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株式会社エム・ティー・フィールドサービス(東京都中央区)

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株式会社エム・ティー・フィールドサービス
(東京都中央区)

 株式会社エム・ティー・フィールドサービスは、1986年設立。大手総合商社、関連企業を主として、PC・ネットワーク・セキュリティ等ITインフラの構築・保守・運用管理業務、ならびに利用者支援を行っている。従業員数は100名弱。約7割は業務請負先の現場常駐で働いており、残り3割が本社で個別対応、ならびに間接業務等を行っている

 今回は、代表取締役社長の山本義照さん、常務取締役の深山雅弘さん、そして、外部EAP機関のカウンセラーである藤掛弘美さん、長谷英哲さんの4人にお話を伺った。

入社前後の研修期間中に、相談できる機会を多く提供する

最初に、中小企業における人材採用と人材育成の取り組みについてお話を伺った。

山本さん
「私たちは中小企業ではありますが、ITインフラの部分においては、『大企業には絶対に負けない』という気持ちと熱意を持って仕事をしています。『顧客が困っていることに対して、私たちがどれだけ支援できているか』ということは、目に見えない無形な取り組みですが、そこが我が社の強みであると考えています。」

深山さん
「その強みを育み、業務請負先の現場で働けるよう、人材採用や人材育成には、非常に力を入れています。学生から社会人になって、物事の進め方や、コミュニケーションにおいて辛いことが多く出てくるかもしれませんが、それを学びとして成長していけそうな人を採用するように心がけています。トラブルがあった場合や、双方に余裕が無い時は、顧客から怒られることもありますが、『それらに丁寧に対応することで、必ず最後には“ありがとう”と感謝の言葉を言ってもらえるものだよ』と説明しています。」

「採用後、入社前の3月に、外部EAP機関のカウンセラーが半日間の入社前研修を行っています。」

藤掛さん
「メンタルヘルスケアにおけるセルフケア研修に近いのですが、主な内容は、“基本的な生活習慣づけを含むマインドセット”です。特に最近は、学生気分がなかなか抜けないまま入社してくる方も多く、会社員になるための感覚にセットし、睡眠の大切さを通じて、基本的生活習慣が、いかに仕事に影響するかということを学んでもらいたいと思っています。これは一次予防でもあると思います。学生時代に昼夜逆転している方や4月1日に寝不足の状態で出社する方もいますので、この研修は4月実施では間に合わないのです。3月から体調と生活リズムを整え、4月に向けて働くための体を作っていく準備期間が必要だと考えています。」

深山さん
「入社後は、1年間にわたり新人研修を行います。いつも社長は、『人の話を聞いて、相手をよく見て、それからちゃんと話しなさい』と説明しています。特にまず聞くことは大事であり、状況を知りその上で行動をすることが、コミュニケーションの基本動作だと考えています。」

「1年間の後半は、現場に出て現場研修を行います。技術研修のみならず、例えば、座学で教えた“報・連・相”について、現場の管理職に聞けないことがあった場合でも、研修期間だからこそ遠慮なく相談できるよう専任のリーダーを置いています。1年間の研修終了後は、独り立ちし1人で現場を任せることもありますので、業務への慣れと、困ったときは相談すれば良いということを身に付けて欲しいと思い、この体制にしました。以前は、入社後すぐに現場に出していたので、最初の現場の色に染まってしまい、その後の配置転換や業務転換に苦労することがありました。このような基礎トレーニングを1年間積むことで、どの顧客先に行っても適応して仕事ができると考えています。」

藤掛さん
「新入社員は、入社前にカウンセラーによるセルフケア研修を受けて、1年後の新人研修終わりの3月にカウンセラーと面談します。現状の把握と、何かあったら社外にも相談窓口があることを周知する目的でもあります。その後、実務経験を1年ぐらい積んで、再度、カウンセラーと面談があります。こうして、誰かに話を聞いてもらう機会を多く作っています。」

