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株式会社千葉正工務店
(宮城県登米市)

千葉さん
株式会社千葉正工務店は1978年(昭和53年)創業、1984年(昭和59年)設立。注文住宅の設計施工やリフォーム工事、インフラ整備や災害復旧といった公共工事などを行っている。
従業員数は12名(2025年5月現在)。
今回は、代表取締役の千葉正洋さんからお話を伺った。
ストレスチェックを外部委託したことで従業員が直接相談しやすい環境が整い、従業員のメンタルヘルスケアだけでなく経営者の負担軽減にもつながっている。
まず、健康経営に取り組んだきっかけと、ストレスチェックの実施状況について、お話を伺った。
ストレスを抱えやすい業種であることから従業員の健康状態への配慮の必要性を感じており、健康経営の取組みの一環としてストレスチェックを実施することにしました
「協会けんぽ宮城支部の推進している“職場健康づくり宣言”は2021年に行っていましたが、具体的な取組みには至っておらず、2023年に外部機関から健康経営のサービスについてくわしく話を聞いたことがきっかけで本格的に取り組み始めました。」
「2024年からは、ストレスチェックを実施しています。建設業界は工期のプレッシャーや扱う金額の大きさなどから、従業員がストレスを抱えてしまいやすい状況があります。同業種で、従業員がうつ病になった、自死に至ってしまった、という話を聞く機会もあり、従業員の健康を守る大切さを実感していましたので、外部機関にメンタルヘルスのサポートをしてもらえるのはいい機会だと考えました。」
ストレスチェックの運用を一任したことで、従業員はもちろん経営者の不安軽減の一助になっています 「ストレスチェックの運用は、外部機関に一任しており、結果はもちろん、従業員の受検状況に関しても、社長である私(千葉さん)は確認していません。」
「従業員には、日頃から何かあれば相談するように声をかけてはいますが、実際には相談しにくいというのが雇用する側と雇用される側の関係だと思います。人口の少ない地域で、小規模企業で、病院への受診や相談がわかってしまいやすい環境でもあるので、社内でストレスチェックを受けることができ、状況に応じて電話相談窓口を利用できるという外部機関のサービスはとてもありがたいと感じています。」
「ストレスチェックや相談窓口をツールとして環境整備したことで、私(千葉さん)が日常的に心配することがなくなり、自身の健康にもつながっているように思います。従業員はもちろん、経営者側の心理的負担の軽減にもつながるという費用対効果を考えると、メンタルヘルスケアにかけるコストは負担と感じません。」
日々のコミュニケーションを通じた従業員のケアと、少人数でも業務遂行ができる体制への移行によって、ストレス負荷が高くならないように工夫している。
次に、従業員とのコミュニケーションや業務上の工夫について、お話を伺った。
毎朝顔を見て挨拶、現場には2日空けずに必ず顔を出すことを自分のルールとしています
「当社では、案件の規模にもよりますが、従業員1名と協力会社とで工事を担当することが多くあります。また、小規模案件は工期が短く、顧客との距離が近いため要望を直接受けやすく、会社との板挟みになりがちです。一方、大規模案件では、小さなミスやトラブルが拡大しやすく、後から負担が大きくなることがあります。従業員にとっては、案件の大小関係なくストレスは避けられない環境ではあると思います。」
「そのため、困りごとやトラブルがないかを早めに把握できるよう、毎朝出勤時に必ず従業員の顔を見て挨拶をし、様子を確認するようにしています。また、各現場には2日は空けずに足を運ぶようにしています。現場で会話をすると、自然と相談をしてくれることも多いですし、一人ひとりの仕事にちゃんと関心を持っているということも伝えられているのではないかと思います。」
「そして、会社に戻ってきてから退社するまでの時間は、本人から話がない限り、仕事の話はしないようにしています。現場から会社に“帰ってきた”という感覚で戻ってくるので、退社後にスムーズに仕事モードをオフにしてもらえるように、帰社後は雑談にとどめ、仕事の感覚を家に持ち帰らせないように意識しています。」
少人数でも効率的に業務遂行できる受注体制に変えてきました 「また、仕事の仕方も会社の変遷とともに工夫してきています。当社は、以前は従業員が約30人いたのですが、高齢の従業員が多くいましたので年齢による退職が続き、現在は12人まで減少しています。一方、売上は2割減程度で、従業員数の変動に比べて小さく収まっています。その経過では、協力会社の関わりを増やして、当社の従業員は工程管理により注力する形とし、仕事の受注はそれほど変えずに少人数でも業務を遂行できるようにしてきました。その分、協力会社など社外の人とのやりとりも増えていますので、その中で従業員がストレスを感じずにすむよう、スムーズに仕事の連携ができる体制のある協力会社と一緒に仕事をするようにしています。」
現従業員の働きやすさを向上させることは、業務効率化、品質向上につながると同時に、中核人材の育成、組織の基盤固めにもつながる。
最後に、今後の人材確保の展望について、お話を伺った。
現在働いている従業員の働きやすさを向上させることは、従業員、経営者双方にメリットがあると感じています
「当社は、現在求人募集を出していません。新規採用は時々していますが、従業員の紹介などによるもののみです。最後に新規採用をしたのは6年前ですが、採用した方は長く働いてくれており、退職は年齢による者がほとんどです。現在、従業員の年齢層は40代のメンバーと65歳以上のメンバーとに二極化しています。業務を任せることができる人材には限りがあるので、現在働いてくれている従業員が、より働きやすくなる環境を整備することが重要だと感じています。働きやすさの向上は、業務の効率化や品質の向上にもつながり、私(千葉さん)にとってもメリットがありwin-winの関係です。」
いずれ現従業員が中核人材として機能できるよう、組織の基盤固めに注力しています 「東日本大震災後、復旧工事の需要が高い状態が続いていましたが、5年前に復興債発行が終了したことに伴い、その需要は縮小してきています。これにより、これまで建設業に集められていた人材が労働市場に放出されていくのではないかと予想しており、そのタイミングで、当社がスキル・意欲のある人材の受け皿になっていけたらと考えています。“健康経営優良法人”の認定を取得していることは、応募者にとっても安心感につながるのではないかと考えています。いざ新しい人材が当社に来てくれた時に、安心して働けるサポート体制を提供できるようにするため、現在は、現従業員が中核人材となって会社を支えられる基盤作りを進めています。」
【取材協力】株式会社千葉正工務店
(2025年8月掲載)