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わたしの何を知ろうというの!? 従業員感情への配慮を。
これまでよちよち歩きで歩を進めてきました。そんなひよっこのワタクシ、東ちはるがメンタルヘルス推進室の活動で欠かせないと思っていることがあります。それは、数字的な情報取得とそれの有意義な活用です。これに相当する取り組みというのが、ストレスチェックの実施と実施後のフォローだと考えていました。そして、これがまた、簡単に実施できるものではないということを勉強させられました。
人事のお仕事をされている方などは、容易に想像がつくと思いますが、広報や営業活動を目的としたアンケート形式の情報収集ではないため、実施を無条件には受け入れにくいという従業員感情が強くあることが始めのハードルとなりました。受け入れにくさについては、いつも通りまずは概要の説明、実施方法の説明、実施の目的と個人情報の取り扱いに関する説明をしっかりと行うことが不可欠だと思うのですが、社員数はそれなりに多く、口頭でしっかりと質問を受けながら説明をすることは、まずできません。
『健康診断と同義に考えてもらえないものか…』と、担当者としては安易にそんな期待をしてしまうのですが、そうやすやすとはいきませんでした。「ただでさえ残業して忙しいのに、そんな時間はとらないでほしい」「自分は大丈夫だし必要ないからストレスチェックは受けません」「こんなの世の中に色々とあるので知っているし、実施するメリットが見えない」「何を言われても、結果を誰が見ているかわからない」「質問内容がつまらないし、多いから何も楽しくない」「ストレスチェックを受けて結果が悪かったら何をしてくれるわけ?」頭を抱えてしまいました。
目的と個人情報取り扱いの説明は不可欠
担当者として、キャッチコピーは『健康診断のように定期的に受けましょう♪』と決めておきました。ストレスチェックの実施について疑念を多く強く持っている従業員に対してはそのような声かけをすることにしました。上司と社内感情についてよく話し合い、対策を考えました。その中で、従業員が懸念することは何か、やりたくないと思う理由は何か、よく考えてみました。
実施の目的としては、個人と組織それぞれの側面において整理しました。個人の側面としてはセルフケア、組織の側面としては組織分析による職場改善、対策の検討です。セルフケアとしては、自身のその時のコンディションを把握してもらい、健康管理に役立ててもらいたいというメッセージをつけて説明をすることにしました。組織分析としては、職場の部門単位で何か問題を把握できないか、傾向について把握することにより職場改善につながるような施策を検討したいということを各部門長に説明を行うことにしました。他には、部門長が集まる会議で説明お知らせの時間を少しもらったり、工場や各支店での朝礼に参加させてもらい説明を重ねながら事前準備を進めていくことで、実施の方向性が定まってきました。
実施の際に懸念することといえば、やはりストレスチェックの結果、個人情報がどのように取り扱われるのかということです。会社の義務や責任を果たさなければならないのは当然ですが、その過程で従業員が不利益を被らないということも見落としてはいけないこととして、人事考課で不利益を被らないようにする配慮が必要だということも確認しました。ストレスチェックの実施結果は人事関係者、総務関係者とは一切を切り離し、メンタルヘルス推進室と産業医で取り扱う方針を明確にしました。組織分析の結果は、個人の特定ができないようにしました。
調査の方法は実態にあった選択が一番
実施概要がまとまったら、あとはどんなストレスチェックツールを選択するのか、ということを決めるのみです。「メンタルヘルス推進室」では、担当者の人数や対応可能な範囲を考えてWEBでストレスチェックを実施できないか、色々と調べていました。
中でも、職業性ストレス簡易調査票(平成 7~11 年度労働省委託研究「作業関連疾患の予防に関する研究」)は個人の健康管理、組織の分析と、両方の用途に合うように研究され、つくられているものということもあったので安心して利用できるという思いにいたりました。パソコンを使用しない従業員、メールアドレスがない従業員、雇用形態もさまざまなので対象者を誰にするのか、パソコンを使用しない従業員に対してどうするのか、社内の把握が重要だと考えました。費用面、対象者などについては、人事労務担当者に相談しました。
実施後は部門別と個別の展開は見えてくるものが多い!
このようにして、準備には多少の時間がかかりました。セルフケア、組織の分析という目的があったため、説明を入念に行い高い実施率を追求する必要がありました。結構な労力はかかりましたが無事終了し、いよいよ本題です。問題の把握と対策の検討。
ストレスチェックを実施して、担当者としてとても良かったなと感じられることがありました。それは実施の説明をしたり、問い合わせに対応したりしている中で、多くの従業員とコンタクトをとれたことです。会話の中で自然とストレスチェックの話題をきっかけとして「セルフケア」「メンタルヘルス」について少しお話を交わすことができました。「少し聞いてみたいことがある」「実は職場が違うが心配している人がいてどのように接したらよいか」「結果をどのように解釈したらよいのか」「ちょうど、ここのところ辛いことが重なって話をきいてもらいたかった」など、個人個人との関係の中で、このような話がポツリポツリと出てきたのでした。はじめの頃は、そんな話はあまりしたくない、という雰囲気が強かった中、これは社内の変化だと受け止めています。
こうして手応えを感じはじめ、さらに仕上げへと進める頃となりました。結果を部門別に部門長へ個別の報告書を作成して、個別にお知らせする。役員会で全社傾向を報告し、問題となっていることとの関連性や思い当たる状況はないか、逆にこちらから教えてもらう感覚で組織に対する報告をしました。不調を訴えてくる従業員が多い部門については、報告時に忙しさ、他部門との関係性、特徴やチーム構成など念入りに情報収集をしました。
そして、結果をもとに部門長と一緒に何が問題と思われるか、どんなことであればその対策として検討できそうかを一緒に考えさせてもらいました。場合によっては、部門長の了解をとってチーム全員の面談を実施したり、本人からの申し出があった従業員の面談を行ったり、事後対応が徐々にでてきていると思います。何よりもこのような取り組みをしたことによる収穫は、分析結果からだけでは分からない、思いつかなかった課題、対策を検討する必要性があったことが分かったことです。特に管理監督者の皆さんの要望としては、人材育成の視点でもこの結果を活用してもらえないか、ということでした。部下たちの個性や能力を発揮させるためには、職場の特徴や傾向を管理監督者側が把握できていると、とても参考になるということでした。
一番の要対応の対象者としては、高ストレス群の従業員です。これらの方々については、まず本人が今どんな状況なのかをヒアリングする必要があり、場合によっては専門家や医療機関等に紹介する必要があります。そのような行動につなげるためには、そのような促しをするメッセージを発信するところまでをメンタルヘルス推進室では行いました。 今後の課題としては、把握しきれていなかった従業員の健康保持、より早い段階で産業医や専門医につなぐための仕組みはどのようにするのか、引き続き検討していきたいと思います。
次回へ続く・・・
東 ちはる(あずま ちはる)
産業カウンセラー・心理相談員
新たに設置した「メンタルヘルス推進室」の担当者となり、「事業場内メンタルヘルス推進担当者」として活動することに。
社内のメンタルヘルス対策の実現に向けて、そこには孤軍奮闘の日々が待っていました。
何も分からない手さぐりの状態から、『出来ることから一つずつ』をモットーに現在進行形で取り組んでいきます。※創作ストーリーのため、架空の人物です。
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