1 「職場の快適さ」と「労働負荷」の関係
(1)概説
労働負荷には、業務の絶対量の側面とその難易度、困難度という質的側面がある。いずれも快適さには直接的に大きな影響を及ぼす極めて重要な要素である。まず、量的側面として、慢性的な業務過多、それによる長時間労働、超過勤務、休日労働などの常態化は、依然として多くの職場が抱えている問題である。特に、業績悪化などに伴う人員削減による在籍従業員の負荷増、あるいは競合との競争に勝つためのスピード化に伴う負担増なども多く見られる。
一方で、コスト削減に伴う残業手当の削減、残業禁止などの対応もあり、持ち帰りの業務が発生することもあると思われる。また、質的難易度については、業務の高度化、複雑化が進む状況下で、常に知識やスキルを最新化していく必要があるが、個々人の能力や適性の観点から、組織要望に応えきれない場合も生じる。このような状況の中で、心身の疲労は蓄積され、ストレスやプレッシャーもあいまって、心身の健康を害することもある。これらの問題に対し、どう対応していくのかは、業務の構造や実施体制・組織、実施方法や評価のあり方なども含め、多岐にわたる検討と対応が必要となるが、快適職場の推進においては、極めて重要なテーマであり、正面からの取り組みが望まれる。
(2)検討における重要視点
ア 従業員の業務実態の正確な把握
快適さの向上に向けては、まず従業員に対し、どの程度の業務負荷となっているのかを正しく把握することが必要となる。数値として客観的に把握できるのは、労働時間であるが、詳細に見るためには、超過勤務時間、深夜時間、休日の労働時間を確認することである。また、単に時間だけでは、負荷の度合を把握することが難しい面もあるので、ストレス測定や疲労度調査なども合わせて実施するとよいだろう。しかしながら、定量的数値以上に重要なのは、やはり各職場の管理者が、部下の勤務実態をどこまで把握できているか、担当業務の中で、いまどんなことに取り組み、何がうまくいっていて、何が滞っているのかなどの状況を、しっかり見て、把握することである。
イ 業務構造、業務実施体制・実施組織、業務遂行方法などの見直し
個々人の業務取り組みではなく、組織全体としての業務構造や実施体制などを見直さなければ、改善されない構造的課題もある。業務プロセスの改善や業務体制の改革、再構築であるが、これは、一部署や個別管理者レベルでは対応の限界があるので、経営が主導して、関係部署、あるいは全社が連携して取り組むべきテーマである。業務の休止、廃止、効率化に向けての業務プロセス改善、部署間分担の見直し、業務集約化、アウトソーシングなどを通じて、全体としての効率性を高め、業務量の軽減を図ることが望まれる。
ウ 労働時間削減に向けての意識醸成および具体的施策実施
労働時間は、同じ業務でも個人の能力、経験、スキル、知識などによって違いが出てくるものであるし、それらが同じレベルであっても、個々人の時間意識によって、要する時間に差異が生まれることもある。この証左として、業績不振企業がコスト削減を目的に、残業禁止などの措置をとった場合に、時間意識の変化だけによって、一定の時間削減が可能となっている事例が数多く見られる。ただし、製造現場の業務やサービス現業における業務では、時間意識だけの削減は、事務的業務ほどには容易ではない。しかしながら、時間効率の向上に向け、ノー残業デーを設けたり、早帰り運動を実施するなどの具体的施策を実施して、生産性向上に関する意識を喚起することは、労働負荷軽減の観点からも継続して取り組むべき対応である。
エ 勤務体制、勤務制度の見直し
近年、裁量労働制やみなし労働時間制、フレックス勤務制、そして、サテライト勤務やテレワーク、育児や介護を対象とした短時間勤務制など、勤務のあり方を柔軟にする制度や施策が拡充されつつある。働く人々のライフスタイルや労働に対する価値観の変化、業務の高度化、複雑化などに伴い、働き方にも様々な形態が求められるようになっているが、快適さの観点から考えた時には、やはり「柔軟性があり」「自ら選択できること」が制度設計、施策実施上の重要ポイントと思われる。
2施策、対応策事例
● ノー残業デー、ノー残業ウィークの設定、早帰り運動・キャンペーンの実施事例。また、成果を落とさずに残業削減成果があった従業員に対しては、賞与評価にて加点し還元する方法等。
● 残業管理体制の変更事例として、事前届出制、許可制の導入、残業管理シートの導入。また、退社 時間を朝礼で宣言し、時間意識を高める取り組み事例。
● 裁量労働制、変形労働時間制、フレックス勤務制など柔軟な勤務制度の導入事例。あるいは、テレ ワーク、サテライト勤務などの導入事例。
● シニア人材の活用による労働負荷の軽減。百貨店や銀行などでのロビースタッフ、アミューズメン ト施設におけるシニアスタッフ導入事例。
● 業務あるいは業務プロセスの改善による負荷軽減として、業務改革委員会やプロジェクトを立ち上 げ、業務自体の廃止、効率化改善、プロセス改革の他、会議の見直し、資料の見直し、メールの見 直しなどを行い、業務量を削減する取り組み事例。
[出典元]
平成22年度職場の心理的・制度的側面の改善方法に関する調査研究委員会報告書(厚生労働省・中央労働災害防止協会)
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