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No.3:自殺の予兆への介入

 世界保健機関(WHO)「Preventing Suicide: a global imperative」(2014)では、自殺で亡くなった人のうち精神障害のある人は90%であり、自殺関連行動と最も関連のある精神障害はうつ病とアルコール使用障害であるとしています。また、自殺の生涯リスクは気分障害4%、アルコール依存症7%、双極性障害8%、統合失調症5%と推定され、併存疾患があると自殺関連行動の危険は増大し、精神障害が2つ以上ある人は自殺の危険が有意に高いと記されています。

 さらに「自殺の危機にある人は死ぬ決意をしている」と言う俗説を否定し、「自殺の危機にある人は、生死に関して両価的であることが多い。人によっては、生き延びたかったとしても、例えば衝動的に農薬を飲んで数日後に亡くなることもあるかもしれない。適切なタイミングで情緒的支援にアクセスすることで、自殺は予防できる可能性がある。」、「ほとんどの自殺は予告なく突然起こる」と言う俗説を否定し、「多くの自殺には言葉か行動による事前の警告サインが先行する。もちろんそのようなサインがないままに起こる自殺もある。しかし警告サインが何であるかを理解し、用心することは重要である。」としています。

 以上のことから、職域においては産業保健スタッフ等がうつ病やアルコール依存症などの精神疾患の早期発見とその後の適切な治療の継続を確認することが自殺予防にとって重要です。また、以下のような自殺の警告サインを理解することも重要です。

 そして、そのようなサインを感じ取ったら「TALKの原則」で対応することが必要です。
TALKとは、Tell、Ask、Listen、Keep safeの頭文字をとったものです。

Tell:あなたの様子をみていると、とても心配になるという点をはっきりと言葉に出して伝える。
Ask:自殺のことをうすうす感じているならば、はっきりとその点について尋ねる。誠実な態度で対応するなら、それを話題にしても危険ではなく、むしろ自殺予防の第一歩になる。
Listen:傾聴する。徹底的に聞き役に回り、相手の絶望的な気持ちを真剣に聴く。
Keep safe:少しでも危険を感じたならば、安全を確保する。その人を決してひとりにしないで、医療機関につなげる。

自殺の警告サイン

  • 感情が不安定になる。突然、涙ぐんだり、落ち着かなくなり、不機嫌で、怒りやイライラを爆発させる。
  • これまでの抑うつ的な態度とは打って変わって、不自然なほど明るく振る舞う。
  • 性格が急に変わったように見える。
  • 周囲から差し伸べられた救いの手を拒絶するような態度に出る。
  • 投げやりな態度が目立つ。
  • 身なりに構わなくなる。
  • これまでに関心のあったことに対して興味を失う。
  • 仕事の業績が急に落ちる。職場を休みがちになる。
  • 注意が集中できなくなる。
  • 交際が減り、引きこもりがちになる。
  • 激しい口論やけんかをする。
  • 過度に危険な行為に及ぶ。(例:重大な事故につながるような行動を繰り返す。)
  • 極端に食欲がなくなり、体重が減少する。
  • 不眠がちになる。
  • 様々な身体的な不調を訴える。
  • 突然の家出、放浪、失そうを認める。
  • 周囲からのサポートを失う。強いきずなのあった人から見捨てられる。近親者や知人の死亡を経験する。
  • 多量の飲酒や薬物を乱用する。
  • 大切にしていたものを整理したり、誰かにあげてしまう。
  • 死にとらわれる。自殺についての文章や詩を書いたり、絵を描いたりする。
  • 自殺をほのめかす。(例:「知っている人がいない所に行きたい」、「夜眠ったら、もう二度と目が覚めなければいい」などと言う。長いこと会っていなかった知人に会いに行く。)
  • 自殺についてはっきりと話す。
  • 遺書を用意する。
  • 自殺の計画を立てる。
  • 自殺の手段を用意する。
  • 自殺する予定の場所を下見に行く。
  • 自傷行為に及ぶ。

執筆者:日立健康管理センタ 林 剛司

【出典】平成26年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック等を行う医師や保健師等に対する研修準備事業」