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Q14:管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務とは?

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Q14:管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務とは?

【Q】質問

 管理職には、部下への安全配慮義務があるので、健康面や業務面で気になる部下と面談をしようとしても、「個人的なことですから・・・」と拒否されます。管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務との関連などを解説してください。

【A】回答

1)個人情報保護について

 平成15年に制定された「個人情報の保護に関する法律」(以下、個人情報保護法)では、個人の権利と利益を保護するために、個人情報を取扱う事業者に対して個人情報の取扱い方法を定められました。個人情報保護法の「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項について」によると、「社員の健康情報の共有はもちろん、情報を収集する際も、原則として総て当人の同意を得なければならない。さらに上司や同僚にも病名などの個人情報を守秘するよう徹底しなければならない」とされています。
 安全配慮義務は、労働契約法(以下、労契法)5条によれば、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」使用者の義務と定義されています。安全配慮義務を果たすためには、個人の健康について情報を得て、保健指導を含む適切な就業上の措置を講ずることが求められています。実際には、使用者の代表として管理監督者に委ねられています。

2)安全配慮義務について

 安全配慮義務は使用者に課せられていると同時に、労働者には自己保健義務が課せられています(労働安全衛生法第26条)。具体的には、健康異常の申告や健康管理措置への協力が義務となっています。
 以上より、管理監督者が、健康面や業務面で気になる部下と面談をしようとすることは、労務管理の一貫と考えられます。ここでポイントとなる点は、「業務に支障を来しているかどうか」ということです。健康上の問題を持っていたとしても、業務に支障が来していなければ個人の問題ととらえられます。しかしながら、その問題が業務に支障が来しているようであれば、上司が行う健康管理措置への協力が労働者の義務となります。
 質問のように、部下に面談を拒否された場合、管理監督者が健康面や業務面で気になることを伝え、面接の目的を明確に伝えることが大切です。その際には、①労働者は、業務が提供できるような健康状態を整える義務があり、管理監督者が行う健康管理措置への協力が求められていること、②使用者は、労働者が業務を遂行できるように、健康面や業務面の問題に対して適切な就業上の措置を講ずることが求められており、そのためには最小限の情報の開示を願いたいと説明します。さらに、健康面の問題であれば、産業医等の専門家につなげます。産業医には、具体的な病名や病状をもとに、現在の状態や業務遂行能力に関する情報を管理監督者に伝えてもらいます。
 労働者の健康を守る義務と個人情報の保護とのバランスをどうとるのかが、課題となりますが、労働者と使用者との信頼関係を確立することが重要となります。そのためには、日頃から積極的に声をかけるなどして心身の健康状態を把握したり、相談しやすい職場環境を整えることが大切になります。また、収集した個人情報の取扱いや管理について、会社としてルールづくりをすることも重要となります。

3)事例

Aさん 20歳代 独身 女性 大卒入社5年目 営業職 
 入社5年目のAさんは、「職場の同僚との関係でストレスを感じ、寝付きが悪い」との主訴で社内の健康相談室に来室されました。産業医は心療内科を紹介し睡眠薬が処方されました。心理士との面談では、同僚との人間関係の振り返りやストレスコーピングの方法などを話し会うことにより、Aさん自身は症状も軽減し、業務も順調に進んでいる様子でした。この時点では、業務の遂行に支障を来していなかったので、Aさんの情報は産業保健スタッフ内のみで保管されていました。
 数ヵ月後、Aさんの上司より産業医に、「Aさんが仕事中に、ぼーっとしていることがあり、体調が悪いのではないか心配である」との相談がありましたが、産業医は、心療内科受診中であるという健康情報をすぐに上司に伝えることはしませんでした。個別面談で知り得た情報は、ご本人の了解なしでは伝えることはできないからです。産業医は、Aさんと面談をし、上司がAさんの勤務状況をどのようにとらえているかを伝え、上司には部下に対する安全配慮義務があること、業務上の支障を来たしている部下の健康情報を正しく把握することの必要性を説明しました。Aさんは了解し、上司に産業医から、Aさんの情報を伝えました。上司は、Aさんや産業医と話し合い、業務分担や業務指示の見直しを実施し、さらに、同僚との関係改善に努めました。その結果、Aさんは、円滑に業務が遂行できるようになりました。

執筆者:藤里智子(三菱マテリアル株式会社 安全衛生部安全衛生室)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)