働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

株式会社九南(宮崎県都城市)

  • 事業者の方
  • 部下を持つ方
  • 支援する方

読了時間の目安:

13

株式会社九南
(宮崎県都城市)

 株式会社九南は、1948年創業。宮崎県を中心に送配電工事や通信工事などを行う電気工事業が主力である。従業員数は約380名。グループ全体を含めると1000名位の規模である。従業員の多くは現場管理者と作業者である。

 今回は、取締役副社長の安田紳一郎さん、執行役員総務本部長の永石昭博さん、安全品質管理部アドバイザーの下薗浩二さんの3人にお話を伺った。

メンター制度など新しい制度・体制を作った後も、毎年評価・改善を行う

最初に、建設業界の現状とメンタルヘルスケアを含む教育研修などについて、安田さんと下薗さんを中心にお話を伺った。

安田さん
「当社を含め、建設業界は全体的に人手不足が慢性化しています。景気には波がありますから、パタッと仕事がなくなってしまう時期もありますが、近年はずっと忙しい状態が続いています。それにより現場は疲労が溜まっていく一方で、解決策も見出せておりません。また電気工事の分野でもいろいろな部署に分かれているのですが、それぞれで技術や施工場所が異なるため、応援要員や配置転換することが容易にできない問題があります。」

「特に若い方が長続きしないという問題があります。誰にも相談せず、ある日突然辞表を出したり、途中から出社しなくなったり、『ちょっと休みます』と言ったまま辞めていきます。労働組合にすら何も相談せずに、1人で黙って抱え込んでしまっています。不満な点などもっと早く相談してくれていれば対応できたのかもしれませんが、こちらから話して引き留めようとしても、『いや~、周りに迷惑かかりますから』と言って辞めてしまいます。後から聴くと、『忙しい、忙しいで、いつ暇になるのか』、『休みが取れない』といった本音だったようです。新入社員は、ここ3年間は毎年30人位(全社員の1割近くの人数)を採用しています。他社に比べて多く採用しているのは、近々、多くの定年退職者の世代が来るからです。それに向けて新入社員の採用と育成に力を入れることにしました。」

「4月に入社して最初の1ヶ月間は本社で座学研修を行います。安全教育やマナー教育が中心です。その後、3か月間かけて電気系統などの技術の基礎教育を行った上で、夏頃に各部署に配属されます。それからOJT教育が始まり、長いところで3年かけて行う部署もあります。また、3年前から“技能五輪全国大会”にも参加しています。電工の部で弊社のような中小企業規模の参加は珍しいことですが、自分の技術でここまでできたという実感を通じて、若い内に技術者としてのプライドを持ってほしいという願いもあります。そして12月にフォローアップ研修として、その年の新入社員を全員本社に呼び戻して、1日研修をします。周りの同期たちが今、どういう状況にあるのかなど再確認した上で、じゃあ自分は今後どうすれば良いかを考える機会となります。また、その夜に懇親会を行い、悩みごとなど新入社員同士で話をして解消してもらえることもあるでしょう。もちろんその会には、会社側の上の立場の人はあえて出ないようにしています。同期の者同士で定期的に話ができる場を会社側が用意することは大事だと思うのです。」

下薗さん
「他には、“ブラザーシスター制度”を2年前から実施しました。いわゆるメンター制度です。制度の規程を策定し、入社1年目の社員(メンティ)に、各部署によって異なりますが最長で3年間、ブラザー役シスター役(メンター)をつけることにしました。メンターは最長30歳までで、できるだけ若い社員にお願いしています。現在は、50人のメンティに50人のメンターが付いています。」

「最初に3年間の技能達成計画表を作成し、ここまでのレベルになってほしいという技術レベルまで到達することを目標にしています。メンターは、それぞれの現場事務所など同じ職場の中で、仕事のやり方や技術などを、その都度教えると共に、声掛けを通じて相談相手になることもあります。常務と私(下薗さん)の2人でメンターへの事前研修や相談対応も行っています。事前研修においては、『この制度で、みんなで育てていくんだよ。立場もちょっと上の兄ちゃん役として、話や相談をしやすい雰囲気を作ろうね』と教えています。また、メンターよりさらに上の立場の方に、各部門でのスーパーバイザーとしてOJT責任者を設けました。OJT責任者もメンターからの相談対応を受けています。OJT責任者は定期的に会議を開いて、メンターやメンティがどんな悩みや不安を持っているか、メンターはどのような支援をすれば良いかなどを話し合っています。」

