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株式会社豊田自動織機(愛知県刈谷市)

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株式会社豊田自動織機
(愛知県刈谷市)

 株式会社豊田自動織機は、トヨタグループ創始者である豊田佐吉翁が発明した自動織機を製造・販売するために1926年に創立された会社で、現在は、自動車・フォークリフト等の産業車両・繊維機械等の製造・販売等を行っている。
 国内では愛知県に拠点を置き、海外を含め60,000人を超える従業員数である。
 今回は、安全健康推進部部長の藤田賀之さん、健康管理室健康支援グループの長谷川真次さん、保健師の深谷さくらさん、渡辺真希さん、長草工場の安全・総務部総務グループの外山遥一朗さん、技術部デザイン室モデルクリエイト課課長の舟橋篤年さんなどからお話を伺った。

その職場で常日頃から根付いている考え方や手順に沿って、職場環境改善活動を進めると動き出しやすい

最初に、ストレスチェック実施の状況および職場環境改善の取り組みについてお話を伺った。

「トヨタグループ17社で構成している“全豊田安全衛生研究会”は、各社の相互研さんや知見・ノウハウ・技術の共有・伝承をねらいに1949年に発足し、約70年近くにわたり活動を継続しています。経営層から部長・室長などの管理職まで関わり、共通の課題や取り組みについて議論しています。研究会の中の健康管理部会に“メンタルヘルス情報連絡会”があり、そこでは、ストレスチェック制度への取り組みやメンタルヘルスに関する情報を定期的に共有しています。メンタルヘルス対策に係る目標値として、新規休業や再発休業の発生率を下げることなどを掲げ取り組んでいます。」

「当社では、ストレスチェックを2016年から開始し、今年で4年目になります。法定対象者のほか、集団分析後の職場環境改善活動につなげるため、派遣社員にも任意での受検をお願いしています。質問項目は57項目の“職業性ストレス簡易調査票”と疲労蓄積度に関する13項目、そして『健康相談を希望しますか』の質問を加えて実施しています。実施後、個人結果シートには、各自の行動変容につながるよう、特徴的な項目の説明と健康相談を促すメッセージを載せています。」

「さらに、ストレスチェックを活用した一次予防活動をより効果的なものにするため、ストレスチェック結果のデータ分析とそれに基づく職場環境改善活動の仕組みづくりを外部のコンサルタントから支援を受けながら進めています」

「当社における仕事の進め方は、私たちが“8ステップ(エイトステップ)”と呼んでいる考えに沿って行われています。トヨタグループの多くがこの手法を用いています。問題を明確にし、ブレイクダウンして問題点を特定後、達成目標を決めます。次に現地現物で真因を考えぬき、効果的な対策を絞り込み、やりぬくことが求められています。産業保健活動を展開する上でもこの手法を用いると、現場の受け入れも良いようです。(【図1】参照)」

【図1】

「基本的な流れは、各職場の部門長に集団分析結果と共に職場環境改善の基本的な考え方をフィードバックし、それぞれでの自主改善を促します。その上で、外部からの支援を必要とする部署に対しては、健康管理部門などが個別支援を行う流れになります。(【図2】参照)」

【図2】

「健康管理部門が職場環境改善支援に取り組む際に重視したことは、次の3点です。
1つ目は、健康管理部門と職場が共通認識を持ち、同じ方向性を持つことです。そのために、職場のメンタルヘルス活動の必要性(社会的背景)について改めて学び直し、法令面でも職場環境改善活動が推奨されていることを理解しました。2つ目は、集団集計結果から職場の課題を考えることができるよう私たち自身の能力を向上させることです。そのため、外部コンサルタントから教育を受けました。3つ目は、職場環境の改善策を部門長自身に考えてもらうように心がけ、私たちはそのために必要なサポートをすることです。押しつけの改善策では定着しません。また、有効な改善策につなげるためには、本音をひき出すことが重要になります。そのため、職場集計結果から職場の現状を説明した上で、部門長が考える具体的な理想職場を整理し、そのギャップを埋めるヒントになりそうなことを伝えながら、改善策を考える支援をしました。『課題に対してどう思うか』といったありきたりな聞き方だけでは本音は引き出せず、有効な改善策にはつながりません。」

「各職場へフィードバックするストレスチェックの集団分析結果には、“職業性ストレス簡易調査票”から示される職場のストレス反応の6項目、ストレス要因の9項目、周囲の支援の4項目の合計19項目に対して、職場ごとの平均値が示されています。経年結果と合わせて、尺度ごとに説明と職場でできる改善のヒント集をまとめており、部門長はいつでもイントラネット上で確認できます。今後、各職場で職場環境改善活動の充実に向けて、イントラネット上に当社内の過去の好事例などをさらに蓄積していきたいと考えています。」

