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内田洋行グループ(東京都中央区)

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内田洋行グループ
(東京都中央区)

(左から3人目が舟久保さん) 株式会社内田洋行は、1910年創業。民間・公共向け環境構築関連事業、民間・公共向けICT関連事業などを手がけている。内田洋行グループ22事業所が加入している内田洋行健康保険組合は、内田洋行グループの健康保険組合として、1971年設立。被保険者数は3,783人、被扶養者数は3,170人(2020年4月1日現在)。
 今回は、内田洋行健康保険組合の保健師で、医学博士でもある舟久保恵美さんを中心に、内田洋行グループのメンタルヘルス対策などについてお話を伺った。

健康保険組合がグループ事業所のストレスチェックを一括して共同実施することによって、小規模の事業所もストレスチェックを実施しやすくなる

最初に、ストレスチェック制度の実施状況についてお話を伺った。

「内田洋行グループでは、医療職(保健師)を当健保に配置するという体制をとっており、ストレスチェックは、加入している事業所の委託を受けて、当健保が共同実施するという形をとっています。また、法律上、ストレスチェックの実施義務があるのは従業員50名以上の事業所ですが、当健保では、従業員50名未満の事業所についても希望があれば実施しています。現在は18事業所、約3,500名を対象に、各事業所の担当者と協力しながら実施しています。」

「ストレスチェックの項目は、現在は“職業性ストレス簡易調査票(57項目)”のみで実施しています。以前はエンゲージメントや労働生産性に関する項目を加えたこともあるのですが、経営層や管理職に結果を説明すると、どうしてもエンゲージメントや労働生産性の項目に気をとられてしまい、本来のストレスチェックの趣旨から外れてしまうと考え、現在は基本の項目のみで実施しています。」

他の項目をあえて加えず、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」のみでストレスチェックを実施することにより、ストレスチェック本来の趣旨を理解しやすくしている。

ストレスチェック結果を分析することによって、高ストレス者が全体に比べて頭痛や腰痛などの体の痛みを抱えていることを発見。様々な方法で体の痛みにアプローチすることによって、「気づき」につなげる。

次に、ストレスチェック結果の活用について、お話を伺った。

「もともと私が“痛み”について研究していたこともあり、2017年度のストレスチェックの結果を“痛み”の観点から分析してみることにしました。具体的には、ストレスチェック項目の中の、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、に関する項目について、“しばしばあった”、“ほとんどいつもあった”と回答した人の割合を、全体と高ストレス者で比較しました。すると、高ストレス者の方が全体に比べて“しばしばあった”、“ほとんどいつもあった”と回答している割合が4項目すべてで高く、特に、腰痛は2.4倍、頭痛は4.1倍も高いということがわかりました。(【図1】参照)」


【図1】ストレスチェックの結果

「高ストレス者の方に対しては、医師による面接指導を勧奨することになっていますが、『ストレスが高いようなので面談を受けませんか』と案内しても、なかなか手を挙げてくれないのが実情です。しかし、今回の結果から、高ストレス者の方の大半が体の痛みも抱えていることがわかりましたので、体の痛みからアプローチすることによって、ストレスの改善や労働生産性の向上につなげることができるのではないかと考えるようになりました。」

「ストレス対策として、体の痛みに注目して様々な方法を試しています。1つは、社員全体へ配信する健康情報のなかに高ストレス者の方は体の痛みを抱えている割合が高いという説明と『痛みが出ていませんか?』というメッセージを入れたことです。これにより、『頭痛がする』、『病院に行った方がいいでしょうか?』といった相談が以前より増えました。」

「もう1つは、腰痛や頭痛などの慢性痛予防に関するアプリの利用促進です。腰痛と一言でいっても、腰を曲げたときに痛くなる人、腰を伸ばしたときに痛くなる人など、実はいくつかのタイプがあり、それによってケアの仕方も異なります。このアプリは、自分の腰痛のタイプがわかるようになっていて、タイプに合わせたセルフケアの方法も配信されますし、専門の理学療法士への個別相談もできるようになっています。たとえ今痛みがない人でも、いつ痛みに悩まされるようになるかわからないので、いつでも相談できる環境があることが大切だと考えていますし、多くの社員に使ってもらえるよう普及活動を行っています。」

