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カルビーポテト株式会社(北海道帯広市)

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カルビーポテト株式会社
(北海道帯広市)

 カルビーポテト株式会社は、カルビー株式会社の原料部門が分離独立して1980年に設立。ポテトなどの農産物の購入、貯蔵、物流、販売のほか、ポテト加工および製造販売を行っている。
 従業員数は約484人。その内、本社の事務関係に約57人、収穫・原料調達などの産地業務関係が約165人、工場が約226人(派遣社員を除く)。有期契約の準社員が多い。
 今回は、経営推進本部人事総務管理部部長の冨川仁さん、外部EAP(従業員支援プログラム)機関のカウンセラーである佐々木信三さんのお二人からお話を伺った。

 

「ストレスチェック」結果と「コンプライアンス意識調査」結果を合わせて組織分析し、職場環境改善のグループワークにつなげる

最初に、メンタルヘルス対策全般とストレスチェック制度への取り組みについて、冨川さんからお話を伺った。

「健康管理体制としては、1名の産業医が、何かあれば出張し、臨機応変に対応しています。また、東京の営業部門はカルビーグループ全体の統括産業医が担当しています。その他、健康保険組合には、保健師がいてそちらでも相談対応しています。」

「カルビー株式会社に在籍していた時は、2010年以降、私が異動する先々で、 “心の健康づくり計画”を作成してきました。その時作成した“心の健康づくり計画”に基づいて、講演や各種改善施等をしていく中で、上野労働基準監督署長より表彰されたこともあります。その後、2016年にカルビー株式会社本社人事部に戻ってからは、カルビーグループ全体の“心とからだの健康づくり計画”を作成しました。健康保険組合、各地域の産業医及び安全衛生委員会と連携する体制、電話相談窓口等事業場外資源を示しました。」

「2017年4月にカルビーポテト株式会社に異動してからも、まずは“心とからだの健康づくり計画”を作成し社内周知しました。今年度版のカルビーグループ全体の計画を鑑みています。“ストレスチェック”と“コンプライアンス意識調査”の実施、結果に基づくフィードバックとワークショップ、セルフケア研修、ハラスメント防止研修実施の他、労働時間をきちんと管理するといった内容です。また、人事部門担当として従業員と直接面談をし、一人一人のモチベーションを高めていきたい等を宣言しました。これらは、今年度の実施事項として社長名で示しています。また、私は、コンプライアンス部門も担当していますので、これらの内容ともリンクしています。」

「カルビーグループとしては、10年ほど前からストレス診断を実施しておりました。これまでのストレス診断は個人への対応が中心でした。ただ、今回、法に基づいたストレスチェックを実施するにあたっては、個人だけではなく、組織がきちんと機能しているかどうかまで把握したいと考え、利便性や改善施策提案など幅広く対応できるよう、外部業者5社から詳しく話を聴いた上で、新しい外部EAP機関にお願いしました。集団分析結果は、厚生労働省の指針に則り、10人以上の部門でないと診断結果を出さないように決めました。」

「“ストレスチェック”を実施する際に、追加質問項目を入れて、ダイバーシティ活動、地域社会貢献活動に関しても確認しています。また、“コンプライアンス意識調査“の質問項目の中で、一番重要視しているのが、“意識コミュニケーション”関連です。意識コミュニケーションに関する質問は、例えば、『職場が組織として自ら改善しようとする雰囲気があるか』、『上司が中心になってコミュニケーションの維持向上を図っているか』、『無神経な言動や人権侵害による被害弊害が無いか』といったものがあります。“ストレスチェック”と“コンプライアンス意識調査”の集団分析結果をみると、ストレッサーや組織と個人の関係性などが深く関わっていることが多々あります。」

「カルビーグループとしては、ストレスチェック義務化を鑑み、義務化前と内容を変更したうえで、2016年10月にグループ全体で実施しました。受検者は正社員だけではなく、準社員、嘱託社員まで含んでいます。その後、個人結果の通知や、産業医による面談などを行いました。2017年4月、私はカルビーポテト株式会社への異動となりました。正式着任前の2017年3月に部長以上の経営層に、ストレスチェックの集団分析結果と全体の傾向や状況をフィードバックしました。また、“心とからだの健康づくり計画”に基づき、5月には外部EAP機関のカウンセラーである佐々木さんを講師として、帯広工場の工場長、課長、主任、班長等を対象としたフィードバックとグループワークを行いました。」

「その後、各地域においては、部署ごとに私が講師となって行いました。まず、ストレスチェックの集団分析結果と、ストレスチェックとは別に実施した“コンプライアンス意識調査”結果をフィードバックします。それらの結果を受けて、グループワークを行い、部署ごとに“意識改革行動宣言”として、行動規範、自分たちの意識改革、行動計画などをまとめて宣言してもらいます。『メンバーの話をよく聞きます』、『きちんと挨拶します』などがありました。宣言文は各部署で、最も目につくところや人通りが多いところに掲示するように伝えました。また、本社や帯広工場では、全ての部門の宣言文を、お客様が来られる会議室や通路にも貼り出しています。さらに、イントラネットにも掲載し、社員は誰でも見られるようにしています。」

「カルビーグループでは、以前から“オアシス運動”と呼ばれる、あいさつ運動を行っています。今回の取り組みに合わせて、もう一度原点に返る意味からも推奨しています。特に、日常の業務では、チームワーク活動が重要で、仲間の力を借りることが多々あります。『一人で仕事はできないよね。だから周囲から支援を得たら、“ありがとうございました”と言おうね』と日頃から伝えています。中村社長が自ら作成された“チームワークの良い職場”というスライド資料は、チーム会議等で確認し合い、皆で成長しようと考える仕組みをつくっています。『おはようございます』、『ありがとうございます』、『失礼します』、『すみません』の頭文字をとったオアシス運動も重要で、今年4月からは『たかがあいさつ、されどあいさつ』のメッセージを掲げて継続活動展開中です。」