新入社員に対して、入社前から睡眠衛生教育を含むセルフケア研修を行うことで、一次予防にもつながる生活習慣を身につける機会を設ける

経営者や社外カウンセラーが定期的に社員全員と個別面談する仕組みをつくる

次に、中小企業におけるメンタルヘルスケアを踏まえた全員面談の取り組みについてお話を伺った。

山本さん
「2011年から社長である私自ら、年3回、6月・12月・3月に全社員と個別に面談しています。直属の上司と話をするのと違い、社長と社員1対1で話す時間とその機会を仕組みとして設けています。目的の1つに“公平性”を感じてもらいたいということがあります。例えば自分の評価が上司によって違うのではないかと感じている場合でも、社長が全員と話をすること自体が、会社として“公平性”を示していると思います。」

深山さん
「さらに今年度は、社長面談に常務も加わった経営面談を実施しています。どちらかというと仕事の内容よりも『自分の将来、先々楽しむことを考えようか』と、プライベートを踏まえた社員の将来像について話をしました。その上で、『どう働きたいのか?』、『今後、何に力を入れていくの?』と、当社での今後のキャリアについて考えてもらっています。そして、年度末の3月には、会社の将来、中長期ビジョンについても雑談しています。」

「そしてもう1つ、外部EAP機関のカウンセラーによる全員面談も昨年実施しました。設立30周年記念として実施しましたが、これからも継続したいと考えています。」

藤掛さん
「全員面談の形をとると皆さんいろいろと話して下さいます。特に最近の若い方は自ら進んで相談をしようということはなかなかないです。けれども『この面談時間があなたのためにあるのですよ』と言うと、自ら様々な事を話されます。そこで気になる点が無ければ、『また話しましょうね』と伝えて終えています。実際、全員面談を実施した後は、個別の相談件数は増えました。研修などで電話相談窓口を案内していても、すぐに利用が増えるかというと、そうではないこともあり、なかなか相談の一歩に踏み出せないものです。そういう点では、一度実際にお話を伺う機会があると、『相談するイメージが持ちやすくなった』、『話す効果を実感した』という社員の声もあります。仕事の相談は仲間内とか、社長や常務も、よく話を聴く風土になっているので、外部EAP機関の相談窓口には、仕事外のプライベートな問題についての相談が多くなったと感じます。その点では、全員面談の効果はあったと思います。」

「体調や生活リズムの問題、夫婦関係や子ども、親との関係などなんでも相談対応します。当相談センターは弁護士も顧問契約していますので、借金の問題や法的な問題にも対応します。また、栄養士もいますので、食生活の問題にも対応しています。」

深山さん
「外部EAP機関と契約後2年経って、年間電話件数がたったの4件だったことを知りました。『電話相談窓口の意味が全然ないじゃないか!』と理不尽な怒り方をしたことを覚えています。その上で、担当カウンセラーである藤掛さんから、『対象者の社員の中には、社長や常務、役員の方々も入っているんですよ。もし問題を抱えていたら、ぜひ相談にのりますよ』と説明があったので、休業中の社員に対して会社としてとるべき対応を相談し、電話相談への連絡を勧奨することで、外部EAP機関との最適な役割分担を確立することができました。また、業務請負先での常駐者が多いことから、現場で孤立感を持たないように指導しても自分の目でみることができない不安はありましたが、外部に電話相談窓口があることで、社員が話すことでのストレス解消の選択肢も増え、私自身の安心感、そしてストレスの軽減も実感しました。」

藤掛さん
「相談対応は、電話と対面で行っています。必要に応じて、専門機関につなげる案内もしています。職場復帰支援も行っており、職場復帰後に定期的に面談に来られる方もいます。相談内容や個人情報に関わることは、外部EAP機関から会社側へ伝えることはしませんが、ご本人の希望もあり会社側での環境調整が必要だと考えられる場合は、カウンセラーから本人の同意を得て、会社側での調整が必要だということを申し入れて検討して頂くこともあります。あとは、ご本人からも会社側に伝えることができるように、面談を通じて考えをまとめる手助けをしたり、直接伝えるトレーニングをしたりといったこともします。」

深山さん
「できる範囲の制度で社員を支援しているつもりですが、中には退職する社員もいます。戦力のある社員に途中で辞められてしまうと、会社にとってダメージです。ただ、本人のみで考えた結果だけでなく、我々社長や常務、外部EAP機関のカウンセラーに相談して、じっくり話をした上で本人が納得して辞めたという結果であれば、それも良いのではないかと思います。やはり、縁があってこの会社に入社した以上、結果的に退職になってしまうのは残念な事ですが、大切なのは会社としては社員のためにやれるだけのことはやろうということだと思うのです。」