「また、加入事業所に訪問して、頭痛や腰痛に関するセミナーも実施しています。現在は新型コロナウイルス感染症の関係で集合型研修の実施が難しい状況ですので、こうしたセミナーを5分程度の動画にしてアーカイブ形式で、社員に見ていただけるようにしています。動画は、ポータルサイトに掲載しているほか、家庭でご家族と一緒に見ていただくこともできるように、動画のURLをメールで案内しています。健保組合は被扶養者も対象ですので、ご家族で慢性痛対策に取り組んでいただけたらと考えています。」

社員へのメッセージを工夫するほか、慢性痛予防アプリの導入やセミナーの展開など、様々な形で体の痛みにアプローチすることを通じて、ストレスも含めた健康に取り組むきっかけを提供している。

職場のストレス対策のアプローチの一つとして、体の痛みなど身近な症状に着目して取り組む

最後に、現在注力している取組みについて、お話を伺った。

「今回のストレスチェックの結果から現状を俯瞰して見たときに、会社の産業保健スタッフや管理職が、体の痛みに関する知識を身につけ、労働生産性やストレスと体の痛みとの関係をもっと理解する必要があるのではないかという思いを強く持ちました。そして、こうした知識を広めるための活動がしたいと考えるようになり、大学の先生や専門業者の方の協力を得て、2018年度に“保険者慢性痛予防コンソーシアム”を立ち上げました。」

「2020年には、日本運動器疼痛学会のプロジェクトとして、慢性痛に関するeラーニングを制作しました。内容としては、産業保健スタッフ向け、管理職向け、従業員向けの3種類を作成し、それぞれのターゲットに知っていただきたいことを盛り込みました。」


【図2】慢性痛に関するeラーニング単元一覧

「特に、管理職の方々に、そもそもなぜ慢性痛の対策が必要なのか、どれだけ労働生産性に影響があるのかということを理解してもらう必要があると考えています。痛みは主観的なものですので、周りに理解してもらうことはなかなか難しいです。管理職から『腰痛くらいあっても、みんな頑張っているんだから』と言われてしまうと、当事者はとてもつらいですし、反対に、管理職の理解があることで働きやすい職場につながると考えています。女性活躍の観点から考えてみても、月経の周期に応じて頭痛が出るという方もいますので、そうしたことを職場や管理職が理解することが女性活躍につながっていくとも考えています。」

「また、健保の立場としては、医療費の面からみても、慢性痛の予防は大切だと考えています。肩こりや腰痛に対処するために接骨院・整骨院を利用する方がいますが、接骨院・整骨院も健康保険を使いますので、自分でケアできるようになってもらえれば医療費削減につながります。経営層や管理職にそうした面も知っていただきながら、産業保健の取組みを広げていきたいと考えています。」

「作成したeラーニングは、2022年以降、日本運動器疼痛学会のホームページから誰でも無料でダウンロードしていただけるようになる予定です。特に、医療職のいない会社でぜひご活用いただければと考えています。1コンテンツ5分程度で作成していますので、安全衛生委員会の中で流していただいたり、すき間時間にご覧いただいたりすることを願っています」

体の痛みに関する知識を身につけ、ケアに取り組むことは、ストレスの改善だけでなく、働きやすい職場や女性活躍推進、医療費削減にもつながる。

【ポイント】

  • ①ストレスチェック結果の分析から重点項目を設定することによって、高ストレス者へのアプローチの幅を広げることができる。
  • ②取り組みやすい身近なストレス反応からアプローチすることによって、気づきにつながり、高ストレス者への支援が届きやすくなる。

【取材協力】内田洋行グループ
(2021年1月掲載)