「3年目を迎えますが、毎年毎年、評価した上で修正を加え、PDCAサイクルを回しながら続けていきたいと考えています。1年経過して、メンター役とメンティ役それぞれに対して、どんな感想を持ったか、また、困ったことや良かったことなどのアンケートをとりました。その上でどういうところに改善点があるのかを検討し、可能なところは是正しています。アンケートを通じて、メンティのみならず、メンターにとっても大変勉強になったことがわかりました。『どういうふうに教えていこうかと、自分の中で考えるようになり、自分の成長を感じました』というメンターの意見が多くありました。」

安田さん
「実は、だいぶ昔に今回の“ブラザーシスター制度”と似たようなことを試みたのですが、結局、1、2年で断ち切れてしまいました。当時は、規程も作らず、体制も不明確なままで、『やったからいいや』みたいな感じの小さな達成感で、うやむやに終わってしまいました。どんな成果があったのか、本当は継続すべきだったのではないかといったところを検証していませんでした。思いつきだけで、形のないまま、適当にやったのでは、後々何も残らないということを反省しました。きちんと明文化して制度を作り、こういう制度・体制でやりましょうとすることで、それを守り、継続できていくことが分かりました」

「また、弊社は、職場環境の維持改善活動でよく用いられるスローガン“5S活動”[整理、整頓、清潔、清掃、しつけ]にもう1つ[スタディ]を加えた“6S活動”を行っています。その中で、1ヶ月の内1日だけ土曜日を出勤日として、約10年前から “6Sの日”と定めて、その日に教育研修、ボランティア活動、レクレーション等を行う日としています。事前に年間計画を立て、技術スキル面、安全管理面、マネージメント面、健康面など様々な分野の研修を行っています。最近は、管理職・役員向けにコーチング研修も取り入れています。平日、仕事が終わって体も心も疲れている状態で研修会をしても大変だし、身につかないと考え、このような仕組みにしました。」

「メンタルヘルス研修では、一般社員向けにメンタルヘルス教育とキャリア教育、そして今年からアンガーコントロール教育も取り入れています。グループ会社にも声をかけて、1年を通じて同じ内容を年6回実施しています。必ずどこかに参加してもらうことで、年1回はメンタルヘルス研修を皆が受けていることになります。そして、1年経ったら、また新しい内容でメンタルヘルス、キャリア研修を実施しています。」

「メンタルヘルス不調は、誰でもなり得るものですから、事前に予防の観点から、今できることを職場でも自分自身でも改善していくことに主眼をおいて、対策しています。そういった中で、2013年にメンタルヘルス指針に基づき“心の健康づくり計画”を策定し、管理監督者向けにメンタルヘルス研修を実施しました。また、毎年定める安全衛生計画の中には、必ずメンタルヘルス対策も盛り込んでいます。ストレスチェック制度への対応では安全衛生委員会で話し合った上で、規程を策定し実施しました。実施は外部業者に委託したのですが、高ストレス者の割合は、一般に言われている割合よりもだいぶ低かったそうです。委託業者からの報告時に、『どういった対策をされているんですか?』と質問されたので、先述のように、予防面での対策を重視している旨を説明したら、『だから低いのかもしれませんね。』というお答えをいただきました。」

人手不足が慢性化している建設業界において、若者の人材育成が課題となっている。そのような中で始めた若年層を中心としたメンター制度は、メンティのみならずメンターにとっても振り返りの機会となり、自己成長につながっている。

職場復帰は各部門長任せにせず、社内窓口をつくり情報共有できるようにする

続いて、職場復帰支援の取り組みについて、下薗さんを中心にお話を伺った。

「職場復帰支援に関しては、社内規程を定めています。休業に際しては、その部門の管理者が中心となって手続きを行うことになります。ただ、最近では私(下薗さん)の方で社内窓口としてメンタルヘルス関連の相談や対応をしていますので、私が手続きの支援を行うこともあります。以前は、各部門でバラバラに活動していたので、状況把握ができていなかったのですが、社内窓口ができたことで、情報共有できるようになりました。また、各部門任せではその部門長の負担も大きく、また部門長が不調になった時に大変なため、社内窓口を示すことで早めに動けるようになったと思います。」

