセラーや人事部門から『そろそろ戻れそうですかね』という話をします。その後、主治医からも復帰を考えてもいいという話が出たら、職場復帰そのもののプロセスに入ります。当社の制度として、職場復帰の条件は、“フルタイムで週5日通常勤務できること”と示しています。その条件を本人から主治医に伝え、その上で復帰可能の診断書が出されれば、その後産業医面談を行う流れです。」
「一方で、復帰先職場の調整も必要です。ハンドブックには、“原則復帰先は元の職場である”ことを明記しています。休職中は人事部付ですが、休職に入る前に元の職場の上司や本人には、『体調が良くなった際の復帰先は元部署です。休職期間中は事業所人事付としています。』と伝えています。ただ、職場復帰してもどうしてもうまくいかない場合は、元の部署に一旦戻った上で、次の異動を考えることになります。上司には、復帰可能の診断書が出る少し前から、『そろそろ戻れそうです』と説明し、今後のプロセスと、まず産業医面談を行うこと、そして、『復帰後の業務内容や場を準備しておいてください』と伝えています。」
「産業医面談では個別面談の後に、本人、上司、事業所人事、カウンセラー、保健師・看護師そして産業医と、関係者皆が集まって報告会をします。これまでの経緯や、職場復帰先そこでの業務を上司が説明します。そして、事業所人事からは、『フルタイムで働ける状況ですが、まだ残業はさせてないでください』、『見えないところで余分に仕事をしているようでしたら、止めさせてください』ということを注意し、皆でその場で、確認し合います。そこでは、本人に対してもどのように思うかを、その都度確認しています。その上で、復帰時期を確定します。」
「職場復帰後は、残業させないという約束を守らせながら、決められた時間に基づくフルタイム勤務を大体3か月間続けます。我々は“アイドリング期間”と言ったりします。この期間で、本人の生活リズムを整えます。また、受け入れる職場も、急に多くの仕事を依頼できないので、お互いに様子をみながら進めていくことになります。上司には、『細かく復職後の様子を見てください』とお願いしています。この間の約束としては、必ず職場復帰後もひき続き、カウンセラーや保健師・看護師の方と面談し、復職後の状況確認をすることにしています。我々人事部門も本人の了解を得られれば、面談時に同席したり、上司との面談時に同席したりすることもあります。」
「1つ1つの事例を記録として積み重ねていきながら、ハンドブックの内容をバージョンアップしています。職場復帰支援のみならず、対応してきた記録として大切に残しています。担当者が新しく変わった時に、また同じ失敗をしたり困ったりするようでは、組織として健全ではないと思います。メンタルヘルス対策や従業員の健康管理など全体のサービスの質を上げていくことで、少しずつ従業員のメンタルヘルスに対する意識が上がってきて、心も体も健康になるのではないかと思っています。先日、経済産業省が推し進める“健康経営優良法人認定制度”にて、“健康経営優良法人2017(ホワイト500)”として認定を受けることができました。今後もメンタルヘルス対策を含む従業員の健康管理を積極的に進めていきたいと考えています。」
職場復帰の手順を標準化するためにハンドブックとしてまとめている。よくある質問をQ&A形式で掲載するなどし、従業員ならば誰でもいつでも見られる状況にしている。また、休業前、休業中、復帰後のそれぞれのステップにおいて対策することが結果として長期休業者の減少につながっていると思われる。
【ポイント】
- ①定期的にメンタルへルス教育を行うことで、セルフケアが身に付き、早めの相談につながる。
- ②職場復帰の手順をハンドブック形式でまとめることで、全社で標準化した手順で進めることができる。
- ③本人、上司、産業医、保健師・看護師、カウンセラー、事業所人事など関係者全員が集まり、職場復帰の検討を行い、復帰後のフォローや注意事項について確認し合う。
【取材協力】ボッシュ株式会社
(2017年4月掲載)
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