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第19回:参天製薬株式会社(大阪府大阪市)

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参天製薬株式会社
(大阪府大阪市)

 参天製薬株式会社は、「目」をはじめとする特定の専門分野に特化し、国内医療用眼科薬市場ではシェアNo.1を誇っている。創業1890年という120年以上の歴史ある企業である一方で、長期的な経営ビジョンである「世界で存在感のあるスペシャリティ・カンパニー」の実現に向け、挑戦を続けている。
 従業員数は、1853名(2014年3月末現在、単体)。「健康支援室」は、産業医、メンタルヘルス専門医、看護職、メンターをあわせ、10名で構成されている(2014年9月現在)。
 今回は、健康支援室で取り組んでいる「メンター」の活動を中心に、健康支援室室長の長谷真二さんとメンターの小笠原道一さん、向井明彦さんの3名からお話を伺った。

「健康支援室」を中心とした職場のメンタルヘルス推進活動におけるストレスチェック

最初に、「健康支援室」の役割と活動内容に関して、お話を伺った。

「健康支援室の大きな役割としては、従業員の健康障害の防止および健康の保持増進です。年間を通じた具体的な施策として、春の健康診断および秋の健康調査(ストレスチェック)の企画実行、従業員に対する各種教育研修、メンタルヘルス不調により休職した従業員に対する復職支援などがあります。」

「当社のメンタルヘルスの取り組みの歴史としては、2003年から全従業員へのストレスチェックを始めました。また、2008年からラインケア研修を全マネージャーに対して行い、セルフケアに関する啓発活動も随時実施しています。」

「現在、ストレスチェックは、外部EAP機関に協力を依頼して、Web上で行っています。Web上でストレスチェックを行うことで、即座に労働者自身がストレス度を知ることができます。リスク(希死念慮、過重労働など)が高いと思われる従業員には健康支援室の医療職が個人面談を行い、現状の把握と適切な対応を速やかに行っています。また、ストレス度が高い職場に対しては、外部EAP機関のカウンセラーが組織長と面談し、話し合いながら職場の課題解決策の立案サポートを行っています。データを取るだけでは意味がなく、ストレスチェックをした後の分析、対応までしっかりと行うことが大事だと考えています。 」

10年以上毎年ストレスチェックを実施し調査を継続していることで、経年変化を見ることもでき、組織ごとの職場環境の改善活動につなげていると思われる。

「復職支援」を目的とした役職定年者等による「メンター制度」

次に、「メンター制度」に関してお話を伺った。

「2010年に経営トップである社長から全従業員に向けて、会社としてメンタルヘルスケアに取り組む宣言がなされました。その後、管理本部担当役員の『復職者がスムーズに職場に復帰でき、従前のような活躍が出来るようにするためには、それ相応の支援を会社として行わなければならない。』という考えのもと、管理本部内でメンター制度をプロジェクトとして立ち上げました。2012年10月には再度社長より会社としてメンタルヘルスケアを強化していく強いメッセージが発信され、それを受けて当時の管理本部担当役員が掲げた実行計画に、初めて”メンター”という言葉が使われ、全社に情報発信されました。その後、2013年4月にメンター職が”人事グループ 健康支援室”に異動し、全社の制度として運用され始めた訳です。」

「プロジェクトとしてメンター制度を立ちあげる以前は、休職からせっかく復帰しても短期間で再休職にいたってしまう従業員が3割程度発生していました。基本的に復職支援は、ラインの役割でありますが、ラインケア研修を数回受けただけで、適切な復職支援を管理監督者ができるかと言えば、それはなかなか難しい状況でした。『せっかく復帰したのに再休職してしまうのは会社として大きな損失だ。管理監督者任せにするのではなく、もう少し手厚くケアするために、専門的なスタッフを養成したらどうだろう。これからは高齢の従業員の活躍がますます重要になることだし、例えば、その専門的なスタッフとして、役職定年者を有効活用できないか。』という発想からメンター制度導入の検討が始まりました。『復職支援を外部EAP機関に丸投げするのではなく、会社の風土、環境、事業内容に精通し、人的ネットワークも広く、愛社精神も豊かな元経営基幹職を、社内の専門家として養成するところに意味がある』という役員の強い意志により、”メンター”を養成することになりました。」

「ただ、当時私たちはメンタルヘルスケアに関しては素人でした。『復職支援って何? 何をどうすればいいの?』など、雲をつかむような状態でした。そこで、まず我々のパートナーとなってくれる外部EAP機関の選定から始めました。制度導入にあたってのコンサルティング、教育、復職者に対するカウンセリングなどのサービスを受けられる外部EAP機関を選定しました。その外部EAP機関の当社担当の熟練カウンセラーからメンターとしての心構えや、スキル、知識を厳しく教えていただきました。今でもそのカウンセラーに会うと、『当時はこの人たちにメンターが本当にできるのか不安だった。』と回想されます。我々も試行錯誤しながらも懸命に知識やスキルの習得に努め、メンタルヘルスマネジメント検定試験のⅡ種に全員が合格し(1名はⅠ種にも合格)、実際の復職支援の活動の中で、実践的なスキルを習得していっています。」

