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シュンビン株式会社
(京都府京都市)

高橋さん、津村さん
シュンビン株式会社は、1919年に酒造業を顧客とする和樽製造業として創業し、1947年に日本酒のガラスびん(一升びん)の洗浄業を行う京都容器工業株式会社として設立。2004年にシュンビン株式会社に社名変更し、現在はブランド・新規事業戦略コンサル、パッケージデザインなどを手掛けている。
シュンビンの社員数は43名(2025年11月現在)。
今回は、代表取締役社長の津村元英さん、経営管理部の高橋祐香さんからお話を伺った。
事業形態や職場環境の大きな変化に伴い、社員のメンタルヘルスの課題が明らかとなったことがきっかけで、産業カウンセラー等の資格を持つ専門職と契約しカウンセリングを継続的に実施するなど、メンタルヘルス対策に力を入れている。
まず、一升瓶の洗浄業から現在のブランド・新規事業戦略コンサル事業へと転換した時期の社員のメンタルヘルスの状況と、健康経営を始めた経緯についてお話を伺った。
事業形態の大きな変化やコロナ禍による職場環境の変化により、社員のメンタルヘルスの課題が浮き彫りとなったことが、対策を始めるきっかけとなりました
「2001年に父である2代目代表が急逝し、私(津村さん)が35歳の時に3代目代表取締役として当社を引き継ぎました。当時、主力事業であった一升瓶の洗浄業は、時代の変化に伴い売り上げが低迷し、事業存続は危機的な状況でした。事業回復のため、新規顧客開拓に全国を奔走する中で、自社で瓶をデザインし販売するサービスを思いつき、そこから、瓶だけでなくパッケージまでトータルデザインをする事業へと成長していきました。さらには、危機的な状況下において、相談できる相手や頼れるあてもなく苦労しながら事業形態を変えてきた経験から、中小企業が自社でまかなうことが容易ではない、マーケティングや企画のノウハウなどを提供する事業への転換を決意しました。」
「社長就任から約5年で廃業の危機を脱した後、“商品企画デザイン会社”へ、さらには“中小企業の企画部を代行する会社”へと、業態を大きく進化させてきました。その変化の過程とコロナ禍が重なり、組織が複雑化していく中で、メンタルヘルス不調を抱える社員が出てきたのです。背景には、コミュニケーションスタイルの変化が重なったことがあったのではないかと考えています。一つには、以前は社員数も少なく、私(津村さん)と社員とが直接コミュニケーションを取るスタイルでしたが、事業拡大に伴いリーダーを介したコミュニケーションに変わっていったことがあったと思います。それに加えてコロナ禍となり、当社ではそれまで導入していなかった在宅勤務も一斉に実施することとなり、毎月行っていた懇親会も中止となりました。こうしたコミュニケーションスタイルの急な変更によって社員に負荷がかかったのではないかと思います。ですが、転換後の事業が安定し始めた矢先での社員の不調でしたので、ショックでした。社員の幸せが私の願いであり、社員の不調は会社にとっても大きな損失ですので、早急にメンタルヘルス対策を始めました。」
メンタルヘルスに関する対応を社内のみで行うには限界があると考え、産業カウンセラーによる面談を導入しました 「メンタルヘルス対策として、2021年頃から産業カウンセラーと看護師資格を持つ専門職の方と契約し、社員のカウンセリングを継続的に実施しています。全社員を対象に、毎月4名程度ずつ順番に実施しており、心配のある社員には早めにカウンセリングを受けてもらうなど、柔軟に対応しています。もちろん必要に応じて私自身やリーダーも面談を行っていますが、メンタルヘルス不調者への対応は社内のみでは難しいこともあります。経験上、メンタルヘルス不調の原因は必ずしも職場環境や職場の人間関係によるものだけではなく、本人の過去の経験やプライベートに起因していることも多いと感じています。個々の状況に応じて、当社で働き続けられるよう、産業カウンセラーの力も借りながら、できる限りの働きかけや工夫を行っています。」
想いだけでなく制度の整備も進めてきたことで、健康経営優良法人の認定を受けることができました
「私たちは、会社のブランディングを専門として、ビジョンやミッションの策定から、オフィス・店舗・パッケージデザインなど“見た目の設計”を作るお手伝いをしています。想いを言語化し、雰囲気を醸成する環境づくりや商品デザインは、私たちの強みです。一方で、言葉やデザインだけでは、そこで働く人の幸せを実現することはできません。たとえ素晴らしいビジョンをもって、優れた製品を生み出していても、長時間勤務が常態化していては社員が健全に働けません。私は、社員には幸せに働いてほしい、と願っています。だからこそ、想いが言葉だけにとどまらないよう、それを実現するための制度の整備も欠かせません。会社の存在意義、良好な人間関係、健全な働き方を支える制度、いずれが欠けても成立せず、すべてが連動して初めて幸せに働ける会社になると考えています。」
「社員が心身ともに健康に働ける環境づくりは以前より進めていましたが、“健康経営”については取引先企業での取組みを知ったことがきっかけで始めました。2023年に健康宣言を行い、健康づくり支援、メンタルヘルス対策、職場環境の整備を進め、2025年には“健康経営優良法人(中小規模法人)”の認定を受けることができました。」
2024年よりストレスに関する調査を実施しており、2026年度からは法に基づくストレスチェックへの移行を予定している。
次に、ストレスチェックの実施状況についてお話を伺った。
