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Q5:カウンセリング効果の実際は?
【Q】質問
うつで休職をしている社員を複数抱えている人事担当者です。治療について聞いてみると、2週間に1回主治医のところに通院をして、5分ほど話を聞いてもらい、薬を処方されているだけの社員もいれば、薬を処方してもらうと同時に臨床心理士によるカウンセリングを受けている社員もいます。素人から見ると、薬だけを飲んで、家にいてもよくならないのではないか、カウンセリングを受けた方がよいのではないか、と思うのですが、カウンセリングの効果というのは実際どうなのでしょうか?
【A】回答
1)カウンセリングの定義とは
「うつで休職」といっても、社員の状態はそれぞれに異なることをまず頭においておく必要があります。診断書に「うつ状態」と書いてある場合、必ずしも「うつ病」であるとは限りません。また、もし、診断名が「うつ病」であったとしても、病状、誘因、背景はそれぞれ異なります。主治医は、患者の現在の症状を聞くだけでなく、身体の状態、既往歴、家族歴、生活歴、適応状態なども確認した上で治療の方針を決めていきます。治療は、薬物療法のほか、休養、環境調整、カウンセリングなどが選択されます。これらは、患者の経過に伴って適宜修正、追加されます。
ここで言うカウンセリングとは、専門家による心理的な援助を指します。日本では、カウンセリングと心理療法は、ほぼ同じ意味として用いられています。カウンセリングの定義は様々ですが、それらの共通要素としては、次のように考えられます 1)。
「心理学的な専門的援助過程である。その過程は大部分が言語を主な手段として、カウンセリングの専門家であるカウンセラーと、何らかの問題を解決すべく援助を求めているクライエントがダイナミックに相互作用し、カウンセラーは様々な援助行動を通して、自分の行動に責任を持つクライエントが自己理解を深め、「よい」意思決定という形で行動できるようになることを援助する。その究極的目標は個人が、一時的に遭遇する困難を克服して、クライエントがその人なりの特徴をフルに生かして成長し、社会のなかでその人なりに最高に機能できる自発的で独立した人として自分の人生を歩むようになることである。」
2)カウンセリングが必要な場合
医療機関では、治療上カウンセリングが必要であると主治医が判断した場合に、臨床心理士などのカウンセラーにカウンセリングがオーダーされます。では、どのような場合にカウンセリングが適用と判断されるのかについて述べた上で、その効果はどうなのかということについて説明をしていきたいと思います。
カウンセリングが適用と判断される場合は、次のような場合です。
- ①患者の状態が、考えて話せる状態である場合
- カウンセリングは、カウンセラーとの対話により成り立ちますので、対話自体が難しい場合、患者にとって著しく負担が大きい場合には、休養が優先され、カウンセリングの適用とはなりません。また、「うつ病の場合深く考えさせることは禁忌」という考え方がありますが、うつ病で通院している間はずっと深く考えてはいけないということではありません。ご本人がどの程度問題を掘り下げて考えていくかは、カウンセラーが主治医と相談しながら患者の状態をアセスメントしながら進めていきます。また、休職者のカウンセリングの場合、これまでの生き方、働き方を振り返る中で、その修正を余儀なくされることが生じますので、「深く考える」プロセスが必然となります。
- ②病気に至った経緯、背景に心理、社会的問題が存在している場合
- うつに至った経緯、背景を聞いていく中で、患者の性格や物事の考え方、行動パターンなどが影響していることはよくあることです。そのような場合には、薬物療法と休養だけでは、休養中の症状の改善は見込めたとしても、職場復帰した場合にはまた同じことが起きてしまい、症状が悪化することは容易に想像できます。症状を改善させることに留まらず、自分の性格や物事の考え方などを見直し修正していくこと、また必要な環境調整への働きかけをしていくことも回復、職場復帰には必要なプロセスとなります。
- ③経済的に可能な場合
- 医師以外によるカウンセリングは、通常保険が効きませんので、相談機関によりますが、1回(60分)当たり10,000円前後かかります。また、1回限りということではなく、継続する必要がありますので、経済的な負担が大きくなりますので、患者の経済的状況もカウンセリングを適用する際には考慮に入ります。
- ④カウンセリングへの動機付けがある場合
- 医師が「カウンセリングが必要」と判断しても、患者自身がその必要性を感じていなければ、カウンセリングの適用にはなりません。カウンセリングは、患者自身が自発的に主体的に取り組む姿勢がないと効果が出ませんので、患者の意思が重要になります。
3)カウンセリングの効果
では、実際にカウンセリングを行った場合、その効果はどうなのでしょうか。カウンセリングでは、クライエントはカウンセラーに自分の気持ち、状況を話し、カウンセラーはそれを理解しようとして耳を傾けます。そのプロセスの中で、「わかってもらえた」「すっきりした」という感覚を感じられることがカウンセリングでは必須条件です。「誰かにわかってもらえた」「自分が抱えていたことを話せてすっきりした」という経験、そしてカウンセラーとの信頼関係の中で、クライエントは今自分が直面している問題に取り組もうと初めて思えます。さらには、カウンセラーに話すことにより、自分を客観視できるようになり、自分の抱えていた気持ちや病気に陥った自分自身の考え方や行動パターンや環境要因などに気が付くことができます。さらに、考え方や行動パターンを変えていく際には、カウンセラーからのアドバイスや介入も行われ、最終的には、今回の体験をどのようにとらえ、今後自分がどう働いていったらよいのか、どう生きていったらよいのか、ストレスにどのように対処していったらよいのか、自分をどうマネジメントしていくかということを習得されていきます。このようなプロセスをカウンセラーとともに歩むことは、症状の改善だけでなく、クライエントがよりよく生きていくことに寄与すると回答者は考えています。
カウンセリングの効果は、数々の実証研究でも確認されています。たとえば、うつに関しては、いくつかの異なる技法のカウンセリングの効果が示されていますが、とくに認知行動療法については、明確な効果が示されています。約50もの厳密な研究を通して、認知療法が症状の改善に寄与し、再発の予防にも寄与することが確認されています2)。一方で、カウンセリングの効果に影響する要因として、クライエントの要因、カウンセラーの要因、カウンセリング関係の要因についての研究もあり、技法だけがカウンセリングの効果を決めるわけではないとも考えられています。このように見ていくと、カウンセリングに効果があることは確かなようですが、カウンセリングが効果を生むためには、クライエントの動機付けやカウンセラーがどのようにクライエントに関わるか、クライエントとカウンセラーの関係の質、用いる技法など様々な要因が関係していると言えるでしょう。
文献
- 1 )渡辺三枝子.新版カウンセリング心理学.東京:ナカニシヤ出版,2002.
- 2 )ミック・クーパー.清水幹夫,末武康弘 監訳.エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究-クライアントにとって何が最も役に立つのか-.東京:岩崎学術出版,2012.
執筆者:大庭さよ(MPSセンター)