「その後、要望のある部署に対しては、健康管理部門が人事総務部門、外部コンサルタントと協業で個別支援を行います。個別支援では、まず集団分析結果から読み取った内容と、そこから想定されるリスクを書き出します。そして、私たち支援者はそれらを読んだ上で、ヒアリングすべき内容を決め、実際のヒアリング結果をもとに、その職場の課題/真因を示します。その上で、目標を定め、対策案を作成していきます。対策の方向性を私たち支援者から職場の部門長に提案した上で、各職場の中であるべき姿に向けて実際の活動計画を自分たちで話し合って決めていただきます。そして、その活動計画と実際の活動を、後日私たち支援者に報告してもらうといった流れです。(【図3】参照)」

【図3】

職業性ストレス簡易調査票”の尺度ごとの説明と、自社の事例をもとにした職場でできる改善のヒント集をまとめ、社内のイントラネット上で確認できるようにしている。また、その職場で常日頃から根付いている考え方や手順に沿って、職場環境改善活動を進めると動き出しやすい。健康管理部門などが職場環境改善の個別支援を行う際は、事前に集団分析結果をもとに職場の課題を想定した上で、対象職場の部門長などに対してヒアリングを行っている。職場環境改善の活動計画は、健康管理部門などから対策案を示しながらも、活動計画そのものは、対象職場で考えてもらうようにする。

職場環境改善活動は、1回実行して終わりや1つの職場だけで終わりではなく、他の職場にも横展開して、恒久的な対策として定着させていくことが重要

続いて、実際の職場環境改善の支援事例のお話を伺った。

「ストレスチェック実施1年目は、当社の改善事例を多く集めることを目的に、健康管理部門が率先して、職場環境改善の個別支援を行いました。その中の事例を1つご紹介いたします。製品のデザイン開発の部署です。デザイナーの描いたスケッチや簡単な口頭指示等をベースに、図面の無い状態で粘土などを使い、リアルモデルを作るといった業務内容です。モデラーと言われています。顧客やデザイナーから締切直前まで、『もうちょっとこうしてほしい』という要望があり、なかなかモデルが決められないため、事前に立てた日程計画が守れず、皆ストレスを抱えていました。さらに、この業務は製品開発の最初の段階であるため、ここで遅れをとってしまうと、後の段階の設計や製造なども遅れることになり、納期のプレッシャーもかかっていました。ストレスチェックを実施した時期がまさにこの繁忙期だったので、高ストレスの結果が出ても仕方がないと現場では考えていました。」

「しかしながら、今回、個別支援を受ける中で、集団分析結果を健康管理部門や総務部門の担当者と一緒になって分析したことで、職場として足りていなかった部分にはじめて気づき、納得が得られました。これまでの『忙しいのは仕方がない。忙しい時期が過ぎればみんな元気になるはずだ』という思いは、表面しか見ておらず、要因分析ができていなかったことに気づかされました。」

「健康管理部門など支援部門で、まず集団分析結果を読み取りました。結果を見ると、そもそも身体はあまり使わない業務にも関わらず、“身体愁訴”が高く示されていました。身体に負担があると共に、“活気”も低く、“上司や同僚への相談”も難しいため、今この職場ではやらされ感が強く表れていると分析しました。さらに“働きがい”や“仕事の適性度”が低く、“上司や同僚の支援”が足りないということも表れていました。“仕事の適性度”が低いことに対しては、自社の対策ヒント集を読むと、『褒められていない、できて当たり前だと思われている』ということで、周囲から自身の評価が正しくされていないことへの不満があることが想定されました。精神的疲労に起因する身体的負担と疲労感、そしてやらされ感がある。さらに、業務実績が評価されていない、満足していないことを聞き取りのポイントとしました。このように、データから課題の予測を立て、職場の管理者に対するヒアリングにのぞみました。」

「健康管理部門など支援部門による管理者へのヒアリングでは、部下であるモデラーの実力を信頼し、仕事の進め方を任せていることが分かりました。また一方で、管理者(デザイナー)の思いがしっかりと伝わっていない点が見えてきました。その後、モデラーにヒアリングをしたところ、造形のセンスを問われて採用されていることもあり、自分たちにしかできない業務だという意識がとても高いことが分かりました。そして、しっかりとした製作物を作りたいが、ツールが足りないため、思いどおりの物ができず、その事が管理者(デザイナー)に伝わっていないことへの不満があることが分かりました。このように、上司も部下もお互い良くしたいという思いがありながら、認識がすれ違っていることが見えてきました。集団分析結果のデータだけでは分からず、実際に現地で職場に寄り添い本音の対話を行ったからこそ分かったことでした。(【図4】参照)」

