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専門学校YICグループ(山口県山口市)

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専門学校YICグループ
(山口県山口市)

 専門学校YICグループは、1990年に山口情報ビジネス専門学校(現YICビジネスアート専門学校)を開校後、現在まで山口県内5市に7校、そして京都市に3校の学校がある県内最大の専門学校グループである。専門学校以外にも、幼稚園や保育園、介護施設なども運営している。
 YICグループ山口県内全体の教職員数は、約250人。YICスタジオには約60人の教職員が在籍している。
 今回は、理事・統括本部長の岡村慎一さん、管理センター総合サポート室の山下清可さん、管理センター総務室の白井理恵さんの三人からお話を伺った。

ストレスチェック実施にあたり、衛生委員会や相談窓口の設置、研修会などまずは職場のメンタルヘルス対策の基本施策を行う

最初に、メンタルヘルス対策の体制、およびこれまでの経緯と状況について、お話を伺った。

岡村さん
「職員は一般的な学校の事務スタッフだけではなく、総務・人事や、広報、高校への学生募集の営業や、企業への就職先に対する営業など役割は多様です。社会人向け職業訓練に関わっている職員もいます。」

「日頃の学生支援の中で、気になる学生が増えてきたことが、メンタルヘルス対策に取り組むきっかけの一つになりました。気になる学生をケアしている担任や周囲の教員にも負担がかかることにもなりますので、教職員を含めたトータルでのサポートが必要だと考えました。そして、2015年に山下さんを採用して、本格的にシステム作りをしていきました。その際、学生や教職員といった区別はなく、日々の生活や仕事で困っている人、不安や悩みがあって誰かに話しを聞いてほしい人などが、気軽に相談できる場所をつくろうとの思いから、総合支援という部署を作りました。当校の規模で看護師にカウンセラー的役割を持たせて常勤で雇うといった話は、この業界では、あまり耳にしません。体制と制度ができた結果、現在では、学生にも直接還元できていると思います。」

山下さん
「さらに今年の春から“総合サポート室”という名称に替わり、学生や教職員だけでなく、介護施設や幼稚園・保育園なども加わったYICグループ全体を支援していくことになりました。私を含め2名の看護師が常勤で対応しています。産業医も1人います。」

「2015年にここのYICスタジオの労働者が50人以上になったことで、新たに衛生委員会を立ち上げました。この衛生委員会では、当校だけではなく、労働者10~20人単位の他の事業所も含めて、グループ全体の課題を検討しています。“こころの耳”のコンテンツは、日頃からよく利用しています。教職員への教育という点でEラーニングの“15分でわかるセルフケア”などを衛生委員会などで紹介しています。さらに、ストレスチェック制度の義務化がその年の12月に迫っていたので、衛生委員会を通じて、準備を進めていきました。」

「相談窓口としての役割では、メール、電話、対面で対応しています。学生からは最初、メールや電話で相談を受けた後に、必要時に面談を行っています。教員に関しては上司などが気になった時に連絡をもらい、話を聞いてみる必要性があれば、その後、本人と連絡をとって面談することもあります。教員が元気でないと学生も元気になれないという点で、皆でサポートする仕組みにしています。また、教職員からの相談では、『この先生はこれからどのように生きていきたいのか』と感じるような今後のキャリア形成に関する内容の場合、 “セルフ・キャリアドック”につなげることもあります。」

岡村さん
「別の窓口である総務室の白井さんにつなげ、希望するキャリアコンサルタントを指名して、相談対応することになります。また、能力開発やキャリアプランニングよりも前段階で、過去の過程の整理が必要な場合は、総合サポート室で先に相談対応することもあります。制度上、“総合サポート室”と“セルフ・キャリアドック”の2つに分けて相談窓口を設けていますが、私たちの間では、守秘義務を守った上で、連携を取りながら、相談者にとって最適な手段を考えています。」

「グループ内にはキャリアコンサルタントが14名います。教員の他、私や広報担当者なども資格を持っています。当校が、職業教育を行う中で、職業教育とキャリア教育が連動していることからも、教職員誰もがキャリアについて精通するようにとの思いからそのようにしています。学生への支援というと、対外的には就職支援の意味合いが強いと思います。そこにキャリア教育という視点をもったキャリア形成支援というものがコアにないといけないと考えています。」

「学校は学生がお客様ですので、学生に出す商品とも言える教員が、常に自分自身で能力開発をし、いきいきかつ伸び伸びと成長していく、自己実現をしている姿を学生に見せることが一番のモデルだと考えています。」