「相談は社員本人が直接来ることは少なく、上司から連絡があった上で、その部署に出向いて本人と相談することがほとんどですね。自分から直接相談できないくらい元気もない様子であれば、社内規程と医師の診断書に基づき、休業の手続きに入っていきます。何人か支援してきて思うのですが、『この状態になる前に相談してもらいたかったな』と。 まずは一旦職場から離れて、じっくり休むことが大事ですので、仕事についての検討はその後ですね」。このようなキャリアに関する悩みの相談に応じるため、昨年、キャリアコンサルタントの資格を取得致しました。また、現在は産業カウンセラーの勉強を行っています。

「職場復帰に際しては、本人からの復帰の意思に基づき進めていきます。長い方では、職場復帰までに1年かかった方もいました。当社の場合、グループ会社などを含め、さまざまな職場があります。主治医や本人の意見などから、配置転換をした方が良いと考える場合は、そうすることがあります。前の職場のことや本人の業務適性の問題で不調になった場合などには、全然違う分野の職場を勧めることもありました。その点、職場に関しては幅広い選択肢があります。」

「復帰職場においては、復帰者の周囲の方も、どのように接すればよいかというところで、声掛けに躊躇してしまうこともあると思います。その対応は、メンタルヘルス研修の中で教育しています。いずれは、お互いに意識しなくても自然と復帰者をケアできているようにしたいものです。」

最後に、社員が中心となって考える実際の取り組みについて安田さんを中心に話を伺った。

「当社では2010年に、選抜社員が集まって検討し、社員行動基準をまとめた“クレドカード”を策定しました。カードサイズで社員は皆、常時携帯しています。毎朝、各職場の朝礼で読み上げています。【私たちは安全を全てに優先し、安全第一で行動します】、【私たちはお客様との信用を大切にし、約束は必ず守ります】など、社員でも分かる簡単な言葉で、『当たり前のことを当たり前にやりましょう』と方針を定めています。その簡単な方針だけを決めておいて、それぞれの職場で何かあったときには、その方針に沿って考え、各自行動することとしています。」

「会社側が策定した『社員はこうあるべきだ』という社員行動基準ではありません。社員が話し合って、『私たち社員はこうしましょう』と定めたものです。“クレド”とは、“信条”、“志”、“約束”などを意味し、企業活動の拠り所となる価値観や行動規範を簡潔に表現したもので、サービス業や小売業などで策定されているようです。我々、建設業でもそういうものを作ろうと考え策定しました。」

「社員ならだれでも分かる言葉にしたことで、それぞれの社員にとっても自己行動の基準となっています。また、指導する際も、“クレドカード”の内容に沿って行うことができます。ただ、策定して6年経過しましたので、誰かが考えたことをやらされているという感覚が出てこないためにも、そろそろ次世代の若手社員を集めて、自分たちで考えて『ここを修正します』というような活動を考えています。これも繰り返し改善していかないと根付いていかないですからね。」

「2014年に厚生労働省宮崎労働局より安全表彰を受けました。安全衛生に関する取り組みを評価していただいたのだと考えています。また、2015年には中央職業能力開発協会から“会長賞”を授与されました。長年のキャリア形成支援の取り組みを評価していただいたのだと考えています。我々建設業は、事故が多い業種であり、人手不足でもありますが、これらの評価を糧に安全の確保と人財育成に今後も積極的に取り組んでいきます。」

社員が話し合って、「私たち社員はこうしましょう」と定めた社員行動基準は、社員ならだれでも分かる言葉としたことで、社員に理解しやすく、組織風土に浸透しやすい。常時携帯しているカードを見て、自己判断の基準とすることで、全社員が納得して働く環境ができるものと思われる。

【ポイント】

  • ①人財育成を重視し、メンター制度など新しい制度・体制を作った後も、毎年評価・改善を行い、PDCAサイクルを回していく。
  • ②5S活動に「スタディ」を加えた6S活動により、教育の機会を重視する。
  • ③職場復帰支援は各部門長任せにせず、社内窓口をつくり情報共有できるようにする。
  • ④社員同士が話し合い、誰にでもわかる簡単な言葉で「社員行動基準」を策定することが、全社員が納得して働きやすい環境につながる。

【取材協力】株式会社九南
(2017年2月掲載)