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Q1:適切な復職判定の原理原則や主治医との連携とは?

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Q1:適切な復職判定の原理原則や主治医との連携とは?

【Q】質問

 人事労務担当者ですが、精神科主治医の判断(診断書など)にもとづいて復職した労働者が、すぐに再休職したり、戦力になり得ない状態が長期化して、職場としてその対応に苦慮することがあります。
 また、精神科主治医から一方的に復職を求められたり、職場の実情にそぐわない軽減勤務を条件にするなど困惑することがあります。適切な復職判定の原理原則や、主治医との連携についてその手順などを教えてください。

【A】回答

1)復職判定に至った経緯を見直す

 まず押さえなければならないのが、適切な復職判定がなされていたかどうかです。仕事のパフォーマンスが悪いことがわかっていながら漫然と復職を認めた場合や、復職判定システムが十分機能しなかったため、結果的に回復していない労働者の復職を認めた場合などが想定されます。
 復職判定のための枠組みとしては、企業や組織の規模によりますが、名称はともかく職場関係者(産業医、非常勤精神科医、産業看護職、カウンセラー、人事労務担当者など)による復帰判定委員会の設置が望ましいと考えられます。要は、産業医や人事労務課長など担当者個人で決めるのではなく、合議によって組織として判断を下す必要があります。

2 )「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参考にする

 実際の復職判定の手順ですが、2004年に厚生労働省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下、手引き)が公表され、その改訂版が出ています。労働者が職場復帰を図る過程を、5つのステップに沿って職場側と本人、主治医などとの連携のあり方、とりわけ当該労働者のプライバシー保護に配慮した原則が具体的に示されています。
 ただし、この手引きは産業医をはじめ産業保健スタッフが存在し、人事労務部門も適正に機能していることが前提となっているため、中小事業場や分散事業場においては適用できない部分があります。また、前書きに「心の健康問題による休業者で、医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した労働者を対象としたもの」と明記されているように、一定の回復が果たせた労働者を対象としており、不十分な回復状態の労働者に当てはめられるものではありません。つまり、この手引きを参考にしつつも、各事業場の状況(規模、産業保健スタッフの有無など)に則した職場復帰システムの構築や就業規則を整備することが大切です。

3 )精神科主治医の診断書の見方について理解する

 職場復帰の大切な判断材料になるのが精神科主治医による診断書ですが、残念ながら精神科領域で提出される診断書の内容に疑問を感じることが稀ではありません。ひとつは診断名に関して、精神医学的診断名が曖昧に表現されることが少なくないからです。本来の診断名とは言い難い、ノイローゼ、心因反応、自律神経失調症、神経衰弱、不眠症などが便宜的に使用される傾向にあります。また、治療者-患者関係の配慮からパーソナリティ障害や統合失調症と明確に記載されることもほとんどありません。極端な場合、統合失調症と思われる事例でも、うつ病などほかの疾患名が記載されることもあるようです。したがって、職場が診断書上の診断名を鵜呑みにして対応すると、場合によっては見当違いなものになる可能性が否定できません。
 また、精神科主治医の復職可能という判断は、原則的には病態レベル(幻聴や被害妄想の有無、抑うつ症状の軽減など)にもとづくことが多く、しかも患者擁護の立場に立っています。そのため、実際に就労可能かどうかの判断が、必ずしも職場の現状と合致しないことがままあります。つまり、診断書の判断のみでフリーパス状態(無審査)で復職としてしまうと、すぐに悪化して(もしくは、悪い状態のまま)再度休職に至る可能性が高いと予想されます。

4)復職面談をしっかり行う

 診断書だけに頼らない復職判定の進め方ですが、職場関係者からよく耳にするのは”うちの会社の産業医は精神科以外の先生で、月に1~2回顔を出すだけなので、とても復職判定まで頼めません”といった類の話です。たしかに、苦しい事情はわかりますが、一定の復職判定は可能です。なぜなら、復職判定は一義的には病気の良し悪しを判断するのではなく、決められた時間に出勤し、一定時間、待遇に見合った労務提供が可能かどうかを判断することだからです。専門家の介入が望ましいのはもちろんですが、復職面談などを通しての人事労務畑の判断も重要な鍵となり得ます。
 復職面談の進め方ですが、精神科主治医から復職可能の旨の診断書が提出された後に、実際に職場に朝一番の9時に来てもらいます。うつ病例に限らず、精神疾患の事例の多くが朝起きづらかったり、午前中は体調不良のことが少なくないので、朝一番の面談時間に間に合わなかったりラッシュアワーの満員電車に耐えられないようであれば、それだけで回復不十分と判断できるはずです。
 その際、面談前の2週間ぐらいの生活メモを記載して提出してもらうのが有用です。朝何時に起きて、午前中は図書館に行き、午後は公園を散歩し、何時に夕食をとって、何時に寝たといった簡単なものです。できれば、歩数計の記録も貴重です。こうしたメモを記載してもらうと、職場側の有用な判断材料になるばかりでなく、当該労働者自身が自らの回復レベルを客観視する手助けとなるでしょう。

5)復職可能レベルを明確化させる

 精神障害が残存する (どんなに頑張っても5~6割の回復しか望めない) 場合を除いて、気分障害圏や不安障害圏内においては7〜8割の回復が一応の目途と考えられます。これは復職時の勤務形態として、9時から17時まで勤務の残業なしといったレベル(もちろん当初の3~4週間は6時間╱日程度の勤務も考慮される)です。
 ところが、精神科主治医や産業医の意見に従って、軽減勤務と称して隔日勤務や3時間勤務など極端な軽減勤務が求められる場合があります。しかしながら、ハードルを下げて低負荷レベルからの勤務開始が望ましいという単純な考え方は通用しません。一定レベルの回復があってこそ、順調な職場復帰につながる原則を関係者に周知させるべきです。7~8割の回復レベルであれば、仕事の与え方や付き合い方に関して常識的な対応で十分なはずで、職場関係者が腫れ物に触るような対応が求められる事例は、復職に耐えられるレベルには達していないと理解すべきです。

文献

  • 1)大西守,黒木宣夫.職場復帰と診断書をめぐって.臨床精神医学 2004;33:895-898.
  • 2)厚生労働省.心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き.2004.
  • 3)厚生労働省.心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版).2009.

執筆者:大西 守(公益社団法人日本精神保健福祉連盟)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)