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長府工産株式会社
(山口県下関市)
長府工産株式会社は、1980年に住宅設備機器メーカーとして設立された。石油給湯機やソーラー関連機器等省エネルギー製品の開発、製造を行い、2009年からは太陽光発電を代表する省エネルギー関連製品の販売をもとに、メーカー商社としての立ち位置で新たな経営を展開している。
社員数は約180名。この10年で事業の拡大と共に社員数が50名以上増えた。開発、営業事務所の機能を持つ本社が約40名、製品を製造する亀浜工場は60名弱。その他、大阪、横浜、仙台などの営業所に所属する営業職は全体で約80名である。亀浜工場を除き、他の事業場は社員数50名未満である。
今回は、労働安全衛生委員会事務局長である品質管理課課長の宮川清彦さんに小規模事業場のメンタルヘルス対策の取り組みについてお話を伺った。
事業場外資源の専門家のアドバイスを受けながら、安全衛生委員会で検討し進める
最初に、メンタルヘルス対策に取り組むきっかけについて、お話を伺った。
「当社は、社員数が50人未満の事業場が多く、そのような中でも、最近は、地元の労働基準監督署から、しっかりとメンタルヘルス対策を実施していると、高い評価を頂いています。」
「以前より “労働安全衛生委員会”は設置、運営していました。当時の委員会事務局長が『社員の心の健康状態をチェックしよう』と提案し、2012年11月に中央労働災害防止協会(以下、中災防)のヘルスアドバイスサービス“ウェルネスチェック”を全社員対象に実施したのが、メンタルヘルス対策に取り組みはじめたきっかけです。“職業性ストレス簡易調査票”に基づく設問に紙ベースで答えます。また、2013年4月に地元の労働基準監督署が当事業場を査察した時に、『メンタルヘルスに関するチェックが義務化になりそうだから、御社でも始められてはいかがですか』と言われ、どちらかというと強制ではなく、行政から薦められて始めた感じもあります。」
「ただ、実際にメンタルヘルス対策を実施するとなると方法が全く分からなかったので、以前から安全教育の面でご指導いただいていた中災防にお願いすることにしました。その際、『一般的に、メンタルヘルスの体制を導入するには、3年くらいかかりますよ。』と言われていたのですが、いざ始めると、準備から1年で、2013年11月に社長承認のもと“メンタルヘルス活動開始”を全社に発表することができました。」
「2013年8月には、中災防による“事業場内メンタルヘルス推進担当者研修”を安全衛生委員会のメンバーを中心に6名受講しましたし、2014年2月には、ラインによるケアの研修を課長職以上の管理監督者が受講しました。その後、新任リーダー研修時などの際に、メンタルヘルス研修を実施しています。」
「研修以外の取り組みとしては、メンタルヘルスに関する資料をインターネットや本等で調べて入手し、それらを安全衛生委員会で発表・検討しました。また、情報をまとめたものは、ほぼ毎月、グループウェアにて社員に配信しました。このようにして、管理監督者だけではなく、できるだけ末端の社員にまで行き届くようにしました。2014年度でメンタルヘルスに関する初期の啓発活動は一巡したかなと思っています。」
「2016年度はメンタルヘルスの導入を軌道に乗せる為に、中災防で小規模事業場の労働安全衛生対策に関して無料で3回までサポートしてくれる事業があり、それを利用しました。1回目は事業場の安全衛生巡視を一緒にしてもらい、職場環境についていろいろと指摘してもらいました。2回目はその分析結果に基づいてどう改善したらいいのか、といったアドバイスをもらいました。このように専門家に来てもらい、アドバイスをもらうことで、私の方でもメンタルヘルス対策に力を入れなければ、と背中を押してもらった感じです。もう1回できるので、今後のメンタルヘルス対策の運用について相談しようと考えています。ただ、3回目の相談の前に、事前に準備を重ね効果的な相談にしようと思っています。」
小規模事業場のように、社内の資源のみでメンタルヘルス対策を準備することが難しい場合は、中央労働災害防止協会などの外部の公的機関の専門家による支援を活用することも一手である。
ラインケア研修により管理監督者が日々の仕事の中で相談対応しやすい環境をつくる
続いて、社内外の相談窓口についてお話を伺った。
「社員には、まずは、上司である管理監督者に相談するように薦めています。ラインケア研修を経て管理監督者も社員に声掛けを日々実施し、状況把握をすることで、いつもと違う部下に気づけるようになったのではないかと思います。ただ、1回の研修だけでは、すぐに身につく訳ではないので、費用が許せば定期的に実施した方が良いと思います。管理監督者が相談対応した後、メンタルヘルス関連の情報は、私に集約する仕組みにしています。どの部門も年に2回、管理監督者と個人面談をして、話をする場を必ず設けています。そこで、メンタルヘルス関連の問題があれば、そういった部分のフォローもするようにしています。」
「ただ、自分の上司がストレス要因であれば、相談しにくいと思います。そうした時のために、社内の相談窓口をいくつか用意してあります。女性は女性にしか相談できないこともあると思うので、女性事務員にも社内相談窓口になってもらっています。ただ、相談する側も相談前には、『決心し、これから相談に行くぞ』みたいな感じでいろいろと勇気がいると思います。社内相談窓口は、あまり形式ばった物にするのではなく、自然に仕事の流れの中で一緒に相談できれば一番良いのではないかと考えています。」
