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コマツキャステックス株式会社(富山県氷見市)

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コマツキャステックス株式会社
(富山県氷見市)

 コマツキャステックス株式会社は、建設機械製造大手の株式会社小松製作所より1997年に分社化し設立。建設機械の鋳造品製造販売が主要事業である。
 従業員数は、約880名(2017年3月時点)。ほとんどの従業員は、本社のある氷見地区にいる。約6割が製造、1割が検査、残り3割が技術・設計、営業、間接部門である。
 今回は、総務部健康管理室看護師の川合田幸枝さんを中心に、取締役総務部長の大内力さん、健康管理室長の南昌秀さんの3人からお話を伺った。

 

企業グループ全体でメンタルヘルス対策に取り組むことで一丸となって進められる

最初に、メンタルヘルス対策の体制、およびストレスチェック制度取り組みにあたってのこれまでの経緯と状況についてお話を伺った。

「健康管理室の産業保健スタッフは、常勤は看護師の私1名です。産業医は南健康管理室長と嶋尾産業医の2名います。南先生はコマツグループ全体を管轄するコマツ健康増進センターの副所長でもあり、日頃は、石川県の工場で専属産業医をしています。メンタルヘルス対策は、コマツグループ全体で取り組んでおり、当社もその方法に準じて行っており、各事業場で進め方などにアレンジを加えています。」

「2005年に“コマツ健康相談ダイヤル”と称してEAP制度の導入から始めました。その後、2007年に“ストレス診断”をコマツグループ全体で実施しました。“職業性ストレス簡易調査票(57項目)”をWEB上で回答する方式です。現在もこの方式で行っています。2009年には管理職向けに集合研修方式で、ラインケア研修を実施し、その後、2011年には管理職向けにグループワーク形式の職場環境改善研修を実施しました。2012年には“メンタルヘルス向上委員会”を設置し、そこで、ストレス診断後の集団分析結果をもとに、高リスクの職場を選定し、職場環境改善活動を始めました。現在も活動を継続しています。」

「法制化前後で、ストレスチェックの実施方法は大きく変えていません。もともと産業医が実施者でしたし、法令が示す箇所はカバーできていたので、特別に変える必要はありませんでした。ただ、高ストレス者への医師による個人面談は、本人の希望があった場合に、法令に基づく医師による面接指導を行う形にしました。以前は、緊急性があるなど面談の必要性を産業保健スタッフが感じている場合には、本人が面談したいかどうかに関わらず、我々のほうから面談を指定することもありました。実際は法制化後も、結果を検討した上で、こちらからお声がけするというようなこともあります。その点では、ほぼ変わらないかもしれません。」

企業グループ全体で統一してメンタルヘルス対策に取り組んでいる。また、事業場の状況に合わせて、進め方をアレンジすることで、各事業場の実態に沿った対策が可能となっている。

職場環境改善活動は、職場全員でよく話し合って改善策を定め、小さな活動でも最後まで継続して実行することが重要

次に、集団分析結果に基づく職場環境改善活動について、お話を伺った。

「職場環境改善活動を実際に開始する前に、2011年に管理職向けにグループワーク形式の“職場環境改善研修”を実施しました。ストレス診断の事後措置としての職場環境改善の導入に関しては、嫌悪感を示す職場もあり、どう始めるか悩んでいました。そこで、先に進んでいるグループの他工場の例を参考にしながら、そのモデル職場や架空の職場をもとに、職場環境改善活動のシミュレーションを管理職に体験してもらう研修として行いました。最初から管理職自身の職場環境改善を行うことには抵抗があるようでしたので、モデル職場の管理職になった感覚でまずは検討してもらいました。」

「そして翌年、“メンタルヘルス向上委員会”を設置しました。委員会では、概ね10人以上の職場単位でまとめた上で、ストレス診断の集団分析結果および総合健康リスクの点数をもとに比較し、点数が最も悪い部署や職場環境改善が必要な職場を、毎年2部門選定しています。メンバーは総務部長、総務課長、安全課長、労働組合書記長と、事務局である健康管理室になります。出席者には守秘義務を課した上で、誓約書を書き、終了後、資料はすべて回収しています。この委員会の設置の目的は、集団分析結果だけではなく、さまざまな情報をある程度共有した上で、対象職場の選定を行うことにあります。メンタルヘルス対策に関して、社内で検討する際は、必ず労使と専門家がメンバーに入って実施することが奨励されているので、労働組合と産業医も加わっています。特に、現場をよく知る労働組合がいることで、『この職場の点数が悪くなった原因は、明らかだ』とか、『仕事がそんなに忙しいわけではないのに、あの職場の点数が悪いのは不思議だ』といった状況を把握した上で、選定することができます。従業員にとって、会社側の人事総務部門には、なかなか話せないことも、労働組合には本音で話せたり、頼ったりしている部分はあると思います。」

