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住友ベークライト株式会社
(静岡県藤枝市)
住友ベークライト株式会社は、高機能プラスチックや、医療機器製品、半導体関連材料などを研究開発、製造している化学品メーカーである。東京の本社を中心に、静岡、尼崎、鹿沼、宇都宮などに工場を配置している。静岡工場は1962年に竣工し、主にメラミン樹脂化粧板などの高機能プラスチック製品の製造を行っている。
従業員数は、単独で2,121名、連結で6,747名(2015年3月末現在)。その内、静岡工場は最も従業員数が多く、社員約730名、契約社員・パートが約30名である(2015年8月現在)。
今回は、静岡工場業務部課長の上田桂司さん、業務部保健師の須藤里美さんの2人に話を伺った。
それぞれの事業所に産業保健スタッフを配置し、各事業所の自主性を重んじた産業保健体制をつくっている
最初に、職場のメンタルヘルス対策における社内体制と教育研修について伺った。
須藤さん
「静岡事業所における産業保健スタッフは、月に2回の嘱託産業医が1名、常勤の保健師が私1名、非常勤の看護師1名です。静岡事業所以外においても、以前から各事業所にて産業医を選任し、ほとんどの事業所で、産業保健スタッフとして看護職がいて、それぞれの事業所の中で対応していました。2013年4月に、東京の本社が中心となり、”職場復帰支援プログラム”を全社統一にまとめてから、会社全体でメンタルヘルスの体制が整備されてきました。」
「看護職として、日常的に職員と相談対応する中で、仕事の量を軽減した方が良い場合や、主治医と連絡を取った方が良い場合は、産業医面談につなげることにしています。また、職場復帰前には産業医が休業者と面談し、職場復帰が可能な体調か確認します。産業医の意見に基づき、さらに主治医の見解が必要な場合は、私たち看護職が本人の診察に同行し、主治医の意見を聴くこともあります。同行できない場合は産業医に書面を作成していただき、本人から主治医に渡して、意見をもらっています。職場復帰後は、産業医によるフォロー面談も行っています。」
上田さん
「2014年からは、本社で統括産業医を選任しました。統括産業医は、各事業所の産業医や看護職のスーパーバイザーとして、個別にアドバイスや全社的な方針を決める役割を担っています。統括産業医が上部からコントロールするというのではなく、各事業所の自主性を重んじた産業保健体制としています。大変経験豊富な統括産業医を選任したことで、難しい案件を抱えた時や困った時など産業保健スタッフから相談できる安心感から、大変心強いです。」
須藤さん
「管理監督者対象のメンタルヘルス研修は、集合研修として職位ごとに開催しています。対象者はその年によって若干異なります。2014年は各製造部の長である職長以上の管理監督者が対象、2015年は職長より下のリーダーや班長を対象としました。研修の中では、『不調な方がいたらお知らせください』と伝えています。各製造部の管理監督者から『最近休みがちなんだよ』という連絡をもらうこともあります。そういう場合は、その後、不調者本人から直接話を聞くことが多いです。」
上田さん
「その他、全職員対象としては、本社が策定した全事業所共通のEラーニング研修を実施しています。その中にはメンタルヘルス関連のセルフケア研修も含まれています。職員は職場のパソコンで受講することができます。」
会社全体として必要な施策や「職場復帰支援プログラム」の策定など全社統一となるものは本社が行っているが、実施はそれぞれの事業所が自主的に運用している。
職場復帰後は産業保健スタッフが本人面談だけでなく、現場の管理監督者にも面談を行い、周囲のサポート体制や周囲への負担の程度を確認している
次に、職場復帰支援の取り組みについて話を伺った。
須藤さん
「休業開始時には診断書を提出することになっています。休業期間中は主に看護職が休業者をフォローしています。そろそろ職場復帰可能となれば主治医との受診に看護職が同行して、当社の制度を説明した上で必要な配慮等を聞きます。職場の上司や産業医とは必要な配慮について予め相談し、調整しておきます。その後、当社規定の書式に基づく復職診断書を提出してもらい産業医面談での意見を参考に、会社の判断を経て職場復帰というのが一連の流れです。以前は、『明日から復職します』という休業者からの突然の要望も出たことがありましたが、職場復帰支援プログラムをはじめてからなくなりましたね。」
「基本的には看護職が月1回休業者へ体調確認の連絡をしています。身体の病気や怪我の場合は上長が窓口になることも多いのですが、メンタルヘルス不調の場合は看護職が窓口になることが大半です。」
「休業開始時は、本人がじっくり説明を聞く余裕がないと思いますし、その段階で職場復帰を想定して考えることは難しいと思います。休業してしばらく経って、体調が落ち着き、復帰できそうだと感じ取れた段階で、看護職から職場復帰支援プログラムについて本人に説明することが多いですね。」
「職場復帰にあたり、”職場復帰支援計画”を個別に作成します。また、職場復帰後は時間を短縮した慣らし勤務を原則2週間までできることにしています。その後、交代勤務をしばらく外す等の配慮をすることもあります。”職場復帰支援計画”にて、職場復帰後6ヶ月間の支援計画を立ててフォローしていきますが、だいたい3ヶ月程で通常勤務可能となり、フォロー終了することが多いです。」
