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高野 知樹さん(神田東クリニック院長)

コラム①:不安な日々の中で、その仕組みを考えてみる

 毎日、テレビやネットから新型コロナウイルス感染症に関する情報が溢れ出ています。日々刻々と感染拡大防止対策が強化され、みなさまの働き方や生活の仕方も、大きく変わっていることと思います。こうした「不安や恐怖」で溢れる日々を送る中で、少しでも心身の平穏を保つための一助になればと、このコーナーが設けられました。それぞれの生活スタイルにあったヒントを見つけていただけると幸いです。

 さて、まず「不安や恐怖」の仕組みについて考えてみたいと思います。今、多くの方々が、新型コロナウイルス感染症への不安を日々感じていると思います。では、新型コロナウイルス感染症の問題がなかったころは、毎日安心感で満たされていたでしょうか?きっとそうとも限らなかったのではないかと思います。「来週の大きな会議、資料が全然間に合わない…」「今から大事な顧客へ謝罪に向かわないといけない…」など、社会生活のストレスを日々感じていたはずです。

 「不安や恐怖」は、あまり心地いいものではありません。ではなぜ感じるのでしょうか。精神医学や心理学では、「欲望の裏返し」と解釈されています。歩きなれた道が工事中で道がぐちゃぐちゃになっていると、きっと「不安や恐怖」を感じて足元をよく見て、いつもより慎重に一歩一歩あわてずに歩くと思います。このように「不安や恐怖」は、注意して安全に前に進むための安全装置のようなもの。人間だけでなく動物にも同様の機能が備わっています。

 感染拡大の不安や恐怖の中で、多くの方々に共通の欲望は「生への欲望」ではないでしょうか。健康でいたい、生活を維持したい、というものではないかと思います。

 こうしたご時勢だからこそ、不安や恐怖の裏にある欲望をしっかり認識してみることも大切に思います。そして、その欲望に近づけるために、今何が出来るかと考えてみると、具体的な過ごし方が見つけやすくなる気がします。

コラム②:今こそ、マインドフルネス的生活を

 ヒトは、身のまわりで起きていることを五感から「察知:入力」し、情報として脳内に招き入れ、その情報を様々な角度から吟味して「思考:処理」し、その後の方向性を決めて「行動:出力」という結果を出します。普段はあまり意識していなくても、心身はこのように動いています。

 ここ最近は、脳内に入ってくる情報が、テレビやネットから溢れてくる新型コロナウイルスに関するものばかりになっているという方も多いのではないでしょうか。いろいろな情報から様々な結果を推測するのはヒトの特殊能力ですが、この先の仕事は?学校は?自分や近しい人がもし感染したら?など考えれば考えるほど、先々の不安や心配は絶えません。

 よくよく考えてみれば、未来のことは誰にもわかりませんし、いくら考えたところで答えは“今”にはありません。しかしながら、答えがないからといって考えることをいつまでも終われずにいると、脳は充分休むことができず、やがて疲弊してしまいます。脳は全身の状態をコントロールしているため、「行動:出力」へたどり着く前に、様々な病気を招いてしまうこともあります。

 “マインドフルネス”という概念がありますが、一般用語としても知られるようになってきたと思います。もとは仏教など東洋の文化にルーツをもつもので、わが国では昔から瞑想という形で伝えられてきました。それが欧米に渡り、マインドフルネスの概念の一部が体系化されて日本に再上陸しました。あえて簡単に説明すれば、「余計な憶測はやめて、いま起きている出来事に着目する心の状態」ということになると思います。

 精神科医の佐渡充洋先生は、見慣れた「いつも」のレーズンを、まるで「初めて」見たものとして観察してみることを通じて、いま感じている五感を研ぎ澄ます方法を紹介しています。レーズンと知っているからポンと口に放り込みますが、食べられるものなのかどうかも知らないで初めてレーズンを見たら、様々な観察をするはずです。見た目、指で触れた感じ、かおり、舌や歯で感じる感触、味、のど越し…いろいろ気づけることがあります。

 自粛生活の長期化で、自宅内から見える景色にはもう飽き飽きしているかも知れませんが、あらためて観察すると、実はいろんなことに気づきます。窓を開ければ、天気の良し悪しだけでなく、気温の変化、風の優しさ、新緑の深さ。自宅でいれる紅茶のかおりも、じっくり堪能してみると入れ方による違いに気づくはず。

 テレビやネットからの情報を観ながらカップ麺をすするというマルチタスクを少しの時間やめてみて、具のひとつひとつや、麺の食感などに注意を向けてみるだけでも、いつのまにか先々を考え続けてしまう脳を休ませてくれるかもしれません。

コラム③:自粛生活のコロナ太り、食以外の楽しみも少しずつ再開へ

 2020年5月下旬、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が全国的に解除されました。長期間営業自粛していた飲食店も、3密にならない工夫をこらしながら、再開しつつあるのはご存知の通り。

 先日、仕事の時間合わせに、久しぶりにカフェに入った時のことです。運ばれてきたケーキを見るやいなや、こぼれんばかりの笑顔に変わるお客さんを何人も見ました。それを見て筆者も“もらい笑顔”をしてしまうくらい、そこには幸福感があふれていました。

 ヒトにとって食は、生存のためのエネルギー摂取だけでなく、「楽しむ」という要素がとても大きいですね。野生動物であれば、当然ながら生の食材をそのまま食しますが、私たちは焼いたり、炒めたり、煮たり、蒸したりと手を加えます。塩、胡椒、ソースなど味付けだって様々。時にはちょっと贅沢して高級料理店に入ったりもします。どうせ食べるなら美味しく食べたいという気持ちの表れですね。つまり、食は単なる摂取ではなく、「快楽」を比較的容易に得る手段でもあるのです。

 甘いものは別腹、ということをよく聞きます。もうお腹がいっぱいと思っていたら、最後のデザートはペロリと美味しく食べられた、なんて経験もあると思います。この仕組みも医学的に解明されてきました。そのひとつに、ラットに砂糖水を3週間与え続けたという米国のグループによる研究報告があります。その結果、摂取量は約4倍に増え、「快」のシステムが集中する脳内の側坐核から分泌されるドーパミン量も約1.5倍に増加していました。これは麻薬性薬物を摂取した時と同様の反応です。つまり、満腹で多少苦しくても、甘いものでそれが打ち消され、美味しく食べられてしまうのです。こうしたことから、砂糖は“マイルドドラッグ”とも呼ばれています。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の自粛生活で、私たちは様々な欲求を抑え込んで、我慢の生活が続きました。産業医面接で社員の方と久しぶりに会うと、体重増加したと訴える方も多いのですが、気に病む必要はないと考えています。単に運動不足で消費量が低下したというだけでなく、コロナ禍の環境下の苦を、少しでも快に変換して乗り切る生体機能が働いていたのだと思うのです。

 ただ、マイルドドラッグのみで快を求め続けると常習や依存に陥ってしまいます。これから社会活動が徐々に再開されていきます。感染拡大に注意しながらも、様々な楽しみ方にも目を向けていきたいですね。

山本 晴義さん(横浜労災病院 勤労者メンタルヘルスセンター長)