定期的に社員全員に対して、社長自ら個別面談を行ったり、外部EAP機関のカウンセラーによる個別面談を行ったりする仕組みを作っている。社員にとって、相談することのハードルを下げ、悩みや不安が大きくなる前の相談件数も増加し、相談窓口が機能している。

外部EAP機関の支援を利用して継続的に相談対応を行う

次に職場復帰支援の取り組みについてお話を伺った。

深山さん
「休業に入る際は、会社側へ診断書提出の後、外部EAP機関のカウンセラーと面談することを勧めています。体調の問題だけではなく、悩みや不安から来ている不調もあるので、これまで休業者には、皆に勧めてきました。『外部EAP機関での相談内容は、本人の同意なく会社側に伝えられることはないので、安心して直接面談しておいで。』と言っています。」

藤掛さん
「休業中、および職場復帰への支援に関しては、不調者の状態もそれぞれ違うので、都度、ケースバイケースで対応しています。対応方針は、会社側と相談し本人の希望を伺いながら進めています。本人の希望というのは、本人が会社に復帰したいという気持ちがあれば、もちろん全面支援しますが、病状によっては、療養に専念したい方もいれば、職場復帰ではなくて社会復帰を目指すために退職したいという方もおられます。回復に向けての着地点は人それぞれだと思います。」

「また、様々な病気に関して既往歴のある方が、再発したということもありますし、ストレス負荷によって、持病が悪化したということもあるでしょう。その辺りは、どうやって体調を良くしていくかについて一緒に考えたり、主治医に意見を聴くように勧めたりしています。主治医の意見を聴いて、例えば生活習慣としての栄養指導が有効であるということであれば、栄養士面談を実施するなど柔軟に対応しています。」

深山さん
「職場復帰の連絡は、本人から外部EAP機関のカウンセラーに相談が行くこともあれば、本人が先に会社側に意思表示をする場合もあります。」

藤掛さん
「職場復帰の意思が強い方は、主治医の意見の下に会社側と調整しながら、徐々に進めていきます。ただ、意思が強くても、主治医の意見で、まだ療養期間が必要だとなれば、じっくりと療養するように勧めます。」

深山さん
「当社の場合、様々な現場があるので、職場復帰後の職場として、今の現場が合わない場合は、異動させて様子をみるということも検討できます。メンタルヘルス不調者だけに限りませんが、身体も心も両面からみてくれる産業医に、職場復帰後のフォローもお願いしています。」

「いざ、メンタルヘルス関連の問題が起きた時に、私たちがそれに対して事後対処するとなると、日数や費用がそれなりにかかります。そのことを考えたら、事前に予防策として、外部EAP機関に相談窓口をお願いし、医療の専門家である産業医とも必要に応じて連携を図ることで、結果的には会社側の費用の総額は少なくなるものと考えています。」

中小企業での職場復帰支援において、すべてを社内で整備することが難しい場合、外部EAP機関の支援を利用して、継続的に相談対応を行うこともできる。会社側は、主治医と産業医、そして外部EAP機関からの意見を踏まえることで、より適切な職場復帰支援につながると思われる。

【ポイント】

  • ①経営者や社外カウンセラーなどが定期的に社員全員と個別面談する仕組みをつくる。そして、面談を通じて、普段からオープンに会話(雑談)できる環境、雰囲気をつくる。
  • ②新入社員に対して、入社前から生活リズムを含むセルフケア研修を行うことで、一次予防にもつながる生活習慣を身につける機会を設ける。
  • ③入社後の現場研修期間中に、仕事の疑問を何でも相談できる専任リーダーをつける。
  • ④休業中も外部EAP機関が継続的に相談対応を行うことで、会社側は、主治医、産業医、外部EAP機関からの意見も踏まえて、より適切な職場復帰支援につなげる。

【取材協力】株式会社エム・ティー・フィールドサービス
(2017年3月掲載)