「復帰者への面談だけでなく、職場の管理監督者へも連絡をとるようにしています。管理監督者にはこまめに様子を見ていただくようにお願いすると共に、他の職員の負担についても確認しています。どうしても復帰直後は仕事があまりはかどらず、周囲に負担がかかることが多いので、負担状況の確認と周囲へのサポートを現場の管理監督者にお願いしています。」
「復帰後は月1回産業医とフォロー面談を行っています。日々のちょっとした心配事については、産業医面談とは別に看護職が本人に様子を聞き、必要であれば本人と同行受診し、主治医に報告する場合もあります。」
職場復帰の際や復帰後のケアにおいて、必要に応じ、看護職が本人と同行受診することで、本人の状況を把握すると共に、会社の制度を説明し、会社側としての必要な配慮の確認をすることができる。また、職場復帰後の支援は、復帰者本人への面談のみならず、現場の管理監督者への面談により、周囲のサポート体制や周囲への負担の程度を確認し、必要なアドバイスをすることで、職場全体の安心感にもつながっている。
職場の環境改善活動は、良い取り組み事例をまず知った上で、他の部門にも広げていく
最後に、独自に行っている職場環境改善活動についても伺った。
須藤さん
「当社のメンタルヘルス研修をお願いしている社外の産業カウンセラーに、今年、管理監督者に対する”体験カウンセリング”を実施してもらいました。その中で、現場と上長の間に壁があり、両者のコミュニケーションがうまく取れていないのではないかという現状が分かってきました。そこで、その点を解消していくにあたり、それぞれの現場では実際に、『職員がどのように感じて、現場はどうなっているのか』をまずきちんと把握することが必要だとなりました。その産業カウンセラーから、”こころの耳”のコンテンツである”職場の快適度チェック“の紹介があり、実施しました。」
上田さん
「事業所全体で実施するにあたり、実施の目的を社内にどう知らせるかについては、”メンタルヘルス対策”という言葉を全面に押し出すというのは、今までの当社の下地を考えると唐突かと思いました。そこで、国が推奨する10月の”全国労働衛生週間”での取り組みの一貫として実施すれば、職員も違和感がないかと思い、時期を10月にあわせて実施することにしました。」
「その後、11月には結果を集計し、分析まで完了しました。”職場の快適度チェック”では個人結果は出ませんが、部門ごとの集団結果が出力されます。その結果シートは各部門の管理社員ならびに一般社員の代表に対して事務局から結果のフィードバックを行い、それぞれの部門で改善目標を12月までに立ててもらうことを伝えました。面談を行う順番は、最初に良い結果が出た部門の方々と面談しています。そこで得た良い取り組み事例を、他の現場にも紹介し、改善に役立ててくれるといいなと思っています。」
須藤さん
「分析結果から思うことは、実施人数が少ないと1人の回答に偏ったグラフになりがちなので、ある程度の実施人数が必要ということです。当事業所では、大きく”研究部門”、”製造部門”、”間接部門”の3部門に分かれています。私達社内の産業保健スタッフの読み取りだけで職場にフィードバックして良いのかという不安もありましたので、3つの部門それぞれの結果を社外の産業カウンセラーにも見ていただき、分析コメントをまとめていただきました。その分析コメントを含め、事業所全体としては、衛生委員会で報告しています。数か月後、または1年後に再度実施して比較していく予定です。」
上田さん
「衛生委員会の事務局では、次回の実施やテーマ等を検討しています。そこまでやらないと、結果を見て物珍しさで終わってしまいかねません。集団分析と職場環境改善活動を何度も繰り返して社内に定着させていきたいと考えています。」
職場環境改善活動では、「こころの耳」の「職場の快適度チェック」を使って定量的に評価することで、事業所全体の活動に落とし込んでいくことができる。悪い職場を問題視しがちだが、この会社のように、良い職場から得られた知見を他の職場にも活かすことが望ましい。いずれも、一度で終わらせるのではなく、繰り返し行うことで社内に定着していくものと思われる。
●「こころの耳」の「職場の快適度チェック」
http://kokoro.mhlw.go.jp/comfort-check/
【ポイント】
- ①会社全体として必要な施策や「職場復帰支援プログラム」の策定などについては、全社統一となるものを本社が行っているが、実施はそれぞれの事業所が自主的に運用している。
- ②職場復帰支援では、産業保健スタッフが本人面談だけでなく、現場の管理監督者にも面談を行い、周囲のサポート体制や周囲への負担の程度を確認している。
- ③職場環境改善活動では、「こころの耳」の「職場の快適度チェック」などを活用し、良い取り組み事例を参考にしながら、職場の皆で話し合って進めていく。
【取材協力】住友ベークライト株式会社
(2016年2月掲載)
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