マリオン 20歳 男性 学生 未婚
男らしく・・・の呪縛
ボクは幼稚園時代、いじめられっ子でした。男の子に背中を叩かれるのは日常茶飯事、それどころか、女の子にもいじめられました。よく幼稚園から泣いて帰ってきて、母に「男の子はもっと強くなりなさい」と叱られてました。父は、そんなボクを見かねて、小学校1年の時、柔道を習わせました。ひょろひょろのボクは、柔道の先生にも「女の子みたいだな」と言われ、あまり期待はされなかったです。でも、そのお陰でボクはそんなに激しい稽古はしないですみ、マイペースで柔道を続けられました。小学校では仕草が女っぽいから「おかま」と言われていましたが、そんなに気にしませんでした。休み時間は教室で女の子と折り紙をするおとなしい子どもでした。
5年生になったある日、ちょっと困った出来事が起こりました。同じ柔道を習っている仲間のK君のことが、なんか気になってしまったのです。初恋でした。男が男を好きになるなんてと自分でも戸惑っていました。でも、K君に会いたくて、今までよりも熱心に稽古をし、自分をアピールしました。心は女の子みたいにドキドキしているのに、見た目はどんどん男っぽくなっていく自分。両親は喜んでいたけど、片思いの辛さと、本当の自分でない自分を演じている辛さで、心は張り裂けるようでした。本当は女の子みたいに可愛い服を着てK君とデートしたいのに、柔道着姿でないと会えない悲しさ・・・。誰にも悩みを言えず、毎日、家で落ちこんでました。
死んだら生まれ変われる?
ボクは「体」の性別は男性でありながら、柔道仲間のK君に初恋をし、叶わぬ思いに苦しんでいました。日常生活でもK君に合わせて、テレビ番組も格闘技とか野球とか、男っぽいのを見て、本当は見たかった歌番組やドラマをあきらめたりしました。しかし、中学になってから、何とK君に彼女ができてしまったのです。バレンタインデーにチョコをもらったK君は、別に好きじゃなかったはずのその女子に、アッサリと交際OKサインを出しました。ボクが2年以上も片思いをしていた相手が、体の性別が「女」だというだけで好きでもない女子と付き合うなんて・・・。ボクは、これからどうすればいいのか、本当に悩みました。男らしく生きることに意味なんてないけど今さら、本当の自分を出せるはずもない。
悩んだボクは、自分の生き方を変えるには死ぬしかないんじゃないかと、当時なぜか思ってしまいました。「死んで生まれ変わる」ことに賭けました。ボクは両親に、「本当の自分に生まれ変わりたい」と遺書を書きました。K君にも、本当の思いを書いた手紙を郵送しました。そして、風邪薬を大量に飲んで、家の風呂場で思い切って手首を切りました。父も母も帰宅が遅い家だったので、これで死ねるはずだった・・・。が、いつもより早く帰宅した母に発見され、救急車で運ばれてしまいました。病院で目を覚ましたとき、やっぱりボクは男のままでした。「生まれ変わりに失敗したんだな」と苦い思いでいっぱいでした。
ボクの味方と開き直り
自殺未遂後、ボクは入院した病院の精神科でカウンセリングを受けることになりました。両親がボクの遺書を医師に見せたからです。「今度はもっと確実な方法で死んでやる」と思っていたボクは、カウンセラーに会うのが、すごく嫌でした。ところが実際に会ってみると、「死ぬな」とか「自殺はいけない」とか言わず、特に否定も肯定もされませんでした。カウンセリング後、次回の約束をしているボクに自分でもビックリしました。死のうとしているのに、次回の約束をするなんて、ボクは本当は生きたいのかなあ?と思いました。しばらくして、医師はボクが「性同一性障害」であると告げました。他にもそういう人がいること、そして、幸せに自分の望むままの姿で暮らしている人もたくさんいることも教えてくれました。両親は最初、医師の説明に動揺していましたが、最後は納得してくれました。自殺未遂後、ボクはK君に顔を合わせるのが嫌で、不登校になり、適応指導教室という施設に通学しました。そこでは、無理に人に合わせず、自分の好きなことを頑張ろうと決めました。気持ちがラクになりました。現在、ボクは専門学校で美容師を目指しています。恋人(男)もできました。あの時、医師やカウンセラーがボクの味方になってくれたから、開き直ることができた気がします。といっても、世間ではまだまだ偏見も多く、ボクの生き方を認めてくれる人は少ないと思います。これから大変なことはたくさんあるかもしれないけど、自分の気持ちを大切にして生きていこうと思います。
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