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療養環境を変更することで改善した社宅入居の労働者の事例

1 概 要

年齢・性別:35歳、男性
業種:石油化学工場
職務:現場装置の点検オペレーター(入社17年目)
家族構成:妻、長女(5か月)の3人暮らし(社宅住まい)

2 背 景

某石油化学工場では、通常、原油から油を精製し、主にガソリン・軽油・灯油・重油などの石油製品を製造しています。現在、法の規定により、石油精製プラントについては2年に1度、大規模な定期修理工事を行うことが義務づけられており、同工場でも20XX年5月に約1か月間、プラントを停止してパイプ内や、熱処理施設、触媒処理施設などの定期修理工事が実施されました。 この期間は同工場の正規従業員だけでなく、定期修理専門の協力会社従業員約2,000人も構内に入構し、1か月の間ほぼ24時間体制で定期修理が行われます。

また、同工場では加熱工程が含まれており、熱交換の効率向上のため12時間を1シフトとする交替勤務が導入されています。今回問題となったA氏も、普段は現場の装置を点検するオペレーターです。

通常の業務時に現場オペレーターとして勤務しているA氏は、将来の管理職を嘱望され、キャリアデベロップメントの一環として、定期工事作業前後の約4か月間を特別職という扱いで、交替勤務から日勤業務(定期修理に関連する準備・対応専門の職位)に異動しました。

この定期修理は1回あたり莫大な費用がかかるため、なるべく短期間に効率よく、安全に補修・点検作業を実施することが求められるため、その準備を専属で担当する日勤業務者には、過重な労働負荷とストレスがかかることが工場内でも知られています。今回のケースは5月の定期修理工事が終了したころから、症状が出現し始めました。

3 症状と経過

A氏は20XX年5月の定期修理工事終了直後から、脱力感・無力感・業務効率の低下・睡眠時の中途覚醒・出社困難感が出現し始め、7月末に医務室を訪れた際には、表情も無く、うつむきかげんで、訪問の動機も直属上司の命令による半強制的なものでした。本人も、思考力が低下していて、業務効率も以前に比べて格段に落ちていることだけは認識していました。

4 課 題

社内医務室受診時は、思考力および業務効率も極端に低下しており、食欲低下・入眠困難・深夜の途中覚醒・睡眠時間減少などの諸症状が出現していました。また本人には、以下の状況・状態が確認されました。

a 病識がなく、心療内科などの専門医療機関への受診を頑なに拒否していた

b 元来、高専卒のオペレーターとしての能力が非常に高く評価されており、そのことを本人および周囲が広く認知していた

c 休職となる場合、社宅で近所付き合いが密なため、工場関係者との接触確率が高く、療養に専念しにくい環境である

d 自分の実家(地元)が遠く、親に心配させないため、病気に関する連絡や相談を拒否していた

e 妻の実家が隣町にあるものの、なかなか言い出しづらかった

f 妻の実妹の婿が同じ工場の隣の職場に勤務しており、病気による休暇となった場合の情報が漏れる可能性があった

5 対 処

(1)病院受診の説得と近医への紹介
産業医への訪問時に、最も懸念された病識について、疾病のメカニズムや疫学情報(職場で比較的高頻度に見られる疾病であり、速やかな治療導入により予後も良好な場合が多いこと等)を伝え、本人が理解のもと、近医のクリニックを受診することに同意を得られました。

(2)休職期間中、療養に専念できるようにするための支援
休職となった場合に、自宅での療養が中心となります。しかし、社宅であるため「周囲の目が気になり、ゆっくりと休むことが出来ない」といった本人の意見を尊重し、実家(本人)の両親に、病状および療養の必要性について産業医が連絡をとりました。さらに、多少の経済的な負担はあるものの、家族全員で実家に戻り、当面、療養することとなりました。また、実家滞在中に受診するクリニック主治医から、復職することとなった段階で社宅近くのクリニックに再紹介してもらうこととしました。
また業務についても、本人が療養に専念できるよう上司のほうで担当者を増員し、業務遂行への役割がなるべく軽減されるような体制に変更しました。

6 結果と考察

実家に戻っての療養および加療(抗うつ薬)により、症状は速やかに改善しました。今回が初めての発症であったことに加えて、産業医の関与により本人が治療に前向きになったこと、家族の理解と治療に専念できる環境調整(実家での静養、主治医との連携、職場の配慮)が速やかに行えたことが、症状軽快の大きな要因になったと思われます。実際には約2か月間、実家での療養・加療の後、1か月社宅での生活を経て、現場オペレーターの日勤作業に復帰し、復職から半年後には交替勤務に戻ることができました。