2026年度から法に基づくストレスチェックを実施できるよう準備を進めています
「健康経営に取り組み始めたことをきっかけに、2024年からストレスに関する調査を実施しています。現在は、無料で利用できるwebサービスを活用しており、実施期間を定めて受けてもらっています。また、結果を踏まえて希望があれば先述の産業カウンセラーに相談できるということを案内しています。初年度は2名利用がありました。」
「従業員数50人未満の事業場でのストレスチェック実施の義務化に伴い、2026年度からは法に基づくストレスチェックへの移行を予定しています。現在は、どのサービスを利用するか、選定などを進めています。」
幸せに働いてほしいという社長の想いのもと、フレックスタイム制やコミュニケーションの活性化と質の向上、適性に合わせた業務配置など、変化の多い職場で心身ともに健全に働ける取組みを進めている。
最後に、健康経営のその他の取組みと、変化し続ける会社において社員が幸せに働けるために社長が大切にしていることについて伺った。
多様な働き方へのニーズに対応するとともに、残業を増やさず健全に働ける仕組みを整えています
「コロナ禍で在宅勤務を導入したことをきっかけに、フレックスタイム制も併せて導入しました。また、以前から人によって残業が過度に多くなる傾向があり、長時間労働の常態化が課題となっていました。そこで、オフィスとしての開閉時間を7時から19時と厳格に定め、過度な残業を物理的に抑制するとともに、6時から22時は自由に働ける(但しコアタイムは10時~15時)とする柔軟な働き方を導入しました。子育て中の社員も多く、家事や育児が落ち着いた夜の時間帯に業務を進めたいなど多様な働き方へのニーズに対応することを目的としています。働き方の自由度は高めつつも、長時間労働を防ぎ、効率的に健全に働き続けられるように、工夫しています。」
立場や部門の枠を超えた社内コミュニケーションの活性化や質の向上のため、サークル活動や懇親の機会など様々な工夫をしています 「社内のコミュニケーション活性化の取組みとして、サークル活動を会社として支援しています。具体的には、サークル活動の報告書を出してもらって、1ヶ月に1人当たり最大2,000円の助成金を支給しています。たとえば、“子育てサークル”では、子育て中の社員が子供を会社に連れてきてクリスマス会を開催したり、2か月に1回程度メンバーで外出したりするなど、交流を深める機会になっています。現在8つのサークルが活動しています。」
「“創意工夫”という活動もしています。週に1回、各課で創意工夫した内容を報告してもらい、最も優れた内容を私(津村さん)が選び、ポイントを付与しています。ポイントが一定数溜まると、会社が課の懇親会費用を支給するので、ゲームみたいに創意工夫に取り組めています。また、“社長を囲む会”というものも年3回開催しています。会社が一部費用を負担して社長と社員が食事をするというもので、先日は手毬寿司を食べに行きました。このように、立場や部門の枠を超えたコミュニケーションの活性化を図っています。」
「また、人間関係のトラブルをできるだけ起こさないためにも、社内外問わず、共に働く人に対しての態度に留意し、互いに尊重した働く姿勢を大切にしてほしい、と伝え続けています。こういった考え方は経営サイドから定期的に発信することで浸透を図っており、従業員同士も良好な関係性を築けていると感じています。」
“安心”できる職場環境を作るため、社員一人ひとりの適性を見極め、活躍できる業務配置を大切にしています 「適性に合わせた業務配置にも努めています。当社は変化し続けている会社です。全社員が画一的に同じ新しい業務に適応することを目指すのではなく、一人ひとりの適性を見極め、 それぞれの強みが活きる場所で活躍してもらうことが大切だと考えています。もちろん、個々の自己向上は不可欠であり、新しいことへの挑戦は推奨しますが、その挑戦の形やスピードは、決して全員が同じである必要はないという結論に至りました。ストレス負荷が高くなりがちな業態だからこそ、職場環境だけでも社員が“安心”できる場所にしたいと思っています。」
会社の危機を乗り越えるきっかけは感謝の心でした 「私自身、会社が厳しい状況にあった頃は大きなストレスを感じていました。営業で各地を飛び回り、顧客の事を考えている間だけはその仕事に集中することができましたが、自社に戻って現実に向き合うたびに、ストレスを感じて、体に不調が出ることもありました。振り返って考えると、当時は、社員に対して、自分と同じように危機感を持って現実に向き合ってくれることを求めていたように思います。しかしながら、もし自分自身が社員の立場だったら、社長と同じ目線で向き合うことは難しいはずだ、ということにある日気づきました。それを境に、一緒に働いてくれる社員への感謝の心が芽生え、心の在り方が変わっていきました。そして、気が付くと新しい事業が軌道に乗り始めていました。心の在り方の転換がストレスを軽減し、会社の危機を乗り越えるきっかけとなったように感じています。」
「良い社員に恵まれ、良いお客様に恵まれ、良い家族に恵まれ、日々幸せを感じています。心の在り方は大切です。心配なことがある時も、『今日も幸せだな』と思いながら出社し、実際に幸せに過ごすことができています。これからも、社員一人ひとりが心身ともに健康で、幸せにいきいきと働ける職場づくりを続けていきたいと考えています。」
【取材協力】シュンビン株式会社
(2026年2月掲載)
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