次に、ストレスチェックの実施状況について、お話を伺った。

山下さん
「2016年から毎年8月末にストレスチェックを実施しています。2017年は当グループで働いている全教職員(週30時間以上)199名に実施しました。」

岡村さん
「当グループの関係者である以上、どこにいっても同じ福利厚生・サービスは受けられるように公平性を担保したいという思いで、全教職員に実施しました。」

山下さん
「実施者は私が引き受けています。ただ“ストレスチェック実施促進のための助成金”を申請した事業場においては、社外の実施者が必要でしたので、ストレスチェックの外部委託機関の保健師に共同実施者を依頼し、医師の面接指導は産業医にお願いしました。」

「質問票は、紙方式で実施しています。教職員の中にはパソコンが苦手という方であったり、介護施設などはパソコンの数が少なかったりといったこともあるので、周囲に見られることなくご自身で素直に回答していただきたいとの思いから、紙方式を選びました。」

「実施の前に、衛生委員会で審議し、産業医からの指導を踏まえた上で、方法や流れについて、衛生委員会で承認を受けました。また、事業場ごとに、質問票をお渡しする前に、ストレスチェック制度や実施方法・体制などについて説明しました。また、ストレスチェック結果は、産業保健スタッフの2人しか見ることができないことも事前に伝えました。昨年の受験率は約98%でした。」

「ストレスチェック実施後、“医師による面接指導”を希望する教職員は昨年・一昨年と該当者はなく、高ストレス結果だった者で、医師面接を受けなくても、社内の相談室のカウンセラーに相談している方もいました。また、グループ内で私が実施者となった事業場では、高ストレス結果だった教職員に対して私からちょっとした声がけを行ったり、一般的な健康相談を行ったりしました。当グループの場合、全体的にストレスチェックの時期に関わらず、日頃からいつでも相談できる仕組みにしており、教職員も不自然には感じていないようです。」

「集団分析結果は、総合サポート室が各グループの事業場に行って、ひとりひとり管理者に対して見方などを説明しました。その上で、職場の環境改善のために使っていただくようお願いしました。その際、『誰が悪いのか』という原因探しはしないように伝えています。当初は、集合研修の形で説明しようという話もあったのですが、それだと他の部門と比較してしまうことになりますし、衛生委員会がある事業場と無い事業場で、改善策の検討や情報発信の方法が異なるので、個別に説明したうえで、考えていただく手段を取りました。」

「今回、ストレスチェック実施にあたっては、独立行政法人労働者健康安全機構の“ストレスチェック実施促進のための助成金”を利用しました。グループの中で、労働者50人未満の小規模事業場である専門学校4事業場と、幼稚園で申請しました。助成金の申請手続きは、事業場ごと様々な書類と申請書が必要なため苦労しました。」

岡村さん
「管理部も経営の視点を持つように言っています。大切な学生からお預かりしている学費の一部を私たち教職員の福利厚生に使うのであれば、有効に使いつつ、手間はかかりますが、行政の各種助成金は申請し、活用するようにしています。」

ストレスチェック実施には助成金制度を利用する方法もある。実施の前には、実施者が事業場に出向いて制度方法など丁寧に説明している。また、集団分析結果についても、管理職に個別に説明することで、自分たちの職場の課題を適切に把握できるよう支援し、職場環境の改善を促している。

集団分析結果を踏まえて、セルフケアおよび職場環境改善の観点から、集合研修のプログラム内容を検討する

最後に、より良い職場環境にしていくための定期的な面談や研修会の開催などについて、お話を伺った。

岡村さん
「教員は一般的に離職率が高い職種です。理由を考える中で、自分の職業的アイデンティティが切り替わる時に、心が少し揺れ動くと『前の職場が良かったな』という事もありますし、『やっぱりこっちに来て良かったな』という事もあると思います。その段階において、ストレスケアを含め、メンテナンスをするスタッフが必要だと考え、新任教員に対しては、自動的に年に4回面談を行う制度にしています。制度化することで、本人にとっても違和感なく、面談することにつながります。何かあってから対処する事後対応が多い中で、何か起こる前に予防面から面談してケアしたいという思いもあります。この制度を継続的に行うことで、山下さんはどの部門に行っても、顔見知りになりますので、他の方々も声をかけやすくなります。“総合サポート室”を通じて相談しやすい環境づくりを目指しています。」

