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Q2:復職時の主治医との連携のコツは?

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Q2:復職時の主治医との連携のコツは?

【Q】質問

 メンタルヘルス不調により休業中の職員がいます。「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、職場と主治医の連携が重要だとされていますが、今の職場には産業医がいないため、面識のない主治医に連絡をとるのは、実際にはなかなか難しいのが現状です。どういうタイミングで、どのようなかたちで、連絡を試みるとうまくいくでしょうか?また、主治医との連携に関するコツや留意点などを教えてください。

【A】回答

1)連絡のタイミング、形式

 回答の前に、事実確認をさせていただきます。「産業医がいない」というのは、産業医の選任義務のない従業員規模50人未満の小規模事業場(①)だということでしょうか。それとも、産業医は選任されているけれども、実質的にはあまり職務を遂行していない(②)ということでしょうか。
 まず、①の場合を想定し、説明を進めます。
 「どういうタイミングで?」の回答は、「当該職員が休業を開始後できるだけ早期に」です。ただし、主治医との接触には、通常本人の了解が必要ですから、その手続きを踏んだ上でということになります。それに加えて、本人から主治医に対して、職場関係者からの問い合わせが入ることを伝えておいてもらえば、連絡が容易になるでしょう。ただ、本人の病状や経過によっては、休業に入ってすぐは職場関係者との接触をしたがらない、あるいはそれをすることによって病状が悪化する恐れがあるかも知れません。その場合には、家族と相談し、少し経過を見るほうがよいでしょう(家族を通して、主治医にその時期を判断してもらうのもお勧めします)。
 「どのようなかたちで?」の回答は、「書面または本人同席の面接で」です。電子メールという手段も考えられますが、現時点ではまだ一般的とは言えませんので、主治医からの提案でなければ避けたほうが無難です。いずれも、上述したように、本人の同意が前提になります。
 実際には、本人に知られないほうがよいと思われることや本人を前にしては話しづらいこと(たとえば、日頃から本人の業務遂行能力が低い、同僚から信頼を得ていない)を伝えたい場合もあるでしょうが、本人が同意しない限り、主治医の多くは連携を好まないのが現状です。もし実現したとしても、その事実を本人が知ることになったら、主治医、職場関係者に対する不信感が高まり、その後の診療や職場対応に困難が生じることにもなりかねません。結局のところ、本人との信頼関係をあまり損なわない範囲で、職場の実情を主治医に伝えて少しでも理解を得られるよう、表現、言い回しを工夫するということにならざるを得ないのです。

2)連携のコツと留意点

 後半の質問、連携の「コツや留意点」に移りましょう。通常、「連携」という場合の情報交換は、双方向性です。一方が他方から情報を得るだけの場合は、「助言を得る」とか「教育を受ける」などの表現を使うことが多いはずです。したがって、質問の「連携」は双方向性の情報交換を指すと受け取れます。また、実際に、主治医と職場関係者との連携は、双方向性であるべきですし、そうでないとうまくいきません。順序としては、まず職場から主治医に対して情報提供をし、その後に主治医より返信を受け取るというのが、通常の流れです。職場から提出する情報は2つに大別することができます。
 ひとつは、当該労働者の診療(診断や治療方針の決定)に有用だと考えられる情報です。これには、以下の事項が該当するでしょう。

  • 受診直前の本人の職場での様子(言動、仕事ぶり、作業効率、人間関係)
  • 普段(以前)の本人の職場での様子(〃)(上記との相違が見られる例では、どのように異なっているかを具体的に)
  • 本人の職場でのストレス要因(とくに、今回の不調と関連が深いと考えられるもの)
  • 受診直前の本人の仕事の負荷(労働時間を含む)
  • 職場が把握している本人の既往歴
  • 職場の休業や配置転換に関わる諸制度(休業が認められる期間、休業中の補償、クーリング期間、復職に関する制度、配置転換の可能性など)など

(注:クーリング期間とは、職場復帰後一定期間勤務が継続できれば、休業期間がリセットされる場合、その期間を言います。)

 もうひとつは、主治医が職場に対して情報開示をするに当たって、それが容易になる、あるいはより適切な内容になるような情報です。次の事項がその代表例と言えます。

  • 職場が職場復帰を認めるための要件(どの程度の作業が可能となったら、職場復帰を認めるかを具体的に。一般的には、元の業務の70~80%が目安となります)
  • 職場で仕事の負担に関して配慮できる範囲(どの程度業務を軽減できるか)
  • 期間
  • 主治医から得られた情報についての事業場側の管理責任者(名前、所属、職位)
  • 主治医から得られた情報が開示される範囲
  • 主治医に求める情報が必要な理由
  • 得られた情報を上記目的以外では使用しないことの確約
  • 情報提供に関して本人の同意が得られていること(面接で本人が同席している場合は不要)

 これらを書面に簡潔にまとめることが大切です。面接の場合でも、メモとして使うことで、効率よく情報を伝えるのに役立ちます。冗長な長文は、時間の限られた診療時間に読むものとして歓迎されないことに注意が必要です。
 また、職場関係者が主治医から得たい情報としては、以下のような事項が多いでしょう。

  • 職場における当該労働者の対応方法
  • 当該労働者の休業の必要性の有無
  • 当該労働者の病状の見通し

 正確な診断名を知りたがる職場関係者がいます。しかし、精神科領域の診断名は、使用される診断分類(診断基準)によって、表現や範囲に一部異なるところがありますし、職場関係者が要望する時点では確定診断がついていないこともあります。そして、何よりも診断名が独り歩きして、当該労働者が不適切な見られ方や扱いを受けることが懸念されます。また、診断名が職場における具体的な対応方法を、必ずしも指し示しているわけでもありません。同一診断名(たとえば「うつ病」)でも、職場における望ましい対応法が異なる例が見られます。ですから、職場関係者としては、あまり診断名にとらわれず、上述したような、職場での対応法を中心とした情報を得ることを考えるべきです。
 産業医が選任されていれば、主治医からの一般的な助言を咀嚼し、当該職場の様々な事情を踏まえた具体的な対応に落とし込んでいく役割を担うのですが、そうでない場合には、この役割を一部主治医に任せねばなりません。そのためには、主治医が診察室の中で職場の様子や本人の仕事をできるだけ想像しやすいように、詳しい情報を提供する必要があります。
 こうした手続きを経ても、職場が期待するような情報を開示してくれない主治医は、皆無ではありません。著者は、メンタルヘルス不調を有する労働者に関して、主治医から情報を得る手順に関するアルゴリズムを作成し、その過程で用いることができる「メンタルヘルス不調者の対応類型表」を開発しています。これらは、職場からの依頼に対して、主治医から明確な助言が得られない場合に、とくに有用かと思います。併せて、参照してください。

3)産業医の職務

 次に、②の場合ですが、産業医が産業医としての職務を果たしていないことになります。確かに、過去には内科や整形外科などの、いわゆる身体科を専門としている産業医の中に、メンタルヘルスの問題には関与したがらない者も少なからずいました。しかし、大半の事業場において、メンタルヘルス対策が産業保健活動全体の中で占める割合は、以前よりも格段に高くなっています。もう、産業医がメンタルヘルスの問題を避けて済ませることができる時代ではありません。そのような医師にはお引き取りいただくのがよいと思いますが、そうもいかない場合には、①に準じた対応を、産業医の了解を得ながら(産業医に報告しながら)実施するのが現実的でしょう。

文献

  • 1)廣尚典.要説産業精神保健.東京:診断と治療社,2013.

執筆者:廣 尚典(産業医科大学 産業生態科学研究所精神保健学)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)