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名四金属株式会社
(愛知県名古屋市)

奥村さん 名四金属株式会社は、1972年(昭和47年)設立。鉄スクラップの買取・回収や加工を行っている。
従業員数は7名(2024年11月現在)。
今回は、代表取締役の奥村めぐみさんからお話を伺った。
従業員との関係に悩んだことがきっかけでメンタルヘルス対策や健康経営に取り組みはじめ、それが結果的に会社のPRにもつながっている。
まず、健康経営の取組みを始めたきっかけについて、お話を伺った。
健康経営に関する知識を少しずつ身につけてきました 「2022年12月に私が社長に就任しました。当社は、天井クレーンからぶら下がる大きなマグネットに鉄のスクラップをくっつけて運んだりするなど、危険な仕事が中心です。私が社長に就任した当時は、70代後半になる従業員がいたのですが、まだ現役で働いてもらっても大丈夫なのか気になっていました。その頃たまたま労働基準監督署の方が当社に来られて、このことを相談してみたら地元の医師会が運営している地域産業保健センターに相談することを勧められ相談したら、産業医という人がいるということを教えてもらいました。」
「その後、地元の銀行の方が当社に来られた際に、健康経営というものがあるということや、産業医の役割などの話をあらためて聞きました。今働いている従業員もいずれ高齢化していくことを考えると、産業医を選任して健康面をみてもらうと安心だと思いました。産業医は50人未満の事業場でも選任できるということでしたので、お願いすることにしました。このように、地域の労働基準監督署や銀行、保険会社、外部産業保健サービス機関などの関係機関の人にいろいろ教えてもらいながら、健康経営に関する知識を少しずつ身につけてきました。」
従業員との関係に悩んだことがメンタルヘルスに関する取組みについて考えるきっかけでした 「70代の従業員が少しずつ退職していき、新しい人の採用を順次進めていく中で、従業員との関係について悩むことが増えました。長年勤めてこられた従業員は、黙々と仕事をし、じっくり話を聞くタイプの方が多かったのですが、新しく入社された方の中には自己主張をしっかりされる方もおられたので、どう関わったらいいか悩みました。はじめは業務に対する不安や要望を言っていたのが、どんどん公私の境目がなくなって、際限なく対応しなければならない状況になってしまうこともありました。 周りからも、どうしてこういう対応をしないのかなど厳しい言葉をもらうことも出てきました。」
「今振り返ると、当時の自分はメンタルヘルス不調に陥っていたのかもしれません。休日になると動けない状態でしたし、涙が止まらなくなることもありました。退職した従業員に対しても自分の対応があれでよかったのかなと思うことは今でもあります。以前はメンタルヘルスに関する取組みが必要だなんて考えたこともありませんでしたが、そうした経験を経た今は、体の健康ももちろんですが、まず心の健康が大事だと考えるようになりました。」
従業員の健康に投資することは会社の成長につながると実感しています 「銀行の方が健康経営について教えてくれた時、会社を整えるという観点からも活用できると教えてもらい、先のような従業員の状況もありましたので、はじめることにしました。そして、2023年10月に“健康経営優良法人(中小規模法人部門)”の認定申請を行い、2024年に認定を受けることができました。健康法人優良法人であることを名刺に書けるようになりましたし、大きな会社と契約を結ぼうとする際は企業としてどのような取組みをしているのか必ず聞かれますので、そこで話せることもメリットだと感じています。」
従業員数7人であっても、産業医契約、ストレスチェック実施、健康相談窓口の設置など、積極的なメンタルヘルス対策を講じている
次に、職場のメンタルヘルス対策の具体的な取組みについてお話を伺った。
専門家にいつでも相談できる仕組みをもっていることが安心につながっています 「名古屋市内で産業保健サービスを提供している企業と契約して、産業医契約や、電話などで健康相談ができる窓口の利用などがセットになっているサービスを利用することにしました。ストレスチェックの実施もお願いし、2024年9月にはじめて行いました。」
「産業医に相談できることは、従業員に対して普段から掲示板でアナウンスしています。また、その企業が毎月発行している健康情報に関するリーフレットも、毎月給与明細と一緒に全従業員に渡すようにしています。」
「健康相談窓口では、朝起きられないけどどうしたらいいかなど、なんでも相談していいと教えてもらいました。従業員が相談したいときに相談できるというのももちろんですが、私自身が、従業員への対応に悩んだときに相談できたり、従業員に専門家への相談を促したりできるということが、心の安心につながっていると感じています。」
従業員数7人の小さな会社ですが、法に基づくストレスチェックを実施しています 「ストレスチェックは、職業性ストレス簡易調査票(57 項目)を使用し、オンラインで回答する形式で実施しました。個人結果は封筒に入れられて送られてきたものを、一人ひとりに渡しました。もちろん、私は個人結果を知りません。」