山下さん
「この面談では、“職業性ストレス簡易調査票”から抜粋した質問項目を基にしたアンケート用紙を使っています。新入教員以外にも、この制度では、入社1,2年目や産休育休明け、病気で長期休業明け、糖尿病などの病気を抱えながら働いている教職員など約40人を対象としています。病気を抱えている方以外は、2年間を目安にしています。継続が必要な方は、その後も定期面談を続けることもあります。」

「ストレスチェック後の集団分析結果の活用という点では、教職員を対象とした研修のテーマを考える際の参考にしています。当校は、文部科学省認定の職業実践専門課程ということもあり、年に2回、教職員全員が参加する研修会を行っています。カフェテリア方式で、3~4日間にわたり教職員自身が受けたいものを受けられるようにしていて、必ずメンタルヘルス関連も含めています。昨年のストレスチェック結果では、裁量権があまり無く、コントロール度が低い教職員に高ストレス者が多かったという特徴がありました。そのためセルフケアの観点から、 “ストレスコーピング”、“アサーション”、“アンガー・マネージメント(怒りやイライラとうまくつき合う)”や、“レジリエンスとマインドフルネス”など、学ぶ機会をつくっています。」

岡村さん
「他には、職場環境改善の観点から、チームビルディング研修も行っています。カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、参加者が少人数に分かれたテーブルで自由に話をし、状況に応じて、他のテーブルと参加者を入れ替えながら、話し合いを発展させていく“ワールドカフェ方式”で、ワークショップを行いました。当校の教職員でいることのマインドセットをテーマに、皆でワイワイ話しながら、共有するところから始めました。日頃の声掛けが必要なことやリーダーシップに関して、自分たちの夢や将来のYICについてなどいろいろなテーマがあり、教職員同士、各々が持っているポテンシャルを互いに活かしていこうといった話になりました。ワールドカフェは、定期的に実施しており、教職員全員が集まる年に、一度総会の時に行ったこともあります。」

山下さん
「その他、定期研修会の中で、“職員同士の温かい人間関係づくり”、“職場のコミュニケーション向上(性格検査を用いて自分自身の強みを知り他者を理解する)”などを行っています。またキャリア研修も様々な種類を行っています。研修講師は、岡村本部長や私も含む当校で働いている教職員や、紹介で外部から来ていただいた講師もおり、多岐にわたっています。」

岡村さん
「山下さん以外にも教職員の中に看護師やキャリアコンサルタントなどのスキルを持っている者もいるので、彼らの資産を共有するという意味で、研修講師をしてもらうことがあります。」

「当グループのこれまでの卒業生は約15,000人です。山口県の人口は140万人ぐらいですので、100人に1人が当グループの卒業生と結構な数ではあります。卒業生は、県庁や市役所の職員であったり、福祉施設における介護福祉士や社会福祉士であったり、病院の看護師や理学・作業療法士、保育園の保育士など県内のさまざまなところで働いています。当グループからすると彼らに対するアフターケアも地域貢献の一つだと考えています。そのため、社外の自治体や病院、企業からの研修依頼も積極的に受けています。」

「YICの教育理念は、『地域の発展に貢献する 地域の皆さんのための教育機関』です。経営理念の中で、『私たちが教職員の幸福を願い、限りない努力を惜しまない』というフレーズがあります。私は、経営層の立場として、最後は教育理念に立ち返るように心がけています。私たちは教職員の幸福を願う、そのために地域貢献をしていく、その結果、組織も皆もハッピーになれるのではないかと。この教育理念に落としこめるかどうかを基軸にしています。」

新任教員に対し、年4回の定期面談を行うことが、相談しやすい環境をつくり、予防的支援につながる。また、集団分析結果を踏まえて、セルフケアおよび職場環境改善の観点から、集合研修のプログラム内容を検討している。

【ポイント】

  • ①ストレスチェックの実施は、全従業員に公平性を持たせるために、50人未満の事業場も含めて実施する。
  • ②ストレスチェック実施促進のための助成金制度を利用する方法がある。
  • ③従業員の中からキャリアコンサルタント資格の取得を推奨し、キャリア教育という視点をもったキャリア形成支援を目指す。
  • ④集団分析結果を踏まえて、セルフケアおよび職場環境改善の観点から、集合研修のプログラム内容を検討する。
  • ⑤相談しやすい環境づくりによって、日頃から予防的支援を行う。

【取材協力】専門学校YICグループ
(2018年7月掲載)