「また、いろいろな現場に出向いて、メンタルヘルスケア推進や復職支援に関する情報収集も積極的に行いました。例えば、復職支援の先進的活動を行っている企業がテレビに取り上げられたという話を聞くと、東京へでもその企業へ出張訪問して、活動内容を教えていただき、自分たちもその企業のプログラムを体験させていただきました。また、関西の幾つかの企業にも『どうしたらメンタルヘルス不調者が減るのでしょう?』と素直に教えていただき、勉強させていただきました。その他、外部EAP機関から他社事例の情報を入手したり、インターネットでの情報収集も頻繁に行いました。」

「2013年4月メンター職が”健康支援室”という組織に移り、社内の産業保健スタッフとして正式に位置づけられて以来、我々は復職支援だけでなく、ラインケア・セルフケアなどの教育研修、また制度や規程の見直し・変更など、”社内のメンタルヘルス推進担当者”として活動中です。」

その会社内にいないと分からない、感じられない、組織風土や人間関係などもあるはずである。それらを熟知しているベテランの役職定年者等が、メンターとして「復職支援」に携わる取り組みは、復職者にとって非常に心強いと思われる。

工夫された数々のプログラムを取り入れ、職場復帰を円滑に

次にメンターによる復職支援の取り組みに関して、具体的にお話を伺った。

「メンターの役割は、『産業保健スタッフの一員として、メンタルヘルス不調による休職から復職する社員の復職支援を復職先の職場と連携して行う』ことです。統括産業医の指導の下、復職者の体調把握や再発防止策の実行、そして、復帰職場の管理監督者への支援を行うことなどが期待されています。」

「当社の復職支援の流れとしては、まず主治医から”職場復帰可”の診断書が出た後、産業医の意見を踏まえ、休職期間中に1か月間の”試し出勤”を行います。”試し出勤”を開始する時点で『メンターに健康情報を開示して良いか。』を産業医等医療職から本人に確認してもらい、本人の許可を得て初めてメンターとしての支援をスタートしています。メンターも健康支援室のメンバーではありますが、医療職ではないので、健康に関する個人情報の医療職以外への開示に関しては、本人の許可を得る手順を取っています。念には念を入れてですね。」

「試し出勤期間中は、毎日私たちメンターと面談を行っています。またセルフケアについて本人一人で勉強させるのではなく、メンターが付き添って、一緒に勉強しています。この試し出勤を取り入れたことで、朝会社に時間通り安全に出勤できるか、就業時間中会社で就労できるか、周りの人とのコミュニケーションに問題はないかなどを確認することができ、結果、『まだ復職させる段階ではなかった。』と復職のタイミングを見間違うことがなくなってきたと考えています。」

「1か月間の”試し出勤”後、メンターも参加する復職支援委員会にて、職場復帰の可否判定を行います。”職場復帰可”となれば、標準的には3か月間のメンターによる復職支援が開始されます。復職支援期間においては、メンター面談と本人自身によるセルフチェック(セルフチェックシートを毎日メンターに提出)が基本となります。メンター面談では体調や職場の状況、業務の遂行状況などの確認や相談対応などが主な内容ですが、職場や業務については元経営基幹職であったことが大きく役立っています。また、カウンセリングマインドをもって復職者に寄り添うとともに、これからうまく業務を進めていくためにどうすれば良いかまでアドバイスし、こころの健康を保ちながら、仕事の高いパフォーマンスができるように導くことも大きな役割と考えています。つまり、心理的支援と業務遂行面の支援の両面が大事ということですね。」

「面談の中では、健康状態の確認、業務遂行のアドバイスのほかに、復職者と一緒に”振り返りワーク”も行っています。メンタルヘルス不調に至った経緯におけるそれぞれの事象を通じて、そのときの感情、浮かんだ考えやとった行動などをメンターと一緒に振り返りながら、今後同じようなことが起こった場合、どういう考えや行動が合理的あるいは適応的なのかを一緒に考えるワークを行っています。これによって、復職者は自分の認知のクセに気づいたり、アサーティブなコミュニケーションの取り方を学んでくれたりするようになります。そのときすぐにできなくても、あとで『いかん、またいつもの考え方の癖が出ている。』と気づいてくれればいいと思ってやっています。」

