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No.2 いわゆる現代型のうつ病とその対策

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No.2:いわゆる現代型のうつ病とその対策

 このごろ聞かれる「現代型」あるいは「新型」のうつ病という名称はマスコミ用語です。症状が昔の病気とはいささか異なるうつ病という程度の意味です。この20年ほどの間に気分障害においては軽症化や非定型化のような病態の変化が、その本態であると考えられます。

 現代風な気分障害の診断・治療において、第一の課題になっているのは、多少活発だという程度の軽躁状態です。軽躁状態がおさまった後に抑うつ状態が出現することが多く、一見抑うつ状態を繰り返している反復性うつ病のようにみえます。双極Ⅱ型障害といいますが、主治医は本人すら気づいていない軽躁状態を見抜かなければ診断できませんが、診察だけではなかなかわからないのです。治療には気分安定薬が必要とされますが、抗うつ薬では気分の波は収まらず、より大きくなることもしばしばあります。

 第二の課題は、不安症状が強いうつ病や気分障害です。発汗、動悸、息苦しさやパニック発作などの身体症状を前面に出して発症します。内科医などをまず受診しますが、検査所見でも異常がみつかりません。その後、抑うつ症状が現れます。このタイプは「職場結合性気分障害」といいますが、軽躁状態を伴う場合も多く、真面目な会社人間タイプの人で業務的負荷が高まり、仕事がうまくいかず評価が低くなると、このような経過をたどることが多いといわれています。

 第三の課題は、他罰性が強いことです。「ディスチミア親和型うつ病」や「未熟型うつ病」がこれにあたります。病気になったのは、会社や上司のせいだと主張し、裁判をおこしていることもあります。未熟な人格が背景にあり、社内でも困った存在になりがちです。

 第四の課題は、ごく軽度な発達障害の要素をもち、適応障害を起こして、抑うつ状態を呈するケースです。また、就労以前の児童青年期に発症した気分障害や不安障害が、就労とともに再燃し本格発症することにより「抑うつ状態」を呈する症例もあります。両者は合併することもあります。発達障害の場合は本人もよく理解していない中で、職場においてはしばしば重大なトラブル事例となっています。就職後、比較的短期間のうちに職場での対人関係を理由として、「抑うつ状態」を呈する社員の場合はこれらの課題も考えなくてはなりません。

 このように現代風な気分障害は、病気として重くはなく、会社として困っている事例性の高い症例も少なくありません。先にあげた軽躁状態では職場でのトラブルとなっている場合もあり、また、発達障害ではコミュニケーション障害のために、変り者の社員とレッテルを張られている場合も多いのです。治療としても、薬と休養だけではなかなかよくなってきません。リワーク(復職支援)プログラムのような集団の場での治療を行う必要のある場合が多く、心理療法も必要な場合が珍しくありません。

 このような社員は主治医に主観的な辛さは話しますが、職場のことを客観的に伝えているとはあまり考えられません。職場としては、診断を見直してもらうためにも主治医に対し、本人の同意を得て職場の状況を文書などで伝えることが必要です。産業医や産業保健スタッフが社員の診察に同行し社内の状況を説明すれば、より有効といえます。そのような対策を取っても変化がなければ、主治医を変えることも必要と考えられます。その際には産業医の経験がある精神科医や産業精神保健に精通している精神科医が良いでしょう。

 このような症例に対し、リワークプログラムでは、なぜ休職したのかを文章化してもらいます。会社での業務負荷が高かったなどの環境要因の他に、自分の考え方や物事の判断の仕方、課題の乗り越え方が上手ではないなどの自分側の要因があります。自分の課題をよく認識し、心理療法を受けてそれまでの自分の考え方や対処の仕方を変えていくことが必要です。

 しかし、自分の考え方を変える方法を学ぶだけでは、職場でうまくいくとは限りません。実際に職場と似たような場所で業務的なことを行うと、同じ失敗を繰り返す場合も多いのです。その際に考え方を変えるとともに、行動も変容していくことが重要です。失敗を通じて行動を変えていくことが、リワークプログラムの最も大事な成果であるといえます。

執筆者:メディカルケア虎ノ門院長 五十嵐良雄

【出典】平成26年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック等を行う医師や保健師等に対する研修準備事業」

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