「職場環境改善活動(図1)では、最初に“①初回の教育”として、ストレス対策について、およびグループワークを始める前の確認事項を30分ほど説明します。説明及びファシリテーターは、当初は外部講師にお願いしていましたが、最近は内部講師が行っています。次に“②グループワーク”にて、自分たちの職場の良い点・悪い点、改善すべき点、その優先度などを話し合います。当初、悪い点はあまり出てこないと思っていたのですが、実際行ってみると、正直な意見が出てきました。例えば『上司の口が悪い』といった意見です。『口が悪い』と言っているのであって、『人が悪い』と言っている訳ではありません。その上司も話し合いの場にいて聴いていました。事前の確認事項の説明で、話し合いの目的とルールを説明することによって、より良い職場づくりのためにも、皆が自分の考えていることを、この場では話していいんだと感じた結果だと思います。その後、“③活動計画書作成”にて、活動内容や目標、その担当やスケジュールなどを皆で話し合ってまとめます。そして、“④活動実行”にて、計画書に沿った活動結果を記載していきます。最後に“次年度ストレス診断”で結果を評価しております。」

「職場環境改善活動の時間は、3時間の時もあれば、2時間の時もありました。職場によってはあまり時間が取れないという場合は、短く設定したこともありますし、個人作業に時間がかかると事前に想定される場合は、長く設定したこともあります。毎年実施していく中で、参加者の意見を聴きながら、改善しています。」

「この5年間で、職場環境改善活動に取り組んだのは8職場であり、そのうち次年度のストレス診断で改善が見られたのは7職場ありました。(図2)」

「良くなった7職場の改善内容としては、『定時退社日の実行』や『年休消化促進のための年休取得状況の見える化』、『定期的なミーティングや昼食会の実施』、『安全日誌の活用でコミュニケーションを促進する』などがあります。“安全日誌”とは、現場に置いてある日誌で、当番制で自由な内容で記述してもらっています。それを職場全員が見て押印し、上司はその内容についてコメントを記述する形です。弊社は製造業ですので、夜勤の場合などで職場の上司と直接顔を合わす機会が少ない部署もあるので、コミュニケーションのツールとしてもとても役に立っていると思います。」

「その他には、『職場長が全員と面談する』、『作業場のレイアウトや照明の改善』、『2S活動(整理・整頓)の強化』、『保護具を改善することによる夏場の汗による肌荒れ対策』、『粉じん防止カーテンの設置』などもありました。また、人数が多い部門を2つに分けるなどして、組織を改革したり、人員を見直したりもしました。」

「活動実行後、職場長からは、『作業性が良くなり、仕事がスムーズにできるようになった。また、全班員が明るくなり、お互いに意見を出し合うようになった』等の好意的な感想もありました。」

「逆に良くならなかった1職場の特徴としては、『ミーティングを計画したが継続できなかった』、『スケジュールを貼り出し、項目をあげたのみで、作業量の調整等が実施継続できなかった』などがありました。」

「これらの点から、ストレスチェック結果を基に集団で職場環境改善活動を行うことは、効果があると実感しています。改善のあった職場は、全員参加のグループワークで、部門の良い点や改善点をよく話し合って改善策を決めていました。また、小さな活動でも最後まで継続させて実行しようという思いが大事だったと思います。改善が見られなかった職場は、最初の話し合いがしっかり行われず、結果として活動も継続できていませんでした。今後は、活動が中断しないように、計画書の実績確認等の支援を行い、継続しやすいように負担感の少ない方法を模索していきたいと思います。」

「また、これまでは、高リスク職場を中心に職場環境改善活動を行ってきましたが、労働組合から全職場に広めるよう依頼がありました。そこで、“いきいき職場ミーティング”という名称で、職場環境改善活動の簡易版の仕組みとマニュアルやツール、事例集を私たちで作成しました。ツールの使用方法などの教育を、最初に行った上で、その後は、各職場の状況に合わせて各自で実施してもらうことにしています。」

「これまでは、“総合健康リスク”の数値を中心に検討してきました。集団分析結果には、4つの指標があります。その中の “仕事のコントロール度”は、役職によって調整可否が異なります。また、“仕事の量的負担”は、職場によっては、時期や景気などの影響を受け、自分たちでは調整できない部分もあるかと思います。その点で、“上司の支援”と“同僚の支援”は、どの職場でも良くすることが可能です。特に、職場の状況は、“上司の支援”によるところが大きいと感じています。よって、最近では、部署ごとに“上司の支援”の平均値を出して、検討することも行っています。その結果、上司のコミュニケーション能力やマネージメントスキルが大きく関係していることも分かってきました。上司への個別支援や研修を通じて、今後強化させていきたいと思います。」

管理職が自身の職場の環境改善を行う前に、モデル職場をもとにそこの管理職になったという仮定で、シミュレーションから始動することで、客観的に職場環境を検討する体験が出来ている。その後は、集団分析結果の点数だけでなく、労使全体で現場状況を確認しながら、職場環境改善を行う職場を選定している。職場環境改善活動は、職場環境を良く知る者たちが、他の事業場を客観的に検討すると進めやすいと思われる。

【ポイント】

  • ①管理職が自身の職場の環境改善を行う前に、モデル職場をもとにそこの管理職になった感覚でシミュレーションすることで、抵抗感が低くなる。
  • ②職場環境改善を行う職場を選定する際は、集団分析結果の点数だけでなく会社の人事総務部門と労働組合、産業医等専門家により、実際の現場状況を確認しながら行う。
  • ③職場環境改善活動は、職場全員でよく話し合って改善策を定め、小さな活動でも最後まで継続して実行することが重要。

【取材協力】コマツキャステックス株式会社
(2017年8月掲載)