ストレスチェックによる集団分析結果だけではなく、コミュニケーションやコンプライアンス関連などの他の意識調査結果と合わせて組織分析することで、現状をより良く理解することができる。また、職場環境改善のグループワーク後に、部署ごとに意識改革行動宣言を示し、目立つ場所に掲示することで、行動化につながる。

グループワークでは集団分析結果のみにこだわらず、現在の職場状況に焦点を当てて、問題や課題を検討して改善活動に繋げる

続いて、ストレスチェック実施後の集団分析結果に基づく職場環境改善を目的としたグループワークについて佐々木さんを中心にお二人からお話を伺った。

冨川さん
「佐々木さんにお願いしたグループワークでは、課長、主任の他、自ら職場環境改善意欲のある若手を各グループに入れてメンバー構成しました。」

佐々木さん
「グループワークは全体で3時間かけて行いました。最初に自分の部署の集団分析結果を一人一人に配って、それに対する読み取り方を説明しました。私の方から『あなたの部署の結果はこうですよ』と解釈を示すのではなく、読み方を示すことにより、自分の部署について自身で読み込んでもらうことに重きを置きました。説明の中で、あるストレス要因が高い場合には、一般的なことを例示したりしながら、参加者自身に気づいてもらうような仕組みを心がけました。説明時間は20分くらいです。」

「手元の集団分析結果は、半年前のストレスチェックに基づく結果に過ぎません。そこで、次の段階として自分たちの部署の現在の状況を“漢字一文字”で表してもらい、それをグループの中で発表し合うワークを行いました。“忙”、“多”、“密”、“勢”など様々でした。そして、『なぜ、その一文字を選んだか』を訊くと『忙しいから』、『休んでいる人がいて仕事が多いから』といろいろな意見が出てきて、『そうだね』と参加者同士互いに共感することで、解釈が深まります。それを基に、半年前の集団分析の結果は一文字で表してもらった現状にどのように影響しているのだろうかと考えてもらい、職場の課題を出していく流れになります。」

「部署の課題をそれぞれ挙げていく中で、『話はなんでもいいですよ。』と伝えています。話題が集団分析結果からだんだん離れていくことは多いのですが、参加者には広く意見を出してもらえるように考えています。話が止まってしまった時には、私の方から、『例えばこういったことはないですか?』とファシリテーターとしての役割をもって、議論を促していきます。その他、他の事例やヒントをまとめた資料も配っていますので、『こちら良かったら参照してください』と言うと、『結構、こういうことあるよね』と、参加者に気づきが生まれ、さらに広く、課題を出していくことにつながります。」

「このように課題を一通り出してもらいますが、その場で全部解決するのは困難です。3時間という限られたグループワークの中ですので、優先順位をつけるために、 “一番解決しやすいもの”、そして“解決すると良いと思われるもの”を二つ選んでもらいます。課題を選んだ後、次にそれらの改善策を考えてみましょうと、また議論してもらいます。解決策も、例えば『職場のコミュニケーションを改善するには、こんな方法がありますよ』と、私の方から資料を通じて例示することも多いです。」

「今回のグループワークには、工場長も参加されていたので、各グループの議論に入っていただくよう促しました。参加者にとっては、課題など書きにくいこともあるかもしれません。ただ、改善策ができるまでのプロセス全体を見て頂くことで、職場の一体感と共に、しっかりと工場全体で取り組むことへの工場長としてのバックアップを示すことにもなります。実際は、工場長からも各グループに少し意見を言ったりしながら、ざっくばらんに話をしていました。」

「最後に、工場長から今回のグループワークで話し合ったことが、現場の他の方と食い違いがあるといけないので、現場に戻って職場の皆で確認するように話されました。そして、検討しただけでは意味が無いので、『とにかく明日からやりましょう』というメッセージが示されました。その後、冨川さんから部署ごとに“意識改革行動宣言”をまとめて、約1週間後に提出するように示されました。」

冨川さん
「宣言をした後の確認は、年度末で良いと考えています。自分たちで決めた宣言ですので、私たちから確認しなくても、自主的に日々実践確認しているものと信じています。これらの取り組みは、一種のマネジメントです。本来であれば、あいさつやメンバーとのコミュニケーションなどは、管理職が、日々率先垂範して実践することが重要だと考えています。」

職場環境改善のグループワークのメンバーには、管理職だけではなく、職場改善の意欲がある者を入れることで、より積極的な議論となる。また、集団分析結果のみにこだわるのではなく、現在の職場状況に焦点を当てて検討することが大切である。経営層も参加し、各グループに意見をすることで、事業場全体で取り組む一体感が生まれると思われる。

【ポイント】

  • ①メンタルヘルス対策の最初の一歩として「心とからだの健康づくり計画」を策定し、ストレスチェックの実施や職場環境改善活動等、具体的な行動計画を経営者名(社長名)で周知する。
  • ②ストレスチェックなどの結果は、全従業員へフィードバックする。その上で、結果によって見えた課題を、どのように改善するのか納期を決めて、計画・行動する。
  • ③職場環境改善のグループワークでは集団分析結果のみにこだわらず、現在の職場状況に焦点を当てて検討する。
  • ④職場環境改善のグループワーク後に、部署単位で意識改革行動宣言をし、目立つ場所に掲示することで、自主的な組織改善活動に繋げる。

【取材協力】カルビーポテト株式会社
(2017年12月掲載)