【図4】

「認識合わせをするという課題が出てきたことで、健康管理部門から、いくつかおすすめの対策案を示しましたが、実際にどのような対策を行うかは職場で考えてもらうことにしました。結果、丸1日全員が職場を離れて、コミュニケーションに関する研修を受けることになりました。前半はお互いの信頼関係をつくるため様々なオリエンテーリングをして、職場の一体感を確認しました。そして後半は本音ベースで、職場で今後目指すことを話し合いました。最終的には、モデラー個々人の個性を認めた上で、同じ方向を向かないといけないことを理解し合い、自身および職場の役割、上司にしてほしいこと、将来像について認識合わせをすることができました。そして、管理者もメンバーのモチベーションを高めるため、日頃から対話をしながら仕事を進めていくことを重視することにしました。また、業務目標を数値で示すだけでは無く、各自がイメージしやすいように丁寧に話をするよう心がけることにしました。」

「職場で長年課題となっていたことでしたが、本音の議論ができてとても良かったです。管理者が中心となりながらも、健康管理部門と総務部門とで、アイデアを出し合い、提案や相談をしながら事前に計画や準備をしっかりとしたことが大きかったと思います。また、職場でできることは率先して行ってもらい、元々ある仕組みを現場の中でさらに改善し変えていくことで、より良く運用されていくと思います。」

「研修などの対策の結果、次年度のストレスチェックでは、“仕事の量や質”はあまり変わらず業務負担を感じている状態は続いていましたが、“上司や同僚の支援”は改善し、“周囲からのサポート”の向上が見られました。さらに、“仕事の適性度”や“働きがい”も改善されました。つまり、負担を感じる中でもモチベーションは高く仕事ができているという結果が得られたということです。」

「職場環境改善活動の主体としては、当初は、外部コンサルタントを含めた健康管理部門の支援による“専門家主導型”で、総務部門と共に取り組んできました。今後は、職場の管理者による“管理監督者主導型”や職場の従業員全員が関わる“従業員参加型”など職場が主体となった取り組みを目指していきたいと考えています。職場での日常管理の中で、職場環境を良くすることを考えつつ、健康管理部門と総務部門にも気楽にサポートを依頼してもらえる姿を目指しています。そのためには、職場環境改善のための効果的な施策を横展開し、職場が自律して自主的に活動できるようなツールとして充実していかなければならないと考えています。」

「そのツールの1つとして尺度別にまとめた当社独自の対策ヒント集があります。実際に個別支援を行ったり、面談などをしたりして、事例を収集してきました。内容も疲労感や健康問題だけに特化するのではなく、コミュニケーションなど職場風土に関する視点も含めています。ただ、より効果的に職場で活用していただくにはさらなる工夫が必要です。そのためには、人事総務部門とのより一層の連携が大切だと考えています。さらに、工場では安全衛生部門との連携も大切です。職場環境を良くすることは、健康面や安全面だけではなく、人事労務全体の課題だということをもっと明確にして、これらの部門が一体感を持って活動する体制がつくられると、改善活動もより良くなると思います。また、問題解決のステップによる成果を定着させるためにも、1回実行するのみとか、1つの職場のみとかで終わらせるのではなく、他の職場にも横展開し、恒久的な対策として定着させていく必要があると考えています。」

職場に元々ある仕組みを現場の中でさらに改善していくことでより効果的に運用されていく。また、健康管理部門などが中心となって、職場が活用できるツールを充実させていくことにより、長期的には職場が自主性をもつように促していくことが大切である。

【ポイント】

  • ①ストレスチェックの調査票には、「職業性ストレス簡易調査票」の57項目に「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」の項目、並びに健康相談の希望の有無に関する項目を付け加えることで、実施後の健康相談につなげている。
  • ②「職業性ストレス簡易調査票」の尺度ごとに説明と、自社の事例をもとにした職場でできる改善のヒント集にまとめ、社内のイントラネット上で確認できるようにすることで、職場が自律した自発的な改善活動につなげている。
  • ③その職場で常日頃から根付いている考え方や手順に沿って、職場環境改善活動を進めると動き出しやすい。さらに、職場に元々ある仕組みを現場の中でさらに改善し変えていくことでより良く運用されていく。
  • ④健康管理部門が職場環境改善活動を支援する際に、職場に寄り添い本音の対話から真因をつかむようにすることで、有効な改善策につなげている。

【取材協力】株式会社豊田自動織機
(2019年9月掲載)