「”復職支援期間”の当社オリジナルのプログラムとしては、”リフレッシュ活動”があります。その活動の1つである”ボランティアワーク”では、視覚障がい者リハビリテーション施設で、目の不自由な方への歩行支援(手引き歩行)を実施しています。ボランティア活動が”やる気”や”自己効力感”を高めるとともに自らを癒す効果もあることを知り、これをプログラムの一つにできないかと考えたわけです。ボランティアをやるのであれば、当社は”目の健康を守る会社”ですので、目の不自由な方への支援にもつなげたいと考え、視覚障がい者リハビリテーション施設にこちらからお願いして、ボランティアをさせていただくことになりました。復職者のほとんどがボランティア経験のない人たちですが、人から感謝をもらい、『社会の役に立っているんだ。』と他者との絆の中で喜びを感じられているようです。参加は任意にしているのですが、これまで全員が実施しています。とても効果があったので、今でも続いています。」

「他の”リフレッシュ活動”としては、瞑想や粘土を使った握り仏づくり、書道などのグループワークを行っています。当社の”文化倶楽部”が使っている畳の部屋があるので、そこを利用してオフィスとは違う環境で行っています。また、このグループワークは人数が多い方が良いので、復職者から『メンタルへルス不調からの復職者であることが他者に知られるがそれでも構わないか』の同意をとった上で、行っています。ワイガヤ的に話し合いながら作業することで、活動中のコミュニケーションの活性化に繋がりますし、復職者同士の関係性も深くなるので、その後お互いが相談しやすい関係がつくられているように感じます。」

「職場復帰支援のプログラムを考える時に、当時の担当役員からは、さまざまな活動をして良いと許可を得ていました。しかしながら、1つだけ条件がありました。それは、『復職者だけに丸投げするようなことをするな』ということでした。我々メンターが先に体験した上で良いものだと判断したら、開始する。そして、復職者が活動する際には、メンターも一緒に行うことが原則となっています。」

職場復帰後の支援プログラムを考える際、事業場内外のリソースを探し出し、活用すること、また、活動時にメンターが寄り添っていることも重要だと感じられた。

復職者だけでなく、管理監督者にとっても有用なメンター支援

「管理監督者への支援という意味でもメンターは大きな役割を果たしています。管理監督者はチーム運営の中で、他の職場メンバーのマネジメントと復職者の支援という二つの役割を果たさなければなりません。復職者支援に十分に知識のない中で円滑に支援を行なおうとするとかなりの業務負荷になりますし、逆におざなりな支援を行うと再休職につながるなどが考えられます。メンターが管理監督者に対し、復職者の業務調整の考え方をアドバイスしたり、”復職支援プラン”の作成サポートを行ったり、また直接復職者に対する支援を行ったりすることで管理監督者の負荷は軽減されますし、管理監督者がメンターのやり方を間近で見ることで、実地に復職支援のやり方を身につけてもらえるという副産物もあります。私たちメンターは、長い間会社に勤務していますので、復職者本人を知らない場合でも、管理監督者を知っている場合が多くあります。管理監督者も、知っている私たちであれば相談しやすいのではないでしょうか。このようにメンターによる支援は、復職者本人にとってだけでなく、管理監督者の支援にとっても有用だと考えています。」

三次予防の成功体験を一次予防・二次予防の活動にも活かす

最後に、今後の展開についてお話を伺った。

「我々が”メンター制度”を開始した2011年10月以降、メンターがついた職場復帰支援において、アルコール使用障害(依存症)の1例を除き、メンタルヘルス不調による再休職事例はなく、職場復帰後、安定して働いています。最近は部門ごとに”部門メンター”を養成するため、我々が中心となってその部門の業務に精通した役職定年者等に対し、教育を行っています。現在では3部門において、部門メンターの育成ができています。今後は女性のメンターや若い復職者にとって、より身近な中堅社員のメンター育成も視野に入れたいと考えています。また、”メンター制度”のスタートは三次予防ですが、メンターがメンタルヘルスケアに対する知識・スキルをより高めていくことで、一次、二次予防の活動もますます強化していきたいと考えています。」

職場復帰支援となると、社内担当者側は身構えてしまい、問題が起こらないような活動が中心になってしまいがちである。参天製薬株式会社は「メンター制度」のもと、メンターが復職者に寄り添いながら、さまざまな取り組みを積極的に行っている。このような「復職支援期間」の活動が、復職者にとって良い影響を与え、結果として再休職者を大きく減少させたことに繋がっているものと思われる。さらに、社員を大切にする会社であるということも社内に伝わり、そのことは一次予防的効果にも繋がっていると思われる。

【ポイント】

  • ①経営トップより、「会社としてメンタルヘルスケアに積極的に取り組む」宣言を行う。
  • ②社内事情に精通している「メンター」が、メンタルヘルスケアに関する専門知識を身につけ、復職者の支援を行う。
  • ③メンターはカウンセリングマインドを持ち、本人や管理監督者への対応だけでなく、業務や対人関係のアドバイザーとしての役割も担っている。
  • ④職場復帰後の支援プログラム実施時には、事業場内外のリソースを活用する。