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領域4 処遇

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1 「職場の快適さ」と「処遇」の関係

(1)概説

人事上の処遇は、通常、報酬及び昇進、昇格などによる職位、職階の他、待遇面全般を示すものであるが、快適職場調査では、主に、報酬面とその決定のあり方に焦点を絞った項目設定をしている。ハーズバーグが、動機づけ・衛生理論の中で、金銭的な報酬は動機づけ要因ではなく、衛生要因、つまりそれが満たされていない場合は、不満要因になると言っているが、確かに報酬や処遇に満足できていない場合は、快適さが損なわれている場合が多い。報酬面は、金額の多寡もさることながら、それが評価に基づくものであることに意味がある。

つまり、高い報酬を得ていることだけが快適さの理由なのではなく、その報酬が評価に基づいていることが、自らに対する承認や自分の存在価値の証として、大きな意味を持つと考えられる。報酬水準は、まず第一に事業の収益性に基づくものと思われるが、その他、利益還元に関する経営者の考え方、業界・業種や地域水準、労使間の交渉などにも左右される。よって、全体ベースの引き上げは容易ではないが、総原資の中の配分のあり方には改善工夫の余地があるだろう。報酬配分は、基本的に評価によって決定されることから、評価システムの見直しにより、適正な差異がある報酬決定とすることが快適さを高めるものと思われる。このように快適さを高めるためには、ベース水準の引き上げとともに、評価と報酬配分に着目した改善のアプローチを行うことが必要と思われる。

(2)検討における重要視点

ア 労働分配率、業界水準なども考慮した報酬水準の見直し
報酬水準は、前述の通り、企業の収益性に大きな影響を受けることから、経営としては改善に慎重な傾向が見られるが、水準改善による働きがいや快適さの向上によって、生産性が高まり、業績を押し上げることも期待できるものである。報酬水準は、いずれの企業でも企業収益を抜きにして考えることはできないが、従業員への還元、分配に関する労働分配率(全社の付加価値に対する人件費割合)をどのような基準、考え方によって決定するかに関し、再整理を行い、役員報酬との関係なども含めて従業員にとって納得感のある水準設定にすることが望まれる。

イ 評価処遇システムの見直し
この見直しにおいては、「公正性」「納得性」「オープン」「シンプル」「わかりやすさ」などを前提として、「適正な格差」を報酬や処遇に反映することが重要である。また、評価におけるプラス面とマイナス面の「フィードバック」を通じて、はっきり伝え、その先の育成に繋げることも大切である。評価、処遇は、組織に所属するメンバーにとって、最も重要で快適さ、働きがいを大きく左右するテーマである。よって、評価にかかわる一連の制度や手続フローを見直し、上記要素を満たす姿に近づけることが、従業員の納得度、満足度を高め、快適さの向上につながるものと思われる。また、どういう状態になれば報酬が上がるのかを、従業員に「見える化」し、従業員の取り組み努力や評価との繋がりをわかるようにすべきであろう。

ウ 評価制度の運用改善
制度には、ハードとしての仕組みとソフトとしての運用があるが、評価制度でより重要なのは、制度自体の完成度や先進性ではなく、有効に運用できるかどうかである。いかにハードの仕組みが優れていても、適用される現場において、目的に応じた適正な運用が行われなければ意味はない。その運用がしっかり行われるかどうかは、現場でわかりやすく実際に運用しやすいシンプルな仕組みであるか、マネジメントレベルや自社の業務特性に適合した仕組みであるか等が重要であり、さらに、公正な評価運用を担保するために、評価者の評価システムの理解と評価能力の向上が必要である。これらにより、評価の適正運用が行われることで、公正さ、納得性が確保された評価が可能となり、従業員の快適さの向上につながるものと思われる。

2施策、対応策事例

特筆すべき業績に対し、不定期にボーナスを支給する。また、上長判断ではなく、同僚推薦によるボーナス制度の実施事例。

プロフィットシェア(組織全体の業績を受け、業績結果に応じた配分原資から役職や年齢等の定性的指標ごとに一律に支払われる賞与)の考え方に基づく利益還元賞与制度導入の事例。

多面評価を導入し、直属上司の評価ウェイトよりも周囲や関係部署のメンバーによる評価ウェイトを高めている事例。

公正な評価に基づき、報酬の適正な格差をつけることを目的とした目標管理制度、コンピテンシー評価、行動評価などを導入する事例。

働きや地位に見合った公正、適正な評価を実現するために、管理者の評価力を向上させるための考課者訓練を実施する事例。


[出典元]
平成22年度職場の心理的・制度的側面の改善方法に関する調査研究委員会報告書(厚生労働省・中央労働災害防止協会)