「社内ではあらかじめ産業医面接の調整などをする担当者を決めています。一定水準以上の高ストレス値だった場合は、結果通知と共に、産業医による面接指導の希望の有無をまず確認します。その際、面接を受けるのは従業員個人の自由であることを伝えた上で、生活習慣や働き方を見直すいい機会ですので、できる限り受けることを勧めています。そして、本人の希望に応じて産業医面接の日程調整をする流れになっています。産業医による面接指導を通じて、就業制限(休業・残業禁止など)の要否の判定などを行うことが目的であることも伝えています。面接指導の結果は産業医より報告書として会社にフィードバックされます。その後の会社としての対策にも相談対応していただける仕組みになっています。」
「今年は特にストレスが高いということもなかったようで、私自身が日々みている体感とも一致していました。一時期は、誰か一人がグチや不満を言うとどんどん広がって、全体的に空気が悪いなという感じを肌で感じていましたが、今はグチを言うこともほとんどないようです。そうしたことがストレスチェックの結果にもダイレクトに現れるのかもしれません。高ストレス者がいない会社であることに私も安心しました。」
「従業員からは自分のメンタルの状況について再認識できたといった意見がありました。ただ、マークシート形式での回答は項目が多く多少面倒ではあったようです。ストレスチェック実施者は弊社の福利厚生で常時健康相談できる電話窓口と同じ産業医です。ストレスチェックと健康診断の相乗効果で自身の健康管理意識が高まることを期待しています。」
「実施企業から、個人結果と併せて小さな救急キットが人数分送られてきたので、一緒に渡しました。ただ個人結果を渡すだけだと見ない場合も考えられますが、救急キットも一緒に渡したことで、ちゃんと開封して個人結果を見ることにつながりました。従業員にとってはストレスチェックを受けて良かったと感じてもらえているようです。当社は小さな会社ですので、会社から従業員に何かを贈るといったことは滅多にありません。本当にちょっとしたことなのですが、いつもの日常と違うことがあるのは大事だなと感じましたし、自分たちが会社から大事にされているなと少しでも感じるきっかけになればいいなと思います。」
外部講師の方に依頼して健康セミナーを開催しました 「また、保険会社に勤務する健康経営アドバイザーの方に健康セミナーを開催してもらいました。全員が一度にセミナーに参加してしまうと業務が回りませんので、2グループに分けました。年齢によって健康について気になるテーマが異なるだろうと思いましたので、比較的年齢が高いグループと、比較的年齢が低いグループに分けました。また、勉強のような雰囲気だと抵抗感があるのではないかと思い、ファミレスでモーニングやおやつを食べながら、少人数で楽しく話しながら学べる場になるようにしました。食事代は1人1500円まで会社が補助を出しました。」
「講師とのコミュニケーションの中で、会社に対する想いを語ってくれる人もいたようです。外部の人に話を聞いてもらうことは、気持ちを吐き出すいい機会になったのではないかと思います。社内行事も少ないので、今後もこうした機会を継続的に作っていけたらと考えています。」
メンタルヘルス対策の費用を価値ある投資ととらえ、取組みを積極的に進めている。
最後に、小規模企業でメンタルヘルス対策を取り組む意義と、企業として目指しているあり方についてお話を伺った。
心のケアについて相談できる窓口をもっておくことが安心につながっています 「これから若い世代の人たちに働いてもらうことを考えるのであれば、メンタルヘルス対策は絶対に必要だと考えています。メンタルヘルスで調子を崩す前に、専門家への相談を勧奨するなど、会社としてできることはしっかりやっていると言える体制を整備していくことはとても大切なことだと考えています。」
「また、私のように従業員との関係に悩んでいる経営者の方も少なくないと思うのですが、心のケアについて相談できる窓口を持っていると、従業員の相談先としてもお願いできますし、経営者自身も相談することができるので、ぜひおすすめしたいです。企業規模が小さいほど、一つバランスが崩れるとガタガタッときますし、当社のような業種は事故にもつながりかねませんから、速やかに適切に対応することが大事だと思いますし、そのためのサポート体制を確保しておくことは経営者にとって大事なことだと思います。」
メンタルヘルス対策にかかる費用は価値のある投資だと考えています 「メンタルヘルス対策を講じるためには、一定の支出は必要ですが、優先順位をどう考えるかが大事なのではないかと思っています。健康診断にかかる費用は必ず必要だということはどの会社も共通認識だと思うのですが、体の健康と心の健康は両輪だと考えれば、メンタルヘルス対策にかかる費用も価値のある投資と考えることができるのではないかと思っています。」
「小さいけど一流企業並みじゃん」と思ってもらえるような企業を目指しています 「小規模企業のメリットは、一人ひとりに合わせて手厚いサポートをすることができることだと思います。ハード面は古くなっているところもありますが、ソフト面はこの規模にしては意外に充実しているんだな、小さいけど一流企業並みじゃん、と思ってもらえるような企業でありたいと思っています。そして、“心も体も健康な従業員がそろっています”とお客様に自信を持ってお伝えできるように、従業員が当社で働いていることに誇りを感じてもらえる、これからも従業員の心の健康のために取り組んでいきたいと考えています。」
【取材協力】名四金属株式会社
(2025年3月掲載)