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長時間労働者の面接指導から精神科受診につながった事例

1 概要

Aさん(35歳、既婚)は、ネットワークに関わるシステムエンジニア(S.E.)として勤務しています。現在、重要顧客のプロジェクトでシステム開発のプロジェクト・リーダーとして、中心的な役割を担っています。このプロジェクトは、いくつもの開発段階に分かれており、今後も2年間程度は開発が続く予定です。Aさんの担当は、2か月後に本番稼動を控え、現在仕事量はピークに達しています。この時期に、顧客の要望によりセキュリティーの認証を取得するため、当社でもセキュリティー担当を決め、ドキュメントの整備やプロジェクトメンバーの教育などを行わなければならなくなりました。部長よりAさんがセキュリティー担当となるように指示されましたが、人の増員は予算上できないとのことでした。

Aさんは一人で担当することができる仕事量ではないと感じていましたが、プロジェクトのメンバーは誰もが極めて忙しい状態が続いており、Aさんとしてはこの新たな業務の分担を、プロジェクトメンバーに依頼することはできませんでした。倒れるまでは一人でこの業務を進めなければならないと感じ、最近では3日に1回は常駐先で泊まり込む状態に陥っています。

このような時期に、長時間残業者の産業医面接がありました。面接の中で、Aさんは産業医に対して業務状況が2か月後に本番稼動のため現在業務量がピークであること、セキュリティー関連の業務を一人で担当していること、今後も2年間は現在の状況が続くことを述べました。さらに家庭では奥様が3か月前より病気療養のため入院していましたが、前月やっと退院できた状態で、奥様の母親に家族の面倒をみてもらっているとのことでした。家族思いのAさんは、奥様に対して本当に申し訳ないと感じながらも、「この業務が一段落するまでは頑張るしかない」と言います。しかし、「ここ1週間は頑張らなければならないけれども、意欲がわかず、自分には仕事を全部遂行できないと感じられ、気分的に落ち込んでしまう」と涙ながらに言います。

面接した産業医は、治療が必要なうつ病であると判断し、Aさんに精神科受診が必要であることを説明しました。しかし、Aさんは現在の状況はとてもそのようなことをする余裕はない、と頑なに拒否をします。また、上司に対して業務の軽減を依頼することも拒否します。そのため、希死念慮がないことを確認し、翌週再度産業医面接をすることを約束しました。

翌週Aさんと面接した際、Aさんは「意欲がわかず、焦る気持ちだけが強くなり、益々気分が落ち込んだ」と言い、精神科受診と上司への報告を承諾しました。上司に「Aさんは治療が必要な状態であり、精神科受診するための紹介状を発行した」、「今後治療休養が必要となると思われる」ことを伝えました。上司もすぐに産業医のところに来られ、Aさんが十分に休養を取ることができる環境を作ることを約束してくれました。

Aさんは、精神科を受診し、薬物治療が開始されるとともに「うつ病:当分の間休養を要する」との診断書が提出されました。3か月間の休養後、「復職可」の診断書が提出されました。職場復帰のための産業医との面接では、状態はすっかり回復していました。本人、上司、人事労務、産業医による復職支援会議で復職可と判断され、まずは残業・公休出勤禁止の就業制限下ではありますが、職場復帰することとなりました。

2 解説

本事例は、真面目で几帳面かつ責任感が強く、他人に気を遣い、頼まれると嫌と言えないという、典型的なメランコリー親和型うつ病のタイプです。初回の産業医面接では、治療・休養の必要性を根気強く説得しても、担当した仕事を投げ出すことができず同意しませんでした。このタイプでは、しばしば仕事を抜けることができないことを理由に治療を拒否することがあります。本事例でも今後さらに状態が悪化することが予想されますが、治療を拒否しました。希死念慮がないことが確認できたので、数日後に再度面接することにしました。