1 概要
年齢・性別:40歳代、男性
職種・職位:スーパーマーケット(正社員)、売場責任者
診断名:抑うつ状態、社会不安障害
主訴:下痢と血便
2 症状・勤務状況の経過
大学卒業後にスーパーマーケットに入社し、8年目に売場責任者となりましたが、パート社員にうまく仕事を割り振ることができず、自分で作業をしてしまいがちでした。子供時代から緊張しやすく、人前で話をすることは苦手だったとのことです。
大きな店舗に異動になり、自分一人が頑張るというやり方では、売場全体を整えることができないという状況に立ち至り、以後腹痛や下痢が続き、毎日疲れ切ってしまうようになりました。下痢がひどい時には時どき血便が出るようになり、近医(一般内科)を受診して、「潰瘍性大腸炎」との診断書を書いてもらって休職することになりました。
休んでしばらくすると下痢はよくなりました。しかし、復職すると不安感や緊張感が出てきたそうです。仕事のことを考えると早朝から目覚めてしまいがちで、しばらくすると下痢も出てくるという繰り返しで、その度に近医からの「潰瘍性大腸炎」との診断書を提出して長期欠勤していました。欠勤中は気落ちしてしまい、とかく家にひきこもりがちだったとのことです。
X年、5回目の復職直後に再び調子が悪くなり、健康支援センターに相談がありました。
3 対 処
本人の主訴は下痢と血便という腹部症状でしたが、背景にストレスなどの問題がある可能性が高いと判断し、看護職が本人と連絡を取りました。本人は当初、「主治医に診てもらっているから」と健康支援センターへの来室に消極的でしたが、「スムーズに復職できるようサポートしたい」と半ば強引に説得し、来てもらうことにしました。
産業医面談では、ⅰ.「潰瘍性大腸炎」という診断書が出ているものの、消化器専門医を受診したことがないこと、ⅱ.面談時にたいへん緊張が強く、不安焦燥感・早朝覚醒・倦怠感・抑うつ気分などを認めること、が分かりました。
まずは消化器専門医受診を勧め、腹部症状の精密検査・治療を軌道に乗せることを目指すとともに、「潰瘍性大腸炎」であるならば、難病申請などの手続きもできることを案内しました。同時に精神科専門医にも紹介し、消化器専門医と連携して治療してもらうことにしました。
4 その後の経過
精神科専門医での治療が始まると、徐々に抑うつ気分が改善してきました。また、精神症状がなくなるにつれて下痢もなくなり、消化器専門医により潰瘍性大腸炎は否定されました。しかし、「そろそろ復職しなくては」と思う頃になると、ひどい頭痛に悩まされたり、膝痛で歩けなくなったりとあちこちに身体症状が出てきました。それについて健康支援センターに報告する本人の声はいつも緊張し、上ずっていました。
治療の過程で、精神科主治医からは、「問題の本質は過度の不安感や緊張感であり、人付き合いがうまくいかなかったり、復職に失敗したりという経験が、自信のなさや抑うつ気分につながっている」という診立てについて説明がなされたようです。また、下痢をはじめとする身体症状も、強い不安が身体化されたものと考えられました。
多彩な症状について本人が納得し、治療が進んで不安感や緊張感がコントロールできるようになるにつれて、電話の声も落ち着くようになりました。復職に際しては、健康支援センターの看護職が復職先に連絡し、裏方作業で自信をつけながら、職場の人間関係に慣れることができるよう、配慮をお願いしました。現在は精神科受診を続けながら元気に働いています。
5 考察と課題
身体症状による度重なる休職が、メンタル不全によるものとは分からなかった社員について、産業医・看護職が介入することによって、スムーズに復職できたケースです。ただし、過去の休職の段階から産業医とつながることができていれば、もっと早期に復職できたかもしれません。
メンタル不全に限らず、病気での休職・復職は社員にとって大きなハードルになります。休職・復職を繰り返すような場合には、早めに産業保健職への相談につながるような体制づくりが必要だと考えます。
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