「その他、事業場外資源によるケアの一環としては、2015年1月に生命保険会社の“健康サポートデスク”に加入し、外部の相談窓口として案内しています。日々の健康相談からメンタルヘルス相談まで幅広く、対面・電話・WEBで相談対応していただいています。社外窓口ですので、社員のプライバシーは守られており、誰が相談したかは、会社の者は誰も分からない仕組みになっています。社員に案内すると、プライバシーが守られているから、まず電話してみたいと言う者もいました。」
「また、常駐の産業医はいませんが、本社・大阪・名古屋・横浜・仙台の5拠点それぞれで医療機関と提携契約しています。健康診断時の関わりがメインですが、心や身体に不調があって、仕事に影響が出そうな時の“駆け込み寺”みたいな感じで産業医の相談窓口をお願いしています。」
安全衛生委員会を始めとする会社全体の取り組みについてお話を伺った。
「本社と亀浜工場は距離が近いので、本社に委員を集めて、“労働安全衛生委員会”を開催しています。大阪や横浜、東北等は、テレビ会議を使用しています。毎月、交通事故の有無、労災の有無の報告の他、各部門でのリスクアセスメントの取り組み事例を発表しています。その一環でメンタルヘルスの件に関しても審議しています。」
「また、毎年4月に全社員を全国から一堂に集めて全員参加による“全社会議”を実施しています。経営方針や労働安全衛生委員会活動の方針等を発表しており、その中で2014年4月にメンタルヘルスに関する社内規程を策定し、職場復帰支援に関する事項なども就業規則に盛り込んだことなどを、メンタルヘルスの活動方針として発表しました。その後も、『メンタルヘルス活動は継続して行いますよ』や『メンタルヘルス不調者が今後も発生しないようにしましょう』といったことなどを、毎年発表しています。」
まずは、上司である管理監督者に相談する。それが難しい場合は、社内や社外の相談窓口を利用する。そして、医師への相談窓口も準備する。4つのケアの仕組みに沿った、さまざまな相談窓口があり、それらを「労働安全衛生委員会」や「全社会議」などで周知している。
年2回のストレスに関する調査で自分自身の変化を知る
最後に、ストレスに関する調査への取り組みについてお話を伺った。
「最近では半年に1回のペースで、中央労働災害防止協会の “ウェルネスチェック”を実施しています。前回の結果と比較できるのが良いですね。ストレスに関する調査結果は、チェックをした瞬間の状態にすぎません。1年間ずっとその状態が続いている訳ではないので、年2回くらいは実施しようと考えた上で、実施しています。今年は夏に実施し、次回は冬に実施しようと考えており、社員にとっても、半年という期間と季節の違いとで、自分の中で何がどのくらい変化があったか等が分かりやすいと思います。」
「現在は労働安全衛生委員会事務局の私が、社員みんなに呼びかけて、実施してもらっています。質問用紙が中災防からまとめて送付されてくるので、それを社員全員に配布します。遠方の事業場には郵送しています。その際、その事業場の安全衛生委員を通して配布することとし、『今週中に受けてください』と伝えるようにしています。回答後は、中災防に返送し、集計の上、結果が送られてきます。」
「メンタルヘルス不調者は、近年ずっと発生していません。『不調者が出た後に、困った、困ったと頭を悩ますよりは、むしろ、発生しないように、予防に力を入れ、事前に注意をしていきたい』と、社長をはじめ経営陣は言っています。」
「私が知る限りは、そんなに職場風土が悪い企業ではないと思います。パワハラが酷いとか、そういったこともありません。怒りを感じることは仕事上ありますが、“叱る”という言い方が正しいですね。毎月、売り上げなどの目標が設定されているので、営業はメンタル的に特に厳しいと思います。また、開発部門や製造部門は、製品のイノベーションと共に、業務内容も製品も変化しています。そのため、組織や担当業務もチェンジ中です。仕事が変わるとストレスを感じる方も多いと思います。前向きに考える人はそうそういないのではないでしょうか。ただ、私自身は他の仕事にも興味があるのでいろいろとまた勉強できると、前向きにとらえています。」
セルフチェックとして年2回ストレスに関する調査をすることで半年ごとの変化が分かるだけではなく、夏と冬など季節による環境や業務内容における変化も知ることができる。小規模事業場のメンタルヘルス対策は、一次予防などまずできるところから始めることが大事である。
【ポイント】
- ①小規模の事業場であっても委員を集めて、定期的に職場のメンタルヘルス対策について話し合う場をつくる。
- ②事業場外資源をうまく活用することにより、早期にメンタルヘルス対策を開始できた。
- ③管理監督者対象のラインケア研修を実施し、職場で部下上司に相談しやすい環境をつくる。
- ④年2回ストレスに関する調査を実施するなど、小規模事業者ならではの小回りのきいた活動も可能である。
【取材協力】長府工産株式会社
(2016年11月掲載)
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