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Q13:小規模事業場への事業場外支援機関の関わり方は?
【Q】質問
事業場外機関として小規模事業場のメンタルへルス対策を導入する際のコツがありますか?労働衛生機関(または総合健保)の保健師として健診の実施や保健指導を実施しているのですが、メンタル関連の問題も見受けられ、メンタルへルス対策への本格的な支援につなげていけるとよいと思います。経営者へのアプローチを含めて、どのように展開するとよいのでしょうか?
【A】回答
1)課題や支援ニーズの見える化
労働衛生機関(または総合健保)の保健師等、事業場外の立場からメンタルへルス対策の支援を行う場合のポイントは、大きく3つあると思います。
第一に、メンタルへルス対策を行うべき課題や支援ニーズの存在について、職場担当者や経営者と情報や認識の共有をしっかり行うことです。課題や支援ニーズを「見える化」するためには、現在、健診の保健指導で個別の面談をしているのですから、そこで得られる情報を大いに活用するとよいでしょう。まず、保健指導を行っている全体の中で、メンタルな問題を抱えているケースが何件あったのか割合を出しておくと、わかりやすいと思います。個々の詳しい内容を伝えるのはプライバシーの問題がありますので、全体の中で多い課題をいくつか伝えるようにすると、職場として改善すべき課題が見えてくると思います。また、保健指導の中で、メンタルへルス関連の対応として行えることと、それだけでは不足で、別途、メンタルへルスに関する情報提供や教育研修、あるいは不調者が出た場合のフォロー体制が必要なことを、しっかり説明する必要があります。他社の例でもよいので、いくつか事例を用いて説明するとわかりやすいでしょう。
2)メリットや期待できる成果の共有
第二には、メンタルへルス対策を行うことによるメリットや期待できる成果に関して、職場担当者や経営者と認識の共有を行うことです。エビデンスがあればなおよいのですが、他社の良好実践事例(対策とその成果)を伝えるだけでも、イメージ化に大いに役立つようです。労働衛生機関の場合は、新たにメンタルへルス対策を導入するために追加契約をしてもらう必要がありますので、経営者にとってわかりやすい言葉遣いや資料を用いて、相手の心を動かす説明をする必要があると思います。労働衛生機関や総合健保のスケールメリットを活かして、メンタルへルス対策を導入した企業としていない企業での比較データなどを紹介できれば、説得力が増すと思います。メンタルへルス対策が進んできた社会的背景や国のガイドライン、対策を怠った場合の訴訟事例など、企業としてのリスクについても端的に伝えることも、必要に応じて適宜行うと効果的でしょう。要は、導入するコスト以上のメリットをイメージできて、導入したくなるような説明、企業の財政状況に応じた段階的なメニューを設定しておくことが必要です。労働衛生機関の場合、新たな契約交渉などは営業(渉外)担当者が行うことが多いと思いますが、まずは普段から保健指導などに入っている保健師や産業医等が経営者や担当者からの信頼を得て、徐々に情報提供したり企業ニーズを掴んでおくことが、成功の秘訣と考えます。その上で、営業担当者と連携して、追加契約を結べるとよいでしょう。
3)事業場担当者の支援
第三には、事業場内外での適切な連携をしながら、個別事例への対応を中心とした二次予防・三次予防活動のみに留まらずに、一次予防活動を含めて展開していけるように支援することが大切です。外部機関の保健師などが職場を訪問できるタイミングは限られていますので、通常時は事業場内の担当者が中心となって、対策を推進していけるように、担当者の育成支援も求められます。・・・と言っても、肩肘張らずに、様子を見守りながら、徐々に情報提供をしていくことや、困った時には電話やメールなどで助言を得られるように声かけをしておくこと、小さな変化でもよいので、改善できたことをポジティブに評価して、担当者が達成感を味わえるように支援していくことなども、心がけるとよいでしょう。
以上のような事業場との関わりのほかに、労働衛生機関、総合健保の内部での意思疎通がしっかりとれていることも重要です。保健指導だけでなく、メンタルへルス対策全般や、過重労働対策、有害作業対策など、その企業にとって優先度の高い課題を共有しながら、現場主体の対策が行えるように、事業場外支援機関としてどのようなスタンスで支援していくのか、機関方針を明確にするとともに、部署を越えて多職種間の率直な話し合いができる職場風土を築くことが大切です。まずは、お近くの保健師・産業医・事務職の皆さんと意見交換して、支援の方向性を話し合われてはいかがでしょうか?
執筆者:錦戸典子(東海大学健康科学部看護学科)
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