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次世代に心の健康の大切さを伝える。
それが私の恩返し
クラシエホームプロダクツ株式会社
THP担当 森山眞治さん
クラシエ株式会社(旧 クラシエホームプロダクツ株式会社)は、クラシエグループ3事業のうち、トイレタリー・コスメティクス事業の研究開発から、生産・販売までを手掛ける。2007年6月に現社名となったが、1936年の創業以来、商品名を聞けばだれもがうなずくようなブランド力の高い商品を次々に生み出し、急速に変化する業界の先陣を切ってきた。おりしもこの3月、メンタルヘルス対策における「心の健康づくり計画」を策定、THP担当者として奔走してきた森山眞治さん(産業カウンセラー、心理相談員)に、同社のメンタルヘルス対策の取り組みと、「こころの耳」の活用の実態をお聞きした。
「私はもともと営業畑の出身です。それが、人事担当役員を命じられて500名ほどの従業員と全員面接をすることになりました。面接に当たって何か良い方法はないかと模索していた折、日本産業カウンセラー協会を知り、急きょ産業カウンセラーを目指しました。結論を先に言えば2度目の試験で資格を取得しました。そのころ社員でメンタルの不調者が出たものの復帰が叶うということがありましたが、当社には復帰支援のプログラムが整備されておらず、産業医の先生と相談して職場復帰の支援プログラムを策定しました。それがTHP担当としての出発点です」物腰の柔らかさ、流暢な話し方が、営業畑のトップであったことを如実に物語っている。
人材を生かすメンタルヘルス対策
森山さんの真骨頂は抜群の行動力。自身の経験からメンタル不調者を出さないための取り組みがいかに会社の利益を守るか、2年前、当時の社長と副社長に進言し、従業員にセルフケア、ラインケア研修を受講させることにした。受講だけでは身につかぬとメンタルヘルス・マネジメント検定の受検もセットにした。いきおい研修にも身が入ることになる。実はその年、森山さんは常務執行役員として定年を迎えることになっていたが、森山さんが着手したことでもあり、THP担当として会社に残るよう要請された。今は週3日、大阪千里の自宅から東京へ通っている。ちなみに研修の講師は森山さん、昨年は支店、工場の430名が受講、全国を飛び回り、席が温まる暇がなかったという。
全社をあげてメンタルヘルス対策に取り組むことになったのは、年間3万人を超える自殺者が出ている現実の中で、自分のところからは一人の自殺者も出さないという強い思いからであった。自殺予防のためには早い段階での相談窓口が必要であり、日本産業カウンセラー協会から届いた「こころの耳」のカードは森山さんの腹にストンと落ちた。カードを手帳に挟んでさまざまな場所で「こころの耳」の話をしている。時間はかかるが丁寧に伝えていきたいと森山さん。
「今年2月、契約社員も含めてセルフケアの研修をしたとき参加者の中にうつ気味の人がいたこともあって、本人だけではなく周りのかかわり方ということで、カードやリーフレットをセットで取り寄せ活用させてもらいました。それが最初でした。カードはわかりやすいということでとても評判がいいです。3月21日に開いたメンタルヘルス推進担当者連絡会議で、みなさんに3枚ずつ渡しましたがすぐにポケットに入れていました。私どもの業界は絶えず競争にさらされています。新製品の開発は宿命のようなものですから精神的負担も多い。相談することで少しは心の扉が開かれると私は思います。まだ活用し始めたばかりですが、私たちの『心の健康づくり計画』と一緒に歩き始めてもらったような気がしています。一つ要望ですが、上司・同僚へのコーナーもトップページから入れるようにしてくれると嬉しいですね。できたらツークリックまでにしていただければよりホームページに親しみが持てます」理路整然とした話しぶりに思わずうなずいてしまいそうになった。
夢は大きく
単身赴任が長かった森山さんは地域に対する思い入れが人一倍強い。あの震災以来、家族のきずなということが言われており、キャリアやメールカウンセラーの資格も手に入れたが、次の目標として家族相談士の資格を視野に置いている。同社は仙台に支店があり、森山さんは1カ月後の4月14日現地入りして、14名の社員のカウンセリングを2日間にわたって行った。その時強く思ったことはケアする人をケアできるようになりたいということであった。地元でコミュニティを作り、地域の人と助け合いながら暮らしていきたい。そのために必要な資格なら、まだまだ挑戦していきたいと森山さんは快活に笑った。最後に森山さんの原動力の源はどこにあるのかお聞きした。
「私も64歳、やっと恩返しができる年代になったということでしょうか。うちはご存じのようにカネボウから社名変更しています。いろんなことがありましたが、人を大切にする社風の中で,私は最後にメンタルヘルス対策という大役を任せていただきました。後輩たちが明るく健康に働けるお手伝いをすることは、最終的には会社に対する精一杯の恩返しだと思っています。まだまだこれからです」柔和な目がさらにやさしくなった。
【取材協力】クラシエ株式会社
(2012年7月掲載)
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